中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

健康経営の新情報

2022年07月21日 | 情報

健康経営は、メンタルヘルス対策上、必要条件ですが、十分条件ではありません。

「健康経営の推進について」(2022年4月)経産省

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeiei_gaiyo.pdf

〇健康経営度調査を分析すると、健康経営度の高い企業のほうが離職率が低い(2020年9月資料より)
健康経営銘柄、健康経営優良法人における離職率

・健康経営銘柄2022 2.5%
・健康経営優良法2022 4.9%
・健康経営度調査回答企業平均 5.0%
・(参考)全国平均  10.7%

〇過去の健康経営銘柄選定企業の声

1.投資家等への情報発信
✓ 就活生向けの会社案内資料に健康経営銘柄の選定を盛り込んだほか、有価証券報告書、CSR報告書や社内報に記載するなど、
社内外や投資家に向けて打ち出し。
✓ 名刺やHP、会社紹介冊子等に取組を紹介し、取引先等に選定結果をPR。
✓ 健康経営の取組に関する取材が増え、メディア露出の機会が増大。また、役員による講演も多数依頼されるようになった。

2.社内における行動変容
✓ 経営トップによる取組強化の指示などが発信され、健康増進計画や社員参加型の健康増進プログラムの拡充を図っている。
✓ (銘柄を継続して取っている企業においても)新たな取組を実行。
✓ 健康増進に関する中長期計画策定や健康経営推進組織の設置を行った。
✓ 各事業所で取り組むアクションや目標を継続して実行できており、健康経営が習慣化した

3.社内外の反響
学生の認知度が向上し、就活生が大幅に増加したり、内定後辞退率が減ったりした。優秀な人材の確保につながっている。
取引先やその他の企業から、高く評価してもらえた。取組に関する多数の問合せがある。
✓ 投資家から「中長期的な成長が見込まれる」と高い評価をもらった。
✓ 銘柄を取得した他企業との情報共有を通じ、他業種との繋がりのきっかけとなった。

〇健康経営に取り組む中小企業の事例集

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieiyuryohojin2022_jireisyu220318.pdf

・経済産業省では、中小企業等への健康経営のノウハウ提供を目的として、健康経営優良法人2022の取り組み事例集を作成。
・健康課題のテーマ別に、ブライト500認定法人の事例を紹介。
また、健康経営優良法人の認定取得に対する地方自治体等のインセンティブ措置も掲載している。

〇健康経営施策は、将来、民営委託、国際化、有料化、するそうです。

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高ストレス者を対象とする面接指導②

2022年07月20日 | 情報

ストレスチェックを実施しても、高ストレス者に対する医師の面談が実現できないでいることは、
ストレスチェックを実施する意味が半減してしまいます。
そこで、前項ではアンケートからくみ上げた、面接への申出のない高ストレス者の対応の工夫点も紹介しました。

(再掲)
〇資料の出典元 ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書(2022年3月)
令和3年度厚労省委託事業

https://www.mhlw.go.jp/content/000951471.pdf

⑱ 面接への申し出のない高ストレス者の対応の工夫点<主な自由回答>(事業場票 問 20)
 2年連続高ストレス者で面接申し出がない人を対象に保健師から体調確認メールを配信
 高ストレス者のうち、睡眠に問題のある人(よく眠れないことがしばしばある・ほとんどいつもあると答えた人)をピックアップし、
保健師面談を実施
 申し出しない理由を尋ね、申し出しやすい環境整備に努めている
 高ストレス者全員に面接指導の希望確認書を渡し対象者全員の意思を確認している
 実施規程に「産業医面接前に健康サポート室(日常的にメンタル不調者対応をしている)が補足的な面談を行う」と明記し
「自主的な面接希望がない場合であっても3回まで面接勧奨をする」ことも謳われている
 健康診断の事後指導や予防接種などの機会を利用し、相談ができるようにする 等

〇それでは、実際にどうやればよいのか、厚労省の資料から抜粋して紹介します。

労働安全衛生法には、2つの面接指導が定められています。
① 長時間労働者を対象とする面接指導(第66条の8及び第66条の9)
② 高ストレス者を対象とする面接指導(第66条の10)

これらの面接指導は、過労やストレスを背景とする労働者の脳・心臓疾患やメンタル不調の未然防止を目的とするものです。
産業医等の医師は、面接指導の場において対象労働者に指導を行うのみならず、事業者が就業上の措置を適切に講じることができるよう、
医学的な見地から意見を述べることが大変重要となります。
また、働きやすい職場づくりを進めるため、面接指導から得られた情報を職場改善につなげるための意見を述べることも期待されています。

② 高ストレス者を対象とする面接指導について

面接指導の対象となる「高ストレス者」とは、ストレスチェックの結果、高ストレスであり、
面接指導が必要であるとストレスチェックの実施者が判断した者とされています。
高ストレス者の選定方法については、「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(令和3年2月改訂)」の
P.38~46を参照してください。

・「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(令和4年3月)

https://www.mhlw.go.jp/content/000917251.pdf

・「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究」(平成30年3月)

https://hp3.jp/wp-content/uploads/2018/06/H29a.pdf

・「医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面接指導実施のためのマニュアル」
(労災疾病臨床研究事業費補助金研究「長時間労働者への医師による面接指導を効果的に実施するためのマニュアルの作成」(2021年9月版)

https://www.mhlw.go.jp/content/000843224.pdf

・面接指導結果報告書・就業上の措置に係る意見書

https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F000875330.doc&wdOrigin=BROWSELINK

 

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ストレスチェック制度の効果検証①

2022年07月19日 | 情報

厚労省が委託事業として行った、ストレスチェック制度の効果検証に係る調査データです。
ストレスチェック、及びその結果による職場環境改善は、有用であると結論付けてはいますが、
一次予防効果はあったのか、また、費用対効果はどうだったのか、という肝心なところは不明です。
以下、概要です。

ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書(2022年3月)
令和3年度厚労省委託事業

https://www.mhlw.go.jp/content/000951471.pdf

1) ストレスチェック制度の実施状況
(1)ストレスチェックの実施率
○ 事業場を対象として国内の各地域で実施された研究では、いずれも、労働者数 50 人以上の事業場では、ストレスチェックの実施率が8~9割程度であったのに対し、労働者数 49 人以下の事業場におけるストレスチェックの実施率は1~6割程度と、低い傾向にあった。【文献6、18、29】
○ 小規模事業場の中でも特に、単独企業の方が、複数事業場をもつ企業の支所と比較して、ストレスチェックの実施率が低い傾向にあった。また、ストレスチェック制度に関連した公的支援制度に対する認知度も低かった。【文献 26】

【ストレスチェック制度の普及にかかる課題】
➡ストレスチェックの実施については小規模事業場かつ、単独企業に対して、公的支援制度の周知を含めた働きかけをすることが重要。

(2)ストレスチェックの受検率
○ ストレスチェックの受検率は事業場規模が大きくなるほど高くなっていたが【文献6】、大規模事業場の労働者では、ストレスチェックの実施通知があった者の割合が高かった。【文献 24】
○ 年齢別・業種別等に見ると、若年層、医療・福祉の業界で受検率が有意に低かった。また巡回による定期健康診断と同時に実施したほうが受検率は有意に高かった。【文献 35】

【ストレスチェック制度の受検率向上に係る課題】
ストレスチェックの受検率の向上には実施時期への配慮や健診との同時実施をする、実施通知を行う、複数回の受検勧奨を行う等の工夫が求められる。

(3)高ストレス者のうち、医師による面接指導
○ 従業員規模別での傾向は文献により異なっているものの、総じて高ストレス者のうち、医師による面接指導を希望する者の割合は低かった。【文献6、18、28、29、34】

【医師による面接指導に係る課題】
➡多職種が連携しながら、高ストレス者と判定を受けながらも医師面接につながらない人の面接等への誘導の工夫が求められる。

(4)集団分析の実施状況
○ 集団分析の実施率は低くはないが【文献6】、分析結果が有効に活用されていない。【文献1】

【集団分析に係る課題】
➡結果の活用方法等を例示する等により、活用を促す工夫が求められる。

(5)職場環境改善の実施状況
○ ストレスチェック実施後に集団分析結果を活用し、職場環境改善まで実施している事業場は少なかった。【文献6、18、29】
○ ただし、労働者の側からは、職場環境改善を経験したという意識は低く、事業場単位では実施していても、職場環境改善を経験したことがあるものはわずかであった。【文献 28】

【職場環境改善に係る課題】
➡集団分析を受けて職場環境改善まで実施している事業場は少なく、職場環境改善につなげ、それを事業場全体に広げる取組みが必要である。

2) 職場におけるメンタルヘルス対策としてのストレスチェック制度の効果・有用性
○ ストレスチェック制度の有用性については、事業場では従業員のメンタルヘルスへの理解・意識向上等について有用である、労働者では医師面接や職場環境改善がメンタルヘルス不調への対策として有用であると捉えられていた。【文献 18、24】
○ 複数の独立した研究により、ストレスチェック制度については、それ単体ではなく、面接や職場環境改善と一緒に行うことにより、労働者のストレス反応等において有意な改善が見られる等の効果が確認できた。【文献8、9、23、28、30】
○ 一方、ストレスチェック制度の導入によって労働者の心理的負担が軽減されたとは言えないと結論づけたものや、ストレスチェック制度に関わる医師等からは、ストレスチェック制度が職場におけるメンタルヘルス対策の進展に影響はないと見解の方が多かったというものもあった。【文献 10、21】

【ストレスチェック制度の効果について】
➡ストレスチェック制度については事業場・労働者ともに有用であると一定の割合で評価されており、ストレスチェックの受検だけではなく、その後の職場環境改善まで一体で実施することによって具体的な効果が見られている。これらの点については、さらなる調査研究が求められる。

3) 文献調査結果のまとめ
○ 先行研究において、1年度単位でストレスチェックの実施状況について調査を行ったものはある一方、1つの事業場におけるストレスチェックの実施状況等を、施行後5年間通して調査・分析したものはなかった。
○ 単にストレスチェックを実施するだけでなく、職場環境改善まで行うことで、労働者のストレス反応等に有意な改善が見られている。
○ 小規模事業場においては、ストレスチェックの実施から集団分析・職場環境改善への展開が進んでいない現状が明らかになった。

さらに、大切なデータです。

② ストレスチェック受検で感じた効果(労働者票 問 12(5))
ストレスチェックの受検で感じた効果としては、「自身のストレスを意識するようになった」と回答した人が 5 割で最も多かったが、「特になし」の回答も4割弱あった。「高ストレス状態に気づくことができた」は1割で選択されていた。
 労働者の年齢別や勤続年数別ではストレスチェックの受検で感じた効果に大きな差異はなかった。仕事の種類別にみると、サービスの仕事で「自身のストレスを意識するようになった」の割合が他の仕事より低かった。また、テレワークの実施状況別にみるとテレワークを実施している人の方が、全くしない人より「自身のストレスを意識するようになった」の割合が高かった。

⑭ 高ストレス者と判定された者の割合(事業場票 問 16)
 高ストレス者と判定された者の割合は「10%以上 20%未満」の事業場が最も多く、3割であった。「5%未満」、「5%以上 10%未満」が2割を超えていた。
 事業場規模別にみると、規模が大きい事業場の方が高ストレス者と判定される者の割合が高い事業場が多かった

⑱ 面接への申し出のない高ストレス者の対応の工夫点<主な自由回答>(事業場票 問 20)
 2年連続高ストレス者で面接申し出がない人を対象に保健師から体調確認メールを配信
 高ストレス者のうち、睡眠に問題のある人(よく眠れないことがしばしばある・ほとんどいつもあると答えた人)をピックアップし、保健師面談を実施
 申し出しない理由を尋ね、申し出しやすい環境整備に努めている
 高ストレス者全員に面接指導の希望確認書を渡し対象者全員の意思を確認している
 実施規程に「産業医面接前に健康サポート室(日常的にメンタル不調者対応をしている)が補足的な面談を行う」と明記し「自主的な面接希望がない場合であっても3回まで面接勧奨をする」ことも謳われている
 健康診断の事後指導や予防接種などの機会を利用し、相談ができるようにする 等

 

 

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テレワーク下のメンタルヘルス対策

2022年07月18日 | 情報

新型コロナウイルスの感染(第7波)が急拡大です。再度、テレワーク対策の見直しをしてください。

〇テレワークのデメリット(テレワーク経験者)7頁

「第4回 新型コロナ感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府・令和3.11.1)より

https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result4_covid.pdf

・社内での気軽な相談・報告が困難  36.1%
・画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス   30.3%
・取引先等とのやりとりが困難  25.6%
・テレビ通話の質の限界  23.0%
・セキュリティ面の不安  20.7%
・在宅では仕事に集中することが難しい住環境  16.3%
・仕事と生活の境界が曖昧になることによる働き過ぎ  15.7%
・大勢で一堂に会することができない   15.5%
・通信費の自己負担が発生   14.1%
・同居する家族への配慮が必要   12.0%

〇テレワークにおけるメンタルヘルス対策の手引(厚労省、2022年3月)

https://www.mhlw.go.jp/content/000917259.pdf

(2)テレワーク下における職場のストレス要因に対応した取組
①コミュニケーション活性化
コミュニケーション不足の問題に対して、次のような取組を通じて、コミュニケーション活性化を図っている事例があります。
・チャットやオンライン会議システム等の積極的な活用
・コミュニケーションをとる機会の定例化(上司・部下の定例会議等)
・業務以外の場での交流の機会の設置 等

②作業環境の整備
・自宅等でテレワークを行う場合、事務所衛生基準規則や労働安全衛生規則の衛生基準と同等の作業環境となるよう、
労働者に教育・助言等を行うこと等を通じて、作業環境を整えることが重要です。
・労働者の中には、自宅等の環境や家庭の状況により、自宅等での作業が困難な場合があります。
・サテライトオフィスの利用等、自宅以外での作業場所を用意することも有用です。
作業環境を整えるために必要な費用を企業が一部もしくは全部負担する等、労働者の経済的な負担の軽減を図っている事例があります。

③適切な労務管理
・予めテレワークの場合における労働時間の管理を明確化しておき、労働者が安心してテレワークを行うことができるようにするとともに、
労務管理や業務管理を的確に行うことができるようにすることが望まれます。
・テレワークの場合、普段よりもお互いの働き方が見えにくいため、ツールを有効に活用することで、
労働時間の見える化等の取組を進めたり、上司による労働時間管理や業務管理をサポートしたりしている企業があります。

④ツールの活用支援
・労働者の中には、ICTがうまく活用できず、テレワーク自体がストレスとなる場合もあります。
テレワーク導入の際、業務内容の見直しやテレワークを利用できる労働者の範囲をきちんと整理することで、
この問題に対処できることがあります。
・ツールの活用方法について研修を行うなどして、円滑なテレワークの実施をサポートしている事例があります。

⑤ハラスメント対策
・テレワーク下においても、ハラスメントの防止のための取組が必要であり、
労働者を対象とした周知啓発や相談窓口の設置・周知等の取組が求められます。
・テレワーク導入時に全労働者を対象として、テレワーク時におけるハラスメント対策の研修を行った事例があります。

⑥処遇や評価に対する不公平感への対応
・テレワークを実施できる労働者とそうでない労働者の処遇や評価について、不公平感が生じないよう、
予め、上司が部下に求める内容や水準等を具体的に示す、評価対象期間中にはその達成状況について共通の認識を
持つための機会を柔軟に設ける等の取組が望まれます。

(職場以外)
⑦家庭・家族の理解・協力の呼びかけ
・特に自宅でテレワークを実施する場合、家庭での理解・協力も重要となります。
・企業の中には、テレワークにおける働き方の特徴や注意点を労働者本人だけでなく家族にも伝え、
理解・協力を呼び掛けている事例があります。

⑧ワーク・ライフ・バランスの確保
・テレワークでは仕事やプライベートの区別がつきづらいといった声が聞かれます。
こうした問題について、上記③の取組のほか、定時にチームによるオンライン会議を設けるなどして、
仕事の区切りをつけやすくする等の工夫をしている事例があります。

⑨生活リズムや運動・食事等の生活習慣に関する情報発信・研修
・自宅等でのテレワークにより働き方が変わることで、運動不足等により生活習慣が乱れる場合があります。
こうした問題に対して、各種情報発信や研修を通じて、セルフケアが適切に行われるよう啓発している事例があります。
また、特定の時間に労働者参加型で運動を行う時間を設ける等の取組を行っている事例もあります。

 

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通底する考え方は同じ

2022年07月15日 | 情報

7月1日の当ブログ、『「やってます」ポーズだけでは許されない』のタイトルで掲載しましたが、まったく同じ考え方なのですね。
記事中に、「警部補の心身の健康を損なわないよう必要な措置を講じたとは認められない」とあります。
安全配慮義務の履行については、慎重の上にも慎重に対処してください。
一方で、わが国は、安全配慮義務を求めすぎという議論もありますが、当面は安全配慮義務の履行に注力してください。
そういえば、裁判(13兆円の損害賠償)記事をみると、通底する考え方は同じような気がします。


過重労働で警察官自殺、静岡県に1億350万円賠償命令 広島地裁福山支部
7/13(水) 中国新聞

過重な業務を強いられて精神疾患を発症し自殺したとして静岡県警の30代男性警部補の遺族4人が県に計1億1340万円の損害賠償を
求めた2件の訴訟の判決が13日、広島地裁福山支部であった。
曳野久男裁判長(森実将人裁判長代読)は過重な業務と自殺の因果関係を認め、計約1億350万円の賠償を言い渡した。

判決などによると、男性警部補は静岡県内の交番に交番長として勤務。連続窃盗事件の捜査や実習生の指導のため業務量が増え、
2012年3月までに精神疾患を発症したとみられ、同月に自殺した。その後、公務災害の認定を受けた。

曳野裁判長は、月140時間を超える時間外労働も余儀なくされたとして業務と自殺の因果関係を認めた。
さらに、県に対し「警部補の心身の健康を損なわないよう必要な措置を講じたとは認められない」と指摘。
安全配慮義務に違反したとし、自殺の責任を負うべきだとした。

判決を受け、広島県東部に住む遺族は「静岡県警の誠意を欠く対応は許すことはできず、怒りは消えない」などと話した。
静岡県警の水嶋春彦首席監察官は「判決内容を検討した上で適切に対処したい」などのコメントを出した。

(関連記事)
直近5か月の時間外労働が毎月110時間超、自殺した警官「精神疾患を発症」…遺族が県を提訴
2022/05/07 読売

熊本県警の巡査(当時24歳)が自殺したのは、県警が長時間勤務をさせて安全配慮義務を怠ったためとして、遺族が6日、県を相手取り、約7800万円の損害賠償を求めて熊本地裁に提訴した。
訴状によると、巡査は玉名署に勤務していた2017年9月に自殺。直近5か月間の時間外労働が毎月110時間を超え、精神疾患を発症したとしている。
母親(62)は県庁で記者会見し、「なぜこの子が死ななければならなかったのか。今も思い続けている」と語った。県警監察課は「訴状が届いておらず、コメントは差し控えたい」とした。

熊本 24歳刑事「過労自殺」 遺族、公務災害申請へ
2019/9/2 読売

熊本県警玉名署の刑事だった渡辺崇寿(たかとし)巡査=当時(24)=が2017年9月に自殺したのは長時間労働による過労が原因だったとして、遺族が近く、公務員の労災に当たる公務災害の認定を地方公務員災害補償基金熊本県支部に申請する。関係者によると、亡くなる直前2カ月間の時間外労働は当直勤務も含めると月平均120時間を超え、強い心理的負荷を受けていたという。
遺族などによると、渡辺巡査は12年4月に県警に採用され、17年4月から玉名署刑事課に配属された。亡くなるまでの5カ月間の時間外労働の月平均は約96時間。同じ部署の平均(約81時間)を上回り、最長だった。県警は当直勤務を労働時間としてみなさない運用をしており、当直勤務を含めた時間外労働は117~167時間に及ぶという。
「昨日は腐乱、今日は当直で縊死(いし)」「書類はたまる一方。キャパをオーバーしてますが言えません」「明日も見えない」「寝る分にはアルコールと眠剤があるんで大丈夫」-。携帯電話に残された無料通信アプリLINE(ライン)の記録には精神的に追い詰められた状況が残されており、17年9月に福岡県内で自殺しているのが見つかった。
遺族は熊本県警に職場環境の調査を要請。納得のいく説明が得られなかったため、熊本地裁玉名支部に証拠保全手続きを申し立てた。同支部は証拠保全を決定。県警からは、勤務時間簿など労働時間に関する書類や、署による原因調査の結果などが提出された。
署の調査では、渡辺巡査にトラブルはなく、自殺に至った要因の一つとして「刑事課員の常態化している長時間勤務」が挙げられた。県警は「職員が亡くなったことは誠に残念。ご冥福をお祈りするとともに、ご家族にお悔やみ申し上げる」とコメントした。

■残業5カ月平均130時間 「疲れたような顔怒られる…」
「毎日のばく然とした不安のせいです。死んで地獄にいくのも怖いですが、消えてしまうのも怖いです。しかし、明日がくることがもっと怖いのです」。熊本県警玉名署の渡辺崇寿巡査=当時(24)=は2017年9月、そう書き残して命を絶った。母美智代さん(59)=同県宇城市=は「正常に考えることができないほど働かされ、追い詰められていた。どうして誰も助けてくれなかったのか」と訴える。
美智代さんによると、警察官だった夫の影響もあり、渡辺巡査は中学生のころから刑事を志した。17年4月、念願の刑事課勤務になると「頑張るから」と連絡があった。命を絶ったのは、その5カ月後だった。
渡辺巡査の部屋は、足の踏み場もないほどごみが散乱していたという。「きれい好きな子だったのに…。寝る時間もろくになかったのだろう」。刑事課配属後の時間外労働の月平均は、当直勤務を含めると130時間超。若手だったことから多くの業務を抱え、孤立を深めていたとみられる。
携帯電話に残されたラインの記録には「人前や、別室に呼ばれて怒られる」「疲れたような顔をすると怒られる」など、上司から叱責(しっせき)されていたことがうかがえる内容もあった。
ただ、署幹部の説明は「原因は分からない」「責任ある仕事は任せていない」というものだったという。署の調査の結果には「休むことができない真面目な性格」「悩みを素直に吐露できない性質」「思い描いていた刑事生活と現実とのギャップ」などにより、「将来を悲観して自殺を図ったと思量される」とも書かれていた。
「息子は弱いから亡くなったんじゃない」と、美智代さんは訴える。「二度と同じような人を出さないため、責任をはっきりさせたい」

 

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