納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
強心臓の持ち主といわれ、貴重な左腕として期待される阪神のルーキー・益山投手。ちょっと細身で色も白く、一見神経質そうに見える彼だが「勝ち負けの数字や相手の事より自分自身がよければそれでいい」と言葉は厳しい。
好きなことをしてお金が貰えるなんて
聞き手…プロの生活を始めて半年が過ぎましたが、いかがですか?
益 山…学生の頃とは違うなぁと思いますね。野球そのものは変わりませんが、やりかたが違います。
聞き手…やりかた?
益 山…ええ、練習の。プロは結果がお金に直結する。普段の練習が如何に大事か再認識しました。
聞き手…阪神の印象は?
益 山…いいですよ。僕は実家が大阪だし昔から阪神ファンでしたから阪神に入れて幸運でした。
聞き手…プロ入りは子供の頃からの夢だったとか
益 山…野球を始めたのは中学からですから夢というより目標でした。高校卒業時にドラフト指名(大洋4位)
されてプロ入りの現実味が増しました。好きな野球でお金が貰えるなんて最高ですよね。
聞き手…プロ初登板の感想は?
益 山…やはり緊張しました。ヤクルト戦でしたが左打者が多かったのでラッキーでした。
聞き手…巨人戦(6月28日)で張本・王選手を連続三振とった時は?
益 山…もちろん嬉しかったですけど、研究されるし次の対戦を心配しました。実際、ダメでした(苦笑)
聞き手…憧れの選手とか目標にする選手は誰ですか?
益 山…特にはいません。学生の時は好きな投手はいましたけど、同じ世界に入った現在は必要ないと。
聞き手…学生の頃は誰が憧れでしたか?
益 山…鈴木啓示さん(近鉄)です。
頼れるのは自分だけ。最低10年はこの世界で
聞き手…最近の高校球児の中には野球の為に左利きに変える選手もいるそうですが益山さんは?
益 山…へぇ、そんな選手がいるんですか。僕は生まれつきの左利きです。逆に右利きに変える親も
いるみたいですけど、ウチの親は字を書く時だけ右に矯正しましたけど他は左利きのままです。
聞き手…開幕から今までで最も印象に残っている試合は?
益 山…初先発した中日戦(7月21日)です。前日に告げられたんですけど色々考えていたら寝不足に…
聞き手…残念ながら勝てませんでしたね
益 山…でも納得しています。それまで中継ぎばかりでしたから学生時代みたいに先発完投が理想です。
聞き手…合宿所ではどんな生活ですか?
益 山…どんなと言われても僕はあまり合宿所にいないんです。
聞き手…どこで何をしているの?
益 山…実家が近いんで実家で過ごして合宿所には寝に行くだけです(笑)
聞き手…同期の佐藤投手(阪急)、斉藤投手(大洋)の活躍は気になりますか?
益 山…特に意識していません。要は自分が出来ることをするだけです。
聞き手…でも新人王は譲れない?
益 山…いいえ、新人王は投票ですから。タイトルよりも息の長い選手生活、最低10年は頑張ります。
野村監督との対談はポツリポツリというかダラダラというかそんな調子だった。野村監督は今にも居眠りをしてしまいそうで何やら心細くなった。しかし話のひとつひとつが面白く私のツボにはまった。
金が魅力でプロ入り
「プロ野球の世界に入った動機?やっぱりカネやな。プロの世界に入ればとにかくカネになると思ったから」と話しながらタバコを離さない。洋モクのケントを口に咥えて煙たそうに目を細めて話し続けた。「でも実際にプロ入りしても思うてたほどカネは貰えんかったなぁ。忘れもせんが年俸8万4千円やった(苦笑)。なんぼテスト入団でもちょっと安すぎやろと思ったな」京都府下の網野で生まれ育ち小学校、中学校を卒業した。家が貧乏で小学3年生から中学卒業まで新聞配達をやっていた。アルバイト?と聞くと「そんな生易しいもんやなかった。本業だよ。一家が生きていく為のカネを稼いでいたから気安く休んだりできんかったよ」と否定した。
父親は昭和13年、野村監督が3歳の時に亡くなった。戦死だった。「お袋と三歳上の兄貴と俺。食っていく為に必死やった。当時の貧乏いうのは今とはわけが違う。ホンマに餓死してまう」網野に住之江織物の絨毯工場があった。母親はそこへ働きに行っていた。だが過労がたたり子宮ガンを患い働けなくなった。その頃から小学校3年の野村少年が家計の為に新聞配達をするようになったのだ。「あの頃は本当に辛かったねぇ。明日食べるものがなかったからお袋も大変だった」と振り返る。その母親が亡くなったのは昭和43年。野村 " 選手 " は既にスター選手になっていたが、「まだ監督にはなってなかった。お袋に晴れ姿を見せられず残念だった」と吐息をつく。
兄貴のお陰で高校へ
中学校に入学すると野球部に入った。「お袋に頼んだんや野球をやらせてくれと。その代わり卒業したら京都へ丁稚奉公に行くからと」その彼が峯山高校に進学した。「高校へ行けたのは兄貴のお陰だった。高校くらい出てないと人様に相手にされないぞとお袋に言ってくれて最初は反対していたお袋を説得してくれたんだ」それで野球も辞めずに済んだのだ。ただし野球界では峯山高校は言うまでもなく無名高校だった。グラウンドも小さく、そもそも野球専用ではなく恵まれた環境ではなかった。
「俺は誰が何と言おうと、とことんまでプレーをやっていこうと思うてるね。ファンが1人もいなくなって、もうお前は野球を辞めろと言われるまで続けるよ」この道24年・43歳。言うまでもなくプロ野球界の最古参である。「花盛りの最中にパッと現役を去る人もおるが、それは人それぞれの考え方というもんでね、俺は12球団のどこも使ってくれなくまでプレーしたいねぇ。何しろ丹後の田舎から出て来て右も左も分からんかった人間がここまで生き残ってこれたんやからそう簡単に辞められん」
ボロボロになるまで
昭和46年に突如として右肘にアクシデントが起こった。痛みが激しく球を投げられなくなった。医者にもかかったが治る見込みは立たなかった。「なにしろ投手に返球する距離も投げられんかったから困ったねぇ。もう俺もこれまでかと密かに引退を覚悟したわ」と振り返った。だが医者も見放した状態を何と腕立て伏せをすることで克服してしまった。「結局、この世界は人を頼りにしただけではアカンのや。自分の事は自分で解決せんとな」
好きな酒も断った。故障と飲酒は関係なかったが「何かを辞めることによって野球に全てを賭ける。そういう生き方をしようと決めたんや」と淡々と語る。野村監督の話は途切れては続き、その言葉一つ一つに味があり、風格があり、千金の重みがあった。「人生ていうもんは大体こういうもんやないのかねぇ。ボロボロになるまで、ぶつぶつと自問自答しながら生きていく。それが人間の生き様というもんと違うかね」
吉田監督の催眠術で打開策なるか
多くの評論家は「巨人にこんなに差をつけられるチームじゃない。選手の力量は巨人と五分五分。問題は選手個々の心構えの違いだ」と口を揃える。強い時は手がつけられない。一番から八番まで一発を打てる打者がズラリと並び、投手陣も開幕から9試合連続で完投したように強力だ。それでいて弱い時は赤子の手をひねるようにコロリと負ける。そんなチーム状況が13年間も続いているのだ。5年ほど前、当時の村山監督は「催眠術でもかければ勝ち続けるかもしれない」と強くて弱い阪神をこう表現していた。。
最近そんな例が海の向こうで起こった。8月13日付のザ・スポーティング・ニューズが報じた。低迷を続けるエンゼルスの選手に催眠術をかけて戦わせた。ロサンゼルス市ビバリーヒルズに事務所があるアーサー・レイン氏が催眠術をかけた。チームはマリナーズに勝利した。エースのノーラン・ライアン投手も「今まで色々考えて悩んだりして吹っ切れないものがあったけど気が晴れた気がした。勝つ自信が沸いてきたよ」と催眠術の効果を力説した。この催眠術師を起用したハリー・ダルトンGMもその効果に驚いた。
今の阪神もこれと同じ状態かもしれない。吉田監督の思惑と裏腹な選手の動き。これといった打開策もなくズルズルとペナントレースから脱落していった。だがまだ30試合以上も残っている。このまま巨人の軍門に下るのは阪神ナインにとっても阪神ファンにとっても耐えられないはずだ。「とにかく最後まで全力を尽くす。たとえ今年はダメでも来シーズンへの糧になるのだから」と吉田監督は闘争本能を剝き出しにして阪神ナインにハッパをかけ続ける。
明るい希望はブリーデンと掛布
そんな沈滞ムードが漂うチームに明るい話題もある。王選手と本塁打王争いをしているブリーデン選手と規定打席不足ながら首位打者の可能性を秘める掛布選手の存在だ。「本塁打王は王選手のものだよ」と相変わらずタイトルに無欲なブリーデン選手だが言葉とは裏腹に明らかにホームラン狙いの豪快なスイングを見せている。日頃からブリーデン選手を注視している山内コーチは「アイツもやはりタイトルが欲しいんだな」と。事実、ブリーデン選手は山田通訳に「ホームランキングになったら球団はいくらボーナスをくれるだろうか」と聞いてきたそうだ。もしもタイトルを獲れば年俸の大幅アップは確実で、田淵選手に代わってチーム一番の高給取りになるのは間違いない。
一方の掛布選手は首位打者への夢をストレートに口にする。「打撃ベスト10 に名前を連ねていたらこんなに落ち着いてはいられないでしょう。規定打席不足は僕にとって好都合ですね。だから今は何も考えず1本でも多くヒットを打ちたいです」と。規定打席到達には10試合ほど足らないが今の調子が続けば死のロードが終わって甲子園に戻る8月下旬に打撃10傑の上位に顔を出すだろう。現時点に当てはめれば4位くらいだが打席数が少ないので2~3試合で固め打ちをすればトップに躍り出る可能性もある。「ハッキリ言って首位打者は最高の名誉でしょ。僕みたいな若造が簡単に獲れるものではないと重々承知しています。でもチャンスですから頑張ります」とタイトル獲得の意志を隠さない掛布選手だ。
巨人の対抗馬、いや巨人を圧倒してくれるはずの阪神だった。確かに不運なことも多かったが、大きく水を開けられるとまたぞろ無気力な面が出てはいないか。まだ戦いは終わっていない。伝統の猛虎の意地にかけて阿修羅のように暴れて欲しいものだ。
200発打線が泣くネコの阪神
それは甲子園球場を高校野球に明け渡した " 死のロード " の最中の出来事だった。山内コーチが遂に愚痴をこぼしたのは対中日3連戦(西宮球場)を1勝2敗と負け越して、死のロードを半分終了し2勝6敗となった8月14日の試合後だった。「覇気がないんや。やる気が有るのか無いのかサッパリ分からん。うだるような暑さでもスタンドで多くのファンが応援してくれる。そんなファンのことを思ってプレーしてる選手はおるんやろうか…多分おらんやろ」とため息をついた。吉田監督も「星野に6連敗もするなんて…気合いが入っていない証拠や」と笛吹けども踊らないナインにお手上げといった様子だ。
100試合を消化しないうちに首位巨人に10ゲームも離されたのは6年ぶりのこと。5位に沈んだ昭和46年の村山監督時代に8月下旬に首位巨人と4位阪神との差が11.5ゲームとなって以来だ。昭和39年以来、13年も遠ざかっている優勝という悲願に向かって力強くスタートした今シーズン。「すべてを勝利に」のスローガンを掲げた吉田監督は就任3年目の今年にすべてをかけた筈だった。" 200発打線 " という12球団トップの破壊力を持つ強力打線をバックに古沢・江本・谷村・上田次投手ら完投能力を持つ先発陣と山本和・安仁屋投手のリリーフの切り札2人を配置し「優勝できるスタッフと条件は揃った」と吉田監督は胸を張って開幕を迎えた。それがどうだ…
まさかこんなに早く後退するとは
あれから半年、猛虎のイメージとは程遠く「借りてきたネコ」状態で彷徨っている。吉田監督は敗北宣言こそしていないが日頃の冗談もめっきり減った。つい最近まで阪神番記者に「ウチがコロコロ負け続けて書くことも無くなったんじゃないの」「あまり負け過ぎるとシーズンオフにあんたらが走り回らんといかんようになるから楽させるようにそろそろ頑張らんと」など軽口をたたいていた。だが8月15日からの対大洋、巨人6連戦の静岡・東京遠征では報道陣を避けて口をへの字に結んだままだった。
誤算だらけのシーズンだったかもしれない。開幕のヤクルト戦で満塁アーチを放ち華々しいスタートをきった若トラ掛布選手の死球禍が最初のアクシデントなら、次は成長著しい佐野選手が外野フェンス激突し頭蓋骨骨折の大怪我で戦線離脱。さらにラインバック、ブリーデン選手の両助っ人も怪我で欠場する試合も増えた。とどめは主砲・田淵選手の死球でまさに故障者続出の5ヶ月だった。7月下旬の巨人3連戦(甲子園)で勝ち越して遅まきながら8月反攻を唱えたとたんに古沢投手ら先発4本柱がKOの連続で出鼻をくじかれた。
ファン無視のシラケたチーム事情
負けが混んで来れば複雑なチーム事情がムクムクと頭をもたげてくる。7月13日の大洋戦で田村投手から右親指に死球を受け、亀裂骨折で全治1ヶ月の診断をされた田淵選手の言葉がふるっていた。「これでまた給料を下げられてしまう」と。選手個人としては理解できるが、そこは本心でなくてもいいから選手会長としてこれからのチームを心配する発言をしてもらいたかった。8月12日の中日戦で1ヶ月ぶりに復帰した田淵選手が代打に起用され二塁打を放ちファンから大声援を受けた。だが阪神ベンチはさほど盛り上がらなかった。
代打の田淵選手に交代させられた池辺選手は持っていたバットを力任せにグラウンドに叩きつけ不満を露わにした。しかも翌日の試合から先発メンバーからも外され、その理由を池辺選手は「きのう、あの場面でふくれっ面をしたせいだろうな」と自虐的に語った。田淵選手は翌13日の試合にも代打で出場し今度は左翼席に高々とアーチをかけた。「1ヶ月のブランクさえなければオレも今頃はホームラン王争いに1枚加わっていたのにな」と久々の一発に酔いしれたが、阪神ベンチはここでもシラケたムードに覆われた。
また14日の中日戦に先発登板したものの4回でKO降板した江本投手は「中日打線はちっとも怖くない。谷沢なんかカーブ、カーブで攻めれば簡単に討ち取れる選手なのにサインは真っすぐばかり。それじゃ打たれるわな」と片岡捕手のリードを非難した。だがサインに不服があれば首をふればいいはず。それもしないで打たれたのだから江本投手に片岡捕手を責める資格はない。などなどまたぞろ出て来た阪神の不思議なチーム事情。「ホンマこのチームはよう分からんよ」と外様の山内コーチは困惑顔だ。
火のない所に煙は立たずと言いますが、早くも来季に向け新体制確立の準備をするチームが…
秘密会談が始まっている
東日本を襲った長い夏の雨も収まりペナントレースも第4コーナーに差し掛かった近頃、複数の球団で密かに来季に向けて会議が行われた。セ・リーグのA球団は新体制の第一歩として監督・コーチ陣の刷新を掲げた。「とある解説者が球団からテレビ局との契約内容を聞かれたそうだ。中途解約が出来るのかとか。オフになったらまた連絡すると言われたそうだ」とマスコミ関係者は言う。また別のマスコミ関係者はパ・リーグのB球団の監督が今年限りでユニフォームを脱ぐとフロントに伝えたという情報をキャッチした。
セ・リーグ4監督が危ない
いま各球団の担当記者の間で語られているのは「セ・リーグで動きのないのは巨人の長嶋さんと大洋の別当さんの2人だけ。パ・リーグではロッテのカネやんとクラウンの鬼頭さんが怪しい」そうで今年のストーブリーグの主役はセ・リーグの4球団の監督だそうだ。このうち広岡監督(ヤクルト)と古葉監督(広島)については「まさか」の声もあるが、「広岡監督はキャンプの頃から言ってるよ来年のことは分からないって。フロント陣は広岡監督の手腕を買っているけど松園オーナーはそうでもない。仮に2位なら首がつながるだろうけど3位に終わったら危ないよ」とヤクルト担当記者は言う。
カープは先日のフロント人事を刷新した経緯を見ても、いかに赤ヘル初優勝を成し遂げた古葉監督でも安閑としていられないという意見がネット裏の大半の声だ。吉田監督(阪神)は、と言うよりも阪神という球団は毎年監督の首が話題になる。今年も御多分に洩れず早くも「全く作戦が的外れな監督だ」とか「他の監督なら巨人の独走は許していないはず。監督の力量が疑われる」など吉田監督批判が表立って賑やかだ。残る中日は与那嶺監督の更迭は決定的で既に具体的な名前が挙がっている。
次期人事内定という中日
いま漏れ伝えられているのは中利夫二軍打撃コーチの昇格だ。そして外部から長老級の後見人を立てる案が浮上している。ただその後見人の人選は難航していて児玉利一、濃人渉、杉浦清、坪内道則など中日OBをひと当たりしたが決まらず、牧野茂や杉下茂現巨人投手コーチなど巨人関係者にまで触手を伸ばしている。実は昨年は森昌彦にコーチ就任を打診しており、過去には別所毅彦、青田昇、中上英雄、千葉茂、藤田元司など巨人OB勢と接触している。いずれにせよシーズン終了を待って電光石火に大改革をすると明言しており、準備が着々と進んでいるのは確かなようである。
「何をぬかすか!」と金田監督は言うが…
パ・リーグではカネやんが後期シーズン優勝を花道に監督を辞任し勇退するのではというムードがある。その噂の出処はカネやんが最近めっきり放言が減り、勝負に対して情熱がなくなったというもの。そうした声に対してカネやんは「無口になったって?それはワシが黙っていてもチームが勝つということ。ようやくワシのやり方がチームに浸透したんじゃ。辞めるとか何をぬかしとんじゃ」と目をギョロリと反論する。だが周囲ではロッテが川崎球場を本拠地移転に伴って心機一転、チームの大改革に踏み切るのではないという声は根強い。