首相の説明、多い矛盾 集団的自衛権容認
2014/5/17 紙面から
安倍晋三首相は、憲法のもとで禁じてきた集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更へ本格的に動きだした。十五日の記者会見では、これまでよりも憲法の平和主義を尊重する考えを押し出して国民に理解を求めたが、行使の必要性をめぐる説明には、さまざまな矛盾や問題点が含まれていた。内容を検証した。
■妥当性
首相は約三十分間の会見で「国民の命と暮らしを守る」と二十回以上も繰り返した。海外で自衛隊の対処が必要な事例として、二枚のパネルを左右に置いて説明。集団的自衛権行使の範囲を限定的にとどめる考えを強調した。改憲問題では踏み込んだ発言をすることが多い首相だが「憲法の平和主義は守り抜いていく」とも明言した。
しかし、説明にはいくつもの疑問点がある。
首相は事例の一つに、海外での有事の際に邦人を救出し、輸送している米艦船を防護することを紹介。「自衛隊は守ることができない。これが憲法の現在の解釈です」と断言したが、必ずしもそうとは言えない。
自衛隊艦船が米艦に近づき、米艦が攻撃されれば、自らへの攻撃とみなし、自らの船を守る権利で反撃できるとの指摘もある。ある防衛省幹部は「現在の憲法解釈でも可能」と話す。公明党は自国が攻撃されたときに反撃する個別的自衛権などで対応できると主張する。
もう一つの事例として首相が挙げた国連平和維持活動(PKO)での自衛隊による「駆け付け警護」も、憲法が禁じている武力行使とは関係なく、今の解釈でも可能という議論がある。何より二つを持ち出した首相自身が、集団的自衛権に当てはまる活動だと明確に言わなかった。集団的自衛権とは限らない事例を使い、解釈改憲の必要性を訴えていたことになる。
■集団安保
国連を中心とした武力行使の枠組みである集団安全保障(集団安保)をめぐっても、集団的自衛権との関係で矛盾があった。
首相は集団安保への参加に関し「これまでの憲法解釈と論理的に整合しない考え方だ」と否定。これに対し同じく従来の憲法解釈では論理的に整合しないとしてきた集団的自衛権の行使容認には「限定的な行使は許されるという考え方の研究を進めたい」と表明した。
集団安保も集団的自衛権も、海外での武力行使なのは同じ。国連の集団安保による多国籍軍が編成された一九九一年の湾岸戦争は、初めは集団的自衛権が適用された。二〇〇三年のイラク戦争では、英国が集団安保の枠組みよりも米国との同盟関係を重視して加わった。首相は集団安保に参加しないことを理由に「湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加することはない」と言い切ったが、集団的自衛権の行使を容認すれば可能性がないとはいえない。
■誘導
論理ではなく、感情論で訴える場面も目立った。
首相はパネルにこだわり米艦防護の事例では乳児や母親を入れて作り直すよう指示。会見では「逃れようとしているのがお父さんやお母さんやおじいさんやおばあさん、子どもたちかもしれない」などと訴えた。
沖縄県・尖閣諸島周辺への中国船侵入問題や北朝鮮のミサイルが日本全土を射程に入れていることも強調。「机上の空論ではない」「人ごとではない」と主張したが、他国を守る集団的自衛権と何の関係があるかの説明はなかった。
首相は会見後に「こう説明していけば国民の理解が得られる」と満足そうに語ったというが、公明党幹部は「赤ちゃんの絵などで感情に訴えることに力を入れていたが、あれでは何でも集団的自衛権を行使しないといけないと聞こえる。誤った誘導だ」と批判する。
2014/5/17 紙面から
安倍晋三首相は、憲法のもとで禁じてきた集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更へ本格的に動きだした。十五日の記者会見では、これまでよりも憲法の平和主義を尊重する考えを押し出して国民に理解を求めたが、行使の必要性をめぐる説明には、さまざまな矛盾や問題点が含まれていた。内容を検証した。
■妥当性
首相は約三十分間の会見で「国民の命と暮らしを守る」と二十回以上も繰り返した。海外で自衛隊の対処が必要な事例として、二枚のパネルを左右に置いて説明。集団的自衛権行使の範囲を限定的にとどめる考えを強調した。改憲問題では踏み込んだ発言をすることが多い首相だが「憲法の平和主義は守り抜いていく」とも明言した。
しかし、説明にはいくつもの疑問点がある。
首相は事例の一つに、海外での有事の際に邦人を救出し、輸送している米艦船を防護することを紹介。「自衛隊は守ることができない。これが憲法の現在の解釈です」と断言したが、必ずしもそうとは言えない。
自衛隊艦船が米艦に近づき、米艦が攻撃されれば、自らへの攻撃とみなし、自らの船を守る権利で反撃できるとの指摘もある。ある防衛省幹部は「現在の憲法解釈でも可能」と話す。公明党は自国が攻撃されたときに反撃する個別的自衛権などで対応できると主張する。
もう一つの事例として首相が挙げた国連平和維持活動(PKO)での自衛隊による「駆け付け警護」も、憲法が禁じている武力行使とは関係なく、今の解釈でも可能という議論がある。何より二つを持ち出した首相自身が、集団的自衛権に当てはまる活動だと明確に言わなかった。集団的自衛権とは限らない事例を使い、解釈改憲の必要性を訴えていたことになる。
■集団安保
国連を中心とした武力行使の枠組みである集団安全保障(集団安保)をめぐっても、集団的自衛権との関係で矛盾があった。
首相は集団安保への参加に関し「これまでの憲法解釈と論理的に整合しない考え方だ」と否定。これに対し同じく従来の憲法解釈では論理的に整合しないとしてきた集団的自衛権の行使容認には「限定的な行使は許されるという考え方の研究を進めたい」と表明した。
集団安保も集団的自衛権も、海外での武力行使なのは同じ。国連の集団安保による多国籍軍が編成された一九九一年の湾岸戦争は、初めは集団的自衛権が適用された。二〇〇三年のイラク戦争では、英国が集団安保の枠組みよりも米国との同盟関係を重視して加わった。首相は集団安保に参加しないことを理由に「湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加することはない」と言い切ったが、集団的自衛権の行使を容認すれば可能性がないとはいえない。
■誘導
論理ではなく、感情論で訴える場面も目立った。
首相はパネルにこだわり米艦防護の事例では乳児や母親を入れて作り直すよう指示。会見では「逃れようとしているのがお父さんやお母さんやおじいさんやおばあさん、子どもたちかもしれない」などと訴えた。
沖縄県・尖閣諸島周辺への中国船侵入問題や北朝鮮のミサイルが日本全土を射程に入れていることも強調。「机上の空論ではない」「人ごとではない」と主張したが、他国を守る集団的自衛権と何の関係があるかの説明はなかった。
首相は会見後に「こう説明していけば国民の理解が得られる」と満足そうに語ったというが、公明党幹部は「赤ちゃんの絵などで感情に訴えることに力を入れていたが、あれでは何でも集団的自衛権を行使しないといけないと聞こえる。誤った誘導だ」と批判する。