納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
11月20日に開催される今年のドラフト会議。今のところ清原選手(PL学園)一色の色合いを呈している。同僚である桑田投手がプロ入りを拒否し早大進学を希望しているとあって、ますますその色彩を強めている。12球団のスカウト達は「清原は別格」と口にしているが清原の身体は一つしかなく、抽選で外れた球団は他の選手を指名しなければならない。過去には騒がれてプロ入りした選手よりも、ひっそりとプロの門をくぐった選手の方が大成した例は幾らでもある。そんな " 清原だけじゃない " 選手達を紹介する。
◆ 長冨浩志(NTT関東)
父親・隆志さん(51歳)、弟・敏行さん(22歳)が二人揃って銀行マン。長男の長冨は今年の4月に民営化されたNTT関東所属だが、民営化される前は電電公社職員だった。俗に言うお堅い職業に就く長冨家だが長冨のプロ入りに反対はしておらず、本人も「よく伊東(本田技研)と比較されるけど彼は年下だしライバル意識なんてないですね。好きな球団は巨人ですけど逆指名はしたくない。在京のセ・リーグ、阪神、西武に指名されたらプロで力を試したい」と堂々とプロ入りを宣言した。千葉日大一から国士館大を経て現NTT関東に入社して2年目の剛腕投手。高校卒業時にはロッテに3位指名された実力派だ。
「ボールが他人より少し速いだけですよ」と本人は謙遜するが時速 150km を超える速球を武器に1試合平均8個の奪三振を記録する力感溢れる彼の投球は社会人野球速球派ナンバーワン右腕の称号に恥じない。「プロでやれるかどうかは別にして、野球をするからには最高のレベルでやらなくては意味が無い。高野(ヤクルト)や関根(横浜大洋)ら僕と同期の投手が一軍で頑張っている姿を見ると、ヨシッ自分もと思います」とピッチング同様に向こうっ気の強さを滲ませる。「やっぱり僕も長嶋世代ですから巨人が指名してくれたら嬉しいですね。当日を楽しみにしています」と長冨は静かに運命の日を心待ちにしている。
◆ 園川一美(日体大)
今年の日米大学野球では第2戦から5連投して2勝1Sを上げてMVPに選ばれた。加えて貴重な左腕とあってプロのスカウト達は放ってはおかない。横浜市緑区にある日体大野球部の寮には各球団のスカウトが連日のように挨拶に訪れる。園川によると「中日を除く11球団から話がありました。こんなに熱心に誘って頂けるとは自分でも思っていませんでした。大変光栄です」と嬉しさを隠しきれずにいる。「指名してもらえばどこの球団でも喜んで行くつもりです」と話す園川だが、実はプロを意識するようになったのは日米大学野球で活躍してからだという。それまでは教師志望だったそうだ。
「高校の教師になって教え子を甲子園に連れて行くのが夢でした(園川)」と話す。しかし練習が忙しく教職課程の単位が取れずに終わり、教師への道は途絶えてしまった。「ちょっと残念な気もしますが、その分プロで頑張りたい」と力強くプロ入りを宣言した。今秋の首都大学リーグ戦で東海大に敗れた時は「情けない。この程度の実力ではプロでは通用しない。プロへは行きません」と口にした園川だったが、周囲の自分に対する評価の高さに徐々に自信が回復。「安全な道か冒険か。僕は冒険する道を選びます。どこの球団に指名されるのか、ドラフト会議の日を楽しみに待っています」と決意した。
◆ 阪急ブレーブス:清原なんかいらない。欲しいのは即戦力投手
清原には見向きもせず何が何でも即戦力投手が欲しい。西武にパ・リーグ連覇の夢を断たれた阪急の補強ポイントはズバリ投手。何しろ今季の惨敗の原因は投手の絶対的な不足にあることは明らかである。それだけに1イニングでも、ワンポイントでも使える投手を絶対に獲得することが至上命令で即戦力投手を最低でも2~3人は指名する予定だ。ドラフト以外ではヒックス投手に代わる新外人投手も。大リーガー級の左腕を探しに渡米する矢形球団常務に上田監督も同行し球団総力をあげて取り組む。
上田監督は当初は「清原はエエで。10年は四番に困らん」と清原を熱望していたが今では人気のPLコンビの桑田も眼中になく、ひたすら社会人の即戦力投手一本槍。長冨投手(NTT関東)か伊東投手(本田技研)のどちらかを1位指名する予定。当初の1位指名はスピードで勝る長冨投手が有力だったが伊東投手がプロ入りを表明して以降は「シュートを武器にしており変化球のキレも素晴らしい」と藤井取締役編成部長も絶賛するなど現時点では1位指名をどちらにするかは決めかねている。
◆ 日ハムファイターズ:早くも清原に「五番・一塁」を用意している
「ウチは清原で行きます」。鳥取国体終了後に清原がセ・リーグ希望を表明した後も大沢強化育成部長は力強く言い切った。10月30日のスカウト会議で清原、桑田、長冨、伊東、中山ら1位指名候補13人のビデオを見た大沢強化育成部長以下、三沢スカウト課長、丸尾顧問、渋谷・宮本・瓜生スカウト。最終的な絞り込みはドラフト会議前日になるが、この日の会議で1位は清原で行く事が再確認されたと考えてよい。清原のセ・リーグ逆指名に関して三沢課長は意に介していない。
「あれだけの選手は本人の為にも野球界の為にもプロ入りせず社会人や大学に行って、3年ないし4年も遠回りしてほしくない。いずれにしてもウチが降りることはない」と三沢課長はキッパリ。昨季が最下位、今季は5位とチームは低迷し観客動員数が落ち込んだ日ハムにとってスーパースターの要素を持つ清原は是非とも欲しい選手。主砲と期待する柏原選手が2年連続の不振で一塁手のレギュラーは現在未定。清原が入団すれば開幕から「五番・一塁」で、との青写真を高田監督は描いている。
◆ 南海ホークス:ギリギリまで1位指名は決まらないだろう
清原は南海線沿線の岸和田市出身でありチーム最大のウイークポイントである三塁も守れて、打つ方は10年に一人と言われるスラッガーであるだけに南海電鉄本社の幹部は「1位は清原で決まり。他の選手を考える必要は無い」と言い切るが現場はそうでもない。来季から指揮を執る杉浦新監督は「投手を前面に押し出す野球をするにはバランスの良い投手陣が必要だがウチは層が薄い。右投げの一本調子の投手ばかりで左腕もサイドスローも不足している」と言っている。営業面を考えれば本社が考える清原だろうがスカウトも含めて現場は清原一辺倒ではない。
今ドラフトの注目の的である清原。多ければ10球団の1位指名入札が予想されるが、清原本人の今はどうなっているのか?高校野球生活最後の大会となった鳥取国体の準決勝で高知商に敗れた後の進路表明で「第1志望は巨人だけど逆指名はしたくない。巨人だけでなくセ・リーグの球団ならプロ入りしたい。もしもパ・リーグの球団に指名されたら、内定を頂いている日本生命にお世話になりたい」と心境を語った。この清原の表明を受けて10月30日から12球団によるPL学園詣でが始まった。清原サイドは高木野球部長、中村監督、父親の洋文氏。退部届を提出した清原本人も出席は可能だったが授業中でもあり実現しなかった。ドラフト会議後には大忙しとなるであろう清原は野球部の仲間と沖縄へ2泊3日の旅行へ出掛け、残り少ない高校生活を満喫している。
◆ 西武ライオンズ:とにかく、なにがなんでも大砲が欲しい!
広岡前監督の退任騒動でスカウト会議もバタバタして落ち着かないが西武の場合はドラフト候補の選別は根本管理部長に任されており支障はない。過去4年間の広岡政権下での指名選手も根本色の強い人選だった。ことドラフトに関しては監督不在と言ってもよく、今回の広岡前監督の退任要因の一つでもあったチーム編成の権限は根本管理部長に一極集中している。中日から田尾選手を獲得し将来の四番候補の秋山選手も成長したが「外人の大砲を含めて打線の厚みを増さないと優勝を争うチームとは言えないでしょう(根本管理部長)」と今ドラフトは野手中心で臨むようだ。
本命は勿論、清原。問題は清原がセ・リーグ志向が強くパ・リーグの球団を拒否していると伝えられている事。だが清原担当の浦田・鈴木両スカウトは「本人や周りを調査した結果、拒否というほど強いものではない。感触も悪くない。将来性というより即戦力に近く是非とも欲しい選手」と自信の笑みを見せた。ただ気になる情報が西武周辺に飛び交っている。それは桑田投手を西武が指名するかも、という噂話。早大進学を希望している桑田だが浦田スカウトは「(桑田投手に関しては)まだ調査中」と諦めていない。一昨年には桑田同様に進学希望だった仲田秀(興南)を口説き落として入団させた実績があるだけに注目である。
◆ ロッテオリオンズ:地味なドラフトはやめ、果敢に清原に挑む
今から5年前に愛甲選手を1位指名して以降はずっと地味な選手をピックアップしてきたロッテ。だが今ドラフトでは清原の1位指名を決めた。先月30日のスカウト会議に出席した稲尾監督は「清原は即戦力。1位で行くよ」と明言した。稲尾監督は落合選手の一塁コンバートを決めており、落合の後釜の三塁手に清原を抜擢する気だ。球団フロント陣も「今年は話題となる選手を指名したい。落合君と " OK砲 " で売り出したい」と早くも捕らぬ狸の皮算用。その為の契約金には糸目はつけない方針を親会社と確認を済ませた。
問題はくじ運の悪さ。清原には最低6球団の入札が必至な上に、稲尾監督はくじ運にからきし弱いのだ。2年前には川端投手を広島と獲り合ったが、あえなく外れ。「くじ引きの練習をしなくちゃ。でも何をすればいいのか…(稲尾監督)」と今から苦慮している。球団として今ドラフトでは内野手と投手を各2人ずつ、捕手と外野手を1人ずつ指名する予定でいる。ただ清原に集中する球団が多い為、「外れ1位や2位以下がどうなるか全くつかめていない状態(得津スカウト)」だそうだ。もし清原を外したら園川投手(日体大)を指名する予定でいる。
◆ 近鉄バファローズ:清原から即戦力投手へ乗り換えが濃厚
清原で決まりと思われていた1位指名がここにきて微妙な変化が見え始めた。清原のパ・リーグ拒否宣言以降、球団関係者の口から「何が何でも清原」といった強い口調が影を潜め、「ウチのウィークポイントは誰が見ても投手陣」と暗に即戦力投手を指名するかのような発言が増えた。「昨年の佐々木(今季3勝)クラスの投手は確かに何人かはいます。ただし清原君を回避した球団に先に指名されてしまうとクジを外した場合は殆ど残っていないでしょう。じっくりと考えないと」と梶本編成部長は本音を明かさない。
そればかりか「ウチの1位指名が決まるのはドラフト会議前夜、いや一昨年の小野投手の時のように当日の朝に決まるケースもある(山崎球団代表)」とガードは固い。しかし例年以上に補強ポイントが明白であるのも事実で即戦力投手が喉から手が出るほど欲しい。「社会人の長富投手(NTT関東)、伊東投手(本田技研)、大学生の西川投手(法大)、高校生の中山投手(高知商)も1位で消える素材」と梶本編成部長は話す。1位で即戦力投手を指名できれば残る5人は将来性のある投手2人、左の外野手、内野手の指名を予定している。
◆ 横浜大洋ホエールズ:本当は投手が欲しいのだが対抗上清原に…
10月24日の最終戦に勝利して何とか4位を確保した近藤監督は試合後の会見で1年間の総括をこう締めくくった。「遠藤投手のリタイアが痛かった。何が何でも投手陣の補強、若手投手の成長、これらが来季のウチの最重要課題である」と。今ドラフトはこの近藤監督の発言に全てが集約されており、即戦力投手の獲得が至上命令であろう。ただし例外はどの世界にも付き物であり、1位指名は恐らく清原になる筈である。補強すべき投手ではなく野手を指名するという矛盾は大洋球団にとって伝統に近いものであるからだ。
同じ関東圏に本拠地を置く巨人を常に意識し叩く(本来ならは優勝を目指すのが王道だが哀しいかなそれは夢のまた夢)ことで自らの存在意義を示すしかない体質は例えドラフトでも巨人に負ける訳にはいかないのだ。その為の清原指名なのである。だが2位以下の指名はチーム事情を優先する。長冨投手(NTT関東)、中山投手(高知商)、江坂投手(平安)、斎藤投手(青学大)がその候補である。一方で大洋は横浜の市民球団的な色合いも濃いこともあり地元選手志向も強い。その点では荒井選手(日本石油)も外せない候補である。
◆ 中日ドラゴンズ:喉から手が出るほど欲しい即戦力の内野手
中日の1位指名は今シーズンの早い段階で既に決定している。「10年いや30年に一度出るか出ないかの超大物選手」と田村スカウト部長が絶賛する清原だ。11月6日、田村部長と担当スカウトがPL学園を訪れて高木野球部長、中村監督、更には清原の父親・洋文氏も同席した面会で清原の1位指名を確約している。なので中日のドラフト戦略は2位以降の話となるが補強ポイントは順に①内野手②捕手③投手④外野手であるが特に「ウチは内野手が絶対的に足りない」と山内監督も明言しており、即戦力内野手の獲得が至上命令で今のところ「守りだけなら一軍レベル(田村スカウト部長)」と評価が高い広瀬選手(本田技研)が2位指名の最有力候補である。
◆ ヤクルトスワローズ:1位は清原だが伊東の逆指名にも期待
補強ポイントは投手。長冨投手(NTT関東)、伊東投手(本田技研)らをリストアップしているが1位指名は間違いなく清原。「そりゃ文句なし。パンチ力は広沢より上だし意外と器用な選手」と片岡チーフスカウトも絶賛する。10月30日の清原サイドとの初接触も12球団一番乗りの熱意を見せた。ヤクルト球団に対しては選手側からの逆指名も多い。今ドラフト四天王の伊東投手もその一人。片岡チーフスカウトは「伊東投手は変化球の切れ味鋭い投手で即戦力。また中山投手(高知商)は高校の先輩の中西投手(現阪神)、津野投手(現日ハム)より数段上」と高評価。清原を抽選で外したら伊東投手か中山投手を指名する腹づもりだ。