安保法案、学会で「違憲」急拡大(2015年6月11日中日新聞)

2015-06-11 08:46:23 | 桜ヶ丘9条の会
安保法案、学界で「違憲」急拡大 

2015/6/11 中日新聞

 他国を武力で守る集団的自衛権の行使を柱とする安全保障関連法案を「違憲」と指摘する声が、憲法学者や法律家の間で広がっている。安倍政権が憲法解釈を変更して成立を目指す安保法案自体の正当性に、疑義が投げかけられている。

■署名26万人

 「法案は憲法九条に真正面から違反している。いまは人権と平和を守るため、国民が一丸となって力を合わせるべきときだ」

 十日、日本弁護士連合会が衆院第二議員会館で開いた安保関連法案の勉強会で村越進会長はこう訴えた。

 勉強会には、市民や国会議員ら約二百人が参加。自民党総務会で安保法案に異論を唱えた村上誠一郎衆院議員も出席した。弁護士会が全国で集めた集団的自衛権の行使容認に反対する二十六万一千人超の署名を民主党や共産党などの国会議員に手渡した。首相と衆参両院議長あてで、立法の断念を求めている。

 講演した元内閣官房副長官補の柳沢協二氏は「政権は自衛隊や国民のリスクを語ろうとせず、安全保障論に値しない」と指摘。弁護士の伊藤真氏は「集団的自衛権の行使も安保法案も、明確に憲法に違反していて認められない。憲法に基づいて全ての権力は行使されなければならないのに、力で押し通すのはおかしい」と訴えた。

■危険を認識

 憲法研究者のグループが安保法案は憲法九条に反しているとして、廃案を求める声明を発表している。声明には本紙が確認した時点で、計二百十五人が名を連ねる。賛同者を集め始めて一週間となる三日の声明発表時は百七十一人だったので、一週間で四十人以上増えたことになる。

 この中には衆院憲法審査会で安保法案を違憲と指摘した早稲田大の長谷部恭男教授と笹田栄司教授、慶応大の小林節名誉教授は入っていない。違憲派の憲法学者はさらに多いとみられる。

 声明の賛同者は、東京慈恵医大の小沢隆一教授ら五人が知人の研究者にメールなどで呼び掛け、集めている。小沢教授は「憲法研究者はそれぞれが一国一城の主(あるじ)として学識を積み上げ、自説を持っている。簡単に集まるものではない」と賛同者数の意義を強調する。

 集団的自衛権の行使容認が閣議決定された後の昨年八月にも、撤回を求める声明を発表したが、今回は当時の百七十三人を上回った。東海大の永山茂樹教授も「多くの学者が法案を危険なものと認識しているからだろう」と解説する。

■少ない発言

 一方、日本大の百地章教授、中央大の長尾一紘名誉教授、駒沢大の西修名誉教授、麗沢大の八木秀次教授の四人は本紙の取材に、安保法案は「合憲」との考えを示した。

 全国の弁護士約四百人でつくる「明日の自由を守る若手弁護士の会(通称あすわか)」もホームページで、合憲と明言する著名な学者として百地氏、西氏と八木氏を紹介している。

 長尾氏は本紙の取材に「九日に政府から委員会で名前を出してもいいかと確認の電話があった。集団的自衛権について、私と同様の論者は少なくない」と指摘。菅義偉官房長官も合憲派について「私自身が知っている人は十人程度だ」と述べた。

 多数の憲法学者が違憲の立場を表明している一方で、合憲派は表だって発言していないため、正確な人数は分からないが、違憲派より少ないとみられる。

 慶応大の小林名誉教授は合憲派の学者が少ない理由について「私はくみしないが、集団的自衛権を行使しようとするなら改憲が筋だからだ」と話す。

 (東京社会部・土門哲雄、辻渕智之、森川清志)



安保法制 説得力欠く「合憲」見解 

2015/6/11 中日新聞
 集団的自衛権を行使するための安全保障法制を「合憲」とする文書を、安倍内閣が示した。憲法学者三人が「違憲」と断じたことへの反論だが、説得力を欠き、合憲だとは、とても納得できない。

 集団的自衛権の行使容認を正当化するため、最高法規である憲法を、下位法の安保法制に無理やり当てはめたとしか思えない。

 文書は、日本を防護するための集団的自衛権の行使は、日本への攻撃が発生した場合に限って武力行使を認める従来の憲法解釈の「基本的な論理」を維持し、「論理的整合性、法的安定性は保たれている」と結論づけている。

 安倍内閣が、集団的自衛権の行使容認を正当化するための論拠として再び持ち出したのが、最高裁判所が一九五九年、自衛権の行使を「国家固有の権能の行使」と認めた、いわゆる「砂川判決」だ。

 ただ、この判決では、旧日米安全保障条約に基づく米軍駐留の合憲性が問われ、日本が集団的自衛権を行使できるか否かは議論されておらず、判決も触れていない。

 この判決後、岸信介首相は集団的自衛権の行使について「自国と密接な関係にある他国が侵略された場合、自国が侵害されたと同じような立場から他国に出かけて防衛することは、憲法においてできないことは当然」(六〇年二月十日、参院本会議)と述べている。

 砂川判決が行使を認めた自衛権に、集団的自衛権が含まれていないことは明らかではないのか。

 歴代内閣はその後も、集団的自衛権を有しているのは当然だが、その行使は日本防衛のための必要最小限度の範囲を超え、許されないとの憲法解釈を堅持してきた。

 国会や政府部内での長年の議論の積み重ねを軽んじ、一内閣だけの判断で、違憲としてきた集団的自衛権の行使を合憲と変えてしまうことが許されるはずはない。

 自民党が衆院憲法審査会の参考人として推薦した憲法学者までもが、国権の最高機関である国会の場で、安保法制を違憲と断じた意味は重い。安倍内閣は謙虚に受け止め、一連の法案を撤回すべきではないのか。合憲と主張する憲法学者の実名をいくら並べても、国民は納得するまい。

 日本を取り巻く国際情勢が変化しているというのなら、集団的自衛権の行使ありきで非現実的な事例を持ち出すのではなく、変化に即した現実的な防衛政策を検討すべきだ。それが海外で武力を行使しない「専守防衛」の枠内にとどまるべきことは当然である。