hiyamizu's blog

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上田早夕里『リリエンタールの末裔』を読む

2012年01月25日 | 読書2
上田早夕里著『リリエンタールの末裔』ハヤカワ文庫JA1053、2011年12月早川書房発行、を読んだ。

差別と貧困の中で空を飛ぶ夢を追い続ける少年の「リリエンタールの末裔」、人の心の動きを装置で可視化する「マグネフィオ」、海洋無人探査機のマニュピレータと人の感覚の一体化の不思議「ナイト・ブルーの記録」、正確無比な航海用時計(マリン・クロノメーター)の開発に挑むジョン・ハリソンの執念を描く書き下ろし中篇「幻のクロノメーター」。
解説:香月祥宏 カバーイラスト:中村豪志

リリエンタールの末裔
背中に鉤腕(こうわん)を持つ高地の民の少年が、鉤腕持ちが差別を受ける社会の中で飛びたいと願い、努力を続ける。空を飛ぶことは、現実社会からの開放であり、新型グライダーに乗って空を舞うシーン、遙か上から見た海上都市の描写が美しい。
本のカバーに、睡蓮をモチーフにした海上都市が見事に描かれ様々な想像をかきたて、夢に出てきそうだ。(中村豪志画)
オットー・リリエンタールは実在した航空パイオニアの1人で、ハンググライダーを作り、小高い丘から飛行する試験を行った。1896年試験飛行中に墜落して死亡。

マグネフィオ」 
社員旅行のバス事故で、和也は脳機能障害となり、未だに好きな菜月の顔を認識出来なくなる。また、菜月の夫で、友人の修介も外部からの呼びかけにまったく反応できない状態となる。和也は人工神経細胞の脳への移植を受け、修介は心の状態を磁性流体で表現する「マグネフィオ」に接続される。

ナイト・ブルーの記憶
海洋無人探査機のオペレータ霧島は、ベテランの操作を機械に学習させるためにシステムに接続される。やがて、逆に機械の反応が霧島にフィードバックされ、霧島自身が影響され皮膚感覚が変化するようになる。

幻のクロノメーター
実在の18世紀の伝説的時計職人ジョン・ハリソンが職人魂で数々の障害を乗り越えて、マリン・クロノメーター(60日間の航海で2分以内の誤差の正確な航海用時計)を開発する。「謎の石」が、・・・。



上田早夕里(うえだ・さゆり)
1964年兵庫県生れ。神戸海星女子学院大学卒。
2004年『火星ダーク・バラード』で小松左京賞受賞
2010年『華竜の宮』が日本SF大賞受賞(2011年)



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

私が良いと思ったのは、「リリエンタールの末裔」と「幻のクロノメーター」。いずれもSF的要素は少なく、強固な意思で夢を実現するまでの過程が良く書けている。SF的面白さ、意外さはいまひとつ。


コメント
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