Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 633 奇妙な三角関係 ➍

2020年04月29日 | 1976 年 



" ルール違反ではない " では通らぬ
仮に原選手が巨人入りしたらどうなるのか?もちろん巨人は万歳三唱するくらい大喜びするだろう。道義的云々は後で述べるとして、原選手ほどの素質のある、しかも絶大なる人気を兼ね備えた選手に巨人のユニフォームを着せたら後楽園球場は満員御礼の日々が続くであろう。あと1万や2万人多く収容できる球場に作り代えてもお釣りがくる。人気だけではない。魅力なのはホームランバッターではなく確実性の高い中距離バッターである点だ。身のこなしも軽快で三塁手としてプロでも十分通用する。長嶋の後継者としてこれ以上ない選手なのだ。だが巨人以外の球団関係者やマスコミは一斉に巨人を非難することになるであろう。

「巨人軍は自ら球界の盟主を任じながら、その秩序を自分の手で破る暴挙に出た。その責任は計り知れない」
「荒川選手(ヤクルト)のようにダーティなイメージが付いてしまう」
「原も原だ。親子して大学進学を発表しておきながら急に態度を変えてプロ入りするとは何事だ」
「いや、これも全てドラフト制度が生んだ悲喜劇だ。悪いのは原選手ではなく制度だ」
「プロ野球はルールに則っての商売だ。少なくとも原選手はルールを破ってはいない」

ざっとこうした声が上がるのは予想できる。その結果、巨人を処罰すべきという声が他球団から上がるであろう。しかし厳密に言えば巨人はルールを破ってはいない。他球団が指名した選手を強引に横取りしようとしているわけではない。大学進学するだろうから巨人を含めた全球団が指名を見送った。しかしドラフト会議後に原家の事情が変わったとか、酒井投手(長崎海星)がヤクルトに指名されたのに触発されてプロ入りに気持ちが傾いたとか理由はどうあれ、自由獲得対象選手がドラフト外でプロ入りするのに何の問題もなく、問題があるとすれば道義的責任だけである。

「そんな暴挙がまかり通るのならドラフト制度など止めてしまえ」などの声が球界内外から沸き起これば巨人とすれば思う壺。ペナルティどころかありがとうとお礼をしたいくらいだろう。いずれにしても巨人としたら一時だけ各方面からの非難の声に耳を塞いでひたすら沈黙を守れば時間と共に騒ぎは収まる。あれほど大騒ぎとなったロッキード事件ですらまだ幾らも経過していないのに世間は忘れ始めている。ケシカランと怒ったところで一般大衆の怒りや記憶はその程度のもである。ただし原家や東海大学は巨人とグルになって大芝居をしたとして風当たり強まるだろう。更には高野連も巻き込んでアマチュア野球界は大混乱するかもしれない。



田淵・大北にまつわる巨人謀略説
実は巨人のこうした動きは初めてではない。今から8年前、法政大の田淵選手は「巨人以外にプロへは行かない」と宣言した。しかし指名したのは巨人より指名順が先の阪神だった。阪神はあの手この手で交渉を試みたが既に巨人と裏交渉が進んでいた田淵は拒否。しかし如何に巨人でも他球団が指名した選手を横取りは出来ず事態は膠着状態に。「どうしたらいいのか…」思い悩んだ田淵が巨人スカウトと密会している場面が暴露され、田淵・巨人双方に非難が集中した。結局、田淵は大学の先輩などの助言もあり阪神入りした。

今回の原選手と似たケースだったのが大北選手(高松商)の場合だ。中西2世と呼ばれたスラッガーで12球団がリストアップしていたが本人・家族・学校が揃って進学を表明し各球団は指名から撤退していった。中日は西村ヘッドコーチが高松商の先輩でもあり最後まで熱心に口説いたが進学の線を崩せず指名を諦めた。その裏で動いていたのが巨人だった。11月9日、ドラフト会議が開かれ巨人が2巡目で大北選手を指名した。大北選手に進学のアドバルーンを上げさせたのが巨人だったのだ。会場の他球団は驚いたが時すでに遅し、まんまと巨人が12球団注目のスラッガーを手に入れた。

この時は高松商OB会が大北選手の除名騒ぎにまで発展したが、ルールに違反していない巨人には何のお咎めも無かった。今回の原選手はこのケースと似ている。では今回も巨人が裏で動いているのか?大洋の平山球団常務は否定する。「あれほどの声明を出しているのだから進学で決まりでしょう。もしこれがひっくり返るようになったら原親子は勿論、松前総長への非難は相当なものになるでしょう。松前総長といえば各方面で影響力を持つ人物で裏で巨人に肩入れしていたとなれば、その地位や名声を失いかねない。そんな危ない橋を渡るとは思えない(平山)」と語る。

ではひとまず原選手を東海大学へ進学させた後に、すぐに退学させて巨人入りさせる裏技はどうか?これは明らかなルール違反で、この場合はコミッショナーが全球団に対し原選手が中退した旨を通達し、入団交渉を希望する球団が複数あった場合は抽選を行う規定が定められている。となると残された方法は原選手自身がどうしてもプロ入りしたくなったと前言を撤回し、東海大学側も本人の意思が強固であり不本意ながら入学は諦めると言う他ない。「もしそうなったら巨人はフェアじゃない(鈴木セ・リーグ会長)」「全国の野球ファンを裏切る行為(阪急・渓間代表)」「ドラフトの意味がなくなる(南海・森本代表)」等々、大騒動は必至である。
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# 632 奇妙な三角関係 ➌

2020年04月22日 | 1976 年 



松前総長の遠大な構想の旗手へ
「東海大学は高校・大学と一貫した教育を方針としている。東海大の付属校の生徒は推薦で大学へ進むことが普通です。他の大学へ進学する生徒以外はもう東海大学に入学したのも同然なのです」11月24日の会見で松前総長は断言した。何としても原親子を東海大学に迎えたいと考えている松前総長とはどのような人物なのか?松前重義氏は東北大学出の元通信院総裁で元衆議院議員、現在は社会党の顧問である。今年にロッキード事件が起きた後に社会党・江田三郎氏、公明党・矢野絢也氏、民社党・佐々木良作氏らと『新しい日本を考える会』を結成し座長を務める一種の政界フィクサー的存在である。

その松前総長には政治とは別に東海大学を更に大きく格式のある総合大学にしたい夢がある。その一環で先頃、最後の学部として医学部を創設したのもその為である。またスポーツによる建校という精神から東海大学が所属する首都大学リーグの一層の繁栄にも力を注いでいる。「松前氏は5年ほど前から貢氏を大学野球部に誘っていた。また忙しい中、暇を見つけてはリーグの本拠地の駒沢球場へ行き試合を観戦し将来的には駒沢球場を3万人収容のものへ作り替える構想もあるらしい」と担当記者。先ずは貢氏を監督に迎えてチームを強化し、ゆくゆくは全国各地の有力選手を入学させて大学野球界に旋風を巻き起こす野望を持っている。

その第一歩として原親子は何としても手放したくない。「東海大学から原家にそれ相応の支度金が出た筈ですよ。プロへ行けば5千万円の契約金は確実な選手だけに当たり前の話だと思います」と某球団スカウト。例え将来はプロ野球で身を立てるにしても大学教育を受けてからでも遅くはないという原家との考えとも一致する。松前総長は「原君が野球選手として生きていくのか、或いは学苑の徒として才を伸ばすかは分かりませんよ。なのにどうして皆さんは学業半ばの青年に今プロへ行くのが原君にとって最良の選択だと書き立てるのですか?」とマスコミに対して苦言を呈した。



ポスト王貞治へ天性のスター性と素質
巨人軍の原選手獲得熱は想像を絶するものがある。そこまで固執する理由とは何か?正力オーナーが提唱する「巨人百年の大計」によれば原選手は何が何でも獲得しなければならない人材であるのだ。将来の巨人軍を背負って立つだけの力と素質を持っている。ドラフト制がなければ例え何億円を積んでも入団して欲しいと公言する。過去、田淵や山口、江川など欲しい選手を獲得できなかった。それだけに自由獲得対象となった原選手をどんな手段を駆使してでも獲りたいと思っても不思議ではない。やがては現役から退くであろう王選手の後釜が何としても必要なのだ。

「長嶋君が引退した時に第一の危機が訪れた。しかしまだ王君がいた。その王君が引退したらどうするか。それは4年も5年も先の事だろうが巨人軍は常に長期的視点でチーム作りをしている」と正力オーナーは言う。ポスト王を一日でも早く確保する必要がある。長嶋監督は原選手について「原君は僕の高校時代と比べても遥かに素晴らしい選手。しかも天性のスター性を兼ね備えている。ポスト長嶋、ポスト王として数十年に一人の逸材ですよ」と熱く語る。原選手を三塁手に起用し遊撃手の篠塚選手と三遊間コンビを組ませ、これに王・張本らのベテランを絡ませれば黄金時代を続けられるという計画である。

原選手が大学に進学しても4年後には今と同じく獲得に動くがドラフト制度がある以上は巨人に入団する確率は十二分の一。巨人が原選手を確実に獲得できるのは自由競争になった今を除いてはないのだ。それだけに巨人軍としては道義的に世間から非難を浴びようが形振り構わず獲得に動いているのだ。ドラフト会議前のスカウト会議で一応は指名して交渉権を得るのが良いのでは、という意見も出た。しかし出来レースではと痛くもない腹を探られるので、自由獲得選手になってから交渉に入るのが得策であるとして指名は見送られた。ドラフト会議後の正力オーナーの「手は打ってある」という発言はこうした球団内の意思決定の経緯を指していたのだ。

更に一部スポーツ紙が記事にしたアマチュア球界の大物・X氏にはドラフト会議前に下交渉の依頼は確かにしていた節は有る。ただし巷間言われているような密約とか謀略の類ではなかった。密約とは松前総長の長男・達郎氏(九州東海大学長)が来年の参議院選挙に出馬する際には読売グループがバックアップするというもの。しかしこれは現実的ではない。大手マスコミがいち政治家を応援するなど有りえない話だが、いかに巨人軍が原選手を欲しがっているかを誇張してそんな噂話が独り歩きしたようだ。巨人は松前総長の断にもかかわらず12月の総選挙後に正力オーナーと松前総長の会談に望みを賭けている。果たして逆転満塁サヨナラホームランなるか注目である。
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# 631 奇妙な三角関係 ➋

2020年04月15日 | 1976 年 



二軍に行くならオレが鍛えてやる
原家ではこの1年間は生涯最大の悩める期間だった。一つ目は父・貢氏の去就であり、二つ目は言わずと知れた原選手の進路だった。貢氏は度重なる大学野球部監督就任要請を断り続けてきた。「原監督は口を開けば、オレは高校野球の監督であり続けたいと言っていた」と担当記者は言う。福岡県の三池工を率いて甲子園全国制覇を成し遂げ、松前総長に乞われて東海大相模高を全国屈指の強豪校に育て上げた。その手腕を松前総長は首都大学リーグで発揮させたいと東海大学野球部の監督就任を要請したのである。恩のある松前総長の要請だけに貢氏も悩んだ。大学には大学を取り巻くOBや組織があり、そこへ単身乗り込んで思い通りの仕事が出来るのか。

悩んだ末に出した結論は監督就任受諾だった。8月下旬の事だった。残る問題は原選手の進路。貢氏は常々「プロへ行くのもいい。しかしプロになるという事は野球で一生の身を立てる事だが現在の辰徳の力では一軍では通用しないだろう。2~3年ファーム暮らしとなればファーム組織と指導力が確立しているチームでなければならない。だとすればプロへ行くなら巨人が最適だと考えている」と話していた。また母・勝代さんは「野球で生活するか別の世界で生きていくのかを18歳で決めなくてもいいと思う。息子には好きな道を進んで欲しいけど、決めるのは大学で判断力を高めてからでも遅くないと思います」と。

では肝心の原選手はどうなのか?本人は終始一貫してプロへ行くなら巨人へという希望を持っている。「子供の頃から長嶋さんのファンで巨人ファン。今年の阪急との日本シリーズも後楽園球場で観戦しました。あの0対7の劣勢からサヨナラ勝ちした第6戦です。あれでまた惚れ直しました」と原選手。だが一時は巨人以外の中日や阪急、大洋、ヤクルトもいいと思っていた時期があった。18歳の野球青年の気持ちをいかにプロ球団側が揺り動かしていたかを物語っている。ただし原選手という青年は父親の立場や生き様をジッと観察もしていた。父親は余り気の進まない大学野球に身を預けるのだ。それが禄をはむ者の信義なのだ、と感じている。

父は気乗りしない大学野球の監督を引き受けると決めたのだ。息子である自分も父と一緒になって今はまだ東京六大学リーグと比べてマイナーな首都大学リーグを繁栄させる為に頑張ろうと決めたのだ。「巨人は大好きです。その巨人が僕を誘ってくれて本当に嬉しいです。でも進学することにしました。4年後に再び求められたら最高だと思います。どうしても来てほしいと言われるような選手になれるように頑張ります」と原選手はキッパリ言い切った。貢氏は「私どもの進路は決まりました。ハッキリ態度を明言してプロ球団の方々に迷惑がかからないようにしました」と原親子の進路を表明した。



原番記者の苦しく長~い一週間
11月19日、ドラフト指名漏れによって生じた " 原騒動 " 。プロ入りを拒否しているにもかかわらず巨人が獲得声明を出すと、負けじと広島も古葉監督が獲得の意思を表明するなど対抗意識をメラメラ。元々が巨人志望だった原選手だけに巨人からのラブコールに拒否宣言との板挟みに。ドラフト会議後の一週間は生涯一の長い時間であったろうが同じく、否それ以上に担当記者にとっても長~~いものだった。翌20日には巨人・淡河コーチ補佐が神奈川県相模原市の原家に長嶋監督の親書を持参した事が明らかになると、スワ一大事とばかり担当記者は殺気立ち、各マスコミは急きょ東海大学周辺を張る記者と原家をマークする記者の分担制を整えた。

「原君は巨人のユニフォームがよく似合う。中日でも阪急でもないんだ。僕の後を継いでもらう選手なんだ。僕は君を待っている」という長嶋監督の " ラブレター " に対して両親共ども感激に浸って「大変名誉なことです」とコメントを発表したが、世間に対して嘘はつけない。11月16日に各マスコミを前にして「どんなことがあってもプロへは行きません。東海大学に進学します」と宣言した手前、長嶋監督のラブコールを原家として受けることは出来ない。巨人からの誘いは嬉しいが前言を翻したら原家の信用も東海大学のメンツも失うことになる。巨人には行きたいが記者会見で発表した以上、それは出来ないという結論を23日に出した。

結論が出るまでの間、記者には上司からの矢のような催促が止まらない。「本当に大学進学なんだな?巨人入りは100%、いや1000%ないんだな!」というしつこい詰問に「そんなに疑うのなら自分で調べろよ」と記者達は辟易としていた。東海大・松前総長も「何故巨人は進路が決まった者を獲得したいんだろうか?誰が来ようがダメものはダメです」と巨人の対応に不快感を表した。25日には松前総長と貢氏が会談し原選手の東海大学進学を再確認して事態の収拾に努めた。だが一方の巨人は相変わらず「何としても欲しい。(12月5日の)総選挙の後に松前氏に会いたい(正力オーナー)」と諦めきれない様子。しばらくは巨人・原家・東海大学を巡る神経戦が続きそうだ。


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# 630 奇妙な三角関係 ➊

2020年04月08日 | 1976 年 



高校球界最大のスター・原辰徳選手の名がドラフトでは除かれた。しかしその後、巨人軍が密かにアタックして大騒ぎ、東海大学松前総長の記者会見にまで及んだこのミステリーじみた騒動は果たして落着したのだろうか?

宣言し続けたプロ入り拒否
プロ入り拒否、東海大学進学を決意
4日後にドラフト会議を控えた11月15日、相模原市東林間の原家で家族会議が開かれた。これは翌16日に予定されていた父親・貢氏の東海大学野球部監督就任発表までに原選手の進路をハッキリさせる為の家族会議だった。実は東海大学の松前総長から「原選手の態度が曖昧ではプロ球団に迷惑をかけるので監督就任発表までに進路を決めておくように」と事前に言われていた。結論は大学進学だった。「現状では二軍で2~3年は鍛える必要がある。ならば私が自分で鍛えるのが賢明なのではないか(貢氏)」という理由の他に「希望する巨人以外の球団に指名されて拒否した場合、世間を騒がすだけだ」という配慮もあった。

東海大学進学を正式表明
11月16日、東京・霞が関ビルにある東海大学校友会本部で原貢氏の大学野球部監督就任が発表された。発表自体は早々に終了し、集まったマスコミの関心は原選手の動向に。記者からの質問に貢氏は「息子の辰徳、津末・村中の両君の進学も決まりました」「彼らのプロ入りは100%ありません。この場に相応しい話ではありませんが、プロ球団の方々に迷惑をかけてはいけないと思い発表させて頂きました」と語った。この発言を受けて原選手を上位指名にランク付していた巨人、中日、阪急、日ハム、ヤクルト、大洋などが東海大相模高に確認を取った。これで今回の原選手のプロ入り騒動は一件落着したと思われた。

ドラフト会議で原選手は指名されず
11月19日、東京・九段のホテルグランドパレスでドラフト会議が行われた。5巡目終了時点で原選手は指名されず、残すは6巡目のみ。「どこかの球団がダメ元で指名するかも。巨人が黙って見逃すはずはない」という予想は外れ原選手は指名されなかった。これにより原選手はドラフト外の自由獲得対象となった。ドラフト会議終了後、記者に囲まれた長嶋監督は原選手の話題になると「オーナーにお願いして原選手と交渉してもらう。あれだけの選手を放っておく手はないでしょう」と発言。大手町の球団事務所では「長嶋君がもう喋ってしまったのかね。獲得交渉に乗り出しますよ。自信は半々だが既に手は打ってあるんですよ(正力オーナー)」と。

正力オーナーの「手は打ってある」発言で原騒動は一気に火が点いた。密約説や大芝居説が流布しマスコミは大騒ぎに。これを受けて原親子が東海大相模高で会見し「4年後にお願いします。大学へ進学すると決めたのですから、例え巨人でも絶対に行きません」と密約説を否定した。19日午後8時過ぎ、巨人軍の中尾スカウトが電話で原家に挨拶をし、入団交渉をしたい旨を申し入れたが貢氏は断った。11月22日のスポーツ紙で前夜に長島監督から原家に親書が届けられたと報じられた。


巨人軍が大物X氏に仲介を依頼したという報道が
同じ日の別のスポーツ紙に巨人がアマチュア球界で影響力を持ち、東海大学・松前重義総長とも近い人物のX氏に仲介を依頼したと報じられた。先ずは松前氏と接触し交渉の突破口を開く戦術だ。取材に対してX氏は「2~3日後には原君の巨人入りが決まるだろう」と自信満々に語ったという。これら巨人サイドの動きに関して原家は終始一貫して「進学に決めました。プロへは行きません」と強調。11月23日、松前氏は関西講演からの帰路中に記者の質問に対して「原選手は東海大学進学が決まってる。誰に頼まれても巨人に入れることはしない。世間に公表した進路を今になって変えるなんて有りえない」と松前-正力会談を否定した。

松前総長が重ねて記者会見
11月24日、東京・霞が関ビル33階の東海大学校友会で松前総長が会見を開く。「東海大は高校と大学を一貫教育する為の学校で、原選手・津末選手・村中選手は学校推薦で進学が決まっていてプロ入り、巨人入りはありません」更に「もし仮に原選手がプロ入りしたら一体あの会見は何だったのか。前言を翻したら大変なことで大問題ですよ」と。そして今現在、巨人サイドからのアプローチはないと明言した。ここで記者から巨人から接触を求められたらどうするのか、と問われると「申し込みには礼儀として応じます。でも今、私が申し上げた内容を繰り返すだけです」と言い切った。

あくまでも原選手の巨人入りは有りえないと強調した。再度、記者が確認をすると「もし原選手を巨人入りさせたいなら私を殺さなければダメです。仮に天皇陛下が来られてもダメです(松前)」と。その夜の原家ではまだ記者が詰めかけていたが「松前総長もハッキリおっしゃっていたでしょう、私どもは最初から進学でプロ入りはしないと申し上げていました。これで今回の騒動から解放される事を望みます(原貢)」と安堵の表情。しかし巨人サイドは未だ諦めきれないようで、同日に東京・池袋の西武百貨店で開催されている『ジャイアンツ展』に出席した長嶋監督は「原君は僕の高校時代より優れた逸材です。まだ諦めませんよ」と語った。
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# 629 週間リポート・読売ジャイアンツ

2020年04月01日 | 1976 年 



「男は黙って」かそれとも…
兄弟分・新浦と堀内が好対照の男の勝負
「オレとしたことがこう何時までもモタモタしていたらカッパ(新浦)を肴に出来なくなるよ。トホホ」堀内投手は弟分の新浦投手が好投してもKOされても話のネタにする。先日、広島戦で新浦が完投勝ちした時も「この冷え込みが好投の原因だな。だってカッパの頭が熱くなって頭の皿の水が蒸発しなくてすむから」「いいピッチャーだよ。まぁ年に一回こっきりの事だけどな」「これで明日は雨だな」など色々言うが、とにかく堀内は新浦が可愛くて仕方ないのだ。舎弟分として昨秋から自主トレで面倒をみた間柄だ。だからこそ歯の浮くような言葉はかけられない。悪口にかこつけて大いに祝福しているのである。

新浦が不調でも言いたい事を言って口の体操をする。ただ思いっきり言えないことが難点で、ついでに自分の好不調が気にかかってくる。「自分の調子が良い時は何でも言えるけど悪い時はダメだよな。口の調子も狂ってしまうよ」と。で、阪神戦で2人が仲良くKOされた翌日、堀内は「あの野郎なんでもかんでもオレの真似をする。そのへんが頭悪いんだよな。まだまだオレの域には達していない」と自分も負けた事は棚に上げて言いたい放題。一方の新浦はまんじりともしない夜を過ごしたが杉下投手コーチに「今日もう一度投げさせて下さい。気分をスッキリさせないとことにはどうにもなりません」と再登板を申し出た。

直訴された杉下コーチは「おっ、欲が出てきたな」と喜んだが、投げさせてはみたが結果によっては逆に気分を落ち込ませることにならないかと思案中だ。新浦は堀内とは違ってマスコミ受けするような対応はしない。「今年はKOされたら何も喋らないようにしたんです(新浦)」と。それだけ今季に期すところが大きい。一方の堀内は喋ることで自分にも敢えてプレッシャーをかける。好対照の2人。「方法は違っても自分をコントロールして気分転換を図るのは大事。それが一流投手の一つの条件なんだよ」と杉下コーチ。男は黙って黙々と投げるか、軽口を叩いて自らを鼓舞するか、行程に違いはあれど勝負に勝つという最終目的は同じだ。



ナヌ!皿を洗って指切った?
ああ、またも失態やらかした問題児・ライト
「本当にアイツは手を焼かせるよ」と杉下投手コーチは怒ったり嘆いたり。ライト投手がまたも問題を起こした。今度は我がままではなく怪我だから仕方のない部分もあるが、大事な左手人差し指を切ってしまった。登板予定だった9月14日の阪神戦の試合前に「ゆうべ皿を洗っていたら切ってしまった。今日は投げられない」と申し出た。なんで皿洗いなんか、と言っても後の祭り。仕方なく加藤投手を1日繰り上げて先発させて急場をしのいだ。某コーチが発した「ジョンソン選手みたいに食器洗い機を球団が支給すればよかったのに」の発言が思わぬ方向に。実は食器洗い機はジョンソンが自腹で購入したのだが、それを聞いたライトが「オレも欲しい」と言い出して一悶着に。

ライトの問題行動には前科が。7月には川崎球場で大暴れ、8月には税金問題でゴネて、9月の初旬には「背筋が痛い」と試合直前に言い出してヤクルト戦の先発を回避とあるわあるわ。なので指の怪我も嘘じゃないかと疑う者もいたが確かに指先は切れていた。「怪我は仕方ないですよ。当分の間はライトを外して8人の投手陣でやり繰りしますよ」と長嶋監督。二軍から期待の若手・西本投手を昇格させる案も出たが次期一軍昇格登録日は19日でそれまでは8人で乗り切らなければならない。「台風で雨天中止を予想して阪神戦の為に早めに遠征先から東京に帰したのに…」と杉下コーチもガックリと肩を落とした。

ライトは家族が5日に帰国して今は1人暮らし。皿洗いをする必要もあっただろうが「投手なんだから何をするにも商売道具は細心の注意を払ってくれなきゃ困るよ。国民性の違いかね、本人はケロッとしているんだから」と杉下コーチは不満顔。加藤が繰り上げで先発した影響で2戦目も小林投手が1日繰り上げ登板とローテーションも狂ってしまった。これにはライトも「チームに迷惑をかけて申し訳ない」と長嶋監督に謝罪したが影響はしばらく残りそうだ。王選手や吉田選手が怪我から復帰し、さぁこれから優勝へ最後の仕上げにチーム一丸になる必要があるのに水を差された感は否めない。



柴田は出しませんからご安心
ホント?長嶋監督がファンと交歓会で宣言
今季も秋季練習、ファン感謝デーも終了し11月26日には納会も済んでオフシーズンに入った。今オフの目玉企画が『ジャイアンツ展』だ。東京・池袋の西武デパートで6日間催され10万人の入場者を記録し大盛況だった。「催し物は色々と開催しますがスポーツ関連では飛び抜けています。子供さんは勿論、スポーツ関連では珍しく女性の方も来場いただきましてファン層の広さを実感しました。選挙で言えば全国区的人気でした」と西武デパートPR担当者も驚いた。その最終日には長嶋監督も駆けつけて野球教室に飛び入り参加し、舞台上で現役時代さながらのバットスィングを披露するとチビッ子は大興奮。

野球教室の後にはファンとの質疑応答が行われた。


Q:スポーツ紙では柴田選手がトレードされると書かれていますが本当ですか?
A:色々と書かれていますが出しません。私は嘘はつきませんから安心して下さい。
Q:東海大相模の原くんは巨人に入るのですか?
A:是非巨人に来て欲しいですね。原くんは僕の高校時代より凄い選手です。
Q:来年も優勝しますか?
A:来年の事を言うと鬼が笑うかもしれませんが頑張りますので応援して下さい。


長嶋監督は行く先々で同じような質問を受けて同じように答えている。今オフはもっぱら巨人のPR係りだ。球団初の最下位に沈み " 謹慎 " を余儀なくされた昨年とは大違いで、明るい表情で全国を飛び回っている。この展覧会には優勝トロフィーや王選手の715号のホームランボールや数々の決定的写真が展示され、王選手・張本選手ら多くの選手が交代で顔を出している。「やっぱり勝負事は勝たないとダメだね。来年も頑張らないと(王)」と巨人ナインは改めて優勝の良さを実感している。この展覧会は年が明けると関東地区の西武デパートで開催された後は全国13ヶ所で行われる予定だ。
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