日本1%、接種率なぜ低い? ワクチン、在日外国人が母国と比較
2021年4月20日 05時00分 (4月20日 05時01分更新)
欧米などより大幅に遅れている日本の新型コロナウイルスのワクチン接種。医療従事者や高齢者の接種開始が大きく報じられたが、少なくとも一回接種した人はわずか1%ほどだ。五割も六割も済ませている国々とはまさに桁違いだが、一体何が異なるのか? 日本で暮らす外国人に事情を聴いてみた。(古川雅和、中沢佳子)
「ブータンでは親も友人もワクチンを打ち終わった。強制的に接種していて、どうしても打ちたくない人は書類を書かなければいけないそうです」
英オックスフォード大の研究者らがつくるデータベース「アワー・ワールド・イン・データ(OWID)」で、既に62%が十七日時点の調査で接種しているブータン。同国出身で、愛知県豊田市でレストランを経営するヤンゾン・ディッキーさん(40)が同国の事情を教えてくれた。インドが中国に対抗してブータンへの影響力を強めようとワクチンを無償提供したとみられており、接種を強力に進める姿勢がうかがえる。
自国にいればワクチンは接種済みだったかもしれないディッキーさんだが、
世界最速で進んでいるのがインド洋の島国セーシェル。一月中旬に中国医薬集団(シノファーム)製の接種が始まり、人口約十万人の67・4%(十三日)が接種済みになった。そして、米ファイザー製と米モデルナ製を接種し、61・7%(十七日)になっているのがイスラエルだ。
京都市でレストランを経営するイスラエル人のアミール・トロジビクズさん(54)は、面積が日本の四国と同じくらい、人口も約九百万人と少なく、病院システムも組織的につくられているため、「実験的にワクチンを打ちやすい」と語る。政府がファイザーに接種後のデータを渡すことを約束した結果という分析や、パレスチナとの対立を抱え、感染拡大による国内の不安を少なくするためという見方もある。
南米チリでも約四割が接種済み。東京都中野区でレストランを営むエドゥアルド・フェラダさん(65)は「政府が早くワクチンを打てば、生活が元に戻ると考えて、中国、欧州、米国の四つのルートで製薬会社に予約した結果」と話す。四十代まで接種は終わっており「来月までに全国民が打てるようになるだろう。でも、日本に住む自分は、区役所からいつになるのか分からないと言われている」。
■惨状政府動く
国産のアストラゼネカ製がある英国では48・2%(十六日)、世界で最も感染者が多い米国も38・7%(十七日)が接種を済ませている。米国人の放送プロデューサー、デーブ・スペクターさんによると、米国では現在、多い日は四百万人程度にワクチンを接種している。デーブさんの親戚もすでに二回の接種を終えたという。
これらの国々では、なぜこんなにワクチン接種が早いのか。
スペクターさんは、接種が進んでいる国ではワクチン開発前の惨状が政府を動かしていると考えている。ニューヨークでは六百人以上の遺体が冷蔵トラックに入れられた。「あんな状況があった反省から、米政府などはせめてワクチン接種だけはうまくやらなければいけないと、必死でワクチンを調達した」
日本の状況にはあきれるばかりだ。「東京五輪を開催したいなら、何としてもワクチンを調達しなきゃ。日本の接種の遅さには金メダルをあげたいくらいだよ」
日本よりも開始が遅れた韓国でも、接種率は3・02%(十七日)に上っている。韓国出身で、ITコンサルティング事業などを手掛ける「イーコーポレーションドットジェーピー」社長の廉宗淳(ヨムジョンスン)さん(59)は「感染者が非常に少なく、政府も国民もワクチンの必要性を強く感じていなかった。安全性を慎重に考え、製薬会社を一つに絞らず複数と交渉したのも、調達が遅れた理由」とみる。
■アプリで順調
ただ、接種が始まってからは順調という。「韓国は全国民のスマホに電子政府のアプリが初期設定されていて、転出入から予防接種の記録まで、自治体の枠を超えた同じシステムで国民の情報を管理している。ワクチン接種もいつどこで打つか個々のスマホに通知され、作業がスムーズに進んでいる」
石川県加賀市に住むインド出身の会社経営ラビンダー・シングさん(39)は「インドは人口が多い(約十三億八千万人)から遅いんじゃないかな」と語る。シングさんは外国人の葬儀の手続きをサポートするNPO法人「863」を設立したばかり。「接種を受け、葬儀で困っている外国人を助けるために思い切り動きたい」
なぜ日本は出遅れたのか。日本は米ファイザーと、欧州で製造したワクチンを輸入する契約を結んでいる。しかし、欧州連合(EU)が輸出管理を強化し、ワクチンを輸出する際に承認を必要としたため、供給が不安定になった。
「政府は海外の製薬会社と調達の契約さえできれば手に入ると、甘い見通しだった」と指摘するのは、インターパーク倉持呼吸器内科(宇都宮市)の倉持仁院長。輸入頼みで国産ワクチン開発支援を十分しなかった点もまずいという。「コロナワクチンのように国内生産していない物資は、調達競争が起きれば確保が危うくなるのは当たり前。政府は中長期的な視点で戦略を立てていない」
他に、米モデルナや英アストラゼネカが承認を申請中。しかし「日本はワクチンの副反応への警戒感が強く、安全性を確認する審査も厳しい」(倉持さん)という。
昭和大の二木芳人客員教授(感染症学)も「米国は早くから製薬会社に投資をし、ワクチンの開発と製造を支援した。日本はもともとワクチン使用に慎重な傾向がある上、他国よりコロナ感染者が少なく、開発や確保への危機感が薄かった」と説明する。
中国やロシア製はどうか。他国に売り込んで国際的影響力を強める「ワクチン外交」も展開しているが、二木さんは「実用に向けた信頼できるデータが少なく、日本ではまず使わないだろう」とみる。
政府は医療従事者や高齢者の接種開始を喧伝(けんでん)するが、十九日に首相官邸のウェブサイトに発表されたデータによると、接種を受けた医療従事者は一回だけの人で約百十九万八千人、高齢者は約一万三千人にとどまる。変異株が猛威をふるい「第四波」といえる状況で、二木さんは危ぶむ。「このままでは重症者対応に追われ、ワクチンを打つ人手の確保も厳しくなる。まず感染を抑え込まなくては」