ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~男の器と、たわけ者~

2013-04-27 | 散華の如く~天下出世の蝶~
足りん。持て成すには、相応の器を持て
與四郎「信長様の言葉の意味が、ようやく分かりました」
黒い茶碗を下げて、
湯で黒茶碗を濯ぎ、
「もう一服、差し上げます」
帰蝶「ありがとう存じます」
狭き空間の中の、凛とした静寂、
その中で少し、時を昔に戻した。
「父は茶が好きでな、器にも煩かった」
私は父との思い出をぽつりと話した。
與四郎は自分で立てた茶を口にして、
視線は茶、耳はこちらに傾けていた。
「金華の山を喰ろうて美味いと言うて」
瓦職を呼び付け、椀を作れと命じた。
くるくると、黒茶碗を回してみせた。
「これが、男の器じゃと私に自慢した」
男はこうでなくてはいかんと。
しかし、碗の見てくれは悪く、
ぼこぼこした形状、黒い色で、
「私、父に反論した。…私、美しき男が好きにございます…と」
與四郎「…」
帰蝶「父は、私をたわけと叱つけてな」
男の器、中をよう見よ、と。
私は茶碗の中を覗き込んだ。
與四郎「はい」
帰蝶「そなた、良い目をしておる」
父の器を一目見て、
殿の意味を悟った。
與四郎「…しかし、私は…、」
芽の出ない己に苛立ち、焦りが見て取れた。