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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

食料高騰下で逆を行く農業大国ブラジル、アルゼンチン・・・NYTimes

2008年08月28日 | 生活随想・趣味
   ニューヨーク・タイムズ電子版に、" As Food Prices Soar, Brazil and Argentina React in Opposite Ways "と言う興味深い記事が掲載されていた。
   ヘッドライトを灯したトラクターが夜間に刈り取りをしている写真(口絵)を載せての記事だが、国際的に穀物など食料価格が高騰し、世界中の農民達が、棚ボタとも言うべき異常なほど高い利益を享受しているが、これに対して、南米の農業大国ブラジルとアルゼンチンは、全く、それぞれ反対の方向で対処していると言うのである。

   ブラジル政府は、世界中の穀物価格の高騰の時期を期して、農家に、間接的補助金とも言うべき手段、すなわち、低金利で償還期間を延長するなど好条件で多額の融資を行い、農機等の購入を促進するなど、積極的に、農地の拡大と生産性のアップを図らせ、国内経済の向上を目論んでいる。

   一方、ライバルであるアルゼンチンは、農業の棚ボタ利益を、国内経済でシェアしようと考えている。
   農業関係者は、政府が、農業の利益を、他の経済部門への補助金として使っていると怒っている。
   世界中に吹き荒れているインフレを心配したアルゼンチン政府は、食料の国際価格の高騰に応じて、穀物や大豆の輸出関税率を上げて、農産物の輸出を抑制して、農民達に国内市場に産品を放出させて、国内価格を下げてインフレを抑えようとしているのである。
   アルゼンチンの最も重要な輸出品である大豆の輸出関税を50%に上げたので、農民達は怒って、ハイウエイでデモを行ったり激しく抵抗したので、長く厳しい論争の末35%に固定された。
   しかし、法律や規則など朝令暮改の国だから、農業関係者は信用しておらず、将来の見通しが立たないと嘆いている。
   食料価格の高騰は、農民にとっては、利益確保の為の千載一遇のチャンスであり、それを政府が押さえているのだから、農民の反発は強くて騒乱が跡を絶たず、もっと簡素で利益の確保できる輸出政策を実施すべく激しく、政府に、政策変更を迫っていると言う。

   ところで、ブラジルの場合だが、ライバルのアルゼンチンより多くの利点を備えている。
   現在開発中の農地が、隣国の2倍以上の1億7千3百エーカーもあり、トウモロコシと大豆に特化したアルゼンチンと比べて、世界的な牛肉、大豆、オレンジ、チキン、砂糖、コーヒーなどの輸出国であり農産物の幅も広い。
   ブラジル政府は、中国やインドなど新興国の台頭などによる世界的な食料需要の拡大を見越して、ブラジルの農産物供給力のアップが急務と考えており、当面の目的は、現在使用可能な農地を最大限に活用し、かつ、生産性を向上させて増産することしている。
   次には、農耕可能な2億2千万エーカーの未開の土地をもターゲットにしており、農民達に、好条件で融資を行い農機具など設備を充実させて生産力を向上させることが国是となっているのである。

   同じ南米の農業大国で、国際穀物価格の高騰で濡れ手に粟の両国ながら、国内経済が抱えている問題を如実に反映している訳だが、アルゼンチンの農民にしては、政府が競争相手のブラジルとは全く反対のことを強いて、自分達のビジネス・チャンスをぶち壊していると言う思いがあるから、憤懣やるかたない。
   しかし、私の僅かな経験でも、アルゼンチンのインフレは異常で、あまりのインフレの激しさに印刷が間に合わず、色が付いていない刷り残しのあるお札を手にして偽札と間違えたことがあるので、アルゼンチン人のインフレアレルギーの強さは良く分かる。
   この価格高騰の千載一遇のチャンスを逆手にとって、高騰利益はそれなりに確保して、世界的なインフレをシャットアウトしながら、国内経済を立て直すと言う戦略もそれ程悪い手ではないと思う。

   元々、アルゼンチンは豊かな国で、小麦が黄金色に輝く広大な農場が広がり、放牧した牛がほっておいてもいつの間にかどんどん増えて行く素晴らしいパンパスがあって、その生産余剰を輸出するだけで潤うと言われてきた。
   南米のパリと言われるブエノスアイレスなど、実にシックで、トスカニーニがデビューしたテアトロ・コロンでのオペラ鑑賞など堪らないくらい魅力的である。

   いずれにしろ、この記事でも指摘しているのだが、短期的には、夫々の国の対応に差が出て明暗を分けるかも知れないが、アルゼンチンの農業国としてのポテンシャルは非常に高く、今後更に増産に努め、世界的な農産物輸出国として活躍することは間違いないと思う。

   ところで、注目したいのは、ブラジル政府のグローバル経済の将来を見越した素晴らしい農業政策で、濡れ手に粟の利益を梃子に、更に、政府がドラスチックな農業融資を行って、ブラジル農業の機械化合理化を進めて、生産の拡大と生産性のアップを目論んでいることである。
   昔4年間サンパウロに居て、ラテン気質のブラジルを知っているので、今昔の感に堪えないが、このようにダイナミックで長期的なグローバル戦略を打てるように変身したブラジルに目を見張る思いである。
   このブログで、何度か、日本は、BRIC’sの中でも、ブラジルが最も日本にとっては有望で大切なパートナーである旨説いてきたが、間違いなさそうである。
コメント
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