ロバート・M・トマスコの「拡大主義への決別」は、非常に面白い企業成長論の本だが、その中で、「制約を利点に変えて行く」と言う項目があって、興味を感じたので、少し、考えてみたい。
冒頭は、ウォルマートの創業者サム・ウォルトンの話で、自営の小さな店を拡大しようとした時、妻に出店するのなら小さな町だけにして欲しいと言われて、田舎町に限定した出店が、ケイマートやシアーズなど既存の大型小売業と競合することなく、安全な出店環境を気長に作って行き、目立たず潜伏しながら思うように拡大路線を突っ走って行けたと言うことである。
次は、IKEAで、客自身が、あの倉庫のような商品置き場から自分で商品を運び出して持ち帰ると言うシステムは、長い間倉庫の人員不足が続き、店で長い間お客を待たせてしまう状況に陥ったので、店の責任者が、倉庫を改造してお客が自由に出入りできるようにしたことから始まって、時間のないお客を待たせないで買い物ができると言う評判をとり売り上げが増大したと言う。
もう一つのIKEAの特徴は、梱包を平らにして持ち運び易いようにした組立式家具であるが、この方式も両方とも、お客を、アルビン・トフラーの言う生産消費者(PROSUMER)に変えてしまって成功したケースである。
グーグルで生産消費者を検索すると私のブログが出て来るので、説明はここでは省略するが、要するに、本来生産者や店がやっていた仕事をお客が自分自身でやってしまったり、肩代わりしてやらせて付加価値をつけることで、例えば、写真の場合など、今では、デジカメで写した写真を、自分自身でプリントまで仕上げてしまうことが多いのだが、自分自身が生産者であると同時に消費者でもあると言うことである。
もっと典型的なのは銀行のATMで、デジタル革命以前は、銀行での金銭出納などは、窓口で長い間待たされて、銀行員のお嬢さんの手を煩わさなければならなかったのだが、今は、極めて簡単で機械がすべてやってくれるし、場合によっては、ATMまで行かなくても、パソコンや携帯が銀行の支店代わりとなって送金など決済機能を代行してくれる。
ところが、不思議なのは、以前は行員がやってタダであったのに、お客に出納などの仕事をやらせて置きながら、銀行は、代金をお客に払わずに、逆に、手数料を取っているのである。
この銀行の手数料徴収と言う折角のイノベーションに胡坐をかいた姑息な手段が、インターネット銀行を勢い付かせて好業績を上げさせて、自分たちの市場を蚕食されている。
例えば、ネット・バンクのセブン銀行は、その収入源はATMである。したがって、通常の銀行のように預金者から資金を集めて企業に貸し付けて利ざやを稼ぐと言うビジネスモデルは成り立たないし、貸し倒れなどが出るとマイナスなのでむしろやらない方が良い。
また、口座保有者が少なければ少ない方が良く、他銀行の預金者が、セブン銀行のATMで頻繁にマネーを引き出してくれればくれるほど収入になる。それに、イトーヨーカドーに行けば、セブンのATMが最良の場所にあって、他の銀行が奥の角に追いやられているので、間違ってセブンのATMを使ってしまう客もいるほど、商売上手でもある。
無人のデジタルが稼ぐのであるから、コストはどんどん縮小して行くので、正に濡れ手に泡(?)であろうか。
他の銀行は、セブンは銀行ではないと言っているようだが、世紀のICTイノベーションをビジネス・モデルとして活用する知恵があっただけで、銀行業として許認可を受けたれっきとした銀行であって、黒字を計上しており、潰れかかった上に、長い間税金も払えなかったメガバンクよりはるかにましである。
しかし、インターネット銀行を駆逐するのは、至って簡単で、生産消費者であるお客に感謝して、銀行自らが、ATMなどの手数料を一切無料にすれば良いのである。
蛇足だが、IKEAは、お客を生産消費者にした分、商品のコストを下げてお客に報いたが、カスタマー・サティスファクションのカも分からない日本の銀行は、成果は取りっぱなし(ICTコストは、イニシャルは掛かるが、無限に低下する筈)で、一向に改善の余地はなく、このビジネス・モデルの差は大きい。
もう一つ追加言及すれば、シュンペーターが、「ブレーキは、より速く走るためにある。」と言っていたにも拘らず、銀行はそれが分からずに、ブレーキである筈のデジタル技術のATMを、より速く走るためではなく、止まるためのブレーキとして金儲けのために課金手段として活用してしまったのである。
話が横道にそれてしまったが、面白いのは、トマスコは、制約があってこそ創造性が生まれるとして、トヨタのハイブリッド車プリウスの例を挙げている。
真偽のほどは定かではないのだが、ドイツのディーゼル車は燃料効率が良く、トヨタはディーゼル車の技術でははるかに遅れをとっており、従来のエンジンを載せた車では競争できないので、代替品としてハイブリッド車の製造に着手したのだと言う。
いずれにしろ、制約があると、その状況の中で何か違った考え方をせざるを得なくなる。
それが、イノベーションを生み出し、企業の成長へのブレイクスルーとなると言うことである。
(追記)このブログの右上欄外の検索で、「イケヤ」で、「このブログ内で」で検索頂くと、ウォルマートとイケヤ両社とも、ケチケチ創業者の物語を書いたブログが出てくるので、参考にして頂けると有難い。
口絵写真は、プリンセス・ミチコ。晩秋の花は色が深い。
冒頭は、ウォルマートの創業者サム・ウォルトンの話で、自営の小さな店を拡大しようとした時、妻に出店するのなら小さな町だけにして欲しいと言われて、田舎町に限定した出店が、ケイマートやシアーズなど既存の大型小売業と競合することなく、安全な出店環境を気長に作って行き、目立たず潜伏しながら思うように拡大路線を突っ走って行けたと言うことである。
次は、IKEAで、客自身が、あの倉庫のような商品置き場から自分で商品を運び出して持ち帰ると言うシステムは、長い間倉庫の人員不足が続き、店で長い間お客を待たせてしまう状況に陥ったので、店の責任者が、倉庫を改造してお客が自由に出入りできるようにしたことから始まって、時間のないお客を待たせないで買い物ができると言う評判をとり売り上げが増大したと言う。
もう一つのIKEAの特徴は、梱包を平らにして持ち運び易いようにした組立式家具であるが、この方式も両方とも、お客を、アルビン・トフラーの言う生産消費者(PROSUMER)に変えてしまって成功したケースである。
グーグルで生産消費者を検索すると私のブログが出て来るので、説明はここでは省略するが、要するに、本来生産者や店がやっていた仕事をお客が自分自身でやってしまったり、肩代わりしてやらせて付加価値をつけることで、例えば、写真の場合など、今では、デジカメで写した写真を、自分自身でプリントまで仕上げてしまうことが多いのだが、自分自身が生産者であると同時に消費者でもあると言うことである。
もっと典型的なのは銀行のATMで、デジタル革命以前は、銀行での金銭出納などは、窓口で長い間待たされて、銀行員のお嬢さんの手を煩わさなければならなかったのだが、今は、極めて簡単で機械がすべてやってくれるし、場合によっては、ATMまで行かなくても、パソコンや携帯が銀行の支店代わりとなって送金など決済機能を代行してくれる。
ところが、不思議なのは、以前は行員がやってタダであったのに、お客に出納などの仕事をやらせて置きながら、銀行は、代金をお客に払わずに、逆に、手数料を取っているのである。
この銀行の手数料徴収と言う折角のイノベーションに胡坐をかいた姑息な手段が、インターネット銀行を勢い付かせて好業績を上げさせて、自分たちの市場を蚕食されている。
例えば、ネット・バンクのセブン銀行は、その収入源はATMである。したがって、通常の銀行のように預金者から資金を集めて企業に貸し付けて利ざやを稼ぐと言うビジネスモデルは成り立たないし、貸し倒れなどが出るとマイナスなのでむしろやらない方が良い。
また、口座保有者が少なければ少ない方が良く、他銀行の預金者が、セブン銀行のATMで頻繁にマネーを引き出してくれればくれるほど収入になる。それに、イトーヨーカドーに行けば、セブンのATMが最良の場所にあって、他の銀行が奥の角に追いやられているので、間違ってセブンのATMを使ってしまう客もいるほど、商売上手でもある。
無人のデジタルが稼ぐのであるから、コストはどんどん縮小して行くので、正に濡れ手に泡(?)であろうか。
他の銀行は、セブンは銀行ではないと言っているようだが、世紀のICTイノベーションをビジネス・モデルとして活用する知恵があっただけで、銀行業として許認可を受けたれっきとした銀行であって、黒字を計上しており、潰れかかった上に、長い間税金も払えなかったメガバンクよりはるかにましである。
しかし、インターネット銀行を駆逐するのは、至って簡単で、生産消費者であるお客に感謝して、銀行自らが、ATMなどの手数料を一切無料にすれば良いのである。
蛇足だが、IKEAは、お客を生産消費者にした分、商品のコストを下げてお客に報いたが、カスタマー・サティスファクションのカも分からない日本の銀行は、成果は取りっぱなし(ICTコストは、イニシャルは掛かるが、無限に低下する筈)で、一向に改善の余地はなく、このビジネス・モデルの差は大きい。
もう一つ追加言及すれば、シュンペーターが、「ブレーキは、より速く走るためにある。」と言っていたにも拘らず、銀行はそれが分からずに、ブレーキである筈のデジタル技術のATMを、より速く走るためではなく、止まるためのブレーキとして金儲けのために課金手段として活用してしまったのである。
話が横道にそれてしまったが、面白いのは、トマスコは、制約があってこそ創造性が生まれるとして、トヨタのハイブリッド車プリウスの例を挙げている。
真偽のほどは定かではないのだが、ドイツのディーゼル車は燃料効率が良く、トヨタはディーゼル車の技術でははるかに遅れをとっており、従来のエンジンを載せた車では競争できないので、代替品としてハイブリッド車の製造に着手したのだと言う。
いずれにしろ、制約があると、その状況の中で何か違った考え方をせざるを得なくなる。
それが、イノベーションを生み出し、企業の成長へのブレイクスルーとなると言うことである。
(追記)このブログの右上欄外の検索で、「イケヤ」で、「このブログ内で」で検索頂くと、ウォルマートとイケヤ両社とも、ケチケチ創業者の物語を書いたブログが出てくるので、参考にして頂けると有難い。
口絵写真は、プリンセス・ミチコ。晩秋の花は色が深い。