Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 676 ミスタータイガース

2021年02月24日 | 1977 年 



時間を止めることが出来たら…私の念頭からいつも離れぬこの思い…ここにトンネルをくぐり抜け過去の名選手たちが人工芝の上にすっくりと立つ

20年近くの昔を呼ぶ素手の感触
昨年の秋、藤村氏の勤務先を訪ねた。大阪・扇町にある商事会社で彼は「社長付き参事」の肩書で仕事をしていた。還暦を2ヶ月ほど過ぎた藤村が出迎えてくれた。応接室の片隅に真新しい37㌅(約94㌢)の「物干し竿」が飾られていた。聞けば後日行われる『巨人vs阪神OB戦』で使って欲しいと運動具メーカーから贈呈されたものだという。「ありがたく頂戴しました。自宅に1本、会社に1本ずつ置いて、暇を見つけては素振りをしています。ボールペンばかり握っていると掌が鈍ってしまいますから」と藤村は答えた。私は感動した。還暦を過ぎ20年以上も前に失ったバットの感触を言葉は悪いが、たかがお遊びのOB戦の為に取り戻そうとしているのだ。

時を同じくして平和台球場でも『西鉄vs南海OB戦』も行われ私は博多へ駆けつけた。懐かしい面々に挨拶がてら、この試合に備えて練習をしてきたか尋ねた。当然だが彼らは日々の生活が忙しく練習どころか身体を動かすことさえ遠ざかって久しいと答えた。それが当たり前だけに藤村の姿勢というかプロとしての心構えに改めて感服した。「昔の選手は今の選手に比べて練習量は少なかった」という話は定説になっている。この説に私も否定しない。近代野球は練習の量も質も昔とは段違いだ。だが藤村の場合は今、現役でユニフォームを着ていたとしても阪急や巨人の練習に苦も無くついていけるだろう。それは藤村が創意工夫に富んだ思考の持ち主だからだ。


あぁアンモニア、我を助けたまえ
藤村は現役時代、年間50本のバットをあつらえていたが、その保存方法が独特であった。「陽の当たらない場所で陰干しをし、乾燥させてバットの強度を増すようにしてました。それでも他のバットより長い物干し竿はよく折れた。どうすれば強度がより増すのか必死に考えた(藤村)」そうだ。来る日も来る日もバットを乾燥させる方法はないかと考えた。試合中や球場で練習している間はもちろん遂には風呂や便所の中にいる時でさえ考えるようになった。ある真夏の日、便所で用を足していた時だった。当時の日本の便所は水洗式ではなく殆どが汲み取り式で、しゃがんでいた藤村は熱気と充満するアンモニア臭に圧倒された。

「アンモニアを利用できないか」と閃いた藤村は知人を通じて大学教授に相談をしてみた。化学を専門とする教授の返答はアンモニアには木材を乾燥させる作用があるとのことだった。「それだ!」と我が意を得た藤村は家中にあるバットを便所の中に並べた。立ち昇るアンモニアでバットはより乾燥された。ちょうど藤村が46本の本塁打を放った昭和24年は物干し竿を藤村家の便所と球場を忙しく往復させていたに違いない。これだけ探求心のある藤村なら近代野球でも充分に活躍できたであろう。最近のバットは乾燥していないから折れやすいと嘆いている現役選手らはボヤク前に藤村ほどの努力・工夫をしているのだろうか。

信じられるか?この反射神経を
藤村の終身打率は3割ちょうど。「藤村さんの時代は直球とカーブ、シュートくらいで手元で変化する球が全盛の今だったら打てなかったんじゃないかな」と考えている人がいたらそれは間違いである。それは何故か。先ず当時の主戦投手は球種は確かに今よりは少なかったが球威そのものは現代でも充分通用する。杉下(中日)しかり別所(巨人)しかり、真田(松竹)しかりだ。もちろん金田(国鉄)もしかり。速さだけなら堀内(巨人)、外木場(広島)、平松(大洋)らを凌駕する。いま直球だけで抑えられるのは好調時の山口(阪急)くらいであろう。その速い直球を藤村はホームベースの1㍍手前で捉えた。

速球は引きつけるだけ引きつけて右方向へ打て、が鉄則だが藤村は引きつけず手前で捌いた。これは余程の反射神経の持ち主でないと出来ない芸当だ。当時の阪神監督だった松木謙治郎氏は「藤村ほど器用な選手はいなかった。例えば走者三塁の場合と無走者の場合とでは手首の使い方が違った。走者三塁の場合は手首を捻って外野へ飛球を打ち上げ、無走者だと手首を返さずライナーを放つ打ち方と使い分けていた。一見豪快に見えても実に器用だった」と述懐した。更に後輩の金田正泰氏は「ヒット狙いと長打狙いで手首の使い方が違う。真似をしようとしたけど僕には出来なかった。しかも1㍍も投手寄りで捉えるには並外れた反射神経が必要で常人には無理」と。

最後になるが私は打撃の藤村も一流だが守りの藤村も高く評価している。私がまだ新人記者だったある日、藤村がこんな話をしてくれた。「内野手は大きいグローブよりも小さいグローブを使う方がよいと思うよ。大きいとグローブ全体で捕球しようとして雑になる。小さいと掌で取る感覚になって慎重になる。小さいグローブを使う方が守備は上達するし球際にも強くなる筈」と力説した。ところが今のグローブはどうだろうか。昔に比べると押し並べて大きくなり、ポケット部分も改良され捕球しやすくなった。性能の改良といえば聞こえは良いが、要は多少ヘタでも目立たなくなる。現役選手には耳の痛い話ではないだろうか。



# 663 『ライバル』 参照 

# 663 ライバル - Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

「あいつには負けられない」長いプロ野球の歴史にライバル間の名勝負は尽きない。そしてその激突が熱を帯びれば帯びるほど所を変える明暗がくっきりと...

# 663 ライバル - Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

 
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# 675 不気味な野村ホークス

2021年02月17日 | 1977 年 



今季もまた阪急の圧倒的な強さがクローズアップされている。V3へ、そして黄金時代を築く為に足並みの乱れを見せようとしない。しかし、" くたばれブレーブス " の一番手として南海のチーム作りの成功が阪急にとっては不気味に、ファンにとっては力強く…

野村監督が追及した理想のチーム
野村監督とブレイザーコーチの2人による " どうすれば阪急を倒せるか " という命題の結論は「阪急の強力打線と互角に渡り合える打線を作る」だった。しかしそれには一発長打を放てる大砲が門田ひとりという所に2人の悩みがあった。かつては400㌳打線の異名をとり、相手投手を粉砕してきた南海だったがいつの間にか小粒になり威圧感も消え失せてしまった。野村自身も卓越した打撃技術と読みで本塁打を量産してきたが、寄る年波には勝てず今では30本塁打も厳しい。それ故に四番の座も明け渡し六番が定位置となった。そんなチームの推移があっても打倒・阪急には400㌳打線の復活が望ましいという結論に至ったのだ。

投手を含めた守りの野球を標榜する野村監督が打ち勝つ野球を目指すのは意外だが、走攻守バランスのとれた阪急を倒すには打ち勝つしかないと判断したのだ。さて、南海打線は阪急に対抗できるものになったのか?200発打線ともてはやされる阪神のような派手さはないが、オープン戦では走者が出るとチームバッティングに徹して自己犠牲を払い、粘っこく走者を進塁させ隙あらば走る野球が各選手に身についてきた。筆頭が一番打者に定着した藤原だ。「実に嫌なトップバッターだ。簡単に三振しないし読みも鋭い。福本に足では劣るが淡泊な福本より打ち取り難い」と今久留主スコアラー(近鉄)は警戒する。

続く二番の新井も「六大学のテレビ中継を見てセンスの良さに惚れた(野村監督)」と自らドラフトで獲得を進言した才能が芽を吹き、巧打を連発しレギュラーの座を掴んだ。そこに門田、柏原、定岡、桜井らが続けば南海打線も阪急に引けを取らない。そんな南海打線のキーマンとなるのが新外人のピアースだ。そのピアース、現在のところ頼りになるのかならないのかハッキリしない。まとめて3本塁打(13日の阪神戦ダブルヘッダー)したかと思えば、クルクルと三振の山を築いたりどちらが本当の姿なのか野村監督も判断できないでいる。ただ救いは本人が非常に真面目な性格であること。去年のハズレ外人・ロブソンの二の舞だけはなさそうだ。

ロブソンが外人特有のプライドの高さだけ誇示して日本の野球に馴染めなかったのに比べてピアースは素直過ぎるほどの性格の持ち主で、アドバイスに聞く耳を持っている。オープン戦の試合終了後の大阪球場で懸命に打ち込む姿が何度も見られた。27歳の若さで異国の地で一旗揚げたいというひたむきさが伝わる。極端なオープンスタンスからややオーソドックスな構えに改造したのも野村監督や打撃コーチのアドバイスを受け入れた結果だ。ただ内角高目が弱点という点は修正できておらず他球団がそこを突いてくるのは火を見るよりも明らかである。開幕までに弱点を克服できるかが焦点だ。

南海打線が攻略すべき阪急投手陣の柱は山田だ。若き剛腕・山口こそ阪急投手陣の柱であると考える識者は多いが、投手陣の否、阪急ナインの精神的支柱は未だに山田なのである。阪急時代に山田を育て、その性格まで知り尽くす西本監督(近鉄)は「山田という男は非常に気が強い。度胸で投げていると言ってもいいほどだ。その強気な山田が苦手とするのが左打者」と話す。それを野村監督が見逃す筈はなく、両外人(ピアースと前広島のホプキンス)、新井、片平、阪田、新キャプテンに任命された林と左打者がズラリと顔を揃える。野村監督は「山田、足立には左打線で立ち向かう」と宣言する。

野村南海はこれまで「シンキング・ベースボール」つまり考える野球を推進してきたが、頭でっかちになり野球本来のパワープレイが置き去りになっていたようだ。洗練された土台にパワーの肉づけが必要なことを野村監督自身も痛感したようで、再整備された今シーズンの南海は他球団、とりわけ3年連続日本一を目指す阪急にとって脅威となるであろう。金田監督(ロッテ)や大沢監督(日ハム)など他球団の監督はチームは違えど「実に嫌な点の取り方をする。ここで1点取られたら試合が決まるという場面で南海はキッチリ点を取る。むしろ阪急より南海の方がやりにくい」と異口同音に指摘する。このいやらしさこそが野村監督が求める理想のチームなのだ。


随一の強力投手陣を影の部分に…
本記事の冒頭で野村南海は阪急潰しは打力でと述べたが野村監督の本音が打力だけに凝り固まっているわけではない。元々、野村監督は策士ある。捕手というポジション柄、相手の思考を上回る頭脳戦に秀でている。また性格的にもマスコミを通じて自らの意思を伝達させる裏できちんと計算している。なので今シーズンの南海が打力を頼りに戦うと単純に他球団が判断したら痛い目に遭うことになる。むしろ投手力を今まで以上に鍛え上げている。広島から移籍して来た金城が南海投手陣に驚いている。「広島では先発専任は2~3人に絞られていたが南海は幾らでもいる。僕もウカウカできない。たぶん12球団でトップクラスの投手陣だね」と。

野村監督は敢えて強力投手陣を前面に推し出さずにいるが、ざっと列挙するだけでも山内、中山、金城、藤田に左腕の星野を加えた5人が先発グループ。中継ぎは佐々木、池之上。そして抑えはセーブ王の佐藤と盤石だ。しかも昨シーズンは握力低下で戦列を離れていた江夏も今シーズンは復帰できる見込みで、勝利要因の80%を占めると言われる投手力の堅固さは頼もしいばかりだ。松田投手コーチは「みんな調子が良いので喜んでいる。でもここで浮かれてはいけない。開幕の阪急3連戦に向けて盤石の状態を作り上げていかなくてはならない」と言ってのけた。

「阪急との開幕3連戦で負け越すようだと前期は厳しいかもしれない」と野村監督は言う。質量ともに豊富な投手陣を生かすも殺すも野村 " 捕手 " の裁量にかかっている。打撃と異なり自分の指示ひとつでどうにでも細工ができる。捕手兼監督として好不調の見極めや投手交代など難しい判断を求められる反面、やり甲斐は大きいであろう。「監督が捕手であるということで投手は気が抜けない。だから各投手がオープン戦でも丁寧な投球を心がけているのが伝わった」と多くの評論家が南海投手陣の充実ぶりを感じ取った。


野村監督が見つけた阪急の穴とは
昨年の阪急対巨人の日本シリーズを野村監督はスポーツ紙のゲスト解説者として全7試合をじっくりと観察した。マスク越しに肌で感じた阪急と第三者として見つめた阪急に若干の違いがあることに気がついた。「詳しくは話せないが新たな発見があった(野村)」という発言は本当か、ハッタリか。野村監督一流の阪急を攪乱させる話術なのかは定かではないが、なかなかに興味深い発言である。一方の上田監督(阪急)はオープン戦好調の南海について「マークするのはやはり南海。でもキャンプの段階で(阪急の勝ちと)勝負はついているんとちゃいますか」とドンと余裕の構えでいる。

しかし、そうはいっても警戒だけはどこの球団よりも万全の体制を敷いている。上田監督は南海の田辺キャンプに八田スコアラーを派遣し、オープン戦が始まると金田スコアラーも同行させて2人体制で南海をチェックしている。その八田スコアラーに南海の印象を尋ねると「強いですよ。ウチも油断していると足元をすくわれてしまいますよ」と先ずは外交辞令。具体的には「投手陣が相変わらず良い。加えて野手陣も伸び盛りの若手や中堅どころが着実に力をつけている。全体的にチーム力は間違いなくアップしている」と。しかし野村監督は「外野の守りだけが阪急より劣る。あとは五分五分かウチの方が上」とオープン戦の好調さもあって自信を深めている。

ところで現場以外でもバックアップ体制が敷かれている。年明け早々に佐藤、桜井ら主力選手の夫人が中心となって『南海を優勝させる会』なるものを発足させた。くだけた言い方をすると『お父ちゃんに優勝してもらう会』だ。これまでにもシーズンオフに夫人部隊の会食などは巨人でも見られたが、南海の場合はシーズン中に球場に出向いてお父ちゃんを応援するわけだから選手としても「ウカウカできんわい」と苦笑いしている。3月13日には婦人部隊の代表が川勝オーナーと面会して、優勝した暁にはハワイ旅行プレゼントの約束を取り付けた。オープン戦の成績がペナントレースで通用するほど甘くはないだろうが、久しぶりに南海への期待が大きいシーズンだ。
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# 674 スパイ禁止令

2021年02月10日 | 1977 年 



今年からスパイ行為が禁止される。しかし人間というヤツは無理に押さえられると地下に潜ったり、また法の網の目をくぐって新しいことを考え出す。思想弾圧しかりポルノしかり、そしてプロ野球のスパイ合戦もまたしかり。

キャンプ、オープン戦に忍者がウヨウヨ
巨人のオープン戦が行われた球場のバックネット裏ではこんな囁きが洩れている。「ライトはオープン戦で投げさせないってさ。そういえば中日がでっかいカメラを持ち込んで色んな投手の投球フォームを撮りまくっている。わざわざ敵に教材を差し出す必要ないもんな」と。確かに中日の情報収集活動はキャンプ以来しつこい。江藤スコアラー(江藤慎一氏の実弟で元巨人ー中日)が宮崎に半ば常駐して練習や紅白戦を視察してたし、オープン戦では中日新聞のニュース用カメラを使って巨人選手の動きを撮っていた。こうした活動には「阪急から移籍した森本から日本シリーズでは巨人を丸裸にして勝ったと聞いて専門スタッフを編成した(中日担当記者)」という裏話があるそうだ。

そこで巨人は一軍入りテストが必要な若手を中心に登板させて中堅以上の登板を極力減らそうという策を取ったということだ。特に2年目のライトを徹底的に隠す作戦だ。ライトは昨シーズン途中の5月から加入しただけに攻略のデータが少ない。中日としてはライトとヤクルトから移籍した浅野のデータが是非とも欲しいわけだ。中日に限らずオープン戦から各球団はデータ収集に余念がない。もちろん巨人も例外ではなく、巨人はカメラこそ持ち歩かないが小松スコアラーを本陣に各スコアラーが分担を決めて各チームに張り付いている。小松スコアラー自身は中日・広島・阪神を担当し、中日と広島の新外人(デービス、ライトル、ギャレット)を分析中だ。

もちろんスパイ活動の本場はパ・リーグだ。特に阪急と南海はベンチ入りしている全員で相手投手の癖を読んで球種当てをやっている。「はっきりした証拠はないんやが球種当てには懸賞金が出とるらしいで。そやから皆必死にやっとる。オープン戦ではセ・リーグの投手を練習台にしているよ」と在阪スポーツ紙記者は言う。セ・リーグ同士のオープン戦でもスパイ活動は盛んだ。「各チームのレベルが上がって野球の質が向上し戦力が均等化してきたから、あとは如何に上手くスパイするかが鍵になってきている。今年はスコアラーの腕がペナントレースの決め手になるんじゃないか」という意見が各球団の内外から聞こえて来る。いやはや何とも凄まじいスパイ合戦だ。


マスコミを持たない球団が怒った!
公式戦が始まる前からこれほどスパイ合戦が華々しく展開される裏には今シーズンから申し合わせた " シーズン中のスパイ行為の禁止 " があるからという皮肉。その禁止令は大きく分けて ➊スコアボードからのスパイ行為の禁止 ➋テレビや新聞社のカメラを利用したサイン盗みの禁止、に要約される。スコアボードからのサイン盗みはセ・リーグでは広島、パ・リーグでは西宮、大阪の3球場が本場と言われている。昨年8月、阪神はどうしても広島市民球場では投手陣が広島打線を抑えられず勝てなかった。首脳陣はバッテリー間のサインを盗まれているのでは、という疑念が生じて田淵にサインを変えるように伝えた。

だが首脳陣から伝えられた田淵は「僕は相手ベンチやコーチャーズボックスから見えないようにサインを出している。たまたま広島打線が好調な時に対戦しただけではないか。シーズン中にサインを変えると投手の投球リズムが狂う恐れがある」と答えてサインの変更はせずに試合に臨んだが再び広島打線の餌食となった。さすがの田淵も「もしかしたら…」と考え直してサインを変更した。するとどうだ、あんなに自信満々に打っていた山本浩や衣笠のバットから快音が消えたではないか。また広島から巨人に移籍した小俣は教えてもいないバッテリー間のサインを全部知っていて巨人ナインや首脳陣を驚かせた。広島のスパイ活動は群を抜いていたのだ。

一方のパ・リーグではサイン盗みなど当たり前の話で昨年の日本シリーズでは阪急のスパイ行為を警戒した巨人が乱数表を急きょ使用したのは記憶に新しい。今回の申し合わせのうち前述の➊はこうしたサイン盗みをやめようというものだが「自前の球場(広島、西宮、大阪)にはスコアボード内とベンチにワイヤレスマイクを設置してあるから、こっそりやるだろうね」と指摘する関西地区評論家のT氏。➋に関しては阪神が提案者らしい。「セ・リーグの巨人、中日、ヤクルトはマスコミと関係が深い。マスコミと縁のない阪神と大洋は損をしているからテレビや新聞のカメラを利用したスパイ行為はやめようじゃないか、と阪神の長田球団代表が提案したんですよ」と関西地区記者が明かした。

マスコミ関係者はこのスパイ協力説を強く否定するが、系列のマスコミを持たない球団としては否定したからといってハイそうですか、と納得するわけにはいかない。バックスクリーンの横から800mm、1000mm といった大砲のような望遠レンズを向けられては内心穏やかではない。そこで捕手がサインを出す場面は映さないとなったのだ。マスコミとしてはファンに少しでも臨場感のある映像を届けたいが、「李下に冠を正さず」「瓜田に履を納れず」の姿勢でこの要望を受け入れた。しかし禁止されればそれ以上に頭を捻るのが常道で今年のスパイ合戦は例年以上に複雑かつ巧妙に行われるのではないかと今から危惧されている。


球場対策から応援団の利用の虚々実々
昨シーズン後楽園球場で散々な目に遭い1勝も出来なかった中日はオープン戦の営業者会議で頑張って後楽園球場での日ハム戦を2試合組み込んだ。球場入りすると直ぐに与那嶺監督以下スタッフ・選手全員で人工芝のグラウンドを隅々まで再チェックした。打球のライン際の転がり方や外野のクッションボールの跳ね返り方まで。その成果かどうか日ハムに連勝して気勢を上げた。相手が巨人でなかろうと後楽園球場で勝って人工芝コンプレックスを解消しようと全力を尽くしたのだった。

「デービスの足は人工芝でより一層の威力を発揮できることが分かった」と中川球団代表は一連の成果に胸を張った。つまり硬い人工芝だとデービスの足がより生きると分かり、ナゴヤ球場では一・二塁間にある細工を施しているという。何度もローラーをかけてカチカチに固めている。そうすることでスパイクの爪が地面にかかって走りやすくなるわけだ。かつてデービスとモーリー・ウイルスが健在で揃っていた頃のドジャーススタジアムのアンツーカー部分は強固に固められていたのをそのまま踏襲したのだ。

「春のキャンプで後楽園球場のマウンドそっくりのブルペンまで作った中日だから、それくらいやるのは当然でしょう」と中日担当記者は言う。マウンドといえば巨人は他球団から何と言われようが現在の裾野が狭い急角度のマウンドを変えるつもりはないようだ。小林を除く先発陣と若手の全員が上手投げで統一されており、その投げ方に合った型のマウンドをわざわざ直す馬鹿はいないだろう。またパ・リーグでは来年に人工芝に改修される西宮球場にどんな仕掛けが施されるか注目されている。

「そんな小細工をしなくても阪急の実力は暫くの間は日本一やぞ。地の利を生かして益々強くなってパ・リーグはもっとつまらなくなってしまう可能性が高まるが仕方あるまい」と阪急担当記者。他にも広島市民球場は一昨年に続いて機動力作戦を展開する為にグラウンド全体を硬くする作業をしている。自軍に有利になるものは何でも使うようで、広島・南海・近鉄は相手チームに向けるヤジを強化してくれと私設応援団に申し入れまでする事態になっている。今シーズンはセもパもファンの声まで動員する虚々実々の1年になりそうだ。
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# 673 長嶋野球を探る ②

2021年02月03日 | 1977 年 



:東京中日スポーツ  / :日刊スポーツ  / :サンケイスポーツ


加藤初の穴が埋まるか巨人投手陣。気合十分・堀内、刺激剤・浅野と若手
:一方の投手陣はどう?加藤初が病気で出遅れ必至だから影響が大きいはずだけど。
:柱の堀内が好調なのが救い。特に南海戦で見せた好投がネット裏を驚かせた。変化球に頼らず
  真っすぐ中心の投球はここ数年なかった堀内らしさが出ていた。小林に奪われたエースの座を
  奪い返す気満々だ。

:その小林だが昨シーズンの成績(18勝8敗)が出来過ぎと言われるのがよっぽど悔しいのか
  やる気が凄い。まるでルーキーのように身体作りからやっている。

:一軍枠は9人か10人。それを12人が争っている。開幕までにライトが戻って来るし、新外人も
  投手という話もあり競争は増々激化する。

:ヤクルトから移籍した浅野の加入は大きい。これで加藤初の穴は何とか埋まりそう。
:若手3人(西本・田村・定岡)は今一つ伸び悩んでいる。西本は肩を痛め、田村は制球力不足、
  定岡は球質が軽くて長打を浴びやすい。期待していた長嶋監督も頭を悩ましている。

:新人の藤城が良いのか悪いのかハッキリしない。ノンプロ出身なので実戦向きという声もあるが
  実力の程は未知数。

:僕は若手3人衆よりは藤城の方が活躍できると思っている

巨人のアキレス腱を狙う5球団。長嶋監督は密かに機動力野球の飛躍を期す
:去年は優勝した巨人だけど圧勝したわけではない。他球団の監督は長嶋野球は倒せると考えている。
:戦力的にも巨人は去年より落ちている
:巨人御し易しと思っている監督が多いのもそれが理由
:カギを握るのは中日だよ。とにかく去年は後楽園球場で1つも勝てなかった。人工芝アレルギーなんて
  言われたけど今年はそれを払拭できるか注目だね。

:目玉はデービスか?
:デービスに対する気の遣いようは半端ない。デービスが走りやすいようにナゴヤ球場の一・二塁間の
  土を硬く整備し直したと聞いている。

:内野だと二塁、外野だと左翼が狙われる可能性が高い。
:弱肩張本の所へ飛んだら走者は躊躇なく走るよ。レフト前ヒットが二塁打になるケースが増えるかも。
:ジョンソンの穴は大きい。打つ方はともかく、守りは安定していたからね。
:広島は投手陣が整備されて打撃陣もホプキンスの退団は痛いが山本浩や衣笠は元気で上位を狙える
:優勝を逃した阪神ナインも燃えている。吉田監督は長嶋監督と同じく3年目なので今年は負けられない。
:人気も実力も掛布に抜かれた田淵のやる気がここ何年も見られなかったくらい凄い
:まぁ、いつまでやる気が続くか見もの。田淵は毎年のように「今年は違う」と言う常習犯だから(笑)
:田淵はともかく投手陣は整備されてる。コントロールが抜群で『左の小山』と評判の益山が通用すれば、
  山本和と2人で巨人の左代打陣を封じられる。そうなると巨人も苦しい。

:ヤクルトも巨人の左対策用に小林、梶間、寒川の3人をワンポイント用に準備している。この作戦が
  成功すれば安田も含めた左腕カルテットで対抗する。


巨人包囲網に対する長嶋監督の秘策は?
:今年の巨人に何か新しい㊙作戦はあるのかね?
:従来の攻撃力にプラス足技かな
:バントエンドラン、ヒットエンドラン、そこに今年は盗塁。これは期待できる。
:やはり松本の加入が大きい
:あの脚力は本物。さすが六大学の記録を塗り替えただけのことはある。繰り返すが問題は打撃力。
:松本のせいで目立たないけど二宮の足も相当だと聞く
:二宮に関して長嶋監督の期待は松本以上。野球センスは抜群で足だけでなく守備範囲は広いし肩も強い。
  高田の再来だとの評判だ。

:去年は初回からでも代打を起用したけど、今年は代走を繰り出して走らせるケースがあるかもしれない。
:V9時代に柴田、高田が走りまくって勝利に貢献した。足を使った野球をするとチームに活気が出て
  チーム自体が若返った感じになる。

:活気という意味ではキャンプ、オープン戦を通じて故障者が殆どいなかった。淡口が軽い肉離れで
  2~3日、練習を休んだくらいで沈滞ムードとは無縁だった。

:それには裏付けがあるんだ
:どんな?
:あまり知られていないけど長嶋監督は今年のキャンプから全選手に練習後のマッサージを義務化
  している。これまでベテランは受けていたけど、中堅や若手は億劫がってやらなかったが今では
  全員に徹底化させている。トレーナーが言うにはそれが故障者が減った要因じゃないかって。

:キャンプが終わっても続けるのかな?
:シーズン中も続けるそうだ。このマッサージも㊙作戦の一つかも。
:勝っても負けても話題の中心は今年も長嶋巨人に変わりはなさそうだ
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