上野の森の東京文化会館に、一昨夜、素晴らしいウィーンの息吹が満ち溢れ、シュトラウスの軽快なサウンドが会場を沸かせた。
小澤征爾指揮による喜歌劇「こうもり」が上演されたのである。
奇しくも、私が一番最初に「こうもり」を観たのは、1974年の大晦日、ウィーン国立歌劇場であったが、やはり、特別な演奏会で、観客は全員タキシードとイブニング・ドレスの正装で、いやが上にも、華やかな雰囲気が漲っていた。
休憩時間には、着飾った男女が一列に並んでロビーを散策するように静に歩くのだが、中々優雅で、何度も、このオペラハウスで歌劇を見ているが、こんな光景は後にも先にもこの日だけであった。
終演後、カイザリン・エリザベート・ホテルに帰ってゆっくりしていると、年が明けたのであろう、町中が、新年を祝う爆竹の音で革命騒ぎのようであった。
オルロフスキー公爵を歌ったビルギッテ・ファスベンダーを幽かに覚えている程度で殆ど忘れてしまったが、良い思いでであった。
とにかく、ドタバタ騒ぎの実に他愛無い愉快なオペラだが、総てこれもシャンパンのなせる業と笑い飛ばして新年を迎える、年越しには格好のオペラである。
このオペラは、前の舞踏会の帰途酒に酔ってこうもり姿のままほって置かれて笑いものにされたファルケ博士が、ロシアの貴族オルロフスキー公の舞踏会を利用して、その張本人で友人のアイゼンシュタインに、復讐しようと試みて繰り広げられるドタバタ喜劇で、
マスクをつけて現れた妻ロザリンデを間違って口説き落として散々やり込められると言う話が罠だが、アイゼンシュタインが詐欺で収監さるのに偶々留守に現れたロザリンデの恋人が誤って逮捕されたり、伯母が病気だと偽って舞踏会に出てきた小間使いアデーレに出くわして驚くやら、とにかく、刑務所長フランクなどを巻き込んでの喜劇が、ヨハン・シュトラウスのウィーン風のワルツの甘美な調べに乗って展開されるのであるから、小澤征爾も、最初から最後まで軽快にスイングしながらの指揮ぶりで、実に楽しい。
この舞台では、やはり、魅力的なのはロザリンデで、この日は、ハンガリー出身のアンドレア・ロスト。
良く覚えているのは、もう15年以上も前の話だが、ウィーン国立歌劇場で、ヴェルディの「ファルスタッフ」を観たのだが、この時ナンネッタを歌った実に綺麗で素晴らしいソプラノが彼女。(この時、クイックリーを演じたのが、先ほどの大メゾ・ソプラノのファスベンダー)
ブダペストでリスト音楽院の学生のままジュリエッタでデビューし、その後すぐに、ウィーンでツェルリーナでデビューしたその直後の舞台だったのだが、とにかく、美人で声が飛びきりよくて天がニ物を与えた典型だと思ったのだが、その彼女が、今度は、歳相応に女の魅力を更に増して、ロザリンデで登場したのだから、私にとっては願ったり叶ったりの舞台であった。
少し小柄なので、若くて実に溌剌として美しい小間使いアデーレのアンナ・クリスティと並ぶと一寸威厳に欠けるが、恋人で声楽教師のアルフレートとの絡みや刑務所長フランクを言い包めて彼を夫に偽装する掛け合いなど実にコケティッシュかつセクシーで、温かみの籠もったソプラノが実に魅力的であり、第二幕の舞踏会の場では、小澤に「お願いします」と言って歌いだした「チャールダッシュ」の情熱的な素晴らしさは言うまでもない。
アイゼンシュタインも重要な役柄で、威厳がありながらかなりミーハーでドンファン、カワイ子ちゃんが集まる舞踏会だからと誘われると刑務所に入るとアデーレを騙して正装していそいそと出かけ、舞踏会では魅力的な婦人だと見るとすぐにモーションをかける。
そんなアイゼンシュタインを謹厳実直そうな長身のデンマークのバリトン・ボー・スコウフスが器用に演じた。
ところが、オペラの勉強はしていたが医者になろうと勉強もしていた彼が、教師の推薦でウィーンでドン・ジョバンニのタイトルロールを歌う羽目になり、舞台に立った経験さえなかったのに、ウィーンの批評は最高のドン・ジョバンニだと絶賛。その後、引く手あまたの人気バリトンになったと言う。
ロストとの相性も良く楽しませてくれた。
光り輝いていたのは、アデーレのアンナ・クリスティ。シンシナチ育ちのリリク・コロラツーラで名声を博したアメリカのソプラノだが、2000年にニューヨーク・シティ・オペラで、そして、2004~5シーズンにMETで、夫々パパゲーナでデビューし、色々な新人賞を取っている今売り出し中の歌手で、とにかく、はちきれるようなパンチの利いた歌声が実に爽やかで、それに、チャーミングで芝居も多少オーバー気味だが上手い。
異彩を放っていたのが、オルロフスキー公爵のメゾ・ソプラノのキュサリン・ゴールドナーで、一寸小柄ながら髭が似合っていて達者な演技で楽しませてくれた。
私がロンドンのロイヤル・オペラで観たのは、カウンターテナーのヨッヘン・コワロフスキーだったが、やはり、男性だと迫力が有り過ぎて、この場合には宝塚スタイルの方が面白い。
彼女のホームページを開くと「薔薇の騎士」のオクタヴィアンの歌声が聞えてくる。METではレヴァイン指揮でケルビーノを歌っているようだが、レパートリーは広いようで、ズボン役も似合うのであろう。
私は、二幕で公爵が歌う「好きなようにするのが我が家の習慣」が好きで、この歌声を聴くと何時も「ディ・フリーデルマウス」を聞いていると言う気にさせてくれるのである。
アルフレートのゴードン・ギーツ、ファルケ博士のロッド・ギルフリー、フランクのジョン・デル・カルロ、弁護士ブリントのジャン=ポール・フシェクールなど他の男性陣も非常に素晴らしい出来で楽しかったが、
書き忘れてはならないのは、刑務所の看守フロッシュを演じた往年の宝塚のトップ・スター大浦みずきのコミカルで実に堂々とした素晴らしい演技で、この役については歌とは関係ないので、ウィーンでもロンドンでも、その地の素晴らしい名優が登場して客席を沸かせるので、何時も楽しみなのだが、刑務所と牢獄と間違えて、大浦は、ベル薔薇のフェルゼンの衣装で登場する冒頭から芸達者ぶりを披露して、素晴らしく愉快な舞台にしていたのは流石である。
この舞台は、サンフランシスコ・オペラ・オリジナルのようだが、二幕の舞踏会でのバレー団の活躍、小澤征爾音楽塾オーケストラのまずまずのウィーン・サウンド等バックもそれなりで、面白い小澤征爾版「こうもり」であった。
小澤征爾指揮による喜歌劇「こうもり」が上演されたのである。
奇しくも、私が一番最初に「こうもり」を観たのは、1974年の大晦日、ウィーン国立歌劇場であったが、やはり、特別な演奏会で、観客は全員タキシードとイブニング・ドレスの正装で、いやが上にも、華やかな雰囲気が漲っていた。
休憩時間には、着飾った男女が一列に並んでロビーを散策するように静に歩くのだが、中々優雅で、何度も、このオペラハウスで歌劇を見ているが、こんな光景は後にも先にもこの日だけであった。
終演後、カイザリン・エリザベート・ホテルに帰ってゆっくりしていると、年が明けたのであろう、町中が、新年を祝う爆竹の音で革命騒ぎのようであった。
オルロフスキー公爵を歌ったビルギッテ・ファスベンダーを幽かに覚えている程度で殆ど忘れてしまったが、良い思いでであった。
とにかく、ドタバタ騒ぎの実に他愛無い愉快なオペラだが、総てこれもシャンパンのなせる業と笑い飛ばして新年を迎える、年越しには格好のオペラである。
このオペラは、前の舞踏会の帰途酒に酔ってこうもり姿のままほって置かれて笑いものにされたファルケ博士が、ロシアの貴族オルロフスキー公の舞踏会を利用して、その張本人で友人のアイゼンシュタインに、復讐しようと試みて繰り広げられるドタバタ喜劇で、
マスクをつけて現れた妻ロザリンデを間違って口説き落として散々やり込められると言う話が罠だが、アイゼンシュタインが詐欺で収監さるのに偶々留守に現れたロザリンデの恋人が誤って逮捕されたり、伯母が病気だと偽って舞踏会に出てきた小間使いアデーレに出くわして驚くやら、とにかく、刑務所長フランクなどを巻き込んでの喜劇が、ヨハン・シュトラウスのウィーン風のワルツの甘美な調べに乗って展開されるのであるから、小澤征爾も、最初から最後まで軽快にスイングしながらの指揮ぶりで、実に楽しい。
この舞台では、やはり、魅力的なのはロザリンデで、この日は、ハンガリー出身のアンドレア・ロスト。
良く覚えているのは、もう15年以上も前の話だが、ウィーン国立歌劇場で、ヴェルディの「ファルスタッフ」を観たのだが、この時ナンネッタを歌った実に綺麗で素晴らしいソプラノが彼女。(この時、クイックリーを演じたのが、先ほどの大メゾ・ソプラノのファスベンダー)
ブダペストでリスト音楽院の学生のままジュリエッタでデビューし、その後すぐに、ウィーンでツェルリーナでデビューしたその直後の舞台だったのだが、とにかく、美人で声が飛びきりよくて天がニ物を与えた典型だと思ったのだが、その彼女が、今度は、歳相応に女の魅力を更に増して、ロザリンデで登場したのだから、私にとっては願ったり叶ったりの舞台であった。
少し小柄なので、若くて実に溌剌として美しい小間使いアデーレのアンナ・クリスティと並ぶと一寸威厳に欠けるが、恋人で声楽教師のアルフレートとの絡みや刑務所長フランクを言い包めて彼を夫に偽装する掛け合いなど実にコケティッシュかつセクシーで、温かみの籠もったソプラノが実に魅力的であり、第二幕の舞踏会の場では、小澤に「お願いします」と言って歌いだした「チャールダッシュ」の情熱的な素晴らしさは言うまでもない。
アイゼンシュタインも重要な役柄で、威厳がありながらかなりミーハーでドンファン、カワイ子ちゃんが集まる舞踏会だからと誘われると刑務所に入るとアデーレを騙して正装していそいそと出かけ、舞踏会では魅力的な婦人だと見るとすぐにモーションをかける。
そんなアイゼンシュタインを謹厳実直そうな長身のデンマークのバリトン・ボー・スコウフスが器用に演じた。
ところが、オペラの勉強はしていたが医者になろうと勉強もしていた彼が、教師の推薦でウィーンでドン・ジョバンニのタイトルロールを歌う羽目になり、舞台に立った経験さえなかったのに、ウィーンの批評は最高のドン・ジョバンニだと絶賛。その後、引く手あまたの人気バリトンになったと言う。
ロストとの相性も良く楽しませてくれた。
光り輝いていたのは、アデーレのアンナ・クリスティ。シンシナチ育ちのリリク・コロラツーラで名声を博したアメリカのソプラノだが、2000年にニューヨーク・シティ・オペラで、そして、2004~5シーズンにMETで、夫々パパゲーナでデビューし、色々な新人賞を取っている今売り出し中の歌手で、とにかく、はちきれるようなパンチの利いた歌声が実に爽やかで、それに、チャーミングで芝居も多少オーバー気味だが上手い。
異彩を放っていたのが、オルロフスキー公爵のメゾ・ソプラノのキュサリン・ゴールドナーで、一寸小柄ながら髭が似合っていて達者な演技で楽しませてくれた。
私がロンドンのロイヤル・オペラで観たのは、カウンターテナーのヨッヘン・コワロフスキーだったが、やはり、男性だと迫力が有り過ぎて、この場合には宝塚スタイルの方が面白い。
彼女のホームページを開くと「薔薇の騎士」のオクタヴィアンの歌声が聞えてくる。METではレヴァイン指揮でケルビーノを歌っているようだが、レパートリーは広いようで、ズボン役も似合うのであろう。
私は、二幕で公爵が歌う「好きなようにするのが我が家の習慣」が好きで、この歌声を聴くと何時も「ディ・フリーデルマウス」を聞いていると言う気にさせてくれるのである。
アルフレートのゴードン・ギーツ、ファルケ博士のロッド・ギルフリー、フランクのジョン・デル・カルロ、弁護士ブリントのジャン=ポール・フシェクールなど他の男性陣も非常に素晴らしい出来で楽しかったが、
書き忘れてはならないのは、刑務所の看守フロッシュを演じた往年の宝塚のトップ・スター大浦みずきのコミカルで実に堂々とした素晴らしい演技で、この役については歌とは関係ないので、ウィーンでもロンドンでも、その地の素晴らしい名優が登場して客席を沸かせるので、何時も楽しみなのだが、刑務所と牢獄と間違えて、大浦は、ベル薔薇のフェルゼンの衣装で登場する冒頭から芸達者ぶりを披露して、素晴らしく愉快な舞台にしていたのは流石である。
この舞台は、サンフランシスコ・オペラ・オリジナルのようだが、二幕の舞踏会でのバレー団の活躍、小澤征爾音楽塾オーケストラのまずまずのウィーン・サウンド等バックもそれなりで、面白い小澤征爾版「こうもり」であった。