納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
仁王様の目がまた鋭く光った
7日間も試合が中止になった13日から19日までの間、目をギラつかせてバットを振っていたのが張本選手。本塁打世界記録の喧騒真っ只中の王選手はリラックスして体調維持に努めていたのと対照的に張本選手は全身に力を漲らせていた。「これからはワンちゃんが敬遠されることが多くなると思うけど、それを少なくする為には後ろを打つ俺がバンバン打つ以外ないでしょ。援護射撃しなくちゃ」と張り切る張本選手。 " 三番・王、四番・張本 " の打順は王選手への敬遠をさせないようにと長嶋監督が取った手段だ。加えて張本選手が目をギラつかせているもうひとつの理由が熾烈な首位打者争いである。
目下トップの若松選手(ヤクルト)を大島選手(中日)や大杉選手(ヤクルト)らと共に激しく追い上げる争いを繰り広げている。昨シーズンは最後の最後で谷沢選手(中日)に逆転され首位打者を逃しているだけに、さぞ今年は是非ともタイトル獲得を熱望している思われるが本人は「首位打者を獲るというよりもチームが優勝する為に打つことが最後に自分の為になると信じている」と敢えて冷静さを装っている様子。だが本心は首位打者に照準を合わせている。その証拠に張本選手は「若松君とは2分の差があるけどこれは5試合もあれば縮められる。秋は夏の疲れが出始めるからそこを如何に乗り切れるかがカギだね」と首位打者を意識した発言をしている。
史上2人目となるセ・パ両リーグに跨る首位打者(初代は江藤慎一)と、自身が持つ首位打者獲得回数記録(現在7回)の更新に燃えている。雨天中止となった15日の多摩川グラウンドで雨の中で黙々と1時間も打ち込んだ。仁王様のような頑丈でいかつい体、古武士のような豪快ツラ。それが雨の中で全身から湯気を立てて打つ様は " 凄絶 " という表現がピッタリ。打ち終わって「これでサッパリしたよ」と笑ったが、このあたりの張本選手はさしずめ本塁打世界新記録を目指す「王牛若丸」と共に連覇を狙う長嶋巨人に仕える「張本弁慶」といった感じ。「用心棒で結構。他人が何と言おうと脇目もふらず用心棒に徹するよ」とギロリと目を見開いた。
指の長い先生
中国から視察にやって来た野球代表団にフォークボールの神様である杉下投手コーチが極意を伝授した。伝家の宝刀であるフォークボールの投げ方を教わったのは弱冠二十歳の王永平投手。王投手は将来性有望な甘粛省のエースで指も長い。杉下コーチの指を見た王投手は「自分より指が長い選手を見たのは初めてでビックリしました。しかも球を指で挟んで投げるなんて二度ビックリです。教えられたことをしっかり学んでフォークボールを投げられるように頑張ります」と目を輝かせた。
こりゃ案外やりよるバイ
「もはやこれまでか」「序盤の快進撃も夢物語になり果てるのか」とファンはもちろん球団関係者までが何度あきらめかけたことか。8月9日の日ハム戦に敗れて首位の座を明け渡して以来、このままズルズルと落ちていくと見られていた順位のことだ。ところが地元3大シリーズの最後を飾る " お盆シリーズ " 7連戦が終わってもまだ2位につけたまま。あきらめかけていたファンも「こりゃ案外やりよるバイ」と球場に駆けつけ声援を送り、お盆の平和台球場は4日間で10万人を超す観客を集めた。前後期2シーズン制が始まって以来、最高となる観客動員数だった。
シリーズ前半のロッテ4連戦は苦手の村田・八木沢投手を打てず1勝3敗と負け越したが、前期シーズンに勝ち越した阪急相手に連勝して2位をキープ。この踏ん張りをチーム状態が悪い中でやってのけたのが意義がある。後期シーズンのクラウンはやはりひと味違うと周囲に印象づけた。オールスター戦前の7連勝は土井・竹之内・ハンセン・太田選手らベテランの活躍でやってのけたが、お盆シリーズの働き頭は若菜や真弓といった若手野手とリリーフ連投で頑張った永射投手の24歳トリオが中心となった。
特に真弓選手はロッテ戦に連敗した後の3戦目からロザリオ選手を追いやってスタメン出場を果たしたとたんに活躍した。柳川商時代からの同期生でもある若菜選手を二塁に置いて逆転の2ランを放った他にも阪急戦では先制点に結び付く三塁打で出塁すると基選手の三ゴロで生還する好走塁を見せた。基選手が放ったゴロが三遊間に飛ぶと同時に本塁ベースを目指し猛ダッシュした。バックホームの送球を受けて待ち構える河村捕手のブロックを避けるように左側に回り込みタッチを掻い潜ってホームインするという離れ業を演じた。この得点が打線への誘い水となってハンセン選手の13号本塁打や広瀬選手のタイムリーが出て快勝した。
右前三塁打
ロッテに勝てなくても阪急があるさとお盆シリーズで阪急潰しに出たクラウン。先発の古賀投手が打たれて3対3の同点となったが8回裏二死満塁の場面で不調のロザリオ選手に代わり鈴木浩選手が代打に起用された。強振した打球は舞い上がり前進する右翼手・ウイリアムス選手の前にポトリと落ちた。「あんな打球は初めて」と鈴木浩選手は振り返った通り、ワンバウンドした球はイレギュラーバウンドしてウイリアムス選手の横をすり抜けてフェンスにまで達した。記録は走者一掃のライト前三塁打。主軸を打つベテラン選手が不調をかこっている折りだけに、活きの良い若手選手の活躍が目立つクラウンだ。
カネやん「投手のカガミや」
3年ぶりの7連勝で一気にパ・リーグの主役に躍り出たロッテ。ナインの表情も明るくやる気に満ちている。14日のクラウンとのダブルヘッダー第2試合で惜しくも敗れ連勝が止まったが、翌15日に同じクラウン戦で八木沢投手が完封勝利。コーチ兼任のベテランが若手のお手本となる投球を見せるあたりに快進撃の秘密が隠されている。本拠地を持たないジプシー生活で、延べにすると日本列島を縦断するほどの距離を移動している。八木沢投手が勝利した日は東京を離れて15日目。連勝を止められ、移動に慣れている筈のロッテナインもさすがに疲れを隠せなくなっていた。ズルズル連敗をしてもおかしくない危機をベテラン投手が救ったのだ。
これで今シーズン二度目の完封勝利を飾った八木沢投手だが前期シーズンは不運がつきまとった。投げるたびに防御率は良くなるのに勝ち星は一向に増えない。何故か八木沢投手が登板するとバックが足を引っ張った。つまらないところで味方のエラーが飛び出し、打線も沈黙したりと黒星ばかり続くという八木沢投手には気の毒な巡り合わせとなった。それでも八木沢投手は「いやいや運が悪かっただけで誰のせいでもない。根気よく投げていれば必ずいい時が来るよ」とベテラン選手らしく味方を責めることなく黙々と投げ続けた。この完封劇をきっかけにツキも変わろうというものだ。
八木沢投手には以前から不思議なツキがついて回っている。高校(作新学院)時代に春のセンバツ大会で優勝投手となるも半年後の夏の大会で作新学院は史上初の春夏連覇を達成したが、八木沢投手は体調を崩しエースとして投げられず悔しい思いをした。かと思えば早稲田大学に進学後はエースとして三度のリーグ優勝を果たすなど東京六大学野球のエースとして君臨した。高校・大学・プロとことごとく優勝を経験した数少ない選手だけに周囲は「今シーズンの不運は前期の不思議な巡り合わせで終わり。もともとツキに恵まれた選手だから後期は勝ち続けるよ」と威勢の良い声をかける。これには八木沢投手もニンマリ。
我が母校
幾つになっても母校の動向は気になるもの。高校野球の夏の甲子園大会が行われている最中はロッテナインもテレビの前に輪を作ってカンカンガクガク。有藤選手、弘田選手は高知商。飯塚選手は宇都宮学園。岩崎選手は津久見高などなど、それぞれの母校に声援を送った。大会が進むにつれ徐々に姿を消す高校が増えると「オイ、お前の学校はまだ残っているか?」と我が事のように心配する様は微笑ましい。母校敗退が決まった選手は「うん、うん、よくやったよ。負けちゃったけど精一杯ガンバッタから励ましてやらなくちゃ」と甲子園出場が決まった時とは違いシンミリしていた。
ドッコイ生きていた第三の男
第三の男こと村井選手が6日の南海戦でデッカイ殊勲打を放った。8回に代打に起用されると江夏投手の代わりばなの初球を狙いすまし強振すると打球は左翼席に飛び込む代打逆転満塁本塁打となった。この一発で5対3で勝利し、チームは勝率5割になり3位に浮上した。「監督から初球から思い切って狙っていけとアドバイスされていたので好きな内角低目に的を絞って待っていました」と話す村井選手。実はその試合の前の近鉄戦では鈴木啓投手から3号3ランを放ったばかり。いずれも左腕投手からの一発で大沢監督は「そりゃそうよ。村井は対左腕の切り札だもの」と手放しで褒めた。
村井選手は入団4年目で未だファンには馴染みが薄いが、北海高➡電電北海道と若松選手(ヤクルト)の直系の後輩である。性格は向こう気が強く負けず嫌いと若松選手に似ている。昨年は正捕手のポジションを手にしかけたが後期シーズンに入ると急に打撃不振に陥り控え選手になってしまった。更に今年になってからは右足痛風を発症しプレーすることが出来ずベンチ入りすら見送られブルペン捕手になった。最近ようやく病状が回復し加藤・大宮捕手に次ぐ第三の捕手に戻った。もともと思い切りの良いスイングは定評があり、コンディションが万全になりさえすれば正捕手の座に就ける選手である。
大沢監督の留任決定
前期シーズンでの快進撃のお陰か2年契約が切れる大沢監督の留任が早々と決まった。これは8月13日に高松市で開かれた「香川県後援会設立パーティ」に出席する為に高松市を訪れた大社オーナーが記者会見で明らかにしたもの。大社オーナーは「プロ野球の監督は長期にやらなくてはチームは強くならない。大沢監督には来シーズンも頑張ってもらいたい」と語った。その知らせを聞いた大沢監督は「去年より今年の方が成績も良い。私の方針がチーム内に浸透してきた。このチームを更に強くしたい」と飛躍を誓った。
節 酒
9号本塁打を放った永淵選手。あと1本で通算100号になる。「プロ10年目だから年間10本ペースは僕らしい」と自嘲していると古巣の近鉄の加藤投手がツカツカとそばに駆け寄って来た。「最近の永淵さんは打球が遠くに飛ぶようになりましたね。アルコールを断つとパワーが増えるんですか。昔は『酒がオレのパワーの源だ』と言っていたのに」と冷やかした。節酒してから好調を維持している永淵選手は照れ笑いに終始した。