熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

第四の波・・・「ハイコンセプト」へのパラダイムシフト

2006年05月12日 | 政治・経済・社会
   今、大前研一の写真を帯にした本・ダニエル・ピンク著「ハイコンセプト」が書店の店頭に平済みされている。
   「新しいこと」を考え出す人の時代―富を約束する「6つの感性」の磨き方、と言うサブタイトルのついた本で、勿論大前研一訳で、大前研一の解説がついている。

   もう随分前だが、未来学者アルビン・トフラーが「第三の波」と言う本を書いて知識情報産業社会の到来を告げた。
   その本の前に、社会学者ダニエル・ベルが、脱工業化社会(Post Industorial Society)と言っていたのを具体的に説明したようなものだが、堺屋太一の知価社会と類似の概念であり、要するに、産業革命後の工業・産業社会が知識情報が主体となった新しい時代に突入したことを言っていたのである。

   しかし、ダニエル・ピンクは、情報や知識が先進国経済を推進する社会、即ち、「左脳主導思考」のドラッカーの言うナレッジワーカーが経済社会の主要プレイヤーであるこの第三の波の「情報の時代」は、もう、次の新しい「コンセプトの時代」に移行しつつある、即ち、現在の先進国の経済社会は第四の波の渦中にあると言うのである。
   コンセプトの時代とは、既成概念に捕われずに新しい視点から物事を捉えることの出来る、右脳主導思考を身につけたクリエーター(創造する人)や他人と共感できる人が中心となる時代である。当然今までと同様に左脳型の要素も重要だが、21世紀に入り、仕事上の成功や個人の生活上の満足感を得るためにも右脳主導思考が益々主導権を握ると言うのである。
   従って、左脳思考のMBAではなく、右脳思考のMFA(Master of Fine Arts)型人間の方が重要になると言うことである。
   こうなってくるとピータードラッカーの経営学の大半は時代遅れになってしまうことになる。

   今、小泉施政で問題になっているのは格差の拡大であるが、これからは、中低層所得層と高所得層と言う二つのピークを持つM型社会への移行が急速に進むと言われている。
   今後の企業活動としては、
1.よその国、特に途上国で出来る事は避ける
2.コンピューターやロボットに出来る事は避ける
3.反復性のあることは避ける ことが必須で
競争の質が大きく変革し、中国やインド等との競争のみならず、コンピューターやロボットとの競争も加わり、勝ち抜く為には、創造性があり、クリエイティブでイノベーション志向の差別化されたものを生み出さない限り生き抜く道はないのである。
   この競争に勝ち抜いた人間のみが高所得層を形成し、それ以外は、インドや中国、或いはロボットやコンピューター並の労働の対価しか得られない中低所得層に甘んじなければならないと言うことになる。

   従って、小泉経済政策の所為だけではなく、経済社会のパラダイムシフトに従って、格差社会が必然的に起こらざるを得ないと言うことであり、これを避け国民生活を安定させる為には、セイフティネットを含めて新しいビジョンを持った別の経済社会福祉政策が必須であると言うことを意味しているのである。

   大前研一は、情報化時代の花形職業である弁護士や会計士の仕事も、簡単なパッケジソフトを使用するだけで大部分が安く出来てしまうので、プロフェッショナルの地位も安泰ではないと言う。
   現に、弥生会計や勘定奉行のような市販の簡単なソフトを使用すれば、会計専門のいない中小企業でも、税理士や会計士などの先生にコンサルタン料を払わなくても十分にやって行けると言われている。
   サミュエルソンが、インターネットで講義をすれば、経済原論の輪読会程度の講義をしている大学の教授、即ち、オリジナリティがなくて他の学者の理論を受け売りしているだけの先生は完全に失職してしまうと言うのである。

   また、今を時めくIT関連のソフト技術者等日本の高給技術専門家も、新生銀行がインド人グループを活用して他行の10分の1のコストでITシステムを立ち上げたように、日本の企業がまともにグローバル市場からアウトソーシングすれば、早晩排除されるか発展途上国並の賃金に下落してしまう。
   社会制度やグローバル化の遅れ等摩擦現象が発生しているだけで、世界的に競争力のない差別化されないような製品やサービスしか提供できない企業は競争に負けて消えて行かざるを得ないと言うことをも意味している。

   格差社会を勝ち抜く為には、
1.「機能」だけでなく「デザイン」
2.「議論」よりは「物語」
3.「個別」よりは「全体の調和」
4.「論理」だけではなく「共感」
5.「まじめ」だけでなく「遊び心」
6.「モノ」より「生きがい」と言う視点に立って感性を研ぎ澄ますことが大切だとして、ピンクは「6つの感性」の磨き方を懇切丁寧に伝授してくれている。

   後半、ピンクは、感性の磨き方の中で、人間の幸せ、生きがい、宗教心など精神的な人間の喜びとその高揚の重要性について強調している。
   このことは、株主への利益至上主義が資本主義の本質と説くフリードマン達の説と真っ向から対立する考え方で、CSRなど企業の社会的責任や企業倫理の確立等人間の生きがいと使命に直結した経営を志向する現在の経営が正しい方向を向いていると言うことであろう。

   第三次産業革命のIT革命に翻弄されていたと思ったら、もう、又新しい第四次産業革命の波が押し寄せてきているのであろうか。
   とにかく、大前研一が推薦するこのダニエル・ピンクの新著は結構面白くて目から鱗が落ちることは間違いのない良書である。   

(追記)椿は、王冠。
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3 コメント

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機械工学革命 (トライボシステム展望)
2017-07-16 07:59:00
島根大学の客員教授である久保田邦親博士らが境界潤滑の原理をついに解明。名称は炭素結晶の競合モデル/CCSCモデル「通称、ナノダイヤモンド理論」は開発合金Xの高面圧摺動特性を説明できるだけでなく、その他の境界潤滑現象にかかわる広い説明が可能な本質的理論で、更なる機械の高性能化に展望が開かれたとする識者もある。幅広い分野に応用でき今後48Vハイブリッドエンジンのコンパクト化(ピストンピンなど)の開発指針となってゆくことも期待されている。
インパクトあるニュース (ものづくり発見隊)
2017-08-04 14:20:51
 GIC結晶で鋼と油の相互作用でコーティングとはトライボロジーのニューコンセプトですね。
グリーン下町ロケット (モノづくり)
2023-10-29 15:08:23
プロテリアル(旧日立金属)の高級特殊鋼SLD-MAGICの発明者の方の話ですね。鉄鋼業界では結構有名人の方で、いろいろとセミナーなんかの講師も務められている方です。

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