上野千鶴子著『女たちのサバイバル作戦』(文春文庫933、2013年9月20日文藝春秋発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
日本の働く女性たちは、生きやすくなったか。答えは、イエス・アンド・ノー。疲弊する総合職、行き詰まる一般職、将来が見えない派遣社員。自由を手に職場進出したはずなのに、なぜか。そこにはネオリベ改革の影があった。女性たちの変化を見つめてきた著者による渾身作。
男女雇用均等法成立前後から現在までの女性の歴史を回顧している。
この30年は「ネオリベ改革の時代」だった。ネオリベとは、ネオリベラリズム、新自由主義、市場原理主義で、市場での勝者は報酬を受け敗者は退場するという競争のルールだ。
ネオリベ改革の一環として雇用機会均等法ができた。これによりごく一部のエリート女性労働者は総合職を選択し、家事負担に加えて、厳しいオヤジ社会の職場で戦うことになった。一方、大多数の女性は一般職を選択したのだからとの理由で差別が正当化される結果になった。
ネオリベ改革はもう一つ労働者派遣事業法を作り、改正をくり返して、大量の非正規雇用者を生み出した。現在、非正規雇用者の7割は女性、女性労働者の6割が非正規雇用者、新卒採用の女性の5割以上を非正規が占めます。
総合職正社員女性は連日の残業で結婚も出産もでず、出産したらミートラックにはまり出世街道から外れてしまう。女の定食コースだった一般職は崩壊し、派遣やパートに置きかわって、将来プランが立てられない。
その結果は少子化。政財界は悲鳴をあげ、説教するが、安定した正規雇用とゆとりある働き方のないところで、女は子どもを産まない。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)
上野さんの30年の総決算。論旨は解りやすく、適当にデータも引用されて説得力がある。上野さんに共感する人にとっては、女性史を概括するのにやさしく適当な著書になっている。
また、オヤジ社会と戦い続けた論壇の喧嘩師として素直な自戒や反省が語られていて、悲しみさえ伝わってくる。敗れ去った者として、男性である私も共感しながら読み終えた。
「結びにかえて」で上野さんは書く。
原発事故を起こしてしまいました。・・・とめなかったから、防げなかったから、わたしも共犯者です—ごめんなさい。
女性の状況がこんなに悪化するのを座視してしまいました。・・・非力と言ってよいかもしれません。・・とめなかったから、防げなかったから、わたしも共犯者です—ごめんなさい。
・・・使用者側のほうが労働者側より一枚も二枚も上手だと思わないわけにはいきませんでした。
政官財の推進するネオリベ改革に女性陣は完敗したが、ネオリベ側に一矢報いたのが「少子化」だけというのでは悲し過ぎる。
以下、メモ。
経済学者川口章『ジェンダー経済格差 なぜ格差はうまれるのか、克服の手がかりはどこにあるのか』
ジェンダー経済格差は男と女と企業の三者間の協力、対立、駆け引きの結果として生まれるので、ゲームの理論で解析した結果は、「日本的雇用制度と家庭における性別分業という相互依存的な二つの制度が、わが国のジェンダー経済格差を大きく、安定的なものにしている」
企業にとっては女性の離職率が高いから、「女性を差別する」ことが「合理的である」。この場合、「女性ばかりが家事・育児・介護を担うのか」という問いは分析の市場外変数で与件として扱われる。
横浜市鶴見区の高齢者4千人に質問。「あなたは正月三が日誰にも会いませんでしたか?」
イエスは、前期高齢者の男性61.7%、女性26.5%。後期高齢者男性46.8%。