物価高騰 暮らしに影響避けねば (2021年10月26日 中日新聞)

2021-10-26 17:02:12 | 桜ヶ丘9条の会

物価高騰 暮らしに影響避けねば

2021年10月26日 中日新聞
 物価の高騰が景気の足かせ要因として急浮上している。コロナ禍収束を意識した世界各国での需要増が原油高を誘発したことが背景にある。暮らしへの波及を阻止するため官民は協力して物価対策に本腰を入れるべきだ。
 ニューヨーク原油市場は先週、一バレル=八四ドル超と約七年ぶりの高値を付けた。液化天然ガス(LNG)の価格も高騰しており、国際的なエネルギー価格上昇が加速している。欧米のほか日本でも本格的な経済活動の再開が始まる中、急激な需要増が価格を押し上げている構図だ。
 需要増は流通網や生産現場にも影響を及ぼしている。貿易用のコンテナや輸送トラックが不足する一方、アジアを中心に工場での部品生産が間に合わず自動車や電化製品の組み立てに遅れが出ている。欧米では商品不足が目立ち始め日本にも波及する恐れがある。
 総務省が二十二日公表した九月の全国消費者物価指数=グラフ=は前年同月比で一年六カ月ぶりに上昇に転じ、物価高を統計上裏付けた。心配なのは電気・ガスやガソリン、灯油など生活に直結したエネルギー価格の値上げが顕著な点だ。賃金抑制が定着する中での値上げは、個人消費を冷え込ませ不況の引き金をひきかねない。
 国内経済は緊急事態宣言後、商業活動の再活性化に向けて動きだしている。だが物価高騰はその回復軌道に大きな障害として立ちはだかっている。
 客足が戻り始めたタクシー業界では原油を原料とするLPガスの急騰で利益が相殺されている。飲食店には輸送費高騰に伴う食材の価格上昇が直撃しクリーニング店でもボイラーに使う重油の値上げが経営の足かせになっている。
 衆院選後、政府は自治体と連携し物価高の直撃を受ける中小事業者への支援策を実行すべきだ。その際、地方銀行や信用金庫など地域金融の協力も欠かせない。
 十一月上旬の石油輸出国機構(OPEC)総会に向け、欧米主要国と共同で産油国に増産を強く働きかける外交努力も必要だ。国内外で政策を総動員し物価抑制を早急に図るよう重ねて求めたい。
 

 


週のはじめに考える 科学の声を「聞く力」は 日 晴 (2021年10月24日 中日新聞)

2021-10-24 11:26:10 | 桜ヶ丘9条の会

週のはじめに考える 科学の声を「聞く力」は

2021年10月24日 中日新聞
 
 気候変動研究によりノーベル物理学賞の受賞が決まった真鍋淑郎さん=写真、共同=が、日本の科学界に対するある懸念を記者会見で表明しました。
 「科学者が政治に対して効果的に助言する米国のように、両者がもっと意思疎通すべきでは」
 真鍋さんは、研究者が好奇心に従い、自由に研究に打ち込める環境を求めて米国に移りました。
 真鍋さんの目は、日本の科学界と政府との風通しの悪さを感じ取ったようです。
 日本ではこれまで、新型コロナウイルス感染者は約百七十万人で、約一万八千人が亡くなりました。今ではワクチン接種が進んで治療薬も登場、重症者の治療法も分かってきて、感染対策の知恵も得ました。
 今後は医療態勢の強化、国民の行動抑制のあり方、経済支援策、政府と自治体との役割分担など残る課題を解決せねばなりません。

助言を軽視する政府

 遠く米国から日本を見詰める真鍋さんが指摘したのは、もうひとつ重要な課題です。感染症への対応に関し、科学者たちの助言を政策に反映させつつ、その立場も守る仕組みが不十分なのです。
 昨年二月、当時の安倍晋三首相は専門家らの意見を聞かずに全国で一斉休校を決めました。菅義偉前首相も、専門家が疑問を呈したにもかかわらず「Go To トラベル」の継続に固執しました。
 一方で、科学者集団も役割を問われた場面があります。昨年前半、腰が重い政府に焦りを感じた専門家会議の科学者たちが対策などを積極的に提案しました。
 厚生労働省に状況の分析を助言することが本来の役割でしたが、国民には対策の責任者のように映り、批判の矢面に立たされてしまったのです。
 その反省から専門家会議は解散し、新たに法律に基づいて、政府への助言組織として新型コロナ対策分科会が設置されました。
 それでも科学者軽視と映る政府の対応は続きます。
 科学者たちは無観客での東京五輪開催を提言しました。観客を入れた開催に固執した菅氏も結局、感染拡大を受けて無観客開催を余儀なくされましたが、当初は提言公表自体に難色を示したのです。
 科学者らが、立場が守られない個人として意見表明せざるを得なくなったことは看過できません。
 気にくわない言論は封殺する。日本学術会議の会員候補任命拒否にも通じる政府の姿勢です。
 政府は社会状況を見ながら政策を決めます。助言のすべてを受け入れることはできないことも分かります。ところが政府は都合のいい助言はつまみ食いし、そうでないと軽視し、説明もしない。科学者を守り、助言の機会を保障する仕組みが手薄なのです。
 科学技術振興機構は、科学と政府の役割と責任に関する原則試案を提案しています。
 例えば「政府は、科学的助言者の活動に政治的介入を加えてはならない」「政府が入手した科学的助言と相反する政策決定を行う場合は、その根拠について説明することが必要」との内容です。
 今の政府には欠ける姿勢です。

衆院選でも競い合え

 本来、科学者は発生した緊急事態のリスクを「評価」し、政府はそれを基に対策を考えて実行、リスクの「管理」を担う。双方は車の両輪として協働すべきです。
 海外では科学者に政治的圧力がかからないよう、また科学的知見が不適切に扱われないような仕組みがつくられています。
 英国では、政策決定の透明性を確保し、科学者の独立性を守る原則が定められています。コロナ禍のような緊急事態では独立した科学者グループが助言します。
 昨年五月には、対策の失策を追及された閣僚が科学者の「誤り」を示唆し、責任転嫁だと批判されました。不確実な状況下で助言する責務を負う科学者を、社会が守ろうとする姿勢を感じます。
 米国は政府審議会などのあり方や科学の健全性確保の規定を整備しています。バイデン大統領はコロナ対策の専門家チームを発足させ、科学尊重の姿勢を示します。
 科学者が助言する仕組みをどうつくるのか、衆院選でも各党が競い合うべき争点です。岸田文雄首相には「聞く力」を、科学者の声にも発揮してほしいものです。
 真鍋さんの研究成果がさまざまな場面で使われているように、蓄積された科学的知見は人類の財産です。感染症対策でも生かすべき科学の知恵は多くあるはずで、それを聞く力が試されています。
 

 


新幹線ネット予約 障害者割なぜ適用外 (2021年10月22日 中日新聞)

2021-10-23 00:10:07 | 桜ヶ丘9条の会

新幹線ネット予約 障害者割 なぜ適用外

2021年10月22日 05時00分 (10月22日 05時02分更新)
 JR東海などが新幹線で紙の切符を減らし、インターネット予約システムへの切り替えを進めている。このシステムを利用すれば一定程度料金が安くなる一方、より安価になる障害者割引は適用されない。割引を受けるには、みどりの窓口まで行かなければならない。そんな不便な仕組みに当事者から不満の声が上がっている。 (宮畑譲)
 

足不自由 「窓口行くのつらい」「紙の切符離れに逆行」

 「ネットを使ったノーマライゼーションの見本になりうるのに、逆に差別の見本になっている。時代に逆行したシステムだ」
 そう語るのは、名古屋市内に住む歯科医師の男性(48)。脳血管の障害で両手指、両足に障害が残り、身体障害者第二種三級に認定された。
 男性が怒りを向けるのは、JR東海がJR西日本と提供するネット予約システム。年会費無料の「スマートEX」、同千百円で割引率の高い「エクスプレス予約」の二種類がある。東海道新幹線と山陽新幹線が対象で、ネット予約すれば交通系ICカードなどで改札を通ることができる。八月末時点の登録者は約八百三十二万人に上る。
 大きな特徴の一つが、割引を受けられること。東京−名古屋間の「のぞみ」の指定席は通常、乗車券と特急券を合わせて一万一千三百円なのに対し、ネット予約システムを使えば一万三百十〜一万一千百円となる。
 

 

 障害者の場合、これらとは別に割引される仕組みがある。JR東海では身体障害者が一人で乗車する場合、百キロ超で乗車券を五割引きにする。そのため、東京−名古屋間で「のぞみ」の指定席に乗る場合、八千円余りで済む。
 先の男性が憤るのは、こうした障害者割引がネット予約システムに適用されていないからだ。毎回、みどりの窓口で障害者手帳を提示したうえ、紙の切符を購入しなくてはならない。
 男性は介助がなくても歩けるが、足が不自由になり出歩くのは以前より負担に感じるようになった。みどりの窓口までわざわざ行くのはつらい。乗車日より前に切符を買おうとすると、なおのこと大変だ。みどりの窓口のある最寄り駅まで行くには、自宅からバスで往復一時間半かかる。
 「ネット予約を使えれば、どれだけ楽になるか。それに窓口で自分の最もつらい過去を毎回伝えなくてよくなる。会員登録する際に障害者情報を入力すれば、解決する話なのに」
 男性はJR東海に何度も改善を求めているが、いつも回答は同じ。「ご要望いただいたサービスの実施は予定しておりません」。しびれを切らした男性は六月、株主の一人として書面で問いただしたが、JR東海は「障害者手帳の内容や乗車距離、介護者の有無により割引適用条件が異なる」などとして、実施予定はないと答えた。
 

高速で移動できる新幹線は便利だが、障害者にとって使いにくい存在になっていないか=8月、JR名古屋駅で

 本紙があらためてJR東海に取材すると、「現時点では導入する予定はないが、課題として認識しており、検討を進めている」との回答だった。
 やはり納得いかないのが、先の男性だ。
 そもそもJR東海はネット予約の利用が広まっていることもあり「紙の切符離れ」を進めようとしており、東海道新幹線の指定席の回数券販売を来年三月に終了させる。男性は「JR自身が紙の切符はすでに時代遅れと示しているのに、ネット予約システムに障害者割引を適用しないのは障害者排除だ」と語る。
 JR東日本も新幹線のネット予約システムがあるが、身体障害者への対応はほぼ同じだ。

航空大手は対応 「不当な差別」「手帳登録すれば可能」

 一方、大手航空会社はネット予約で身体障害者の割引を実施している。会員として情報を登録すれば、基本的には空港で障害者手帳を提示しなくても飛行機に乗ることができる。
 日本航空(JAL)では、障害者手帳のコピーなどを送付した上で、障害者と登録した会員カードをつくれば、全ての国内線で障害者割引が適用された運賃でネット予約できる。運賃割引は最大で48%。会員登録しない場合でも、ネットで予約、割引適用は受けられる。その場合は有人のカウンターで手帳を提示する必要がある。全日空(ANA)でも同様の運用が行われている。
 先の男性はこうした航空会社の対応を引き合いに「JRが実施できない理由が分からない。新幹線は利用者が多いからかもしれないが、面倒くさがっているとしか思えない」と憤る。
 障害者団体でつくるDPI日本会議も以前から改善を申し入れており、佐藤聡事務局長も「JRはなりすましを恐れているのかもしれないが、手帳を登録すれば済む話だ。システム、仕組みを作ればよいだけのはずで、なぜできないのか不思議だ」と話す。
 二〇一六年施行の障害者差別解消法では、行政や事業者に不当な差別的取り扱いを禁じ、合理的配慮を求めている。三年以内に施行される改正法では、企業にも合理的配慮の提供を義務化する。
 合理的配慮とは、事業者側などに過度な負担がない限り、障害者に対する障壁をなくすことを指す。ただ、東洋大の元教授で自身も車いすで生活する川内美彦さん(68)は「テクノロジーは進化していて、改良しようと思えばできるはずだ。なりすましへの対応は車掌が確認すればいい話だ」と断じ、JR側に過度な負担は生じないと考える。そして、「障害者がほかの人以上に努力しないと切符を取れないわけで不当な差別的取り扱いに当たる」と指摘する。
 加えて、こう現状を嘆く。「情報技術は全ての人を同じスタートラインに立たせることができる有力な道具だというのは明白。ネットで予約して、タッチするだけで改札を通れる。そういう世界が目の前にあるのに。今まで以上に取り残された感じがある」
 国もICカードなどを使い、障害者の移動の利便性向上、割引の簡素化を各公共交通機関に通知を出して求めている。国土交通省バリアフリー政策課の担当者は「(JR東海のシステムが)合理的配慮に欠けるかは直ちに判断できないが、オンライン予約が普及する中で、障害者が取り残されることのないように対応してもらいたい。引き続き要請していく」と話す。
 こうしたJR東海の対応の根本に「一九八七年の国鉄民営化に問題がある」とみるのは、評論家の佐高信さんだ。「障害者への配慮は社会の進歩とともに生まれてきた。しかしJR東海は、そもそも社会とは、公共輸送はどうあるべきかを分かっていないから、障害者への対応も遅れてしまう」と批判し、こう続ける。「民営化によって、公共交通機関なのにもうけ第一という考え方になった。本来、公共輸送は利用者全般の利便性を考えたものでなくてはいけない」
 

 


熱海の土石流い日を守れなかった行政 (2021年19月21日 中日新聞)

2021-10-21 14:29:39 | 桜ヶ丘9条の会

熱海の土石流 命を守れなかった行政

2021年10月21日 中日新聞
 
 静岡県熱海市で七月に起きた土石流災害=写真=で、県と市は盛り土が崩落する危険性を十年以上前から認識していたことが分かった。土地所有者側の言い分をうのみにして防止対策を求める命令の発出を見送り、結果として安全性を十分に確認しないまま問題を放置する形となった。
 当時の土地所有者は二〇〇七年に盛り土の計画を市に提出。高さ十五メートル、三・六万立方メートルの土砂を運ぶ計画だったが、実際にはその倍以上が積まれた。本来認められない産業廃棄物も含まれていた。
 県、市は〇九年に崩落の危険性を共有し、所有者側への指導を重ねたが、所有者側が一一年に防止対策を実施すると約束したため命令は見送ったという。実際には、対策工事は途中でストップ。盛り土の安全対策として最も重要な「排水設備工事」も未完成のままだった。県、市は安全対策が十分でないことを把握していたが、所有者が変わるなどの事情もあり、危険な状態は長く放置されることとなった。その結果、今年七月の長雨により、盛り土は土石流と化して住宅五十四棟を襲い、二十六人の命を奪った。なお一人が行方不明だ。この間、行政として怠慢のそしりは免れない。
 県、市側には県条例の限界を指摘する声もある。仮に条例に基づき命令を出しても、従わない場合の罰則は「二十万円以下の罰金」にとどまる。しかし、ことは「住民の生命と財産」に関わる重大案件だ。少なくとも、周辺住民に危険性が伝えられ、地域で広く共有されていればと考えずにはいられない。行政が自ら盛り土の除去や安全対策を施す代執行や、強制力を伴う法的措置を講じることも可能だったはずだ。犠牲者や遺族の無念は察して余りある。
 遺族らは元所有者らを業務上過失致死などの容疑で刑事告訴し、民事でも三十二億円の損害賠償を求め、係争中だ。県は第三者委を設置し、対応が適切だったか検証するとしているが、住民の命を守ることができなかった事実を深くかみしめねばならない。行政の責任も問われてしかるべきだろう。
 

 


選挙戦始まる 有権者の声を届けたい (2021年10月20日 中日新聞)

2021-10-20 11:43:04 | 桜ヶ丘9条の会

選挙戦始まる 有権者の声を届けたい

2021年10月20日 中日新聞
 
 衆院選公示日のきのう、各党首や候補者が第一声を発し、三十一日の投開票日に向けて選挙戦に突入した=写真、東京都新宿区で。どの候補者や政党に託せば、私たちの命が守られ、暮らしはよくなるのか。公約や主張を吟味し、政治に有権者の声を届けたい。
 自民党の岸田文雄総裁(首相)は福島市での第一声で「東日本の復興なくして日本の再生はない」「福島では原発廃炉、ALPS処理水、心のケアなど、やるべきことがたくさんある」と述べた。
 政権復帰した二〇一二年衆院選以降、自民党総裁はすべての国政選挙で、福島県内で第一声を発するか、公示日に演説してきた。
 岸田氏も福島市で第一声を発したことは、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故を忘れないとの意思表示なのだろう。
 しかし、岸田氏は原発事故には直接言及せず、自民党は公約に原発の再稼働を掲げている。
 歴代自民党政権が推進した原発の事故で命の危険にさらされ、厳しい暮らしを強いられている人たちに本当に寄り添っているのか。国民の真の声を聞かなければ「民主主義の危機」は脱せまい。
 立憲民主党の枝野幸男代表は松江市での第一声で「国民の皆さん一人一人の懐を温かくする所得の再分配こそが景気を良くする第一歩だ」と訴えた。
 松江市は、自民党最大派閥細田派の会長が立候補している選挙区だ。保守的な地盤が厚い地域に乗り込むことで、政権交代への強い意欲を示す狙いが読み取れる。
 立民などの野党は、二百八十九小選挙区のうち二百十を超える小選挙区で候補者を一本化し、与野党対決の態勢を整えた。選挙戦を通じて政権を託すに足る力量と政策を示さねばなるまい。
 選挙戦では新型コロナウイルス対策や分配による格差是正などの経済政策、選択的夫婦別姓を含む多様性も主要争点になる。九年近くにわたる国民軽視の「安倍・菅政治」も当然問われるべきだ。
 私たち一人一人の力は小さくても、束ねれば大きな力になる。投票所に足を運ぶことこそ、政治を変える原動力にほかならない。