goo blog サービス終了のお知らせ 

熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

トーマス・フリードマン著「グリーン革命」(1)~原理主義化するイスラム

2010年12月02日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   遅ればせながら、積読のフリードマンの「グリーン革命」を読み始めた。
   グリーン革命については、色々な切り口から議論されているのだが、大方は、地球温暖化など宇宙船地球号の危機と言う意識から入ることが多いように思うが、フリードマンは、デイビッド・ロスコフの言を引いて、アメリカを最もグリーンな国にするのは、無私無欲の慈善行為でも、単純素朴な道義ばかりを追求することではなく、今やこれが国家安全保障と経済的利害の中心だとして、グリーンとは、電力を生み出す単なる方式ではなく、国力を生み出す新方式であり、未来を明るくする方法なのだと言う。

   先の著書「フラット化する世界」で論じた、テクノロジー革命が世界中の経済の競走場をフラットにすることによって生まれたグローバリゼーションの進展が、経済、政治、軍事、社会などの問題に大きな衝撃を与えたのだが、更に、温暖化と人口増加が我々の生活に根本的な影響を及ぼしていることも無視できなくなった。
   この二つを分析に取り入れると、温暖化、フラット化、人口過密化が重なっていることが、今日の世界を形作るうえで、最も重要な力学となっているとして、この結果、今現在、急速に深刻化しているとして、5つの問題を取り上げて詳細に検討し、過去から借りた時間や財産を食いつぶしてきた人類の贖罪を如何に清算して明るい未来を生み出すべきなのかを論じている。
   その5つの問題とは、★供給が細りつつあるエネルギーや天然資源への需要の増大、★産油国と石油独裁者への莫大な富の集中、★破壊的な天候異変、★電力を持つものと持たざるものを二分して起きている貧困、★動植物が記録的速さで絶滅し、生物多様性の破壊が急速に進んでいること、である。

   このフリードマンが指摘する5つの問題点の中で、フリードマンらしいと言うか、私が一番興味を持ったのは、「産油国と石油独裁者への莫大な富の集中」であったので、まず、第4章の「独裁者を満タンにしつづけるのか?――石油政治」について、考えてみたい。

   フリードマンの意識の中には、膨大な資金を投入して産油国から買い取った石油を湯水のように使って垂れ流してきたアメリカ人の石油中毒が、気候の仕組みだけではなく、4つの基本的な面で、国際社会の仕組みを根本的に変えてしまったと言う強い罪の意識がある。
   まず、エネルギー購入を通じて、イスラム世界の、異文化に不寛容で、現代的ではない、反欧米、反女権、反多元論的な性向を強めたこと、
   第二に、ロシア、中南米で、折角ベルリンの壁崩壊と共産主義の終焉で進み始めていた民主主義の流れを逆行させる資金源を提供したこと、
   第三に、グローバルな石油の奪い合いが煽られて、アメリカ政府がサウジアラビアの民主化弾圧への口出しを避けたり、中国のスーダンの残虐な独裁政権との外交促進など、国際政治に弊害が出て来ていること、
   第四に、テロとの戦いの敵と味方の両方に資金を与えているのだが、ぼろ儲けした湾岸の保守的なイスラム政府がばら撒いた資金が、アルカイダ、ハマス、ヒズボラ、イスラム聖戦機構などのテロ組織に間接的に流れている。

   アメリカの石油中毒が、地球温暖化を促進し、石油独裁者の勢いを強め、綺麗な空気を汚し、民主主義の勢いを弱め、過激なテロリストを富ませる。と言う訳であるから、ブッシュ政権の悪行の数々への反発は当然厳しい。
   石油利権塗れのブッシュは、京都議定書を完全に無視して地球温暖化を推し進めて地球環境を益々悪化させたのみならず、石油価格を高騰させるような政策ばかり進めて、世界中の石油独裁者にぼろ儲けさせて、更に、テロリストたちへの資金源を拡大させておきながら、逆に、テロ撲滅戦争を国是として最重要戦略として推し進めていたのであるから、分裂症の極みと言うべきか、信じられないようなことが行われて来たのである。

   しかし、この章では、ロシアや南米にも触れているが、殆どは、現在のイスラム教の問題点を掘り下げて、サウジアラビアの宗教政策の現状やアルカイダなどのテロリストとのリンクなどを究明していて、イスラム問題が那辺にあるのかを語っていて、非常に興味深い。
   サウジアラビアとアルカイダなどテロ組織とのリンクは、これまでにもメディアで報道されていたが、実際的にも、サウジアラビアのサウド王家とアルカイダの教義との間には大きな違いがなく、信奉しているのは、サラフィー主義で、初期イスラムの原則や精神の回復を目指したムハンマドの時代に実践されていた禁欲的な砂漠のイスラム教だと言う。
   基盤が現代以前のままで発展を拒むため、この現代的なものを受け入れない原理主義的な教義が、イスラム過激派に利用されて、17世紀のイスラム支配地域を回復することを目標とする暴力的な聖戦を、思想面で正当化し、アルカイダなどのイスラム過激派を勢い付かせている。

   このサウド王家も、最近では、イスラム過激派から距離を置き始めて、それに対抗する方策を講じているようだが、原理主義的な教義への固守はそのままで、宗教色の強い派閥に力を与え、ムッタウ(宗教警察)が圧倒的な権力を握ったために、国内で最低限度の宗教の自由をなくすだけでは満足せず、金に飽かせて、イスラム世界にそれを広め始めたと言う。
   イスラム文化の黄金時代には傍流であった砂漠のイスラムである石油によって富を得たサウジアラビアが、進歩的な都会のイスラムを攻撃して、衣服や素肌で個性を主張し、異性と戯れたり誘ったりする楽しみを消し去って、イスラム文化文明の華や精華を圧殺していると言うのである。

   イタリア・ルネサンスを誘発した大きな力は、ギリシャ文化文明を継承し、更に、高度に花開いたイスラム文化文明の精華をイタリアに伝播したイスラムの学者や芸術家や技術者であり、このイスラムの文化的芸術的な貢献がなければ、現在の西欧文化文明が、これほど豊かになったか疑問であるほど、イスラムの世界歴史に与えた影響は大きい。
   したがって、私は、アルカイダなどのテロリストの暗躍よりも、この都会の現代的ではるかにリベラルで進歩的なイスラムの公序良俗と言うか文化生活や経済社会の営みが圧殺される方が恐ろしいと思っている。

   余談だが、もう随分前になるが、私は何度かサウジアラビアを訪問したが、当時、パートナーの自宅には、立派なバーカウンターがあって色々な酒は飲み放題であったし、居る筈のないアル中もいたし、家の中では、婦人たちは胸の空いた艶やかなフランスモードの洋服を着て私たちとの会話に加わっていた。
   それに、一寸文化が違うかも知れないが、トルコのイスタンブールでは、凄いベリーダンスを鑑賞した。
   とにかく、私には、あのイスラムの細密画の魅力もそうだが、イスラムは、エロチックなアラビアンナイトの世界でもあり、文化文明の素晴らしい宝庫でもあると言う印象が強い。
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする