リニア 東濃地区にある日本最大のウラン鉱床を通る!(週刊SPA 2012年7月24+31日号)より

2013-12-10 16:06:44 | 桜ヶ丘9条の会
       リニア中央新幹線、ウラン鉱床を通るのか? そして電磁波
リニアには沿線全体での共通する問題がある。たとえば、水枯れや電磁波だ。そして、地域独自の問題も起こる。岐阜県の場合は、ウラン鉱床の通過の可能性だ。岐阜県東濃地区には日本最大のウラン鉱床がある。リニアはここを通る。もしウラン鉱床にぶつかったら、そのトンネル工事では膨大なウラン残土が発生し、かつ、肺がんを引き起こすラドンガスが出てくる。これにJR東海はどう対処するのか?東京(品川駅)・名古屋間を40分、東京・大阪間を67分。強力な超電導磁石で10センチ浮上し、時速500キロで地表を飛ぶ「夢の超特急」、リニア中央新幹線が2年後の2014年に着工されようとしている。それぞれの開通予定は27年と45年だから、リニアの研究が始まった1962年から半世紀以上も経っての実現となる。事業は、JR東海の自費建設。総額9兆円という超大型プロジェクトだ。
 その着工を目前にして、今、計画沿線ではリニアに対する反対や疑問の声が挙がっている。

その1.ウラン鉱床

 JR東海は昨年、第一期工事となる品川から名古屋までの、幅3キロという大雑把なルートを公表した(来年、幅数十メートルの具体的ルートを公表)。東京都、神奈川県、山梨県、静岡県、長野県、岐阜県、愛知県をほぼ直線で結ぶのだが、岐阜県では他の都県にはない特殊な問題が起こるかもしれない。

「希少植物種のシデコブシやハナノキの群落への影響も心配ですが、リニアが通過する東濃地区にはウラン鉱床があるんです。そんなところに地下トンネルを掘ったら、膨大なウラン残土が排出される、つまり放射能汚染の土が出てくるかもしれません」

 こう話すのは「中津川の環境を守る会」の野田契子代表だ。
 同会は、放射能汚染の震災がれき問題を機に昨年8月に結成したばかりだが、「まさか地元で放射能汚染された土壌問題に出くわすとは思わなかった」と野田さんは振り返る。

 東濃地区は、日本のウラン埋蔵量の6割もが集中している地域。リニアは、品川から名古屋までの8割を地下か山岳トンネルで通過するのだが、東濃地区も地下トンネル。そして、リニアはその高速性ゆえ、真っ直ぐか最小曲半径8キロという大カーブでしか曲がれない。つまり、トンネル工事でウラン鉱床が出てきても回避できないのである。

 2012年2月、推進の立場だが、岐阜県の古田肇知事は、リニア計画に関してJR東海に意見書を送った。自然環境や騒音など33項目についての厳しい対処を求めているが、冒頭で訴えたのが「ウラン鉱床の回避」だ。

 そもそもトンネル工事でウラン鉱床にぶつかると何が起きるのだろうか?

 ある研究者はこう説明する。

「ウラン鉱床には、放射性物質の一つであるラジウムが崩壊した気体のラドンガスが存在します。海外のウラン鉱山労働者の疫学調査では、これで内部被曝し肺ガンのリスクを高めることが判っています。1立米当り、4000から4万ベクレルの範囲で存在します」

しっかりした防護体制で臨まないと労働者は被曝するということだが、問題は労働者に留まらない。採掘の結果、排出されるウラン残土もまた、高濃度のラドンガスを発生するからだ。

 たとえば、1957年から、岡山県と鳥取県にまたがる人形峠では、原子燃料公社(現在の「日本原子力研究開発機構」。以下、機構)によるウラン採掘が行われたが、野積みされたウラン残土の風下に位置していた鳥取県の方面(かたも)地区では、鉱山閉山後の66年から94年の間に、人口約100人のうち11人がガンで死亡。うち6人が肺ガンであった。

 この調査に携わった京都大学原子炉実験所の小出裕章氏はこう語る。

「ラドンの濃度は通常の空気には、1立米当たり10ベクレル程度。法令では、鉱山の坑道などでは3000ベクレル以下、一般居住区域に流す場合には20ベクレル以下にするよう定めていますが、人形峠の坑口でのラドン濃度は10万ベクレルに達したことがあります。気体のラドンは風に乗って方面にまで流れたのです。ウランの半減期は45億年。ひとたびウランを掘り出すと、その残土は半永久にラドンガスを放出し続けるのです」

 そして採掘から半世紀以上経った現在でも、人形峠のあちこちでは述べ49万立米ものウラン残土が、覆土はされたが、野積みされたままで、今も放射線を放っている。

 リニアのトンネル工事で、岐阜県では約300万立米の残土発生が推測されている。人形峠で野積みされているウラン残土の約6倍だ。もっとも、全ルートにウラン鉱床があるわけではなく、また、JR東海はさすがにウラン鉱床を回避する努力はすると思うので、ウラン残土の排出はないかもしれない。だが問題は、出てきた場合にどう処理するかだ。私は、岐阜県のJR東海環境保全事務所に「どう処理するのか?」を尋ねてみた。担当者はこう回答した。

「ウラン鉱床にぶつかってしまった場合の残土処分は具体的には決まっていません。ただ、現在の、放射能汚染された震災がれきのような処分も参考にしたいとは考えております」

本決まりではないにせよ、ウラン残土を県外に出す可能性を示唆したのだ。

 JR東海は、6月13日に岐阜県中津川市で開催された住民説明会で「ウラン鉱床は極力回避する」と説明した。だが、回避できるほど、地中の地層は判明しているのだろうか?

 東濃地区には、将来の高レベル核廃棄物の地層処分をするための研究所、機構の「東濃地科学センター」がある。その地域交流課に尋ねたところ、こう回答してくれた。

「私どもは、研究のため、東濃地区で数十本のボーリング調査を行っていて、地中の地層をある程度は把握しています。でも、実際は、掘ってみないとどんな地層が出てくるか分からないのが現状です。ウラン鉱床にぶつかった場合は、当然ラドンガスは出てきます」

 掘ってみなければ判らない。それではすまない問題なのだが。
 リニアは、その高速性ゆえ、最小曲半径が8キロとほぼまっすぐにしか走れない。工事中にウラン鉱床にぶつかっても、そこからのルート変更はもうできないのだ。

その2 電磁波

 リニアには、従来の新幹線とは違う問題が存在する。まず、JR東海も認めているところの「新幹線の3倍の電力を消費する」ということだが、それに伴い、強力な電磁波が発生することだ。

リニアは山梨県で97年から走行実験を重ねているが、89年に実験線の誘致が山梨県に決まると、実験線近くの東山梨変電所には、東京電力の柏崎原発(新潟県)から400本以上の送電塔と高圧線が敷設され、50万ボルトという超高圧電力が送られた。

もしリニアが開通すれば、各地の発電所から走行区間までには、約1万本の送電塔が林立するとも言われているが、電磁波問題の第一人者、市民団体「ガウスネット・電磁波問題全国ネットワーク」代表の掛樋哲夫さんは、高圧線からの電磁波を強く懸念する一人だ。

「先進国の高圧線問題で必ず問題になるのが、高圧線周辺での子どもの白血病です」

例えば、大阪府門真市の古川橋変電所には15万ボルトの高圧線が集まっているが、因果関係は証明されていないが、白血病患者が高圧線近くに集中するという事例が起きている。

また、中津川市での説明会でJR東海が公表したデータによると、時速500キロのリニアが通過すると、その横4メートルで1900ミリガウスの電磁波が発生する。また別の資料では、停車時における車内の値は1万3000ミリガウスとされている。これは国際機関であるICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドラインを下回る値だとJR東海は説明した。

だが、元京都大学工学部講師であり、市民団体「電磁波環境研究所」の所長である荻野晃也氏は、「そもそも、走行中での車内の値が公表されていないのはおかしい。その値を信用するとしても、値は危険レベルだ」と反発する。

というのは、99年度から3年間、電磁波を研究した国立環境研究所の故・兜真徳研究員は「4ミリガウス以上の電磁波に被曝すると小児白血病の発病率が3倍弱になる」との研究結果を出しているからだ。

この研究は、0~15歳までの小児白血病患者310人と、年齢・性・地域が同じ健康な児童600人を対象に疫学調査したもので、イギリスとアメリカに次ぐ世界3番目の大規模な疫学調査として知られ、WHO(世界保健機関)でも高い評価を得た。

だが、日本政府はこの兜論文をまったく評価しない。文部科学省が論文に下した総合評価は裁定のC評価。しかも、目標達成度、目標設定、研究成果、研究体制など11項目すべてでC評価。

一方、経済産業省・原子力安全保安院が昨年3月末に改正した、電気設備からの規制値は2000ミリガウスと、兜論文のまだ500倍だ。

リニアでかろうじて、走行中の車内での電磁波の値が記録されているのは、リニアが初期実験を行なっていた宮崎県での実験背での値だ。670ミリガウス。これでも、兜論文の約170倍だ。

その3.水源の破壊

 リニアに限ったことではないが、トンネル工事を行うと必ず起こるのが周辺地域の水枯れだ。だがリニアの特性は、長大トンネルの連続で全ルートを結ぶことだ。つまり、東京都から大阪府までの随所で水が枯れる。

 リニア計画では、水枯れに関しては、既に実験線周辺の自治体から報告が挙がっている。

 リニア実験が始まってから2年後の99年、山梨県大月市朝日小沢地区では水源が枯れ、魚が消えた。

 当時、水道組合のKさんは、「トンネルができて3ヵ月後に水が枯れました。JR東海は代替策として地下水を汲んでいます。問題はその補償が30年で切れること。あとは、自分たちで何とかしなくてはならない」と語った。

09年10月にも、実験線の延伸工事に伴うトンネル掘削で笛吹市御坂町の水源である天川が枯れ、昨年末も上野原市無生地区の簡易水道の水源である棚の入り川が枯渇した。住民に電話したところ、住民は「もう魚なんていませんよ。JRは飲み水を貯水タンクに供給はしてくれますが、私はあのうまい水と、魚を返してほしい」と強く嘆いていた。

 そして、笛吹市の土木部建設課に問い合わせたところ、職員の回答には少し驚いた。

「川だけではなく、個人宅の井戸も数十件、リニア工事以後に枯れているんです」

――工事との因果関係は?
「認められたものも一部あります。ただし、工事を行う独立行政法人『鉄道建設・運輸施設整備支援機構』は、因果関係が判明していなくても応急処置として地域の貯水タンクに水を供給しています」
――天川は水が戻ったのですか?
「2年以上経っても枯れたままです。代わりに、トンネル工事が常に水脈を断ち切り出水しているので、その水を川に放流しています」

 確かに、そのトンネル近くの現場に行くと、道路にはトンネルからの出水が絶えることなく流れていた。

 そして、水枯れがもっとも心配される地域として、世界遺産候補の「南アルプス」がある。ここには過去、トンネルが一本も開けられたことがない。
 そこに08年、JR東海は、リニア建設に先立つ地質調査として、南アルプスに抱かれる長野県大鹿村の釜沢地区で山肌に直径10センチ、長さ1キロの穴を開けるボーリングを行った。
 7月上旬、地元の河本明代さんに案内されて現地を訪れた私は驚いた。その現場には水抜きホースが敷設されていたのだが、ボーリング調査から4年も経った今でも水が流れ出ていたからだ。

「これで20キロ以上ものトンネルが掘られたらどうなるか、本当に心配です」(河本さん)

 そこから数キロ離れた現場で畜産を営む紺野香糸さんにも切実な問題だ。

「私たちは牛を80頭育てていますが、すべて近くの沢水を利用しているんです。それが枯れたらどうなるのか。JR東海からは何の話もありません」

 前出の笛吹市の事例では、公共用水の枯渇にはJR東海は水の供給をしてくれるが、個人宅の井戸は手つかずだ。

 また、河本さんによると、村にはリニア計画への反対派もいれば賛成派もいる。だが両者に共通した懸念は、トンネル工事で輩出される膨大な残土の置き場所が村に存在しないことだ。たとえば、笛吹市では、残土は谷間に捨てられ、今ではほとんど平地になってしまったのだが、基本的には「自区内処理」(残土発生地の自治体で処理)が原則になっている。

 リニア建設に当り、昨年10月、JR東海は「環境影響評価方法書」(環境アセスの概要の大まかな説明書)を計画沿線上の住民に縦覧し、同時に説明会も開催した。大鹿村でも、当然、「どこに坑口を作り、どんな工事が行われ、建設残土はどこで処理するのか」などの質問が出た。だが、JR東海は「環境影響評価準備書に記載します」と回答しただけだった。準備書とは、説明会での住民の意見や知事の意見書などを考慮したより具体的な計画書のことだが、それが再び縦覧されるのは来年秋以降。つまり着工の直前だ。あまりにも遅い回答ではないだろうか。

 水枯れは必ず起こる。JR東海には誠実な対応を望むばかりだ。

その4 一体誰が時速500キロを利用したいのか?

 JR東海と沿線自治体は「東京から大阪までが1時間でつながることで、6000万人もの新たな首都圏ができ、日本経済は活性化する」と謳う。だが私が取材中に感じた疑問は、「果たして、時速500キロで名古屋や大坂に行かねばならない人は多いのか?」ということだった。

ここに興味深い数字がある。2009年に朝日新聞甲府総局が4146人に行ったアンケートに「リニア新幹線の建設では複数のルートが議論されていますが、どのルートにすべきと思いますか」との設問があった。すると、56・8%の2353人が「リニアは必要ない」と回答したのだ。

 ここで根本的な疑問が浮かび上がる。計画は本当に「リニア新幹線に乗りたい」との国民の声に押されて策定されたものなのか?

JR東海はこれまで58回の方法書の説明会を行ったが、大鹿村を除き、すべての説明会で、住民の「時間を延長してほしい」の声を聞かずに、時間ぴったりで閉会した。なかには、東京都稲城市での説明会のように、「もう一度説明会を」との住民の声に「無言で」閉会となったひどい事例もある。

 リニアはこのまま住民との話し合いも検証もなく進んでいくのだろうか。

 今、メディアでは原発再稼動に怒る住民が報道されているが、報道されないリニア問題でも怒る住民は増えている。9月30日には甲府市で関係するすべての市民団体や市民が一同に介する集会も予定されているが、その願いは一つ。リニアを走らせる走らせないの前に「国とJR東海と徹底した議論をしたい」ということだ。