熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日本企業の「底力と課題・・・中谷巌学長

2007年08月23日 | 政治・経済・社会
   IT化、グローバリゼーション、環境問題と言った大きな潮流の中で、日本経済についてやや消極的な見方が支配的だが、日本の経済社会の本当の「底力」を理解するためには、もっと長期的で広い視野に立った文明論的なアプローチが必要である。
   マックス・ウエーバーが西洋資本主義発展の原動力としたプロテスタント思想にも縁遠い日本が、何故、世界的な経済大国にまで発展したのか、それは、「柳に雪折れなし」と言った日本人のしたたかさを育んだ10000年以上も続いた縄文時代からの多神多仏的な宗教感など日本が歩んできた文明のユニークさにある。
   そんな日本経済の「底力論」を、中谷巌多摩大学学長が、マイクロソフト・ビジネスフォーラム2007で語った。

   中谷学長が指摘した日本のユニーク性は、次のとおりである。
   一国一文明で12000年継続
   縄文時代10000年、自然との共生
   柔軟な宗教観
   「権威」と「権力」の分離、中空構造
   日本人の「当事者意識」の強さ

   確かに、同じ国土で一国の文化文明を中断することなく継続し続けた国は日本だけであり、これが、ハッチントン「文明の衝突」で、日本文明を8大文明のひとつとして独立して認めた由縁でもある。
   また、強烈な一神教や原理主義を排す森羅万象総てを神と仰ぐ八百万信仰や宗教に対する好い加減さと言うか柔軟性も、天照大神の頃からの伝統で良く分かる。
   権威と権力の分離については、天皇制に象徴され、同時に、「御輿に乗っておれば良い」とする中空構造の思想は、政治は勿論企業の組織にも支配的な考え方でもある。
   当事者意識の強さと現場力の重要さは、正に、日本の産業と経営の基礎で、これは、あの「戦場にかける橋」で日英の差が浮き彫りにされ、トヨタのジャスト・イン・タイムなどトヨタ・ウェイが如実に示している。

   ただ、疑問に感じるのは、縄文時代の影響を強調し過ぎていることで、先日このブログでも書いたが、歴博が、日本の弥生時代が通説より500年も早く始まっていたと検証していることを考慮に入れ、自然との共生が殆ど原始的な生活に近い弥生時代に断絶する筈がなく、むしろ、自然と調和しながら生活した弥生時代の方が、もっと、自然と人間との関わりが密ではなかったと私は思っている。
   別な所で、中谷学長は、日本文明における弥生時代の影響を強調した柳田国男説を排除しているが、日本の文明には、農耕民族的な色彩が濃厚であって、断じて狩猟民族のそれである筈がない。
   機械文明や、科学技術が優勢になっている現代と違って、人間生活の総てが自然優位の中で自然に規制されて生活していた古代においては、生産システムは別として、弥生時代によって日本人の自然との関わりが、縄文時代と殆ど変わる筈がない。
   
   中谷学長の主張の眼目は、その日本のユニークさを生かして、世界の進んだ文明や文化を見境なくダボハゼのように熱心に吸収して、「日本化」して滋養とし次ぎの飛躍を目指す日本人のしたたかさである。
   遣唐使や遣隋使を通じて吸収した中国文化を、仮名文化に日本化し、明治維新では、和魂洋才で近代化を図り、戦後には、アメリカの文化文明を熱狂的に取り入れて、世界に冠たる経済大国を築き上げるなど、それは、先進外来文化文明の「吸収」「模倣」「同化」による世界文明へのキャッチアップの連続であった。
   しかし、先進パワーに圧倒され流されることは一度もなく、すべからく総て「日本化」に成功し得たのは、連綿と続いてきた日本民族の文化度と民度の高い「基層文化」の存在と日本民族の自信であったと説く。

   面白かったのは、ハーバードで経済学を学びアメリカかぶれをしていて皆様にご迷惑をおかけしたと自白していたこと。
   恐らく、政府の諮問会議の委員をしていた頃、日本がバブル不況で呻吟し、アメリカがIT革命を始動してニューエコノミー論華かななりし頃で、成長を謳歌していた頃に、アメリカよりの諮問をしていたことであろうか。
   何れにしろ、中谷学長の論調は、ユニークな日本の文明論に立脚した視点からの日本の経済と経営の底力の再考察で、最近の日本的経営の再認識と復権に相通じる動きでもある。

   ところで、この講演は、マイクロソフト主催なので、ITについては、日本は遅れすぎているので、とにかく、今は熱中して最新技術を吸収すべきであると言っていたが、そんな時間と余裕があるのか、疑問なしとしない。
   それに、今回のITデジタル主導の第三次産業革命とグローバリゼーションの潮流は、これまでと全く質をことにしているので、これまでの日本の対応が機能するのかどうかも疑問である。
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 八月納涼大歌舞伎・・・裏表... | トップ | 世帯の所得格差、過去最大に »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

政治・経済・社会」カテゴリの最新記事