新潟県や群馬県で降った大雪で、車の立ち往生が相次いだ。関越自動車道では十八日夜、発生から約五十二時間ぶりにようやく解消した。近年、大規模な立ち往生が相次いでおり、国は道路の事前通行止めやタイヤチェーン規制の強化といった対策をまとめていた。それが残念ながら不発になった格好だ。今回の立ち往生では、何が起きていたのか。 (石井紀代美、榊原崇仁)
<証言> 情報板表示「通常」 20分後大渋滞
千葉県木更津市の無職男性(39)は十七日早朝、愛車のハンドルを握り、関越道と並走する国道17号を新潟側から群馬方面へと向かっていた。情報板には「チェーン規制」「冬用タイヤ規制」と出ていた。「通常通りだな」と男性は午前六時ごろ、新潟県の小出インターから関越道に乗った。
約二十分走ると渋滞に差しかかった。「すぐに動きだすだろう」。その見通しは裏切られた。何時間たっても一ミリも動かない。「ツイッターやラジオで、ようやくトラブルがあったと知った」。外は雪で白一色。小用は路肩で済ませた。多くの人がそうしていた。
日が落ちても車は動かない。車中泊用に積んでいた寝袋に入った。外は氷点下だが、エンジンを切った。マフラーが雪でふさがれ、一酸化炭素中毒により車内で死亡した事故があったと知っていたからだ。目が覚めた数時間後、車外に出て完全に雪に埋まったマフラーを見て、「間違ってなかった」とほっとした。
自衛隊が雪かきをし、ようやく脱出できたのは十八日午前五時半ごろ。男性は「ずっと車に乗っているのが本当につらかった。くたびれた。事故や渋滞を知らせる情報が表示されていれば、関越道には乗らなかった。すでに立ち往生が発生していたのに、何をやっていたのか」と憤る。
<原因> 予想外の大雪、事前の注意喚起少なく
関越道を管理する東日本高速道路(NEXCO東日本)新潟支社によると、立ち往生のきっかけは、積雪のせいでアクセルを踏んでもタイヤが空転してしまう「スタック」だった。
十六日午後五時五十分ごろ、上り線の塩沢石打インター付近で、上り坂で車が雪にはまった。同十時ごろ下り線湯沢インター近くの下り坂で雪にタイヤが取られた車が道をふさいだ。そして、後続車両が次々と止まって渋滞になった。どんどん雪が積もり、多くの車が動けなくなった。
立ち往生した車が最も多くなったのは十七日午後一時半ごろ。その数は上り線で約千七百五十台、下り線で約三百五十台に達した。
現場付近は豪雪地帯の上、アップダウンがある「難所」だ。だが、同社も大雪に備え、応援を集めて除雪体制を敷いていた。立ち往生の大きな原因は、予想を上回る大雪だった。
気象庁天気相談所の立原秀一所長は、「上空に非常に強い寒気が居座った。空気に含まれる水蒸気が冷やされ、雪雲が形成されやすい状況だった。加えて、日本海の海水温が例年より一、二度高く、水蒸気が供給されやすかったのもある」と解説する。その結果、十四〜十七日にかけ大雪が降った。新潟、群馬の県境付近では積雪量が例年の二、三倍。二十四時間の降雪量では観測史上最多になった。
その割には、事前の注意呼び掛けが少なかった印象が強い。例えば、大型台風の前に開くような記者会見は、今回はなかった。
同庁業務課の今野暁さんは「大雪警報を大幅に上回る降雪が予想される場合に実施するが、そこまでは見込めなかった。日本海側は普段から雪に慣れているというのもある」と話した。
天気は仕方なかったかもしれない。ただ、情報が十分に知らされていれば、巻き込まれずに済んだ人もいたはずだ。
NEXCO東日本新潟支社の広報担当者は「ホームページやツイッターも活用し、情報発信を行っていた」と説明する。だが、一人で運転していたら、スマホを見ることはできない。
国土交通省長岡国道事務所の担当者は「車を運転している間、頼りになるのは道路の情報板ぐらい。それほど雪に気が回らず、あれよあれよという間に動けなくなった人もいたのではないか」と語る。
その情報板。前出の男性によると「立ち往生」を知らせる表示はなかった。どうなっているのか。
広報担当者は「スタックは故障車扱い。情報板に載せる優先順位が低い。渋滞も一般道の情報板には表示されないはず。見られなかったのは事実だ」と話した。
<備え> タイヤ点検 車内に食料、毛布を
豪雪に伴う大規模な立ち往生は近年頻発している。
二〇一四年二月には山梨、長野両県の国道20号で約三百台が動けなくなったほか、一七年一月には鳥取、岡山両県を結ぶ米子自動車道で一時百二十台以上がストップした。同じ年の二月に新東名高速道路であった立ち往生では、静岡県内で約千台が止まった。首都高速道路でも一八年一月、山手トンネルで十時間にわたって立ち往生が続いた。
とりわけ深刻だったのが一八年二月六日朝に始まった福井、石川両県の国道8号の立ち往生だ。約二十キロの区間で動けなくなった車両は最大で約千五百台に上り、解消は九日未明にまでずれ込んだ。
その後の同年五月、国土交通省は大雪時の交通対策に関する中間とりまとめを作成した。通行止めを避ける物流優先の方針を転換し、「大規模な車両滞留の抑制を目標とする」「空振りを恐れず対策を行うべきだ」と打ち出したのが大きな特徴だった。
さらに▽冬用タイヤやチェーンの装着の徹底を呼び掛ける▽大雪が予想される時には多様な媒体を使い、外出を控えるよう周知する▽立ち往生が見込まれる場合には事前に通行止めなどを行う−などの対応を求めている。
だが、今回の対応をみると課題が浮かぶ。
NEXCO東日本の小畠徹社長は十八日の会見で「湯沢地域で二十四時間の降雪量が観測史上最多の一一三センチとなった。予測ができなかった」と見通しの甘さを認め、物流の維持などの観点から早期の通行止めに至らなかったと釈明した。物流優先を改めるのは、なかなか難しいのだ。
一方、ドライバー側の準備が不十分だった部分もあった。小畠社長は、立ち往生した車の中には、摩耗した冬タイヤを使っていたケースもあったと明かした。
識者は今回の立ち往生をどう見るのか。福井大の川本義海教授(交通計画)は「雪国の北陸でも『本格的な積雪は一月から二月にかけて』という意識がある。警戒心が強まっていない時期だからこそ、多くの人が『何とかなるかも』と考えて運転してしまったのかもしれない」と話す。
川本さんの言うように、冬本番はこれからだ。今回と同じ事態が起きないよう、道路会社や行政にはしっかりしてもらいたい。だが、自分の身は自分で守ることも考えないといけない。
川本さんは「立ち往生してからでは手の打ちようがない。一酸化炭素中毒などで命を落とすこともあり得る。リスクを認識し、『危うい場所がどこか』などの情報をきちんとつかんでおくべきだ。万が一、巻き込まれてしまった場合も念頭に置き、冬場はガソリンを満タンに。できることなら食料や毛布などを車内に用意しておく必要がある」と呼び掛ける。