熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

PS:ヌリエル・ルビーニ「巨大な脅威の山の夢遊病者 Sleepwalking on Megathreat Mountain」

2023年01月24日 | 政治・経済・社会時事評論
   「メガスレット」の著者ヌリエル・ルビーニのPSの論文「Sleepwalking on Megathreat Mountain」が面白い。
   現在我々は、前例のない、異常な、将来の危機、不安定性、および紛争の前兆である予想外のレベルの不確実性に直面している。
   相互に関連した多数の「巨大な脅威」が私たちの未来を危険にさらしている。 として、我々は、それを認識せずに、巨大な脅威の山を彷徨う夢遊病者のようなものだと警告を発しているのである。
   アメリカの不動産バブルを察知して、2008年のグローバル金融危機をいち早く警告したにも拘らず、総スカンを食って「破滅博士」と揶揄されたルービニの卓見でるから、心して拝聴しよう。

   パンデミック前の頑固な低インフレは、過度に高いインフレに取って代わられた。総需要の弱さに起因する永続的な低成長である長期停滞は、マイナスの総供給ショックが、緩和的な金融および財政政策の影響と相まって、スタグフレーションに発展した。マイナスでさえあった異常な低金利が、現在は急速に上昇しており、借入コストを押し上げ、債務危機を連鎖させるリスクを生み出している。 ハイパーグローバリゼーション、自由貿易、オフショアリング、ジャスト イン タイムのサプライ チェーンの時代は、今や、脱グローバル化、保護主義、リショアリング またはフレンド ショアリング、安全な貿易、「ジャスト イン ケース」サプライチェーンの冗長性と言った新しい時代に移行してしまった。
   さらに、新たな地政学的脅威により、冷戦と熱戦の両方のリスクが高まり、世界経済の分断がさらに進んでいる。 気候変動の影響はより深刻になり、予想よりもはるかに速いペースで進んでいる。 パンデミックもまた、より頻繁になり、毒性が強くなり、対策に費用がかかる。 人工知能、機械学習、ロボティクス、および自動化の進歩は、より多くの不平等、恒久的な技術的失業、そして、型にはまらない戦争を撲滅するためのより致命的な武器を生み出す恐れがある。これらの問題はすべて、民主的資本主義に対する反発を助長し、右派と左派のポピュリスト、権威主義、軍国主義の過激派に力を与えている。
   これが、ルービニが説く「megathreats巨大な脅威」であって、先日紹介した世界経済フォーラムの“polycrisis” でもある。

   IMFのクリスタリーナ・ゲオルギエバは、「災害の合流点」について語り、世界経済は「おそらく第二次世界大戦以来最大の試練」に直面していると警告し、ローレンス H. サマーズは、2008 年の金融危機以来、最も深刻な経済的および財政的課題に直面していると主張している。 世界経済フォーラムは、ダヴォス会議で「断片化した世界での協力」について話し合う直前に最新のグローバルリスクレポートで、「ユニークで不確実で激動の10年が来る」と警告していた。

   現在の巨大脅威の時代は、第二次世界大戦後の相対的な平和、進歩、繁栄の 75 年間よりも、1914 年から 1945 年の悲劇的な 30 年間にはるかに似ている。 グローバリゼーションの最初の時代は、1914 年の世界大戦の勃発を防ぐのに十分ではなかったことを覚えておく価値がある。 1929 年の株式市場の暴落、 大恐慌、貿易戦争と通貨戦争、ハイパーインフレ、デフレ、 金融危機と大規模な債務不履行、 失業率は 20% を超え、 イタリアのファシズム、ドイツのナチズム、スペインと日本の軍国主義の台頭を支えたのは、これらの危機的状況であり、第二次世界大戦とホロコーストに至った。
   しかし、その 30 年間は恐ろしいものであったが、今日の巨大脅威はある意味でさらに不吉である。先の戦間期の世代は、気候変動、雇用に対する AI の脅威、または社会の高齢化に伴う暗黙の責任に対処する必要はなかったし、 さらに、世界大戦は大部分が従来型の紛争であったが、現在、大国間の紛争は、より型にはまらない予測不可能な方向に急速に拡大し、核の黙示録で終わる可能性さえもある。
   我々は、 1970 年代の最悪の事態 (繰り返されるマイナスの総供給ショック) だけではなく、2007 年から 2008 年の最悪の時期 (危険なほど高い債務比率) と 1930 年代の最悪の事態にも直面している。 新たな「地政学的不況」は、冷戦と熱戦の可能性を高めており、それらは簡単に重なり合って制御不能になる可能性がある。

   ダボスに集まった人は、巨大脅威の時代を認識しておらず、また、我々のあまりにも多くが、サミットで自己満足に浸り、眼下の現実世界で起こっている警告を無視している。私たちは、巨大な脅威の山中を、 太平天国を決め込んで、夢遊病者のように生活しているが、 山が揺れ始める前に、早く目を覚ました方が良い。と言うのである。

   ルービニ教授の新著「MEGATHREATS(メガスレット)世界経済を破滅させる10の巨大な脅威」を、まだ読んでいないので、何ともコメントをしかねるが、現実認識と問題提起については、全く異存はない。
   人類の科学や技術進歩、そして、イノベーションなどについては、かなり楽観的で、マルサス理論を越えた明るい近未来展望の本がかなり出てはいるが、地政学的、地経学的な将来展望については、ルービニ教授の見解のように暗部に焦点を置く著作が多い。原爆にしろ気候変動にしろ、まかり間違えれば、一瞬にして人類社会が吹っ飛んでしまう危険があるし、AIなどデジタル革命の推移によっては、人知を超えた事象の恐怖が生じ得る。
   まして、暗礁に乗り上げている自由市場経済の資本主義や、自由平等の民主主義の修復健全化など、分断化の一途を辿る今日の世界情勢では、望むべくもなく夢の夢であり、米中の和解さえも至難の業である。
   ルービニの新著MEGATHREATSに巨大脅威への対処法なり処方箋が書かれているのかも知れないが、Gゼロで多極化してしまって、機能不全に陥っている国連の安保理の現状や、トルコやハンガリーなどが横車を押しても軌道修正出来ないような国際情勢を考えれば、いくら、MEGATHREATS山を歩く夢遊病者であっても、行く先は見えているのではなかろうか。
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