Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 663 ライバル

2020年11月25日 | 1977 年 



「あいつには負けられない」 長いプロ野球の歴史にライバル間の名勝負は尽きない。そしてその激突が熱を帯びれば帯びるほど所を変える明暗がくっきりと浮かぶ。再び大洋の監督に戻ってきた別当薫が豪打を謳われた阪神時代に静かなる彼の前に動を売り物にする藤村富美男が立ちはだかっていた。

激動の対決への宿命的な出会い
「私が打席に向かって歩いているとウェーティングサークルにいる五番打者の土井垣が言うんですよ、『藤村さん別当に負けたらあかんがな』ってね。そう言われると頭にカッーと血が昇ってね、大学出のボンボンに負けたらプロで何年も飯を喰ってきた我々は笑いモンだとね」と後年の藤村が述懐した。プロ野球史上、同一チームにおけるライバル同士は少なくない。例えば3年前までの長嶋茂雄と王貞治、中西太と豊田泰光、村山実と江夏豊など。だがそのスケールといい、迫力といい、ライバル濃度といいプロ野球史上最高のライバル関係だったのが藤村と別当だったのではないだろうか。

藤村と別当はその野球歴において正反対といっていいだろう。藤村は呉港中から昭和11年に創設された大阪タイガースに入団した。まだ海のものとも山のものとも分からない職業野球に身を投じたのである。これは余談だが当時の職業野球がどれほど稚拙だったかを物語るエピソードがある。呉港中学の学生だった藤村の自宅にタイガースの中川スカウトが訪れて藤村本人と父親を口説いたが大学進学を希望する藤村家からは色よい返事は貰えなかった。帰り支度の際に中川は「私が今日ここに伺った証としてお二人の署名を頂きたい。上司に報告しなければならないので」と1枚の書類を差し出した。二人はその書類に連名を記したが、実はそれは入団契約書だった。

だから藤村は法的には騙されてプロ入りしたことになる。契約を破棄しても問題は無かったが藤村は進学を断念した。一方の別当は違う。甲陽中から慶応大学に進学、在学中に学徒動員で海軍通信兵になり戦後に復学した。大学卒業後は実家の家業である材木業を手伝う傍らノンプロチームのオール大阪のメンバーとして試合の時だけ参加するなどを経て、自らの意思で昭和23年タイガースに入団した。決して経済的に窮してプロの世界に身を投じた訳ではなかった。藤村が別当をボンボンと称するのはこうした経緯があるからだ。それだけに別当が華々しくデビューし本塁打争いに顔を出してくると強烈なライバル意識が働いた。

藤村と別当の関係は宿命的な運命にあったと言っていい。実は藤村と別当がタイガースで共に在籍していた期間は短い。昭和42年に2リーグ分裂騒動が起こり、別当は2年在籍したタイガースから新球団の毎日に移籍した。別当本人は「尊敬する若林忠志投手と一緒に野球をやりたかったので移籍した」と言っている。その言葉に嘘はないであろうが、本音は余りにも強烈すぎる藤村の剥き出しのライバル意識に嫌気がさしたのではないかとも考えられる。

3分を間にする勝者と敗者の顔

別当は感情を表に現さない。喜びや悔しさを冷たい眼鏡の奥にジッと隠している。それが別当のスタイルだった。藤村は違う。ある日、雑誌の対談で歌手の笠置シズ子と対面した藤村は後日、笠置の舞台に招待されて日劇を訪れた。笠置は日本で初めてのアクション歌手で、その体当たりの歌謡ショーを目の当たりにした藤村は感動した。「本物のプロはあれくらいやり目立って当たり前なんだ」と。かくて藤村は打席の中で1球毎に大袈裟とも思えるくらいのジェスチャーをするようになる。自分の声は遠く離れた外野席のファンには届かないが動きでなら感情を伝えられると。

静と動がライバル同士になればどうしても動の方が目立つ。観衆は藤村にしびれた。別当としては胸の内で溢れる思いを噛みしめていただろう。果たして藤村と別当の思いがどれほどのものであったのか、数千・数万の文字を書き連ねるよりも端的に物語る試合がある。昭和23年10月16日、名古屋の大須球場で行なわれた対中日17回戦。3回表・無死三塁の場面で打者は三番の別当。ボールカウント1-2からの4球目、清水秀雄投手が投じた直球を別当は左翼席に叩き込んだ。ベースを一周する別当をウェーティングサークルで藤村が見つめる。「どうだ見たか」別当にそんな思いが浮かんでいたと想像するに難くない。

別当がホームインしても藤村は右手を差し出さない。その代わりに物干し竿バットをブンブン振り回した。打席に入った藤村はボールカウント0-3からストライクを取りにきた直球を捉えると打球は別当のそれを越える本塁打。なぜそれが分かるのか。公式記録員の治村宗三氏がスコアブックの備考欄に両本塁打を記していたのだ。『別当330フィート(100.65m)、藤村350フィート(106.75m)』と。一塁ベースを回ったところで藤村は " 万歳ランニング " をやり始めた。「どうだ俺の実力が分かったか」 藤村の後ろ姿は2万人の観衆にそうアピールしていた。たった3分前に観衆を魅了した別当は大騒ぎをする藤村をただ見つめるしかなかった。


背番号『10』の万歳背に阪神を去る
しかし別当も男である。話には続きがある。5回表、別当に第3打席が回ってきた。派手なジェスチャーだけが男じゃない。本物の男は黙って仕事をするんだ、と言わんばかりに同じ清水投手が投じた低目のカーブを捉えると、またもや左翼席に2打席連続本塁打を放った。今度も別当は黙々とベースを一周しホームインするも、またしても藤村は握手をしようとはしない。再び藤村が闘志満々で打席に向かう姿を見た中日の杉浦清監督は「あの気迫に清水じゃ抑えられない。触らぬ神に祟りなしだ」と投手を交代させた。ただし杉浦監督も洒落が効いた男で、起用したのは星田次郎投手だった。

下手投げの星田は " 死球の星田 " ・ " 死神 " と呼ばれるくらいデッドボールが多く、打者が恐れる投手として有名だった。特に一旦荒れだしたら手に負えない。左右関係なく打者は打席で腰を引いてホームベースから離れて立つ。だから外角に球を投げられると手が出ない。この年の星田は36試合・10勝8敗・防御率 2.65 と中日在籍8年間で最高の成績を収めていた。物干し竿を振り回す藤村相手に星田を投げさすとは杉浦監督も相当なプロフェッショナルである。ボールカウント0-1からの2球目、星田は内角にシュートを投げた。腰痛持ちの藤村はギックリ腰のような恰好で物干し竿を振り抜いた。

果たして打球はまたもや別当の上を行く本塁打。治村メモには『別当310フィート(94.55m)、藤村330フィート(100.65m)・2者連続2打席連続本塁打はプロ野球新記録』と記されている。藤村はまたしても万歳ランニングをやりだした。背番号『10』は踊りに踊ってベースを一周した。三塁側ベンチにいた別当は打っても打ってもあの男は俺を越えて観衆を沸かす、と唇を噛んだに違いない。背番号『10』から逃れように別当は阪神を去る。余談になるが実は藤村も毎日に移籍しないかと誘われていた。藤村の終身打率は3割、別当は3割2厘。もしも藤村も毎日に来ていたら…別当の野球人生はいかなるものになっていたのだろうか?
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# 662 初春に誓う ④

2020年11月18日 | 1977 年 



中日ドラゴンズ:優勝へ定位置確保に今年にかける主力選手たち
中日の若きヒーローは最優秀投手賞(防御率第1位)と最優秀救援投手賞のダブル受賞を果たした鈴木孝投手だ。「今年は僕の野球人生で大きな節目になる年だと考えている」と話す理由は今季から先発投手としてローテーションに組み込まれる可能性が有るからだ。「2年連続でセーブ王になれた。このタイトルは誰にも渡したくないが先発に回るとそうはいかない。自分としては投手は先発して完投するのが理想なので先発に魅力も感じます。まだ正式な話は聞いていないけど、どちらに決まっても対応できるようにキャンプでみっちり練習します」とやる気を見せる。

エースの星野投手は「開幕の巨人戦で投げるのは俺だ」と早くも開幕投手宣言。「勝ち星は15勝。それ以上に負け数を1ケタにして出来るだけ貯金を増やして優勝に貢献する」と意気盛ん。女房役の木俣選手は「昨年は二度目の打率3割を達成できたがベストナインをあと一歩で逃したのが残念。今年も打率3割・全試合出場して優勝したい」と。今年から新主将に返り咲いた高木選手は「今の自分に主将が務まるか不安だが18年のプロ生活の総括として引き受けた。自分にとってもチームにとっても大切な年なので、とにかくチームの先頭に立って頑張る覚悟です」と責任感のある抱負を語った。

サードへのコンバートに挑んでいる大島選手は「今の僕にはオフも休みもない。チャンスを貰ったわけだから、これを生かさないでどうするかですよ。ただレギュラーの森本さんに勝つのは並大抵ではない。がむしゃらに挑んでダメならユニフォームを脱ぐ覚悟です。守りの方は何とかなってきたので、あとは一にも二にも打撃です」とベテランの森本選手に挑戦状を叩きつけた。新人王の田尾選手は井上選手との左翼手のレギュラー争いに挑む。「2年目のジンクスは気にしていない。というか気にしている余裕がないです。打撃も守りもまだまだ勉強中です。こうした競争はプロの世界では当たり前だと思っています」

そして昨年の中日ナインの中で一番印象に残ったのは最後の最後で張本選手(巨人)を追い抜いて首位打者に輝いた谷沢選手だろう。「今までの僕に何が欠けていたかは言われなくても分かっていますよ」と前置きして「正直に言って今の僕に追われているという意識はないです。相手チームのマークはより一層厳しくなると覚悟していますけど、自分に出来るだけのことをするだけです。首位打者になって今年3割を打たなかったらファンからも叱られる。打って当たり前と見られて期待が大きい分、結果を出さないと批判も大きい。それがプロだと重々承知しています。ファンの皆さんの期待を裏切らないよう頑張る」と。


ヤクルトスワローズ:V1達成のカギにぎる若松、大杉、松岡トリオ張り切る
監督代行から正式に監督に就任して発足した広岡体制。話題の酒井投手も入団して一気にセ・リーグの台風の目となったヤクルト。投打の主役は松岡投手と若松・大杉選手だ。エースの松岡は過去に20勝は一度きりで投手タイトル受賞は一度もない。そんな松岡が勝てない、タイトルに無縁の原因を自分なりに考えた。「ピッチングはリズム。それと一人相撲は絶対にダメ。俺は打たれると頭に血が昇って一本調子になる癖が抜けない。分かってはいるんだけど直らないんだな(松岡)」と話す。話題のルーキー・酒井が加入し期待の永川投手の成長も見込まれるが、頼りは松岡に他ならない。「口はばったいけどエースの名に恥じないだけのことはするよ(松岡)」と。

若松は首位打者が目標と公言している。昨年は張本選手と4ヶ月に渡る熾烈な打率争いを繰り広げたが、左手親指を脱臼して脱落。気がつけば谷沢選手(中日)にも抜かれて3位に終わった。だが「いい経験をさせてもらった。タイトルは逃したが納得のいくシーズンだった(若松)」と打率.344 はプロ生活6年間で最高の数字だった。実は昨年は慣れ親しんだ握りの太いタイ・カップ型のバットからノンプロ時代からプロ1年目に使用していた握りの細いバットに変えて成功した。「球に当てるだけではヒットにならない。強くスイングしないとダメなことに改めて気づかされた」と日々成長している。

ヤクルト打線のもう一人の雄である大杉は昨年暮れの契約更改で若松に1000万円以上の差をつけられた。実質的なチームへの貢献度ではセ・リーグ3位となる93打点はチームトップだが「もう金の話はよそう。数字と貢献度は別物だよ」と本人は意に介していない。若い杉浦選手にポジションを奪われかけた昨年の前半戦、足の故障や実母の病気などのアクシデントがもともとスロースターターだった大杉を追い詰めたが後半戦に盛り返した。ヤクルトに移籍して3年目、セ・リーグの投手にも慣れてそろそろタイトル獲得も現実味を帯びてきた。悲願のヤクルト初優勝に向けて打線の核弾頭になる覚悟は出来ている。


大洋ホエールズ:新生ホエールズのエース平松、結婚転機で奮闘の誓い
別当監督が目標とするAクラス入りを果たすには投手力の充実が鍵となるだけにエースの平松投手の責任は重くなる。「昨年は大きな怪我もなくシーズンを通して投げられた。今年も体調管理をしっかりやっていきたい(平松)」と昨年暮れに結婚しただけに新婚の奥様の責任も重大。「昨年は負け数(13勝17敗)が多すぎたので、今年は昨年の勝ち負けを逆にして貯金を増やしたい」と決意する。二番手の奥江投手は「昨年は救援から先発に急遽変わったのでリズムを崩してしまったけど今年は両方を任されても大丈夫なように準備したい。課題は細身なのでスタミナの強化。キャンプでは倒れるくらい走り込みをするつもりです」

新加入で期待されるのはセ・リーグに復帰した関本投手とドラフト1位指名の斎藤投手。「1年ぶりにセ・リーグに戻って来ました。慣れ親しんだリーグなので気負いはない。昨年は体調を崩して満足に働けなかったから、今年はキャンプでじっくり走り込み・投げ込みをやる。数字の目標はあえてしないが、とにかく怪我なく過ごしたい」と関本。ルーキーの斎藤は「先ずは一軍、次が先発ローテーション入り。新人王とか10勝とか考えず、与えられたチャンスを生かして1人の打者、1つのアウトを大事に取っていきたい。最低でも他の5球団から勝ち星をあげたい」と新人らしく控え目な抱負だ。

投手陣を支える女房役の福嶋選手は「今年チームがAクラスに入るには投手陣の奮起が必要だけに僕ら捕手たちの働きも重要になる。その為には各投手の特徴を引き出して、投手一人一人の能力を発揮させる必要がある」と話す。打線の中心は松原選手で「個人的には打率3割・30本塁打・100打点を目標にしている」とチームリーダーとして打線を牽引する覚悟だ。また人気者の山下選手は「昨シーズンから継続中の遊撃手として186守備機会無失策のセ・リーグ記録を更に伸ばしたい。オールスター、ベストナイン、ダイヤモンドグラブ賞を手に出来るように頑張りたい」と良い意味で欲を出してきた。
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# 661 初春に誓う ③

2020年11月11日 | 1977 年 



読売ジャイアンツ:タイトル、記録を目指しV2へ直結する投打の主役
セ・リーグ連覇の主役はもちろん王選手だが、実はその脇を固める人物の張本選手こそが連覇のキーマンだ。昨年は史上初となる八度目の首位打者を目前で谷沢選手(中日)に阻止された張本だが、張本はシーズン中から決してタイトルが欲しいとは口にしなかった。「俺は巨人に来た助っ人。ワンちゃんの為の助っ人。それが俺の仕事」と常に公言していた。それは今年になっても変わらない。自分の務めは巨人の優勝と王へのアシストだと心に決めている。「よく知り合いに言われるよ、打率4割を狙ってみろと。打球が速い人工芝なら三遊間に転がせばヒットを稼げて打率も上がるだろうって。でもチームバッティングを求められる巨人では好き勝手に打つことは出来ないし、してはいけないと自分も思っている」と。

昨年の張本は182安打、首位打者の谷沢は176安打と安打数では谷沢を上回っていた。また出塁数は敬遠を含めた四球(125個)が圧倒的に多い王に次ぐ239出塁の2位だった。それなのに無冠に終わり悔しさもあるだろうが「長いのはワンちゃんに任せて僕は1回で多く塁に出ることを考えている。ヒットの数とか打球の鋭さより数多く出塁することが自分の任務だと思っている」と自分を押し殺している。だが結果的に王への橋渡し役に徹することで高出塁と高打率をマークして八度目の首位打者へ近づくのかもしれない。

野手でもう一人、静かに燃えているのが淡口選手だ。「オフの間に徹底的に左投手の球を打つ練習をして今年こそはと思っています(淡口)」先発で出場して左投手が来ても交代させられず結果を残して打撃ベスト10に名前を載せる、それが今年の目標だ。年下の掛布選手(阪神)の活躍が刺激となりレギュラー獲得に燃えている。「張本さん、若松さんのミートの上手さ。谷沢さん、掛布君の思い切りの良さを目の当たりにして学びました。とにかく一にも二にも左投手対策です」と普段は物静かで控え目な淡口が別人のようだ。

投手陣では小林投手と新浦投手に注目が集まる。「1年間フル回転できてスタミナの不安が消えた。日本一は逃したけど阪急相手に勝負して自信もついた。昨年は18勝で20勝できなかったので今年は何としても20勝したいです(小林)」と巨人の屋台骨を支える細腕右腕はこれまで苦手にしていた阪神戦にもどんどん登板して念願の20勝を虎視眈々と狙っている。新浦は「スタミナ増強に走り込みを重視します。キャンプ中は勿論、シーズン中も走りまくります」と夏場のバテ防止に余念がない。更なる目標は15勝と200奪三振。「僕は三振を取ってリズムに乗るタイプ(新浦)」だそうだ。


阪神タイガース:減量田淵のやる気筆頭に '76年の雪辱を期す虎たち
あと一歩でリーグ優勝を巨人にさらわれた阪神だけに選手たちの今年に賭ける思いは強い。主砲の田淵選手は「一昨年の本塁打王がフロックだと言われないように今年は王さんからタイトルを奪い返します」と先ずは自身の本塁打王宣言。「昨年はいろいろ悩んだけど再出発の心構えとして40本塁打・100打点を最低ラインにして頑張ります。僕がそれくらい打てばチームも優勝に近づくでしょう。その為にもオフから減量に取り組んでいます(田淵)」と。太り過ぎは田淵にとって大敵でキャンプまでに7kgの減量を取り組んでいて、自宅に家庭用トレーニング機器、更にはサウナまで設置している。

人気急上昇中の掛布選手は入団以来3年間はトントン拍子で人気も実力も上昇一途で今年プロ4年目を迎える。「昨年が出来過ぎだったと(打率.325・27本塁打)と言われないように思い切りやります。僕は考えるとダメなタイプなので無心で周囲を気にせず頑張りたい」と意気込む。「オフは忙しく疲れたけど野球しか知らない自分にとって社会勉強にもなりました。今年はというより将来的な目標は頼りになるバッターになること。数字よりもここ一番という場面で打てるようになりたいです」と。今年に賭ける掛布の姿勢からは試練とは無関係な感じで飛躍あるのみ、といったムードだ。

エースの座を争うのは江本投手と古沢投手の2人。昨年の江本は後半戦に入るとバテ気味で精彩を欠いたがチーム最多の15勝をマーク。今年は阪神移籍2年目で更なる飛躍が期待される。「昨年は江夏とのトレードだったから勝たねばならんというプレッシャーで押し潰されそうだった。その点でも今年は気分的に楽になる。優勝するには巨人を倒す必要がある。巨人戦は注目度が高いから気合が入るね。" 巨人キラー江本 " なんて呼ばれる日も近い?えへへ。田淵さんとも話したけど今年こそ優勝して昨年の悔しさを晴らしたい。いや絶対に晴らしてみせるよ」とプレートさばき同様に強気一辺倒だ。

一方の古沢は昨季ラストの巨人戦で見事完投勝ちして男を上げた。「あの時(巨人戦)みたいに今年最初の巨人戦に勝って出鼻を叩いて自分も勢いに乗る。スロースターターなので前半戦を上手く乗り切れば俺だって15勝できる。今年やらないで何時やるんだ、という気持ちでシーズンに臨む」と意欲的だ。猛虎打線の中軸であるラインバック選手・ブリーデン選手から「日本がすっかり気に入った。今年は2年目で余裕を持ってプレーできる。全力プレーを約束します(ラインバック)」「今年はホームランキングを獲る。キャンプインを楽しみにしていてくれ(ブリーデン)」と海の向こうから新年のメッセージを送って来た。


広島東洋カープ:球団の温情にハッスル。巻き返しに燃える赤ヘル
セ・リーグ連覇は成らなかったが球団の温情で年俸の大幅ダウンを免れて選手たちの士気は上がっている。今年新たに1000万円プレーヤーの仲間入りしたのは池谷投手・水谷選手・水沼選手の3人。池谷は昨年の最多勝投手、沢村賞などに輝き名実ともに一流プレーヤーになった。「2年連続20勝は勿論、防御率1位も狙いたい。昨年の9連敗を反省して確実に勝てる投手になりたい」と抱負を語る。水谷は打率.308 で打撃10傑入りし、26本塁打・73打点は自身プロ入り最高の成績だった。だが今年は若手の台頭と新外人の活躍次第では控えに回る可能性もあり水谷本人は「先ずは1試合でも多く出場するのが目標」と少々控え目。

水沼は規定打席にこそ届かなかったが打率.250・11本塁打・46打点は自己最高。今年は先ず昨年以上の成績とフル出場を目指している。ベテランの外木場投手と大下選手には今年も頑張りが期待されている。昨年の外木場は怪我で四度、合計90日間も戦線離脱し10勝止まりで投球回数も初優勝した一昨年の半分という結果だった。本人曰く「優勝関連行事で多忙になり体のケアを怠ってしまった。今オフは反省して充分休んだ」と。大下も外木場同様に肉離れやヒザの故障で80試合出場に終わった。「怪我さえなければまだまだやれる。昨年の分も取り返したい(大下)」と気合十分だ。

そして赤ヘル打線の中心は今年も衣笠選手と山本浩選手。522打数156安打で打率.299 だった衣笠。あと1本ヒットを打っていたら自身初となる打率3割を達成できたのに涙を飲んだ。これまでの衣笠は打率よりも本塁打を求めていたが、打順のトップに起用されるようになると打率を重視するようになった。それだけに今年こそ打率3割を、と息巻いている。最後に控えしはミスター赤ヘルこと山本浩。一昨年はMVPと首位打者の両手に花だったが、一転して昨年は打率こそ数字を残したが内容は前年とは雲泥の差だった。「大下さん、キヌ(衣笠)と共にチームを引っ張ってまた優勝したい(山本)」とV奪回に燃えている。
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# 660 初春に誓う ②

2020年11月04日 | 1977 年 



近鉄バファローズ:20勝約束の鈴木を筆頭に日本一を合言葉にする精鋭
昨年は期待を裏切った西本近鉄。心機一転、優勝に燃えるナインの中でエース・鈴木投手は「昨年は18勝と今一つの成績だった。今年は何が何でも20勝。野球をやっている者にとって夢は日本一。自分が1つでも多く勝つことでその夢に近づける」と。近鉄は1960年代の三原監督時代に一大旋風を起こし、一昨年は後期優勝を果たしたが阪急とのプレーオフに敗れて日本シリーズの檜舞台は未だに踏んでいない。「今年はチャンスだと思う(鈴木)」と悲願達成に燃えている。

もう一人の柱が神部投手。だが昨年は故障がちで本領発揮できず、挙句にはトレード話が沸き起こり騒がしいオフを過ごした。「ここ数年同じような怪我をしていたのでオフの間に徹底的に治しました。すっかり良くなったので今年は大丈夫だと思います(神部)」と神部としては珍しく雄弁に。神部は7年のプロ生活で最高は昭和47年の13勝。「自己最高となる15勝を目指します。もういい歳だしノンビリしてはいられません。日本シリーズを制して日本一になりたいです」と夢を膨らませる。

今年から選手会長になった太田投手はグラウンドでは副主将で今やすっかり中堅選手だ。前選手会長の鈴木投手の推薦で選手会長に推された太田は選手全員の賛成で選手会長に就任した。その裏にはチームが優勝する為には太田に頑張ってもらわねばならないという願いも込められている。その声に応えるように「リーグ優勝、日本一を目指して頑張りたい。個人的な目標は15勝だが勝利の為なら勝ち星がつかなくてもいい。とにかく勝ちたい(太田)」と甲子園のアイドル " コーちゃん " からの脱皮を目指す。

その投手陣からの信頼が厚いのが梨田選手。今やリーグを代表する捕手でダイヤモンドグラブ賞の常連だ。昨年暮れには結婚し「もう僕一人の生活じゃないので責任をズッシリと感じています。リードや盗塁阻止は勿論、打つ方も打率2割8分はいきたい。でも個人の記録よりも先ずはリーグ優勝をして日本シリーズに出たいです」と抱負を語る。また期待される若手の一人が石渡選手。「何とか一軍でやれる目途が立った程度なので抱負を聞かれても…」と尻込みしながらも「打率2割8分はクリアしたい。全力を尽くします」と謙虚だ。

近鉄打線の中軸を務める佐々木選手。クリーンアップを張る以上、打率3割は至上命令だ。「そうなんですよ、僕の頭の中でも打率3割は既定路線。そこからどれくらい上積みできるか、それが個人的にもチームとしても日本一という最大の目標達成の為に不可欠だと思っています(佐々木)」と。佐々木だけに留まらず数多くの近鉄ナインの口から日本一という言葉が発せられた。リーグ優勝だけではなく日本一が今年の近鉄の合言葉になっている。


日本ハムファイターズ:チビッ子ファンの夢に応える闘志の男たちの大きな約束
昨年はチビッ子ファンの拡大で一大ブームとなった日本ハム。今年はその子供たちの声援に応えなければならない年になる。エースの高橋直投手は「今年はフォークボールに磨きをかける。下手投げはどうしても左打者を苦手にする。でも阪急の山田投手がシンカーで左打者を封じているのが参考になった。シンカーも試してみたけど僕はフォークの方がしっくりいった。ウチの野村さん、一三さん(高橋一)、杉山君などフォークを武器にしている投手に色々聞いてモノにしたい」と新球のマスターに余念がない。

その野村投手は「先発だったり救援だったり起用法によって勝ち星は変わるので今は何勝という目標は考えていない。いずれにせよ昨年のオールスター戦で投げた時のような力強い投球を心がけたい。今年は広島から佐伯、宮本が移籍して来てローテーションが楽になりそうで連投するケースも減りそうなので助かる。昨年は勝負どころで一発を喰らうポカが出る悪い癖が出てしまったが、今年は気をつけたい。一昨年の勝率1位のタイトルに続いて今年も何かタイトルが獲れるように頑張りたい」と話す。

新加入の佐伯投手は「パ・リーグの打者はオープン戦で対戦したくらいで殆どデータはないので実際に対戦してみないと対策は立てられない。でもそれは打者もお互い様です。具体的な勝ち星は言えないけど大沢監督には15勝を期待していると言われているので何とか期待に応えたい。最近は変化球中心の投球内容で自分でも納得していないので、パ・リーグ移籍を契機にストレートを軸にした投球に原点回帰したいと考えています。キャンプからストレート主体で投げ込みたい。日ハム移籍は初心に帰るには良い機会だと思っています」と。

日ハムに移籍して成功した良い例が富田選手だ。「昨年の成績は自分ではまぁまぁで落第点ではないけれど満足はしていない。ここ3年ほどフル出場していなかったツケが怪我という形になって現れた。怪我で欠場してチームに迷惑をかけてしまい反省している。今年はフル出場してチームに貢献したい。昨年は足をあまり使えなかったが今年は名実ともにリードオフマンとして恥ずかしくない成績を残したい」と富田自身は反省するが、大沢監督はじめ首脳陣は富田の活躍に合格点を与えている。

来日2年目を迎えるミッチェル選手は「昨年は日本のピッチャーに慣れないせいもあってスタートからつまずいてしまったけど、ボスやコーチからライト打ちを指導されてからは自分本来の打撃が少しずつ出来たような気がします。今年は2年目だしホームランも30本以上は打ちたい。昨年は恥ずかしながら三振王になってしまったが、今年はホームランキングになって名誉を挽回したい」と意気込む。日ハムファンのみなさんどうですか、今年のファイターズの面々の力強い言葉は。


クラウンライターライオンズ:心機一転を期す獅子たち、守りも固くなって一躍優勝へ
またまたチーム名が変わり、" 新装開店 " も年中行事だがそれにもめげず選手たちは前を向いて再スタートに備えている。エースの東尾投手は「昨年は先発したり救援に投げたりしてリズムが狂ってしまい13勝に終わってしまった。お蔭で世間から色々な非難を浴びたが弁解せず甘んじて受け入れた。もうそんな思いはしたくない。体調も良く今年はエースの名に恥じないピッチングをしてチームに貢献したい」と意気軒昂。ベテランの石井投手は「年齢的な限界を言う人もいるがまだまだ若い連中には負けない。今年は内・外野ともに足や肩のある野手が揃ったので守りの面でも安心している。バリバリ投げるよ」と気持ちは若い。

大洋から新加入の山下投手も「まだひと花、ふた花咲かせる力は残っている。年上の石井さんが頑張っている姿を見ると勇気が湧いてくる。ライオンズのファンが良いトレードだったと満足してくれるような結果を出したい」と移籍で心機一転。 一方の若手投手の期待ナンバーワンは古賀投手。「新人王こそ逃したが昨年は出来すぎだった。今年は昨年以上の周囲の期待と責任を感じている。相手に研究されて楽には勝てないだろうけど昨年の成績(11勝13敗)に満足しないで1勝でも多く勝ちたい」と抱負を語る。

攻撃陣で注目は何といっても昨年彗星のごとく現れ首位打者に輝いた吉岡選手だ。「プロ入り9年目で初めてレギュラーになったと思ったら首位打者になれた昨年はハッピー過ぎる年でした。もし今年活躍出来なければ昨年はフロックだったと言われてしまう。なので今年は野球人生を賭けた勝負の年になると覚悟しています。2年連続首位打者なら最高ですけど欲張らず打率3割以上を目標に頑張ります。足にも自信があるので機動攻撃の先兵となって走塁技術にも磨きをかけたい」と打つだけでなく機動力向上も目指す。

もう一人期待されるのが鈴木選手。「規定打席に達しなかったのは残念だけど打率(.311)は満足できます。今年はハンセンやロッテから移籍した長谷川さんなど左打者が増えたのでボヤボヤしていたら出場機会を失ってしまう危機感があります。せっかく一軍に定着できたのでこのチャンスは逃したくない」とレギュラー獲得に燃えている。更に山村選手もホープの一人。「昨年は " 二十歳のレギュラー " などと煽てられて調子に乗ってしまいました。打つ方だけでなく守りも鍛えたい。送球に難ありと首脳陣からも言われているので改善したい」と張り切っている。

昨年のベスト指名打者の大田選手は「タイトルが獲れて自信がついた。今年はハンセンや長谷川さんなどライバルが増えたしDHだけでなく守りも頑張りたい」と言えば、主砲の土井選手も「今年は打点王のタイトルを狙う。色々考えたがやっぱり自分はパワーバッティングが持ち味。それを殺してまで打率の為にヒットを求めるのは違うと思う。今年は振り切る打法に徹するつもりだ。今年は自分の野球人生の全てを賭ける覚悟でシーズンに挑むつもりです」と。今年も暴れん坊の獅子たちが見られそうだ。
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