中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

「適応障害」だと言う部下

2022年12月22日 | 情報

テレワーク中にサボり? 「適応障害」だと言う部下をどう扱えば
第3回 問題のある部下は人事部と連携してケアする
2022.12.1 奥田 弘美 精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)・株式会社朗らかLabo代表取締役

今回の「お悩み」その1

本当に「適応障害」? 部下がリモートワーク中にサボりがち
リモートワークが中心の職場です。リモートワーク中に、レスポンスが悪く、仕事も遅い社員がいて困っています。
実を言うと、リモートワークが始まる以前から、オフィスに出社していたときもサボりがちで、パフォーマンスが低いタイプの社員でした。
管理者として何度か注意していましたが、さらに返信が来なくなりました。
面談をすると、本人は「仕事をしようとすると体調が悪くなる、適応障害だ」と言います。
こちらが注意している内容は棚に上げて、適応障害だなんて……。納得がいきません。どう話せばよいのでしょうか。
(Aさん 48歳 中間管理職)

 

問題のある部下の勤務態度がリモートワークでますます悪化

 もともと勤怠や勤務態度に問題があった社員が、リモートワークになって管理監督者の目が行き届かなくなったことで、さらに問題が悪化したというケースは、筆者が産業医を担当している企業でもチラホラ出ています。

例えば、リモートワークになったことで、上司が直接、勤務状況を監督できなくなったのをいいことに、就業中にこっそり私用のために仕事場を離れ、必要なときにすぐに連絡が取れなくなったり、出社しなくてもよいために夜更かしするようになって生活習慣が乱れ、就業中やオンライン会議中に頻繁に居眠りする……といったトラブル事例もありました。

Aさんの部下も、リモートワークでさらにパフォーマンスが低下し、業務に支障が出ているようですね。

しかもAさんの指導に対して、「適応障害」という言葉まで出してくるとは……。部下から、実際に医療機関に通院して医師の診断を受けたという報告はあったのでしょうか?

 

適応障害というのは、医師が診断して初めて認められるものです。

簡単に説明すると、「何らかの明確なストレス因によって発症し、心や体に不調が起きている状態」であり、よくある症状としては、気分の落ち込み、意欲低下、不眠、ひどい不安感、焦燥感などのメンタル症状のほか、腹痛、吐き気、めまい、動悸、頭痛、倦怠感などの身体症状が出現することもあります。

ちなみに、アメリカ精神医学会による精神疾患の診断基準で国際的に利用されている「DSM-5」では、適応障害は「きっかけとなるはっきりとしたストレス因子があり、そのストレスが始まって3カ月以内に発症」し、「原因となっていたストレス因子やその結果がなくなれば6カ月以内に回復する」とされています。(ストレス因子が解消されない場合には長期間続く場合もあります)。

また診断には、「そのストレス因子に不釣り合いなほどの症状・苦痛がある」、または「社会的、職業的、あるいは他の重要な領域での機能的な、著しい障害がある」ことや、「その症状は、他の精神疾患の基準を満たさないし、既存の精神疾患の増悪でもない。通常の死別による悲しみの表現ではない」などを精査・鑑別することが必要とされています。

この基準からも分かるように、適応障害の診断には専門的な医学知識と臨床経験が必要とされるため、心療内科医や精神科医といったメンタル疾患を専門とする医師が診断を行わなければなりません。まずはこの部下がきちんと医師の診断を受けているのかどうか、診断を受けているのならば現在の病状が就労に耐えられる状況なのかなどを確かめる必要があります。

 

中間管理職が抱え込まず、早急に人事に連絡する

しかしAさんが直接部下と面談して、こうした詳細な状況を確かめる必要はありません。すぐに会社の人事に連絡して対応をお願いしましょう。

「リモートワークで勤務態度が悪くコミュニケーションが取れなくなっている部下がいる。指導すると『適応障害』による体調不良を主張する」などと、詳細な状況説明とともに報告し、できれば早急に人事面談してもらうとよいと思います。

社員が「適応障害で体調が悪いため、十分に仕事ができない」と言っているわけですから、会社側は、「安全配慮義務」を履行するために人事面談を行い、必要に応じて産業医面談や保健師面談を設定する必要があります。

労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と安全配慮義務が会社に課せられています。

もしこの部下が実際に適応障害の診断を医療機関からきちんと受けているのであれば、会社側は産業医や保健師と協同しつつ、主治医からの診断書や意見書などを取得して病状の確認を行い、適切な就業制限(残業の免除や業務軽減)を一時的に行うなど、会社が定める就業規則に基づくルールに従った判断、処理をしていくことになると思います。

逆にこの部下が、そのような診断をきちんと受けておらず、自己診断で「適応障害だ」と言い張っている場合は、産業医や保健師に面談を依頼したり、きちんと診断や治療を受けるように心療内科や精神科などの医療機関の受診を促したりする必要が出てきます。

どうしても医療機関を受診しようとしない場合や、適応障害の原因が会社のせい(パワハラ、長時間労働など)だと主張してくるような場合には、弁護士等の専門家を交えた対応が必要になるかもしれません。

こうした一連の安全配慮義務に基づく面談や采配、労務調整は、専門的な労務知識や医療判断が必要ですので、会社の保健衛生を担当する人事スタッフや産業医、保健師の仕事です。

Aさん自身が抱え込まずに、早急に人事に報告して、この部下をしかるべき会社の健康管理ルートに乗せるようにしましょう。

 

オンライン会議のストレスから不眠に

今回の「お悩み」その2
オンライン会議で大きなストレスを感じる
オンライン会議でうまく話せなくて、会議がすごくストレスに感じます。
話すタイミングが重なって、人の話をさえぎってしまったり、逆に人に譲って自分が話すタイミングを逃し、その結果「何も話さない人」扱いされたり……。
いつも会議が終わったあと、悶々としてしまい、その日は眠れません。そんな日が続いて、ほとんど夜眠れなくなりました。 どうしたらいいでしょうか。(Bさん 38歳 会社員)

 

Bさんのように、オンライン会議ではうまく話せないという方は、実はかなりたくさんいらっしゃいます。かくいう筆者自身も、オンライン会議は対面の会議より非常に話しにくいと感じています。

まずは、そう感じているのはご自身だけではないことを知って、安心してください。

オンライン会議でうまく話せない原因を一言で言うと、全体の空気が読めないため、日本人が得意とする「阿吽(あうん)の呼吸」が使えないということに尽きると思います。

対面の会議では、周りの人の様子がつぶさに分かるので、何か質問や意見があった場合、挙手したり口を開いたりするタイミングがつかみやすいですし、司会進行役のファシリテーターも発言したそうにしている人や手を挙げかけた人を見逃さず、話を振りやすいですよね。

しかしオンラインでは、会議の参加人数が増えれば増えるほど、小さな顔がずらりと画面に並ぶだけで(ひどいときは顔出しすらしないことも)、その人たちが醸し出す雰囲気を細かく読むことができません。

司会進行役の人も、周りの人たちの素振りや様子が分からないので、実際に声を出して発言を要求されたり、オンライン会議のソフトウェアの機能で「挙手」してもらわなければ気づくことができません。

そんな中で勇気を出して発言してみたら、運悪く上司やクライアントとタイミングが重なってしまって、ヒヤッとすることも。そうなると当然、発言は相手に譲ることになってしまい、気がつけば会議時間が終了となり、言いたいことが言えずに終わってしまった……なんてことが、頻繁に起こりがちなのです。

他者を尊重する思いやりが強い方や、控えめな方ほど、オンライン会議での発言はしにくいと思います。

Bさんが、そのことで夜も眠れないほどストレスを感じているのであれば、まずは上司に相談されてみてはいかがでしょうか?

Bさんが発言したくても発言できない状況であることを上司が知れば、ファシリテーター役に、「オンライン会議では発言したい人がいるかどうか、丁寧に確かめるように」などと指導できると思います。

もしクライアントが主催する会議であっても、一緒に出席する同僚や、クライアント先に親しい担当者がいれば、「オンライン会議で発言が苦手なタイプなのでフォローをお願いします」と事前に伝えておくと、Bさんが発言するチャンスづくりに協力してくれるかもしれません。

オンライン会議が苦手な性格の人が、自分の努力だけで苦手を克服するのは、非常に困難です。まずは、オンライン会議が苦手な人がいる事実を一緒に働く人たちが知り、適切なサポート体制を構築することが大切ですので、ぜひ勇気を出して上司や同僚に相談してみてください。

 

眠れないのは「過緊張」の症状?

それと同時に気になるのが、Bさんがすでに不眠状態になっているかもしれないということです。もし週のうち2日以上、「寝つきに1時間以上かかる」「途中で何度も目覚めてしまう」「早朝に覚醒して眠れない」などの症状が出ていて、睡眠不足が慢性化してきているようであれば、ぜひ心療内科か精神科に相談してください。

不眠状態を放置しているとパフォーマンス低下につながるだけではなく、自律神経系が乱れて本格的な体調不良が出現することが多々あります。不眠が続いているなら、ぜひ医療のサポートを受けてください。

眠れない日が続いているのは、「過緊張状態」が起こっている可能性もありますので、前回の記事「部下に仕事をうまく振れず、『過緊張』から夜眠れなくなった」で紹介した「過緊張状態の緩め方」も、ぜひ参考にしてください。

※筆者が本文で取り上げた事例は、実際にあった例から個人情報保護のため設定や内容を一部変更したものです

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00283/110200159/

 

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