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# 746 パ・リーグ前期 ②

2022年06月29日 | 1977 年 



MVPにピタリの選手がいないための混戦か
今年の3月に " パ・リーグ振興委員会 " を発足させ、何とかセ・リーグに負けないだけの人気を得ようとする意気込みは良いが具体的な案が浮かばず苦労している。前述の『パ・リーグ新聞』発行は面白いが実際に駅構内の販売所から他の日刊紙を締め出すことはほぼほぼ無理な話だ。リーグ全体を盛り上げる連盟歌もセ・リーグにはあるがパ・リーグにはない。来季までに歌を作ることになってはいるが、立ち遅れの感は否めない。そこでパ・リーグ独自に前後期ごとにMVPを選出して話題を提供しようとしたが、毎月発表されるセ・リーグの月間MVPの二番煎じと揶揄される始末である。

それはさておき、前期の最優秀選手の選出はパ・リーグ担当記者に依頼することになっているが、上位3チーム混戦の時点でそれぞれの担当記者に聞いてみた。D紙の阪急担当記者は「通常は1年間のシーズンが終わってから両リーグのMVPが選出されるのに前期だけで選べと言われても難しい。短期間で突出した活躍をした選手はおらず、安定した投球内容だった山田投手くらいしか思い浮かばない。その山田にしても大車輪の活躍をしたわけではないからね。敢えて対抗馬を挙げるならシーズン前の予想より打率が良かった島谷選手かな。中日との交換トレードで入団したが当初は稲葉投手の方の期待が大きく島谷はオマケみたいな感じだったから余計に活躍したイメージが強い」

またH紙の南海担当記者になると更に苦しい。「60試合を過ぎた時点で未だ優勝が決まらない情勢だからこそ、優勝が決定した試合のヒーローがMVPでよいのではないか。それくらい南海の場合は優勝の功績を1人に決めるのは難しい。候補としては野村、藤原、門田、佐藤あたりかな。順当なら野村になるけど野村の場合は選手として四割、監督としてが四割、残りの二割は怪我と戦いながらよく頑張ったご褒美。それくらい傑出した選手はいないのが現状だね」

S紙の近鉄担当記者は「近鉄の逆転優勝はまず難しいだろうから取越し苦労に終わるだろうが」と前置きしながら「石渡、羽田、西村、鈴木、井本という名札を並べて1枚選べと言われたら貴方はどうする?と逆に聞きたいですよ。選べますかって。出場メンバーからオーダーまで毎試合変わって勝ったり負けたり。MVPなんて選べませんよ。皆で山分けするのが妥当です。それでも私が敢えて選ぶなら西本監督かな。でも選手じゃないからダメだと言われたら白票を投じるしかない」

MVP選出を惑わす空前の大混戦と言えば聞こえは良いが、「果たしてそんな大袈裟な表現を使うほどの大混戦ですかね。単にMVP に相応しい働きをした選手が見当たらないが為の混戦と言う方が正しいのではないですか(某担当記者)」といった皮肉な見方も少なくない。中には「何も優勝チームから選ぶ必要はないのではないか。前半戦のパ・リーグを盛り上げたという意味ではロッテのリー選手がMVPに相応しいのではないか」といった声もある。


年俸最低組が大暴れして招いた混戦
それにしても予想外の混戦の中でパ・リーグの前期シーズンを「日銭ラッシュの戦い」と呼ぶ人がいる。毎試合ごとにベンチ内で現金が飛び交ったというのだ。" 銭はグラウンドに落ちている " はかつて南海の監督だった鶴岡一人氏の名言だが、鶴岡氏の言葉はレギュラー争いをする選手らにハッパをかけたものだが今回の「日銭」は少し意味合いが違う。一軍最低保障年俸が昨年までの240万円から360万円にアップされた。薄給の選手が一軍の試合に出れば1試合につき投手なら4万円、野手は2万円が給料に追加されていく。給料の安い選手が多いチームは選手同士が切磋琢磨することでチーム力が上昇し、パ・リーグの混戦に拍車をかけた。

前期シーズンの終盤に上位チーム相手に大暴れした日ハムのベンチ入りしていた選手の約半数が「日銭組」だった。江田投手・240万円、宇田投手・320万円、谷山投手・240万円、宮本好投手・200万円、村井選手・340万円、菅野選手・260万円、行沢選手・220万円、島田選手・240万円、新屋選手・200万円(いずれも推定)といった具合。大沢監督に「オイ、お前いけ!」と代打に指名された時点で2万円が手に入るうえに結果を出せば監督賞もイタダケルかもしれないので選手の気合の入れようは半端ない。

若さが売り物の近鉄の快進撃も日銭と無縁ではない。レギュラー陣の年俸を合わせると阪急や南海は1億円を超すが、近鉄の場合は5千万円程度。「220万円ではとても子供を育てていけない。パチンコで1000円をスッても生活に堪えますからね。バリバリ投げますよ」とテスト生から一軍に上がった佐藤文投手は懸命に投げまくった。他にも陽田投手・190万円、吹石選手・250万円、平野選手・300万円など一軍最低保障に届いていない選手らは試合で結果を残すことに必死だった。一方で上限の360万円に達した選手が続出した途端に快進撃がストップしてしまう弊害もあった。4月29日から首位に立った近鉄が阪急に抜かれた5月末がちょうどその時期だった。

早くも関心は後期シーズンに移っている。注目はロッテだろう。前期は早々と優勝争いから脱落し、カネやんは評論家の鶴岡一人氏に「お前さんのところが暴れないとパ・リーグは盛り上がらない。しっかりせいよ」とハッパをかけられ恐縮していたが、ロッテが優勝戦線に加わったら前期以上の混戦は間違いない。阪急が前期優勝を達成したら後期は無理をせず安全運転に終始するであろう。「何も手を抜く気はないが、やっと優勝をした後に選手の尻を叩いても効果はどうか。無理はさせたくない」と上田監督。故障者が少なく若手が多い近鉄や終盤に暴れた日ハムも侮れない。「後期も大混戦で年間600万人動員も間違いない」とパ・リーグ事務局はウハウハだ。

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