納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
リーさん、あなたはこんなに大物だったのですか。恐れ入りました。キャンプの印象からはとてもこんな働きは予想できませんでした。しかし予想以上の大暴れは楽しいものです。もう壊れたピストルなどと言えません。ただただこれからも超ド級の大砲ぶりを発揮してくれることを祈ります。リーさんに脱帽。
ネズミと思わせ実は獅子だった
今現在、最も脅威のバッターは誰かと問われたらロッテのリー選手と答えるのが正解だろう。何しろセ・パ両リーグを通じてホームランダービーのトップを快走中。打率.316 (5月26日現在)も打撃10傑の上位に鎮座。それよりも開幕2試合目から14試合連続安打。更に5月8日から19日まで11試合連続打点という日本タイ記録を樹立する猛打ぶりである。何しろこの記録は昭和24年に西沢選手(中日)と同49年に長池選手(阪急)の2人しか成就していないという凄いもので、それを来日1年目でまだ慣れていない異国の地でやってのけたのだから末恐ろしいと言う他はない。
リーの脅威ぶりはそのホームランにある。量産している数も凄いが " 決勝 " と名のつくホームランが19本中、5本。それに " 同点 " の名がつくのを加えると半数を超える。数も凄いが内容も凄いのである。こんなリーだが実はつい2ヶ月ほど前、つまり開幕前はこれほどの大物とは思われていなかった。というより「ダメ害人」「大砲ならぬピストル」など酷評の嵐だった。だがこれは伝えるマスコミ側の言い訳になるが無理もない話で来日した時も野球をしに来たのではなく遊びに来たのかと思わせる登場だった。何しろ持参したのがバットではなく模型のラジコン飛行機を大事そうに抱えて報道陣が待つ羽田空港に降り立ったのだ。
キャンプが始まってもバットから快音は聞かれない。詰まった内野フライか外野へ飛んでも打球がフェンス際でお辞儀をしてしまう有様。キャンプを訪れた評論家諸氏は「ロッテはまた外人獲得に失敗した」と言い切った。コーチ陣も「いくら練習してもピリッとしない。一体いつまで時差ボケが続くんだ」と嘆き、あのカネやんも「大砲のつもりで獲ったのにこれでは買い替えなアカン」と憮然としていた。実はこの時のリーは大リーグ時代に痛めた肉離れが再発していて体調が万全ではなかったのだが、それを見抜けなかった関係者は今となっては恥じ入るばかりだ。羊頭狗肉ではないがネズミ程度の小物と思ったら実はライオンだったということだ。
マイペース守りきって大きな効果
しかし、どうしてこうも見事に本番になると一転してライオンの如き猛威を発揮できたのだろうか。「ボクはもともとスロースターターなんだ。それに肉離れもあったり日本の冬は寒くてキャンプの頃はマイペースでやらせてもらっていた」と当の本人は説明する。多くの助っ人外人選手は来日するとポンポン大きな当たりを見せて日本人を驚かす。それに慣れていたマスコミやロッテ関係者はマイペースを守りトスバッティングみたいな当たりを見てリーを過小評価していたに過ぎない。だが最大の難関はカネやんだった。これまではダメ外人を見切るのが早かったカネやんだったが今回は何故かジッと我慢の子を通した。
監督1年目の昭和48年以来、自ら断を下して獲得した助っ人はリーを含めて7人。ラフィーバー(現コーチ)から始まってロザリオ(現クラウン)、マクナリティ、バチスタ、ブリッグス、そして今季はスティーブとリー。ラフィーバー以外は期待に応えられず、スティーブは今年の5月23日に僅か3ヶ月で退団したがリーは如何に?カネやんはチャンスで打てなかったり大事な試合で勝ち投手になれない外人選手は容赦しない。「当たり前やろ。高い銭を貰っている " 助っ人 " なんだから。チームのピンチに助けにならなきゃ助っ人と呼べんよ」と常々言っていたが、リーに対しては諦めていたのか無視していたのかマイペースを放置していたのが結果的に功を奏した。
" リーシフト " を突き破る猛打と計算
「どこへ投げたらいいんだろう。もう投げるところがないよ。長距離砲は必ず穴がある筈なんだが…」と泣きを入れるのは日ハムの高橋直投手。これといったウイークポイントがないのである。「あれはいいバッターや」と他の誰よりも早くリーの実力を見抜いたのが西本監督(近鉄)だったが未だに完全にリーを抑える特効薬は見つけていない。とうとう王シフトならぬ " リーシフト " が敷かれたのは4月19日の南海戦だった。野村監督は王シフトのように野手を右側に移動させた。が、リーはそんな奇策を嘲笑うかのように 中越え二塁打と右前打を放ったのだからもう手の施しようがない。
「あんなのは大リーグでも経験していない。でも別に打ちにくいとは思わない。いつも通りに打てばいいのさ」と言うがちゃんと対策をしている。これまで引っ張って右方向ばかりだった本塁打。リーシフトが敷かれた後の5月11日に放った12号本塁打は左翼席中段に飛び込んだ。「狙った訳ではない。左へ打つ練習の結果でしょう」とリーは惚けたが、流し打ちの練習などしてはいなかった。引っ張るだけの打法じゃないと強調するには丁度よいタイミングで出た左方向への一発を上手く利用したのだ。その辺もしたたかだ。そうした効果の現れなのかリーシフトを採用しなくなった球団も出始めた。
大暴れのリーだが弱点が無いわけではない。山田投手(阪急)が言うには「胸元の浮き上がる球に弱い」らしい。事実、リーは山田を打ち崩してない。また左腕投手が投げるカーブには今一つ鋭い打撃を披露できないでいる。特に永射投手(クラウン)にはヘビに睨まれたカエル状態で手も足も出ない。しかしロッテの吉田打撃コーチは「山田のような下手投げ投手はアメリカにはいないから面喰っているだけ。しかも山田は日本を代表するクラスの投手だから打てないのはリーだけではない。リーは大リーグでは右腕投手相手の代打起用が多く左腕に対して慣れていない。対戦する機会が増えれば打ち出しますよ」と不安を抱いてはいない。
ペナントを是が非でも取りたいのがプロの男たちだが、今それより欲しいモノがあると言わせるのが怪物・江川卓投手(法大)である。だからこそペナントレースの裏にはそれ以上の激しい暗闘が繰り広げられている。しかも1億円という声も出て…
負けないピッチングでまた上がった評価
まるでロウ人形のように見事なまでに無表情。周囲の江川狂騒に挑戦しているようでもあり、意識的に冷たさを守り通そうとしているのか。5月23日、春季リーグ戦の優勝がかかった明大戦は神宮球場に5万人を超える大観衆が押し寄せた。最後の打者・重吉選手を三振に仕留め3連覇を成し遂げた時も表情一つ変えなかった。むしろ笑顔の代わりに、いつも以上に厳しさを作っているように感じた。昨秋の早大戦からこれで11連勝。今春は負けなしの8連勝。慶大との3回戦と明大との2試合を除いた5試合が完封。杉浦投手(立大➡南海)の14完封と肩を並べ、山中投手(法大➡住友金属)の連盟記録「48勝」にあと7勝に迫った。
「優勝は全員の力を合わせて勝ち取ったもの。あまり記録を意識すると自分の投球が出来なくなる。だから完封にこだわらないようにしています。記録は後からついて来るものですから」と江川は優等生発言に終始するが、誰の目から見ても優勝は江川が最大の功労者であったのは疑いようのない事実。「とにかく江川君は難攻不落でした。走者を出すまではいくけど、ここ一番という場面ではピシャリと抑えられた。さすがです」と明大・島岡監督も脱帽の力投だった。「もし江川が相手校にいたらウチの打線は一度や二度は完全試合をやられていたかも」と法大・五明監督は冗談めかすが、その目は真剣そのものだ。
五明監督が冗談を言うほど今季の江川は一味も二味も違う充実した投球を見せた。「一つも負けなかったことで春の目標は一応果たせた(江川)」とクールに話すが、クールでいられないのがプロ野球のスカウト陣だ。あまりの怪物ぶりを見せつけられ「是が非でも獲得したい」「ドラフトの一番くじが見えるメガネがあるなら1千万円だって高くない」と少々加熱気味。在京球団の某スカウトは「契約金は空前の1億円どころか秋になれば2億円の声も出るかもしれない」と冗談とも本音とも言えない発言。そんなネット裏の声を知ってか知らずか江川本人はロウ人形のような表情を崩さない。
真の怪物度が不明のもどかしさ
表情から江川の気持ちが読み取れないのと同等にそのピッチング自体も実のところよく分かっていない。「いったいどれが本当の江川なのか分からない」と江川をマークする各球団のスカウト達が言う理由は、さしてハードパンチャーでもない打者に痛打されると思えば主力打者のバットに一度もかすらせずに三振を奪ったりする投球のせいだ。そういえば今春のリーグ戦では5つの完封勝利を飾った一方で被安打も多く奪三振も少ない。単に好不調の波があるというのではなく相手打者の力量に合わせて仕留める技巧派に見えることが多かった。「やたらとガムシャラに投げていたのは負けたら終わりの高校まで。大学では次の登板を考えて投げている」と話す江川。
作新学院時代の剛球派のイメージは薄れクレバーな投手に変身しているのは確か。しかしプロの世界ではクレバーなだけでは通用しない。スカウト達の頭が混乱するのはどれが本当の江川なのか実体を掴みきれていないからだ。日ハムと広島のスカウトがレーザーガンというアメリカ製のスピード計測器を使って江川の球速を測定したことがある。85マイル(時速約136km)はプロではごく平均的な数字。だが「こちらがレーザーガンを向けると途端に力を抜いてしまう。まぁマウンド上から周りの状況をよく見ている証拠でもあるんですが…」と日ハムの三沢スカウトは苦笑いをする。
唸りを上げるストレート、大小2種類のカーブ、シュートを投げ分ける。高校時代から江川を見てきた大洋の湊谷スカウトは「スピードは高校の時の方が速かった気がするが、今は全力投球をすること自体が少ない。江川特有の大きなカーブも健在で大学入学後は下がり気味だった腕も以前のように上がってきた」と評するように持ち味は年々戻ってきている。しかしスカウト達の願いは「一度でいいから1回から9回まで全力で投げて欲しいね。どうも力をセーブして投げているように感じる。セーブしても勝ててしまう底知れぬ実力の持ち主であるのは間違いない(巨人・山崎スカウト)」で一致している。
OBで固める " 江川担当スカウト "
怪物・江川は分からないことばかりだがハッキリしていることは「何が何でも江川が欲しい」というプロ側の気持ちである。何しろ前例がない江川専門スカウトを各球団が設けている。巨人・山崎、阪神・田丸、中日・田村、広島・岡田、ヤクルト・片岡、大洋・湊谷、阪急・藤井、ロッテ・三宅、南海・古谷、日ハム・丸尾、クラウン・毒島など各球団のスカウト部門のトップクラスが名を連ねる。特に目立つのは日ハムで、ごく最近に丸尾スカウトをわざわざ採用した。丸尾は阪急時代の昭和48年のドラフト会議で指名した江川の入団交渉を担当し拒否された苦い過去があるが、江川家の内情にも通じており今度こその思いは他の誰よりも強い。
法大OBで江川包囲網を敷く球団も多い。ロッテから昨年暮れに阪神に移籍した田丸スカウトは法大の元監督という経歴があり、法政二高時代の教え子だったのが法大・五明監督である。各球団が敏腕スカウトを配置しているのに対して巨人の山崎スカウトはまだ経験は浅いが法大OB。しかも王選手が自宅近くの自由が丘駅で偶然にも江川と遭遇し、江川を自宅に招き談笑するなど他球団に引けはとっていない。結局ドラフトはクジ運次第と分かってはいるものの、何とか江川サイド、法大サイドとルートをつけようと各球団は必死なのである。
こうしたプロ側の動きに対して選手の就職問題を一手に引き受けている浦堅二郎理事は「いくらOBで固めても江川に関して有利不利は関係ない。全てはクジ運頼みですよ」とプロ側の動きにチクリ。さて当の江川本人は意中の球団などは決して口にしない。ただし「高校時代から一番苦労してきたのはチームワーク。だからどこの球団というより組織としてしっかり管理出来ているチームがいい。ただプロは勝って幾らという世界だから負けるより勝てるチームがいいのは勿論でどこの球団でもいいという訳ではないです」と本音を語る江川。
最終的にはオヤジに決めてもらう
「いくらOBが出てきても関係ないです。プロ入りについてはオヤジに任せるつもりでいます。高校の時はどうしても神宮で六大学野球をやりたくて親にも自分の気持ちを伝えてプロには行かなかった。あの時は自分の我がままを聞いてもらったので今度は両親の意見を大切にしようと考えています。指名された球団へ行く行かないはオヤジの意見に従います」と江川は言う。これからは秋のリーグ戦、全日本大学野球選手権、日米大学野球などが控えている。通常4年生は夏頃までに卒業後の進路について決めるが江川はスケジュールが立て込んでいて小山市の実家で両親と進路について話し合う時間はあまり取れそうにない。
「一度家族と話をしてある程度の結論を出そうと思っています。とはいってもどの球団に当たるか分からないので具体的な話は当分先になります。秋のシーズンが終わってからスカウトの方に会って話を聞かせてもらうつもりでいます。それまでは栃木の実家にスカウトの方がいらっしゃってもオヤジは話を聞かないと思います」と江川サイドのガードは固い。南海ファンで野球漫画『あぶさん』でお馴染みの水島新司氏は江川家と親しく、また大学進学時に尽力した作新学院関係者など発言力の大きな人物が江川の周りには多くスカウト達は伝手を頼りに、それこそあらゆる人脈がドラフトまでの間に入り乱れそうだ。
「今は法大の投手という立場。とにかくチームの事を考えて試合がある限り、相手がいる限りは投げて勝つだけです(江川)」と。春季リーグ戦は無敗で制した。今後は秋のリーグ戦、大学選手権、明治神宮大会の制覇が残っている。これらを制せば関西大学の山口高志投手(現阪急)以来の偉業達成となる。加えて連盟記録の通算「48勝」更新も視野に入っている。あくまでも冷静な江川の気持ちとは別に怪物争奪戦は始まっている。現時点で契約金7千万円とも8千万円とも言われているが、秋風が吹く頃には史上空前の1億円に跳ね上がるとも囁かれている。今年のドラフト会議前には空前絶後の狂熱状態になるか空恐ろしいことである。
な、なに!先発は渡辺だって?
「草薙キャンプの時に開幕いけるかと言われました」と広島市民球場での開幕戦で先発した渡辺投手は言う。ネット裏の開幕投手予想は「調子の良い奥江だろう」「どうにか間に合いそうな平松も有り得る」などの声が多かったが見事に外れた。実は広島ベンチも渡辺はノーマークで奥江投手を本命視していた。だがよくよく考えると渡辺は昭和45年5月18日に広島相手にノーヒットノーランを記録するなど広島には相性が良かった。渡辺は過去に二度開幕投手を務めたがいずれもKOされた苦い経験がある。なので「メリーちゃんの心臓じゃ開幕投手は無理だろう」という意見が大勢でスポーツ紙の予想でも渡辺の名前は挙げられなかった。
そうした声を嘲笑うかのような強気な投球を見せた。右打者の胸元をえぐるようなシュートに外角へ大きく曲がるカーブに加えキャンプで習得したシンカーをコーナーに投げ分けて好投し勝利投手となった。初回に山本浩選手の適時打、5回裏にライトル選手・山本浩の2者連続本塁打、6回裏に内田選手に適時打され完投こそ逃したが自身三度目の開幕投手で初めて勝利を手にした。「正式に開幕投手指名は言われてませんよ。キャンプの時に『いけるか?』と聞かれただけで」と渡辺は言うが、別当監督は「言ってない?いや言った筈だけど。まぁとにかく勝ったんだからどちらでも良いではないか」と苦笑い。
" 開幕投手・渡辺 " がズバリ的中した別当采配。しかも打線が広島投手陣に21安打を浴びせ15得点を上げたメガトン打線の復活に試合後の別当監督は「よく打ったしボール球には手を出さず何も言うことはない」とご満悦。当本人の渡辺は「平松のケガもあるけどオレが開幕投手になるようじゃダメ。若いモノが務めて、空いたところを年寄が補うのが妥当だもんね」と若手の奮起を促す。ちなみに各スポーツ紙の大洋担当記者の第2戦の先発予想は今度こそ奥江投手で一致したが、これまた外れて根本投手だった。ことごとく予想が外れる今季の大洋。この分だと多くの野球評論家たちが予想した大洋の最下位も大外れにしてくれるかも?
王にオレの球が打てるもんか
" 鯨の救世主 " 現る。ロバート・アレン・レイノルズ投手が来日し、4月26日にチームに合流し川崎球場の練習に参加した。上半身の発達した白鯨を連想させる、183㌢・93㌔の一見プロレスラーのような巨体にアフロヘアが似合う男という感じ。レイノルズはまだ時差ボケが解消せれてないらしく眠い眼を擦りながら午後2時過ぎにシピン選手が運転する車に同乗して球場入りした。「首を長くして待っていたよ」と別当監督と早速ご対面。グローブのような大きな手で握手し「よろしくお願いします」と。待ち焦がれた恋人に別当監督は「全試合に投げる覚悟をしてくれ」とハッパをかけると口を真一文字に結び大きく頷くレイノルズだった。
ユニフォームに着替えてグラウンドに入ると牛込マネージャーがナインに「今回入団したレイノルズ投手だ。呼び名は『ボブ』或いは弾丸を意味する『ブリット』と呼んでやってくれ」とレイノルズを紹介した。全員が拍手で迎えて晴れて " 鯨の一員 " になった。そして初練習。いよいよベールを脱ぐ時が来た。軽くキャッチボールを5~6球。ノーワインドアップでテイクバックを殆どしないスナップスローに近く、素人目には何となく心細くなる投法だ。「アメリカでもコーチからテイクバックを大きくしろと言われたが自分としては長い間このフォームでやってきたし変えるつもりはない」と言い切った。
「腕力で投げるタイプだね。上半身さえしっかりしていれば問題はない。球はよく伸びているし、速くて重い。まさにブリット(弾丸)だね」と別当監督はニンマリ。レイノルズのデビューは5月3日の巨人戦が予定されている。レイノルズは王選手やライト投手の話になると顔を真っ赤にしてまくし立てた。「オレのブリットはアーロンでさえ打てなかったんだ。だから王にも打たせないし、ライトにも負けない。オレは負け犬が大嫌いなんだ」と体もデカいが言うこともデカい。予定通りなら本誌が発売される頃には結果が出ている筈だが如何に?なお、球団はレイノルズの登録名を「ブリット」にすると決めた。
「新人ばなれしている」と田淵
" 酒井君お先に失礼 " と斎藤明投手が両リーグ・ドラフト1位指名投手で勝利一番乗りを果たした。それも今季は1分けを挟んで6連敗、昨季から通算9連敗中の憎っくき阪神相手の白星だけにチームにとっても価値ある1勝だった。斎藤はベンチから救援の高橋投手に声援を送り、最後の打者・ラインバック選手が一塁ゴロに倒れるとベンチから飛び出して高橋のもとへ駆け寄り「どうもありがとうございました」と最敬礼。この日は阪神とのダブルヘッダー。斎藤は第1試合の8回に杉山投手をリリーフ登板して田淵選手から三振を奪うなど1イニングを投げていた。その勢いのまま第2試合に先発したのだった。
6回に中村勝選手に左翼席に3号ソロを浴びたが7イニングを投げて失点はこれのみ。8回に先頭の大島選手に中前打されたところで高橋の救援を仰いだが、その高橋が阪神の反撃を1点に抑えて斎藤に初勝利のプレゼントをした。「最初の目標は3回だったんです。それから5回、6回と1イニングずつ伸ばしていきました。(初勝利は)長かったですね。プロの1勝がこんなにしんどいとは思いませんでした」と大勢の報道陣に囲まれて感激のインタビューを受ける斎藤。京都の実家から父・秀夫さん、母・富子さんが球場に駆けつけ息子の晴れ姿にスタンドから声援を送った。斎藤にとってこれ以上ない親孝行ができた。
試合後の田淵は「球そのものは速いと感じなかったが、あの度胸は新人離れしている」と感心していたが、斎藤にはやはり阪神の " 200発打線 " は脅威であったようだ。「そりゃ何たって一発が怖かったです。ブリーデン選手なんか太い腕を見ただけで負けそ~という感じでした。だからとにかく低目にコントロールすることだけ考えてました」と話す。そのブリーデンを4回二死三塁のピンチで迎えると見事カーブで三振に仕留めるなど " 200発打線 " の中軸打者の田淵・ラインバックを無安打に抑えた。斎藤はその3日後の巨人戦では4イニングを無失点に抑えて2勝目を上げた。ヤングホエールズを担う田代選手・杉山投手に次ぐニュースターの誕生だ。
甘いぞ!これでいいのか!
広岡監督の交代命令に怒ったマニエル選手が5万人の大観衆の前で大暴れした。4月17日の巨人戦(後楽園)の3回裏、西本選手が打った平凡な飛球を右翼手のマニエルは一旦前進した後に慌ててバックしようとした時に足を滑らせ転倒して捕球できなかった。この拙守にマウンド上の会田投手はガックリとうな垂れた。即座に広岡監督はマニエルを引っ込め福富選手と交代させた。すごすごとベンチに戻るマニエル。ここまではよくある光景であったが、試合が再開された直後にマニエルが三塁側ベンチから飛び出して広岡監督に向かって何やら大声で喚き散らした。帽子をグラウンドに叩きつけたりベンチ前の防護網を両手で激しく揺さぶった。
ちょうど攻撃している巨人のチャンスだったので観衆の目は打席の柴田選手に向けられていたが異変に気づいた観衆は何が起きたのかとざわめきだした。自分の拙守を棚に上げて選手交代に反抗した態度は外人選手の横暴と多くの観衆の目には映ったであろう。ロッカールームに戻ったマニエルは流石にマズイと思ったのか「言い訳はしない。オレのミスだ」と自分の拙守を認めてションボリ。だが騒動は沈静化しなかった。大観衆の前で醜態を晒したマニエルだけでなく広岡監督も赤っ恥じをかかされた格好になった。「あのプレーだけでなく、その前にも二度サインを見落としたり拙走もあった。(通訳の)ルイジに注意するよう伝えたらあんな態度をとった」と広岡監督。
途中交代へのあからさまな抗議。闘志の捌け口をとんだところで発散したわけだが、侮辱的行為に処罰をしなかった首脳陣の弱腰にも批判の声が上がっている。ネット裏の評論家諸氏は「外人はイニングの途中で交代させるとプライドを傷つけられたとして反発する。だが拙守でチームにダメージを与えたなら交代は当たり前。マニエルに処分を下さないと他の選手に示しがつかない」と口を揃える。試合に勝つには外人選手の力が必要だ。さりとて信賞必罰もそこそこではいつまで経ってもニッポン球界は甘いとナメられ続けられてしまう。ガイジン対策を改めて考えさせられた問題提起であった。
待望の初勝利に笑顔なし
嬉しさも中位なり。念願のプロ初勝利を手にした梶間投手だったが「恥ずかしい、恥ずかしい」を連発した。4月27日の中日戦(ナゴヤ球場)、同点の5回裏一死満塁のピンチに先発した会田投手をリリーフした梶間。デービス選手に右前適時打され2点を奪われ勝ち越された。中日は6回表からリリーフエースの鈴木孝投手を投入。どう見ても負けパターンだったが8回表に打線が爆発して逆転勝利した。8回表の攻撃も梶間の代打・船田選手の安打が口火とあって梶間は逆転劇に関わっておらず「初勝利おめでとう」とナインから握手攻めにあっても半信半疑の梶間だった。
「先発でも救援でも納得のいく投球をして初勝利なら嬉しいんですけどね。実質は敗戦投手ですから…」と梶間はギョロリとした大きな目も伏し目がちにボソボソと話す。松岡投手、会田投手と並ぶ7試合に登板し、新人ながら開幕から先発ローテーションに入っているだけにスカッとした勝利を狙っていた梶間は「おいルーキー、贅沢はよそうぜ」と背中を叩かれると「そうですよね。1勝は1勝ですもんね」とやっと納得した。名古屋市内の宿舎で休んでいる所にフジテレビの『プロ野球ニュース』の佐々木信也キャスターから電話取材があったが声は弾まず淡々と答えるのみで拾いモノの1勝に破顔一笑とはいかなかった。
持ち前の変幻自在の投球と違い頑なに自分の理想を追求する性格が梶間の真骨頂だ。「ピンチでも顔色一つ変えない。やはり都市対抗野球の優勝投手だけのことはある」と女房役の大矢選手は改めて驚いている。シーズン前から右を向いても酒井、左を向いてもサッシーと日の当たらない梶間の影は薄いが、安田投手の調子が上がらない現状では左のエース的存在だ。報道陣から「サッシーよ、お先に失礼って感じかい?」と意地悪な質問をされても「彼の素質は相当なものです。僕なんか足元にも及ばない」と大人の対応で軽く受け流す。そうは言いながらも " 実力では負けないゾ " の気概がアリアリだ。
あぁ、3600万円が泣いている
ロジャー、マニエルの両外人はいよいよもって箸にも棒にも掛からなくなってきたようだ。シーズン途中に来日した非力なリンド選手(巨人)ですら既に2本塁打しているのに、ヤクルトの助っ人2人合わせて2本塁打とは情けない限り。ロジャーに至っては本塁打ゼロ・打率も開幕から終始1割台。2人揃って打てない・走れない・守れないの3拍子ときてはチーム内の雰囲気もシラけるだけだ。で、広岡監督が2人をスタメンから外すと今度は不平タラタラである。「代打じゃ力の出しようがない」と直訴したマニエルをそんなに言うならとスタメンで起用したが結果を出したのは5月2日の巨人戦だけという体たらく。
逆に今まで控えに回っていた山下選手、福富選手らにとってはチャンス到来である。巨人戦で代打3ランを放ち勝利に貢献した山下は早速マニエルの代理で五番に座る。福富はロジャーに代わりトップバッターとして打ちまくっている。が反面2人合わせて12万ドル(約3600万円)を払っている球団にとってこれほど勿体ない話はない。なるほど試合前のフリー打撃では王や張本も真っ青の豪快な打球を飛ばす2人。「あの打球を見せられると使いたくなる。まぁ観兵式とは分かっているんだけどね」と広岡監督が一縷の望みを託して起用しても結果は同じ。今季限りで解雇かトレードか、にわかにキナ臭さが漂い始めた。