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Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 889 756号 ②

2025年03月26日 | 1977 年 



輝かしい栄光のヒーローの陰には悲劇の主人公がいる。王選手に世界記録を打たれた投手がそれだ。あと1本になってから眠れぬ夜を過ごした投手は何人いただろう。不幸?にもそのクジを引き当てた男の気持ちはどうだったのだろうか。

756号を打たれた鈴木康二郎投手
「打たれた相手が世界の王さんですから打たれても悔しいとは思っていません」…鈴木康投手(ヤクルト)は固い表情で話した。前夜の試合は安田投手➡松岡投手の黄金リレーで王選手の世界新記録達成にストップをかけた。エースの松岡投手でさえ王選手との対決を前に朝方まで寝付けなかったという記事を読んだ鈴木康投手は「あれこれ考えても答えは出ない。勝負球はシュートと決めました。(安田・松岡)先輩たちに倣って自分のピッチングをしてそれで打たれるのなら仕方ない」と持ち前のクソ度胸で開き直った。マウンドに上がる鈴木康投手は5万大観衆の異様なムードの中で王選手と対峙した。

最初の打席はフルカウントから得意のシュートを投げたが外れて四球となり球場内にため息が充満した。そして歴史的瞬間となる第2打席は3回裏だった。この回の先頭打者土井選手を左飛に打ち取り打席に王選手が入った。大観衆が王選手に声援を送り、球場内は異様な雰囲気に包まれた。「ジャンボ、思い切って行け!」と一塁手の大杉選手が声をかけ、鈴木康投手は我に返った。世界新記録が秒読み段階になってから王選手を6打数無安打に抑えてきた安田投手が「王さんはボール球には手を出さない。一本足打法のタイミングを外すしか抑える方法はない」とヤクルト投手陣にアドバイスしていたのを鈴木康投手は思い出した。

球持ちを長めにしたり、クイックモーションで投げたりしたせいか制球が定まらず第1打席に続き再びフルカウントになった。「今度もまた歩かせたら監督さんもナインも承知しまい…」崩れ落ちそうな気持から逃げるように八重樫捕手のミットを目がけて6球目を投げた。時速140kmのシュートは狙った外角ではなく真ん中寄りに。アッと言う間に王選手がフルスイングで捉えた打球は前人未到の756号として右翼席に飛び込んだ。世界のホームラン野球の歴史を切り開くに相応しいコメットのような一発だった。「打たれた瞬間にホームランだと思いました。王さんがベースを一周する時の時間が長く感じました」と正直に振り返った。


サイパンには行かない
昨シーズンはプロ入り4年目でリリーフ投手として阪神相手に2勝をマーク。今シーズンは得意のシュートを武器に安田投手の13勝に次ぐ12勝をあげている。7月5日、札幌円山球場での対巨人13回戦では巨人戦初先発に起用され、巨人打線を2安打に抑えてプロ初完封勝利をおさめた。王選手に対しても昨シーズンは3打数2安打、今シーズンは3四球こそ与えているものの2打数無安打に抑えていた。王選手に打たれた初本塁打が756号本塁打になるとは何とも非情なことであった。

「自分がやれることは全部やった。それで打たれたんですから悔しさはありません」と鈴木康投手には後悔も悔しさもなかった。だがアメリカの某航空会社がハンクアーロンの世界記録を破る756号本塁打を打たれた投手にサイパン島旅行を招待する企画を辞退することは即決した。「僕は行きません。ああいうものを出す神経がおかしいと思います」と苦言を呈した。世界の王選手に打たれた悔しさは無かったとしても敗戦投手のプライドと抵抗は誰でも持ち合わせているものだ。


755号の世界タイ記録を打たれた三浦道投手
皮肉な巡り合わせという他ない。三浦道男投手(村野工・21歳)はプロ3年目の昨年6月23日の巨人戦で先発した根本投手の後を受けてプロ初登板した。この試合で初めて対戦した王選手から三振を奪うなど好投してプロ初勝利をあげた。それから1年2ヶ月後、8月31日の対巨人22回戦に先発したが王選手に世界タイ記録となる755号を打たれた。1回裏一死一塁で王選手が打席に入った。初球、2球目とカーブが外れると満員の観衆から罵声を浴びて血の気が引く思いをしたという。3球目はストライクで一息ついたが4球目は再びボールで後がなくなった。その時、三浦道投手の頭にあったのは「四球だけはダメだ。外角低目にカーブを決めなければ」だったという。

別当監督からは「王は800号はおろか900号も狙える打者で755、756号は単なる通過点だ。思い切って勝負してこい」と指示されていた。運命の1球を投げた瞬間に三浦道投手は「狙った所に投げられた」と思ったそうだ。だが王選手のバットが一閃すると快音が響いた。「アッ、やられたと思い後ろを振り向くと打球は高くライト方向に上がっていてもうダメだと観念した」あとの思いは大歓声にかき消されて記憶に残らなかった。試合途中で降板しロッカールームに引き揚げてきた三浦道投手は、余りの多くの待ち受ける報道陣を前に「こんなに多くの記者さんに囲まれるのは昨シーズンに王さんから三振を奪って初勝利した時以来。いや今日は倍くらいの人数かな」と苦笑い。

「王さんはやっぱり偉大すぎます。僕なんかが抑えられたら不思議なくらいです。王さんへのメッセージ?やっぱり " おめでとうございます " 、です。打たれた僕が言うのはおかしいかな、エヘヘ」とショックの色はさほどではなさそうだ。悔しさはある。だが打たれてスッキリした表情なのは堂々と勝負をした自負があるからだ。「でもね子供のファンに言われると参っちゃうんですよ。今日も球場に来た時に " アッ、755号の投手だ! " って言われちゃいました」と頭を搔く。こうなったら名誉挽回に20勝投手になるしかない。



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# 888 756号 ①

2025年03月19日 | 1977 年 



球史に輝かしい1ページを飾る日がやって来た。王選手のホームラン世界最高記録達成だ。その日、日本列島は凄まじいまでの熱狂に包まれたが、記念すべきその日の王選手が奏でた大シンフォニーを聴いてみよう。

皆様と共にこれからも打ち続けたい
昭和52年9月3日、午後7時10分6秒。3回裏一死無走者で王選手は鈴木康投手(ヤクルト)が投じた6球目をフルスイングすると打球は弾丸ライナーとなって後楽園球場の右翼席中段に突き刺さった。平光右翼線審の右手がグルグルと回ると王選手は両手を挙げて走り出し、5万人の大観衆は総立ちで祝福の拍手を送った。一・三塁側ジャンボスタンド下に設置された6個のくす玉が割られ、一塁側スタンド後方から大音響と共に花火が打ち上げられた。一塁コーチャーズボックスの国松コーチと手を合わせ、二塁を回ったところで再び両手を挙げた。普段から相手投手に敬意を払い感情を表に出さない王選手が珍しく歓喜の表情を見せた。

黒江コーチと手を携えホームベースに生還するとそこには長嶋監督が両手を広げて待っていた。2人はガッチリ握手すると後ろには張本選手をはじめナインが総出で出迎えた。事前の予定では女優の山本由香利さんがナインより先に花束を渡すことになっていたが実際に渡せたのはだいぶ後だった。「選手の皆さんは大興奮でなかなか花束を渡せず大変でした。でも感激しちゃいました。5日前からスタンバイしてようやく " その時 " が来ました。王さんの手は大きくて汗でびっしょりになってました。落ち着いた声で私に『どうもありがとう』とおっしゃって下さって嬉しかったです」と山本さんは声を弾ませた。

一塁側スタンドには王選手の両親の仕福さん(77歳)と登美さん(77歳)の姿があった。王選手の偉業を見届けた両親は周囲からの祝福に「息子は幸せ者です」と口を揃えた。「ファンの皆様の励ましによって記録が生まれたのだと思います。昨年の700号の時はイライラが続きましたが今回は割と楽観視していました。できれば地元で記録を達成して欲しいと思っていましたが、その願いを叶えてくれて感謝しています。私共から見ると貞治はまだまだ若造だと思っていましたが巨人軍にお世話になってもう19年になります。よく頑張って今日の日を築いてくれて親としてこんなに嬉しいことはありません」と登美さんは涙ぐんだ。

王選手の野球人生はこれで終わりではない。今までがそうであったようにまだこれからも世界への道は続く。試合が終わっても場内の興奮は収まらなかった。後楽園球場の全ての照明が消え、マウンド上に王選手が現れスポットライトが四方から当てられた。センター後方の電光掲示板には『おめでとう王選手756号』の文字がひときわ光った。王選手はスポットライトを浴びながら「体が続く限り力いっぱいバットを振って皆さんと一緒にホームランを打っていきたい」とファンに約束をした。前人未到の800号、900号に向けて王選手は新たな道を歩み始めたのだ。


王選手以上にイライラしたテレビ局
日本列島を沸かせた756号狂騒曲はマスコミ狂騒曲でもあった。新聞、雑誌に始まりテレビ、ラジオ界の狂騒ぶりも史上最高であった。ご存じのように巨人戦が行われる後楽園球場は日本テレビが独占中継権を持つ聖地である。当然の如く他局は指を咥えてその瞬間を注目するしかなかった。その日本テレビは9月3日、午後7時10分6秒の決定的瞬間を何と別の番組を放送していた。「野球中継は午後7時半からでしたがスポンサー様の御協力で第1打席は放映できました。第3打席はだいたい7時半過ぎなので通常の放送に入ります。ただ危惧していた第2打席にホームランが出てしまい、その瞬間を放映できませんでした」と日本テレビ局員はガックリ。

当日、後楽園球場に出向いたスタッフは第2打席だけはホームランが出ないように祈っていた。ネット裏でカメラを回していたカメラマンも、場内あちこちを回って観客の様子を観察していたディレクターもまさかの一発に「ギャーッ」と絶叫した。日本テレビの苦労は前日の2日から始まっていた。実は当日は生中継ではなく午後11時15分からの録画放送の予定だった。しかし前日の1日に局長以上のトップ会議で午後7時半からの生中継を実現すべくネット局やスポンサーの了解を取りつけをるよう決まったが余りにも急な話で了解を得るのに苦労した。それだけに事前の苦労が水の泡となった一発に呆然となった。

日本テレビの前に中継をしたのがフジテレビ。神宮球場から対ヤクルト戦を8月27・28・29日の3試合を中継した。世界タイか新記録が出ることを「ホントに神棚に手を合わせたよ」と担当の桂ディレクターは祈った。だが願いは叶わず28日の試合で松岡投手から754号を放ったがタイ記録達成の場面を中継することは出来なかったが、次の対大洋22回戦で755号が出た後にフジテレビは特別番組を放送した。「新記録の756号を打ったら日本テレビは王選手を離さず特別番組を放送するでしょう。裏番組で放送しても勝てないでしょうから、タイ記録でも事前に収録したインタビューを放映しました(桂ディレクター)」とにかくてんやわんやの一週間だった。



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# 887 週間レポート 大洋ホエールズ

2025年03月12日 | 1977 年 



やはり大だった大ちゃんの穴
ペナントレース前半はオバQ旋風に乗って台風の目になった大洋。だがオールスター戦を前に山下・清水・福嶋選手ら主力に怪我人が続出して戦力がガタ落ちして借金「5」で後半戦を迎えた。ところが後半戦が始まると敵地で広島相手に3連勝と快調に走り出した。「オールスター前は調子が落ちていたけどこの3連勝で盛り上がる。ウチは若い選手が多いから勢いに乗ると怖いよ」と別当監督は久々に笑顔で台風の目になると自信満々に宣言した。好調の要因のひとつが山下選手の戦列復帰だ。「僕が復帰したとたんに3連勝で縁起がいいでしょ」と " 大ちゃんスマイル " を見せる。

後半戦スタート対広島3連戦の初戦、山下選手は第1打席に右前打で出塁し先制点の足掛かりとなり、7回表には中前にダメ押しタイムリー。次戦でも1点リードの8回表に松原投手から左前打で出塁し広島を突き放す追加点のホームを踏んだ。3戦目は自身の全快祝いとなる復帰後初本塁打を放ち、逆転勝ちに貢献した。「最高の気分です」と山下選手が高笑いすれば別当監督も頼もしい核弾頭の復帰に「山下の復帰が何といっても大きい。これで攻撃の型が整った」とニンマリだ。昨シーズンまではどちらかといえば人気先行型の山下選手だったが、今や名実ともにセ・リーグ No,1の遊撃手に成長した。

この大ちゃんの暴れん坊ぶりに刺激されてか、オバQこと田代選手がスランプから抜け出しそうだ。対広島3連戦の初戦で田代選手は5打数4安打、2戦目はバックスクリーンに第24号勝ち越し本塁打を放つなど大暴れ。3割4厘まで落ちていた打率も3割1分9厘まで引き上げた。2人の活躍もあって対広島3連戦であげた得点は20点。別当監督が掲げたメガトン打線爆発の予言がピタリと的中した形だ。別当監督の声も1オクターブ上がり「巨人の独走は許さん。ウチがペナントレースを面白くしてやる」と台風シーズンを前に " 台風の目 " 復活宣言をした。


人間、辛抱だ
平松投手がプロ入り11年目にして " 長くて苦しい初体験 " をした。7月29日の広島戦で先発した平松投手は味方の大量点に守られて完投勝ちで6勝目を上げたのだが広島打線に2本塁打を含む14安打を浴び何と161球を投げる苦投を演じた。「こんなに打たれたのはプロ入りして初めて。完投できたのが不思議だよ」と苦悶の表情。試合時間は3時間40分で平松投手も大洋ナインもヘトヘト。「人間、辛抱だね。諦めないで投げればいけるもんだ」と自画自賛。どうやら平松投手は新境地を開拓したようだ。


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# 886 週間レポート ヤクルトスワローズ

2025年03月05日 | 1977 年 



ボクたちはダイジョーブよ
ヤクルトナインの間で「審判員が突発事故と判断した時はプレー中でもタイムをかけることができる」というコミッショナー通達を巡って議論百出だ。この追加項目に「いいことだ」と賛成したナインだが「一方のチームが練習中は他のチームの選手はフェア地域に入ってはならない」という従来通りの項目には「穴だらけだ」などと批判するなどワイワイガヤガヤ。というのも両外人の子供たちが練習中のグラウンドに度々立ち入ることを注意されるからだ。マニエル選手の長男チャック君(15歳)、ロジャー選手の長男クレイグ君(11歳)は外野で玉拾いをしながら遊んでいる。

異国の地で親しい友達もおらず父親に連れられて球場まで来るが、手持ち無沙汰でやることがなく球拾いをしているのだ。ヤクルトナインは「危なっかしくて見てられんよ」と怪我をするぞと注意してもワンパク盛りの2人は「ボクたちはダイジョーブ」と聞き入れない。今年のオールスター第1戦の打撃練習中に外野をランニングしていた新浦投手(巨人)が島谷選手(阪急)が放った打球を目に受けて怪我をしたのを受けてのコミッショナー通達だった。「新浦は気の毒だったが注意力が欠けていた。だがウチの外人の子供に関しては不注意では済ませられない。部外者のグラウンドへの立ち入りを禁止にして欲しい」と広岡監督は訴える。

今や打撃爆発でチームの大黒柱になっている両助っ人に強く注意するわけもにもいかず苦慮している。日米の国情の違いでグランドボーイまでやりかねないジュニアを規制して楽しみを奪うのもなんだか可哀そう。で、いつの間にか見て見ぬふりをしているのが現状なのだ。外野を駆け回るジュニアたちに当たる方が悪いとは言えず困っていたところに今回のコミッショナー通達に球団フロントは「通達はごもっともだけどウチの両外人は納得してくれるかどうか分からない。どうしたものか…」と思案投げ首である。


大台突破
巨人、阪神に続き今シーズンも早々と観客動員100万人の大台を突破した。8月2日の巨人3連戦の初戦で5万5千人を動員し104万5千人となり球団史上三度目となる大台突破となったが、到達ペースは今年が一番早い。球団最多記録は一昨年の136万人だが今のペースを維持できれば140万人は確実で150万人も可能だ。サッシー人気、Aクラス確保など好条件は揃っている。1試合平均2万5千人強は巨人に次ぐリーグ2位。夏休みの終盤にドル箱の巨人戦が控えており「150万人を目指す」と営業サイドの鼻息は荒い。


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