hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

マーシャ・ガッセン『完全なる証明』を読む

2018年09月26日 | 読書2

 

マーシャ・ガッセン著、青木薫訳『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』(文春文庫S9-1、2012年4月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

百万ドルの賞金がかけられた数学上の問題「ポアンカレ予想」。今世紀中の解決は無理と言われた難問の証明を成し遂げたロシア人ペレルマンは、しかし賞金を断り勤めていた研究所も辞めて、森へ消えた。なぜか? 彼とと同時代に旧ソ連の数学エリート教育をうけた著者だからこそ書けた傑作評伝ノンフィクション。解説・福岡伸一

 

変人ペレルマンについては謎だらけだ。

 (1)すべて等しい教育を受けるソ連で、何故、数学英才教育を受けられたか?
(2)ユダヤ人なのに、何故、高等教育を受けられたか?
(3)ひらめき型天才が挫折するなか、何故、彼はポアンカレ予想を解決できたか?
(4)数々の超有名大学からの誘いを断り、何故、数学を捨てて森に入っていったのか?
(5)100万ドルという大金を、何故、受取り拒否したのか?

  

1970年代のソ連では、すべての子供は全く同じ教育を受けていた。しかし、兵器開発に必須で、優秀な頭脳と紙と鉛筆さえあれば世界最先端の研究ができる数学だけは、世界的数学者コルモゴロフなどの努力で、エリート教育が認められた。コルモゴロフはモスクワ第二学校に続き、レニングラード第239学校を創設し、グリゴーリー・ペレルマンが入学した。


この頃のペレルマンは、ひらめきの点では彼よりも優れた者もいたが、考えがとことんまで厳密で、長時間粘り強く考え続けることができた点を評価されていた。
また、ペレルマンは、指導者ルクシンと母親のいいつけは良く守り、学校の規則も厳密に守っていた。

当時、ソ連ではユダヤ人は差別されていた。しかし、数学オリンピックで勝つためには、ユダヤ人は必要で、ペレルマンも13歳のとき数学オリンピック全国大会へ参加した。この時は優勝できず2位だったが、16歳で国際数学オリンピックで優勝した。

レニングラード大学では、ユダヤ人にも関わらず、ペレルマンの優れた才能が引き寄せた優れた指導者、数学者たちによって、そしてソ連が外へ開かれる時代になったこともあり、世界のひのき舞台に立つまでになった。

ソ連の崩壊に伴い、米国、カルフォルニア大学に移り、成果を上げたが、髪や髭は伸び放題で毎日同じ黒パンを食べる変人で、次の難問に取り組んでいった。

 

ペレルマンはロシアへ戻り、やがて人前にあまり姿を見せなくなった。彼もまた前途洋々のスタートを切りながら、実力以上の問題に出会って潰され、数学の世界から消えて行った者の列に加わったのだろうと思われるようになった。

2002年11月12日、10名あまりのアメリカの数学者にメールが送られ、論文を、査読付き専門誌でなく、arXiv(アーカイヴ)にあげたことを知らせてきた。

そして、彼はフィールズ賞受賞を拒否し、100万ドルも受け取らず、連絡を絶って森の中で引きこもりとなった。

 

ポアンカレ予想

フランスの数学者、哲学者であるポアンカレ(H.Poincar(e))が1904年に出した幾何学に関する予想。「単連結な3次元閉多様体は連続変形によって3次元球面になる」との予想。

 


マーシャ・ガッセン  Masha Gessen
1967年モスクワ生まれ。グリーシャ・ペレルマンと同様に、ユダヤ人であるにもかかわらず選抜され、数学専門学校で学んだ。旧社会主義体制下でのユダヤ人に対する差別を逃れるために、大学進学を待たず、1981 年に一家でアメリカに移住した。ソ連崩壊後1991年、ジャーナリストとしてモスクワに戻り、『 US News & World Report 』誌の特派員となる。

著書に、自らの2人の祖母が、ホロコーストと、スタリーンの圧政を生き延びた『Two Babushkas』(2004)など。

青木薫(あおき・かおる)
1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒、同大学院終了。理学博士。翻訳家。

主な訳書にサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『宇宙創世』ブライアン・グリーンの『宇宙を織りなす物』など。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)


ポアンカレ予想とその証明についてはいくつかの解説本があるが、ペレルマンその人に焦点を合わせたのは本書が初めてだという。
しかし、著者は、森にこもったペレルマン本人には会うことができなかった。したがって、肝心のなぜペレルマンが森に消え、賞金受け取りを拒否したのかは、周辺の多くの人に取材した結果からの推測に過ぎず、もどかしさが残る。


余談

ロシアアカデミー会長で数学者のオシポフが、研究機関の財政的窮状をプーチン首相に訴えたら、首相はペレルマンの名を挙げて、世界的な仕事をしながら金をほしがらないばかりか、やると言っても断った人間もいるではないか、と言ったという。(文庫版のための訳者補記より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする