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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立劇場二月文楽公演・・・簔助のお三輪

2007年02月18日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   今月の文楽の目玉の一つは、やはり、「妹背山婦女庭訓」の簔助の遣うお三輪で、「道行恋苧環」と「金殿の段」の素晴らしい舞台である。
   簔助のお三輪は、これまでにも観ているが、何時もの綺麗で高貴なお姫様や近松の大坂女のような雰囲気のある女と一寸違って、鎌足の息子・淡海(和生)に恋する田舎娘で、初々しくていそいそとした、健気で一本気の垢抜けしない乙女であるが、中々、上手くて楽しい。
   このお三輪も、蘇我入鹿(文司)を成敗する為に、前回の「摂州合邦辻」の玉手御前と良く似た話で、鎌足の忠臣に殺されてその鮮血が愛しい淡海の助けとなる話である。
   文楽や歌舞伎では、若い女人の生血が霊験あらたかなのか、或いは、血判のように血を大切なものとして重視する日本文化のなせるわざなのか、忠義の為の死が多い。

   幕が開くと「道行恋苧環」の美しい舞台で、入鹿の娘・橘姫(清之助)の艶姿が美しい。淡海(お三輪にとっては隣家の烏帽子折の求馬)と橘姫の恋の語らいに、お三輪が割り込んできて、淡海の不実を恨み、橘姫と淡海をめぐって争いとなる。
   ここで、橘姫に求馬を横取りするなと、お三輪が、
   「外の女子は禁制と、締めて固めし肌と肌。主ある人をば大胆な、断りなしに惚れるとは、どんな本にもありやせまい。女庭訓躾方、よう見やしゃんせ、エエ嗜みなされ女中様」と、実際の夫婦同然であるから、女庭訓を持ち出して、お姫様に挑むが、この辺りは、封建時代とは言え、身分などなんのその随分大らかで興味深い。

   この段の人形遣いの3人は、主に女形なので、人形の立ち居振る舞いが何となく優しくて優雅で美しい。
   夜明けの鐘の音に驚いて帰りを急ぐ姫の袂に、淡海が苧環の赤い糸を結びつけて後を追うが、お三輪も淡海の袖に苧環の白い糸を結びつける。
   一人取り残されたお三輪の苧環は最初は勢い良く回っていたが急に止まる。糸を手繰り寄せたら切れていた。そんな些細な田舎娘の仕草にも、人間国宝簔助の芸は実に細やかで、心憎いほど乙女のいじらしさが滲んでいて感動的でさえある。

   近松の世話物などの道行は、大抵心中への道中だが、時代物では次ぎへの余韻を残した道行で、舞台も華やかで美しくそれにこの場合は物語りもあって中々楽しい。それに、五挺五枚で華やかであり音楽が実に良くて素晴らしい。

   この桜井の三輪の里は、三輪そうめんの特産地で、日本の最古の神社である大神神社があり、そのご神体が、後の三角錐型の美しい三輪山である。
   若い頃に何度か行ったことがあるので、鬱蒼とした参道や立派な社殿やなだらかで美しい三輪山の雰囲気を今でも覚えている。お三輪は、この里の杉酒屋の娘なのである。
   日百襲姫が毎夜通って来る夫が何処から来るのか気になって衣服に糸をくくり付けて後をつけて行くと三輪山の蛇であったと言う三輪山伝説があるが、お三輪の苧環の糸の話もこの伝説から取っている。

   「金殿の段」では、糸の切れたお三輪が煌びやかな御殿に辿り着くが、聞くと、今夜三輪の里から来た男と姫の祝言があると言う。
   求馬に会いたくて必死になって頼むが、淡海の田舎の恋人と知った官女たちが難癖をつけてよってたかってお三輪を苛め抜く。
   この場のいじめは、歌舞伎だと厳つい顔の立役の男達が演じるので凄まじい限りだが、現在の学校や職場でのいじめを連想させてあまり面白くもない。

   恥ずかしさと悔しさで泣き崩れ、橘姫への嫉妬で逆上したお三輪を、疑着(嫉妬)の相のある女の生血が役に立つと、出て来た鱶七(桐竹勘十郎)が、髪を鷲掴みにして脇腹を刺す。
   敵の入鹿は、母が白鹿の血を飲み誕生したので、爪黒の牝鹿の血と疑着の相の女の生血を注いだ笛を吹くと力が弱まって討てると言う設定で、お三輪が殺される。淡海の為に役に立った「北の方」と言われてことの次第を悟るのだが、そんなことよりも一目会いたい、喜びながらも会いたい一心で苧環を胸に死んで行く意地らしいお三輪が哀れである。
   この悲劇を、簔助・勘十郎の師弟コンビが、道理の通らない無茶な話だが、感動的に演じていて清々しい。
   それに、豊竹嶋大夫の語りと清助の三味線が、これまた秀逸で、特に、なぶり者にされてのたうつお三輪の嘆きと断末魔の哀れさを万感の思いを込めて語る嶋大夫の語りの素晴らしさに脱帽である。

   
   

   

   
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