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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

「ミス・ポター」のヒル・トップ

2008年08月05日 | 生活随想・趣味
   昨年、見過ごした映画「ミス・ポター」をWOWWOWで放映していたので見た。
   「ピーター・ラビット」の絵本で、世界中からこよなく愛されているビアトリクス・ポターの30代後半(映画では30代前半)の生活を描いた映画なので、1900年前後のイギリスを舞台にしていて、丁度背景はアガサクリスティのポアロやミス・マーブルが飛び出てくるような古風でシックな英国が描写されていて中々良い雰囲気である。
   それに、ポターが晩年に住んだ湖水地方のウインダミア湖畔の美しいイングランドの田園風景が随所に展開されて、ミス・ポターの悲恋に華を添えていて爽やかな映画となっている。

   湖水地方の美しさを初めて知ったのは、もう20年以上も前の話で、ニューキャッスルのエンジニアリング会社で紅葉の美しい庭を眺めていたら、これよりはるかに美しく黄金に輝く天国のような秋の景色を、山の向こうの湖水地方で楽しめるのだと教えられたのである。
   一緒に行こうと誘われたが、結局秋には行けず、実際に訪れたのは、それより、ずっと後になってから、夏期休暇でスコットランドを一周した帰り道に立ち寄ったのだが、緑が萌えていで、空も湖も鮮やかなブルーに輝き、それに、花が咲き乱れていて実に美しかった。

   湖水地方では3泊くらいしか出来なかったが、ソーリー村では、ポターが牧羊農家を買い取って住んでいて、当時そのままに保存されているヒル・トップの住居も訪れたし、周りの農場など田園地帯を心置きなく散策した。
   ヒル・トップの家の他には観光客など人影は殆どなく、ポターが、開発によって美しい田園地帯が破壊されるのを嫌って必死になって買い集めて保存したお陰で、羊が黙々と草を食む、昔そのままの、映画と同じのぞかな牧場と田園地帯が広がっていて、気持良かった。
   ソーリー村の道路沿いの鄙びた小さなレストランに入って、ケーキと紅茶を取り小休止したのだが、全く、俗化せずに昔ながらの古風な雰囲気を残した佇まいが、文化を感じさせてくれていて嬉しかった。

   ロンドンで使っていた小型のベンツ230で旅をしていたので、比較的高低差の少ない湖水地方だが、結構起伏が激しくてアップダウンしていたのだけれど、野山や田園地帯を自由に移動出来たので、短時間に湖水地方のあっちこっちを見ることが出来たのは幸いであった。
   ケズウィックやウンダミアと言った中心となる街は、それなりに小さな田舎の都市機能が備わっていて観光地と言う雰囲気があるが、あの当時の湖水地方国立公園は、本当に、自然に囲まれた美しい自然公園であった。
   尤も、イングランドは、原生林など原始の自然景観などは全く破壊され尽くされてしまって、自然らしく人工化されてしまった自然だが、それはそれとして、丁度、イングリッシュガーデンと同じような擬似的自然の美しさでそれなりに価値はある。

   ところで、「ミス・ポター」の映画は、ポターの「ピーター・ラビット」などの絵本を出版したウォーン社の3人兄弟の末息子のノーマンとの恋物語となっているのだが、絶えず監視役の老女が付き添っているハイ・ソサエティのビアトリクスと、商人と特に母親が蔑むノーマンとの恋の行方が面白い。
   ポター家で催されるクリスマス・パーティに、商人は嫌だ格が違うと反対する母を理解のある父親が説得して、ノーマン姉妹を招待することになり、ここで、ノーマンがビアトリクスに求婚するのだが、この設定が面白い。
   ノーマンは、付き添いの老女に、コーヒーにブランディを入れたと言って差し出し、これを気持ちよく飲んで居眠りをし始めた隙に、ノーマンがダンスの踊り方を歌って教えると言ってベアトリクスの手を取り、恋を告白する。これも、母親に中断されるのだが、良縁を断り続けていたビアトリクスの胸に火を点けてしまった。
   このソング、ラストでも歌われるが、When You Taught Me How To Danceは非常に感動的で美しい。

   ところが、実際には、私の手元にあるジュディ・テイラーの「ビアトリクス・ポター 描き、語り、田園をいつくしんだ人」と言う沢山の絵と写真をふんだんに使って描かれた素晴らしい本の説明では、二人だけになったことは一度もなく、ノーマンは手紙で求婚したと言う。
   また、ポター一家が湖水地方へ3ヶ月の休暇に出かけるので、駅にノーマンが見送りに来て初めてキスをして、その後ノーマンが急死するので、これが、永久の別れとなるのだが、これは、やはりドラマの設定で、実際には、休暇中にノーマンの死を知ることとなる。
   また、映画では、手紙が来なくなり、両親が心配したとおり心変わりだと責めるのだが、姉の手紙でノーマンの病気を知り、駆けつけるがその前日になくなったことを知ると言う悲しくもドラマチックな設定になっている。

   ノーマンの死が引き金を引いたのであろう、ロンドンを離れて、自作の絵本の動物達が友達になってくれた湖水地方に移り、両親のいるロンドンとを行き来しながら、ソーリー村のヒル・トップ農場を買い取って絵本を描き続けたと言う。
   この口絵写真のように、丘の上の牧場からウインダミア湖を見下ろしながら絵を描き続けたのであろう。

   封建的なビクトリア時代の風潮が残っていて、殆ど家庭に縛り付けられて自由が利かないビアトリクスが、絵本作家として目覚めて自活して行く姿を、しとやかで温厚なレニー・ゼルウィガーが実に感動的に演じていて、ビアトリクスと、ユアン・マクレガーのノーマンとの爽やかで温かい大人の恋が実に美しい、何時までも余韻を引く映画である。   

   
   
   



   
   
コメント
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