熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

PS:ブラフマ・チェラニー「日本の軍事覚醒の限界 The Limits of Japan’s Military Awakening」

2023年01月19日 | 政治・経済・社会時事評論
   ニューデリーに本拠を置く政策研究センターの戦略研究教授であり、ベルリンのロバート・ボッシュ・アカデミーのフェローであるブラフマ・チェラニーが、プロジェクト・シンジケートに、興味深い論文「日本の軍事覚醒の限界 The Limits of Japan’s Military Awakening」を掲載した。
   岸田政権の軍事拡大政策は喜ばしいことではあるが、それだけでは、中国には対抗できない。
   日本の再軍備への動きは歓迎されるが、トマホークミサイルと極超音速兵器の採用だけでは、中国とのハイブリッド戦を止めることにはならない。 日本は、中国が、露骨な戦闘のリスクを回避しながら、領土を囲い込むなどして地域の現状を巧妙に変えようとするコソコソとしたサラミ戦術を挫折させる方法を見つけなければならない。と言うのである。

   今回は、チェラニー教授の論文の詳細説明は止めて、注目すべき論点に絞って紹介する。

   中国の基本的な国際戦略は、ウクライナに全面攻撃を仕掛けたロシアとは異なる。中国は、サラミ戦術を好み、ステルス、欺瞞、奇襲を組み合わせて他国の領土を切り裂くことである( China prefers salami tactics, slicing away other countries’ territories with a combination of stealth, deception, and surprise. )。 人民解放軍のいわゆる「三戦」は、紛争の心理的、世論、法的側面に焦点を当てており、この戦術で、1988 年のジョンソン サウス礁の制圧から南シナ海の占領まで、中国は南シナ海での戦略的勝利を確保することができた。( The PLA’s so-called “Three Warfares,” which focus on the psychological, public-opinion, and legal aspects of conflict, has enabled China to secure strategic victories in the South China Sea )と言う。
   このサラミ戦術とは、法律を武器とした戦争で、武力を使わずに、法的な既成事実を積み重ねて領土を拡大する手法
   中国は一般的に武力紛争を回避しているために、南シナ海の地政学的地図を一方的に書き換えて、ブータンの国境地帯を一度に 1 つずつかじり取って領土を拡大しているにもかかわらず、その行動に対する国際的なコストは最小限に抑えられている。また、 北京政府は西側からの重大な制裁を受けることなく、香港の自治を弱体化させることに成功した。

   さて、わが国日本の問題だが、
   習近平は、日本が管理する尖閣諸島に対する領有権の主張を強化するために、海上および航空による侵攻をエスカレートさせ、東シナ海で南シナ海戦略を再現しようとしており、 尖閣諸島沖の海域を取り締まることさえ試みた。中国が尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定したのも、その最たるケースであろう。
   中国の挑発に対する日本の反応は、これまでのところ控えめなままである。日本の防衛大臣は、中国を怒らせないように、尖閣諸島の空中視察を実施した.。
   しかし、日本の軍事増強、トマホークミサイルと極超音速兵器の採用だけでは、必ずしも中国のハイブリッド戦に対抗する有効な手段とはならない。勝つためには、日本は、露骨な戦闘のリスクを回避しながら、現状を変更して領土をかすめ取ろうとする中国のコソコソとした秘密の努力を挫折させる方法を見つけなければならない。
   すなわち、サラミ戦術で、世界を欺き既成事実を積み上げて、最小のコストで、領土を蚕食拡大して行く中国の陰謀を封殺しない限り、尖閣諸島も持って行かれれてしまうというのである。

   防衛の自立を目指す日本の動きは歓迎すべきだ。 防衛能力の向上は、日本をより自信を持って安全に保ち、インド太平洋をより安定させることにつながるが、国家安全保障戦略が示すように、日本が脅威を「破壊して打ち負かす」のであれば、日本の指導者は積極的に行動して中国に打ち勝たなければならない。 But if Japan is to “disrupt and defeat” threats, as the national-security strategy puts it, Japanese leaders must move proactively to beat China at its own game.
   これが、ブラフマ・チェラニー教授の結論である。
   攻撃は最大の防御である、一切ハードを使った軍事衝突ではなく、中国のサラミ戦術の上を行く戦術戦術を駆使して、確固たる毅然たる態度で、中国に対処せよと言うことであろうか。
   岸田政権はハードの強化に注力しているようだが、ドンパチでは、その悲劇はウクライナ戦争で自明、
   ナイ教授の主張するソフトパワーを上手くミックスしたスマートパワーを錬磨して、グローバル競争と世論で、中国を凌駕することである。

   世界に冠たる大人の国であった筈の中国が、最も唾棄すべき姑息な手法で世界を欺いて領土を拡大していると言う現実をどう見るのか、
   人口増がピークアウトして、習近平1強独裁で経済の凋落が囁かれはじめた斜陽化中国、
   インド人の識者の中国論なので、非常に興味深く読んだ。

   ならず者国家が、西側の日和見主義的な傍観姿勢と国際世論の弱体化によって、ドンドン自力を付けて台頭著しいのも、先端兵器の供与を渋って小出しに軍事援助をし続ける故にウクライナ戦争が益々泥沼化して行くのも、すべて、このサラミ戦術手法の消極姿勢の為せる技ではなかろうか。

   いずれにしても、軍事国家への道へ舵を切った岸田政権、これからどうするのか、
   憲法改正も視野に入りつつあるが、
   真価が問われている。
コメント
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