奇跡への絆

図師ひろき

最近の読書5

2014年08月25日 23時19分45秒 | Weblog
 “卒業”と聞いて思い浮かべるのは…

 窓ガラスを壊してまわったこともなければ、ピンボールのハイスコアを競い合った学生時代もなかったけれど、やっぱり尾崎豊さんの歌です。

 ということで、ジャケ買いで重松清さんの“卒業”を読みました。

 この作品は、今まで単発の読み切り小説として発表されたものを、重松さんがあるキーワードで、紡ぎ合わせた短編集です。

 そのキーワードが“卒業”であるのですが、単なる学校や親から卒業ではなく、恋や嫉妬からの卒業を取り上げたものでもありません…

 キーワードは“死”を通して、繰り広げられる“ゆるし”や“成長”だと私は感じました。

 4つの作品で綴られ“死”は、そこに登場する人物のある時期を断片的に捉えたものではなく、人生そのものが凝縮されたストーリーになっています。

 泣けます…

 どの作品も泣けます。

 私が最も泣いたのは、最初の作品の“まゆみのマーチ”です。

 娘と母親の強い絆を背景に、弱肉強食社会で矛盾と生きづらさを抱える人へ、優しさの意味を問いかけてきます…

 あらためて無限の母性と信じて寄り添うというとがどれほど支えになるかということを教えてくれます。

 こんな稚拙な解説では、まゆみのマーチがどれだけ愛に満ちた歌なのか伝わらないと思いますが、ハンカチなしでは読めない作品ですよ!

 そして、私がこの本の中で最も感情移入できた作品は、4番目の“追伸”でした。

 1番目の“まゆみのマーチ”が良かっただけに、あとは段々盛り下がるのかと思いきや、感動そのまま最後の作品で、私の正確に似てると思われる登場人物に出会います。

 それは、母親が病気で亡くなった家庭で寂しい環境にもめげず、ひたむきに未来を切り開いていく息子…ではなく、母親の死後嫁いできた後妻です。

 後妻ってと思われるかもしれませんが、この後妻さんの不器用ながらも歯を食いしばって頑張る姿が、なんとなく今の自分と重なるような気がして、最後の場面では…

 “俺も同じことをするよな…”

 とやはり目頭をおさえていました。

 家族に優しくなれるきっかけをくれる一冊だと思います。