Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 672 長嶋野球を探る ①

2021年01月27日 | 1977 年 



今年のセ・リーグは再び混戦が予想されている。その混戦も巨人が中心であるのは勿論だが、これを巨人はどう乗り切っていくか。また他チームが巨人をどう追い落としていくか。キャンプからオープン戦にかけて、じっくりと見つめてきた担当記者に今年の巨人と目の色を変える他5チームの㊙作戦を推理してもらった。

:東京中日スポーツ  / :日刊スポーツ  / :サンケイスポーツ


若手の伸びに長嶋監督はご満悦。だが二塁・捕手など守りに依然不安が
:いよいよペナントレースの開幕。当然巨人の連覇に焦点が集まるのだがどうだろうか?
:時間をかけたキャンプの割には成果は今一つかな
:充実した練習をしていたのは投手陣だけで、野手陣は特打ちも少なくて消化不良気味だね
:それはオープン戦の勝敗に表れているね。得点力が落ちている。
:でも若手は結果を出している。野手では中畑や二宮、投手では定岡や藤城は合格点。
:黒江コーチが言うには基本が出来ていない選手が多いからミスが目立つそうだ
:岡山での阪急戦で若手が活躍して長嶋監督を喜ばせた。松本の盗塁、二宮の実戦的なバッティング、
  投手では田村・定岡が日本一の阪急打線を封じた。

:それなりに実りがあったキャンプだけど依然として残る不安は守りじゃないかな。昨年の日本シリーズで
  露呈した守備のお粗末さが改善されているかは分からない。

:ジョンソンの抜けた穴が意外と痛い。他球団は右打ちと走る野球で巨人の二塁を標的にしている。
:長嶋監督は心配していない。ベテランの土井が元気で張り切っているし、コンビを組む遊撃の河埜は
  ジョンソンとは苦労していて土井の方が楽だと言っていた。土井に疲れが見えてきたらルーキーの
  松本を使えばいい。

:松本に関しては後で言うけど、足は素晴らしいが打撃と守りは一軍半レベル。
:足なら中日に入ったデービスの方が上。巨人の弱点は二塁よりむしろ捕手だと思う。
:確かに。吉田、矢沢、杉山、笠間のうち矢沢が落ちた。肩だけなら新人の笠間だが経験不足。
  オープン戦では杉山が目立っているが、最後には吉田に落ち着きそうで変わり映えしない。

:捕手不足は12球団一緒。日本一の阪急だって中沢、河村に次ぐ第3の捕手は未だに決まらない。
:とにかく早く杉山や笠間が使えるようにならないと

末次の成長で打線に厚みが出た。左右の代打陣でヒラメキ野球さらに光る
:ところでOHに続くバッターの問題は?
:僕は柳田を推す。柳田の欠点は考え込む癖があること。例えば4打数3安打しても打てなかった
  1打席のことを悔やむタイプ。それさえ解消すれば五番に定着できる。

:末次が調子いいね。去年、張本に打撃のコツを教えてもらって成長した。
:伏兵では淡口。キャンプ当初は怪我で出遅れていたけど今はすっかり元気。五番はちょっと厳しいが
  六番ならあり得るかも。

:六番は高田でしょ。二番という声もあるけど、そうなると六番がいない。
:いや、柴田・土井の一・二番より柴田・高田コンビの方が長打もあり相手投手に与えるプレッシャーも
  大きくなる。それに柴田・高田は足も使えるから作戦面でも有効。

:六番に長打力がないとOHが歩かされる。今のメンバーなら高田しかいない。
:昨シーズンに長嶋監督が多用した左の代打陣(柳田・淡口・原田ら)は今年も楽しみ
:今年は右の代打陣も揃った。早いイニングでも代打攻勢があるかもしれない。
:長嶋監督のヒラメキ野球が昨年以上に炸裂するのは間違いない

思い切った新人採用はあり得るか。もったいない篠塚・目玉商品の松本
:いつまでもV9戦士に頼っていてはダメだと言われながら昨年の優勝もベテラン選手が中心だった
:若手が成長しているのは事実だし、選手の高齢化といっても二塁の土井がフル出場が難しい程度で
  それほど逼迫してはいない。山本功、中畑、二宮、そして松本。心配ないよ。

:選手は揃っているが使う方の首脳陣は常勝と育成の両立が課せられて大変だ。他球団のように
  思い切った若手選手への変更は難しい。

:いい例が期待の若手・篠塚だ。健康面の不安があったがキャンプでの評価はウナギ昇り。しなやかな
  バットスイングとグラブ捌きは一軍レベルで黒江コーチも非の打ち所がないと舌を巻いていたくらい。
  それほどの逸材なのだが一軍で起用する余裕は残念ながら今の巨人にはない。

:本当に掛布以上の逸材だよ。掛布が一軍デビューした頃は三塁の守りは危なっかしくて打撃も八番が
  せいぜいだった。それでも阪神が掛布を使い続けた結果が今の掛布を生んだんだ。篠塚は他球団なら
  間違いなく今年中に一軍に昇格できる選手なのに勿体ない。

:遊撃には河埜がいて上田もいる。その2人を下げて篠塚を使うかと言われたら長嶋監督でも出来ない
:長嶋監督は気の毒だよ。常勝を義務付けられているから選手起用で冒険は出来ない。掛布だって三塁の
  レギュラーだった後藤が怪我をしたから出場できた。選手それぞれが持つ " 運 " が左右するんだ。
  篠塚も自分の運に期待するしかない。

:中畑、二宮、松本の3人は出場のチャンスは多いだろう。その中でも松本の足は今年の目玉商品だろう。
:それはどうかな。確かに走塁に関しては一級品だが、その足を生かすには出塁しなければ宝の持ち腐れ。
  現状の打撃力ではレギュラーは勿論、代打も無理。

:代走専門で盗塁王を狙うウルトラCがある。代走なら必ず130試合出場でき、それで盗塁に成功したら
  単純計算で130盗塁。仮に二盗・三盗に成功したら倍。まぁ絵空事だけど、2試合で1盗塁でも65盗塁
  だから盗塁王だよ。
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# 671 カネやん

2021年01月20日 | 1977 年 



ロッテの猛烈ランニングは昨年も一昨年も見た。しかし今年の場合は一味違った感じがした。選手にピチピチしたところが感じられるのだ。「記録を変えるには練習しかない」と言っていたモーレツ金田さんが何故変身したのか直接聞いてみよう。

今年のロッテは集中力で勝負や
森 …カネさん、去年は残念なシーズンでしたけど今年の手応えはどうですか?
金田…去年のチーム成績(3位)は失敗のうちには入らんよ。周りは惨敗だと言うけど選手はようやったよ。
   その証拠に選手の給料は上がっとる。ジプシー生活で遠征も多く、ハンディを背負っていた。たまたま
   優勝を逃しただけでようやったよ、ホンマ。

森 …悔しさでは2位だった南海の方が強かった筈ですけどね
金田…ワシとシゲ(長嶋監督)はどうしても目立ってしまう。同じ1敗でもマスコミの扱いが違うので大変だよ。
森 …今年のキャンプは全体的にスロースタートですね
金田…そうそう。自主トレをしたといっても身体の出来上がりは選手それぞれで、いきなりペースを上げると故障する
   ヤツが必ず出る。それと今年は新加入の選手が多くいて、最初からロッテ式練習法をやるわけにはいかなかった。

森 …いきなり走れ、走れのロッテ方式は無理ですよ。特にベテランは。
金田…(太平洋クラブから移籍した)白選手の足が心配だったんだ。肉離れの前歴があるからな。
森 …個別にペースダウンするのではなくチーム全体でゆっくりスタートすると
金田…そうね。そのお蔭か選手はやらされてる感がなくなり、自分でやるんだという雰囲気に変わったね。
森 …今年は監督として一歩引いた感じがするんですけど方向転換されたのですか?
金田…方向転換というよりコーチに任せていると言った方が正しいかな。今のプロ野球界で一番いけないのは
   監督が絶対的な存在となり、監督自身が一族郎党を率いてチームに乗り込む形が多いこと。ロッテは違う。
   監督やコーチは球団が決める。任せられることは任せとけばいいんじゃ。

森 …今年の自主トレにカネさんの姿が見えなかったのはそのせいなんですね。
金田…ワシはその間、テレビの仕事をして稼がせてもらったわ(笑)
森 …今年のロッテのテーマは何ですか?
金田…集中力やね。三塁走者が内野ゴロで本塁突入してセーフになるか、守っていて打球への反応も全て集中力が
   左右する。1得点でも多く、1失点でも少なくすることで優勝に近づく。


野球はとにかくガッツが第一!
森 …ロッテで感心するのは他球団から移籍して来た選手が再生することが多い点ですね
金田…ああ、再生するねぇ
森 …ロッテ式猛練習によるものですか?
金田…猛練習と感情の問題があるな。俺はプロ野球選手だ、と自分の枠の中でしか練習しなくなる。自己満足やね。
   これだけやれば充分だろうと勝手に決めつけて鍛えなくなる。それじゃダメなんだよ。人間の身体は3日間くらい
   動かさなければ鈍ってしまう。それが分かっていないから監督やコーチから言われるまで動かない。健全な頭を
   持っていればトラブルは防げる。それを気づかせるのがロッテなんや。

森 …それでロッテに来ると再生する選手が多いんですね
金田…まぁ持って生まれたセンスもあるけどね。プロへ入って来る選手は一定以上のセンスは持っている。ただし
   センスはあっても他者とのコミュニケーションが欠けているせいで才能が開花しない場合が多い。

森 …今年の補強の目玉は白選手ですかね
金田…うん。単純に戦力アップだけでなく白の加入で他の有藤や山崎、弘田の目の色が変わったのも大きい。これで
   優勝できなかったら監督のせいや(笑)

森 …期待している選手はいますか?
金田…江島、岩崎、得津あたりかな
森 …得津選手は昨年に開花しかけましたね
金田…そろそろ頑張って花を咲かせないと選手としての旬を逃してしまう
森 …投手陣はどうですか?
金田…三井だね
森 …三井投手は昨年も期待されながら今ひとつでした
金田…肩を痛めたからね。地肩を鍛えて強くしなきゃダメ。とにかく野球はガッツがあって相手に突っかかっていく
   くらいじゃないと勝てないよ。


外人枠からアジア人を外せ
森 …韓国ロッテの選手がキャンプに参加していましたね。どういう意図ですか?
金田…いやこれね、ワシはドラフトに5年かかわってきたけどウチに1位指名で入って来た選手でロクな奴がいない。
   他球団でも1位指名に相応しい活躍をしたのは山口(阪急)くらい。いったい幾ら金をつぎ込んだかを考えたら
   情けなくなる。アジアの選手を獲得できるようにドラフトもそろそろ変革する時期じゃないのかな。

森 …全くその通りだと思います
金田…海のモノとも山のモノとも分からない選手に大金を注ぎ込むのを考え直した方が良い。目をもっと日本の外に
   向けるべきだと思う。韓国には酒井(ヤクルト)と遜色ない投手がウヨウヨいるよ。同じ東洋民族でありながら
   現在の日本の若者と違って彼らは子供の頃から厳しく育てられて身体が格段に強い。日本のプロ野球でスターと
   騒がれている選手は元は外国籍が多い。巨人でいえば王に張本に新浦も。だから早く外人枠から韓国や台湾を
   外して優秀な選手をどんどん受け入れればいいと思う。そうすれば日本のプロ野球のレベルアップにも繋がる。

森 …僕はアジア出身の選手はドラフト外で自由に獲得できるようにすれば良いと考えています
金田…その通りや。アメリカを見てみい、プエルトリコなどから自由に入って来てるじゃないか。なんで日本は枠を
   作って閉鎖的なんや。

森 …テストケースとして韓国ロッテの選手を日本でプレーさせれば状況も変わるのではと期待していると?
金田…そうよ
森 …ロッテが先陣を切って球界を変えると
金田…本当なら巨人なんよ。巨人が真っ先にやってくれんと困るのよ。球界の盟主に相応しい決断を期待しているよ。
森 …そういうチーム作りの面で巨人を追い越し、ロッテがパ・リーグを制して日本シリーズで巨人を倒せたら最高ですね。
金田…そうや、やったるでぇ!
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# 670 ガラスのエース

2021年01月13日 | 1977 年 



新生大洋のエースはやはり平松政次でなければならないはずだ。カミソリシュートの持ち主であり、亡き中部オーナーに優勝を誓った平松。それなのに腰痛の為、ついにキャンプには姿を見せずじまいだった。大丈夫なのだろうか。エースの復活を信じて敢えて苦言を呈しよう。

軽い投げ込みで痛くなったガラスの腰
別当新監督を迎えて今年こそBクラスから脱却し、亡き中部前オーナーの霊前に好成績の報告を…と全選手が一致団結したはずの大洋。だが何かが足りない。何か1本芯が欠けているような印象をキャンプでも受けた人も多かったはず。それは何故か。そこにエースの姿がなかったからだ。キャンプを終え、オープン戦が始まっても平松は多摩川で二軍の選手に混じって調整中なのだ。来日が遅れた外人選手ならいざ知らず、チームを牽引する立場のエースが一軍に帯同しないのは異例のケースだ。

それは自主トレが開始されて間もなくのことだった。練習中の平松が突然腰を押さえて動けなくなった。トレーナーの診断はギックリ腰。投手陣はまだキャッチボールに毛が生えた程度の練習をしていた頃だっただけに周囲は驚きというより呆れた声の方が多かった。ただ今年は例年以上に寒さが厳しかったので同情する人もチラホラ。しかしこの様子を見ていたある二軍首脳陣は「何が腰が痛いだ。きょうアイツは腰が痛くなるような練習はしていない。女性や子供がするような動きでギックリ腰になるようじゃプロ失格だよ」と吐き捨てた。これまでもサボり癖を指摘されることが多かった平松だけに、こうした声は一軍首脳陣の中にも多数あった。

ただこの時はまだこの腰痛がキャンプを断念するほど尾を引くとは誰も思っていなかった。平松自身も「2~3日すれば大丈夫ですよ」と軽く考えていたが待てど暮らせど痛みは引かず、キャンプインを目の前にした別当監督は「体作りが遅れる人間をキャンプに同行させてもプラスにならない。体が出来上がるまで平松は多摩川に残す」と決断した。キャンプに行けば他の選手に遅れまいと無理をする。そうなれば元も子もない。そんな親心からくるエースの多摩川残留処置だった。

こうして平松のキャンプ行きは遅れることになったが、最後までキャンプ不参加になるとはこの時はまだ思われていなかった。何しろ大洋のプリンスでエースと呼ばれる選手だけに口さがない連中はいろいろと憶測をする。特に時期が悪かった。「本当に腰が痛いのか。新婚ホヤホヤで奥さんと離れるのが嫌で大袈裟に言っているだけじゃないのか」などまるで腰痛がサボリの為の仮病だと言わんばかりの声もあった。ギックリ腰の痛さを知る人は分かっているだろうが、平松はトイレに行くにも苦労していたほどだっだ。多少良くなっても再発の恐れもありキャンプ不参加は妥当な判断だった。


それでも給料がアップしたための甘えも
しかしそもそも平松がとった行動自体が悪かった。「本人曰く腰痛を発症した当日は電話にも出られないくらい酷かったらしい。ところが翌日には自らハンドルを握って自主トレをしている多摩川のグラウンドに来ているんだ。こうした行動が他の選手や首脳陣たちの印象を一気に悪化させた」と担当記者は話す。確かにトレーナーの治療を受けるという大義名分があったのだが、車の運転姿勢が腰痛に悪影響を与えることくらい医者じゃなくても分かる。「治療を受けるのなら自宅に来てもらうなどの配慮があってもよかった(担当記者)」と周囲はエースとしての自覚の無さを残念がる。

大洋には亡くなった中部前オーナーの温情をそのまま鵜吞みにして甘え続けている選手がいると言われているが平松もその一人かもしれない。平松は昨年の契約更改で不思議なことに年俸がアップしたのだ。41試合・13勝17敗・防御率 3.81 とおよそエースとしては不充分な成績ながら約10%増の1200万円を提示された。「自分では10%減でも仕方ないと思っていたので向こうの気が変わらないうちに判を押したよ(平松)」と笑っていたものである。恐らく球団としては別当新監督の下、エースとしての期待料込みの年俸アップだろうが「それで奮起すれば良いが逆に甘えに繋がる危険もある」との声があるのも事実。

キャンプなしで長丁場を乗り切れるか
オープン戦が始まっても平松は依然として多摩川でコンディション作りの段階だ。こうしたペースで果たして開幕に間に合うのだろうか?キャンプで基礎体力や肩の筋肉を鍛えて、オープン戦で実戦の勘を戻し、微妙なコントロールを修正して開幕を迎える。これが一般的な投手の調整法だ。それを平松は何一つやっておらず、ぶっつけ本番で開幕に挑むことになる。「自分なりに納得のいくトレーニングをしてきました。開幕にはベストな状態で臨めそうです。チーム関係者やファンの皆さんには心配をかけましたけど、その分をマウンドで恩返しするつもりです」と平松は言うが、それを危ぶむ声もある。

とある中堅選手は「どうせ多摩川では適当にやっていたに違いない。だってそうでしょ、周りは二軍の選手ばかりで誰も平松さんにああしろ、こうしろとは言わない。一人でする練習は楽をしがちで我々だって自主トレでキツイ練習はしない。キャンプで皆とやるから『負けてられない』とハードな練習にも耐えられるんだ。仮に開幕に間に合っても直ぐにココが痛い、アソコが痛いと言うに決まっている」と手厳しい。「確かにプロで10年もやっていれば自分の体調は自分が一番分かっているだろう。でもそれはキャンプで他の選手と共に練習をするのが前提で、たった一人でマイペースで練習するとなると話は違ってくる」と首脳陣も危惧する。

3月下旬には登板へ
何しろ平松はこれまでもガラスのエースと陰口を叩かれるほど故障の多い投手だった。1年フルシーズンを故障なしに過ごせたことはプロ入り以来1~2シーズンしかない。毎年、春休み・夏休み、時には秋休みなど年中行事のように戦列を離れている。「キャンプでしっかり体力作りをしてそんな状態だから今年はとてもフル稼働は期待できない(担当記者)」という意見が大多数だ。こうしたエースを抱えた別当監督の悩みは深い。キャンプインを前に「1日でも早くキャンプに合流して欲しい」と言っていたが、遂に合流することなくキャンプは終了した。すると「開幕に間に合ってくれれば」に変わり、今では「ペナントレースで投げられるように」とトーンダウン。

「今年は亡くなった中部前オーナーの恩情に報いるためにも良い成績を残す。目標はもちろん優勝です」と意気込みを語る別当監督。だがエースを欠いた先発ローテーションでは戦う以前の問題だ。だが僅かではあるが朗報もある。別当監督は多摩川のグラウンドで平松の投球を視察した。その時は全力投球ではなかったが変化球を交えて100球ほど投げ込んだ。その様子に別当監督は「思ったより復調している。この分だと暖かい日が続けば1週間か10日ほどで本格的な投球ができるのではないか」と一安心した。平松も「まだ五~六分程度だけど、3月下旬のオープン戦には投げられそう」と自信たっぷりに話す。まだまだ周囲の心配は絶えないが、それを解消するのも平松の奮起ひとつにかかっている。
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# 669 栄枯盛衰 ②

2021年01月06日 | 1977 年 



応援団長にソッポを向かれては
目まぐるしい監督や選手の入れ替えは一種のカンフル剤かもしれないが、ファンにソッポを向かれては元も子もない。例えば昭和51年の監督問題。1年きりで江藤兼任監督を解雇し、無謀にも大リーグでも指折りの名監督と言われたレオ・ドローチャー氏を監督に迎えると公言した。「首に縄をつけても連れて来る」と中村オーナーは大見得を切ったが結果は失敗。チーム内に白けムードが広がり、ファンも「ライオンズは一体全体なにをしよるとかいな」と呆れ果てた。ライオンズが勝てば満員になる、と言われた平和台球場が昨シーズンは一度も満員札止めにならなかった理由の一つにはチームの低迷以上に球団に対する不信感が根づいた為ではないだろうか。

昨年の暮れに西鉄時代から私設応援団のリーダーを務めた川辺太さんが引退宣言をした。「生え抜き選手は目の敵にして放出するわ、試合には勝てないわ。お前らは勝手に応援してるだけだろと言われればそれまでだけど、身銭を切って毎年応援している我々にご苦労さんの一言もないんだから、誰がこんな球団を応援する気になるかって話ですよ」と不満を露わにする。地元の新聞記者は「西鉄が強かった時は長期的な展望があった。選手寿命を考えて3年から5年という計画で補強を行っていた。今はキャッチフレーズは大仰だが中身は空っぽ。これではファンを一度や二度は誤魔化せても、やがて離れていってしまうのは明白」と苦言を呈した。


プロ野球は独立した企業であるべきだ
昭和48年に発足した福岡野球株式会社。この5年間で辞職した職員は延べ40数人にのぼる。部課長クラスの退社も5人を下らないというから穏やかでない。「親会社もなく中村オーナーによる個人経営で資金も豊富ではないから待遇が良くないのは仕方ないけど、野球で儲けたお金くらい球団で使わせてくれるべきでしょう」と退職者の1人は怒りをぶちまける。地元発刊の経済誌に中村オーナーが山口県美弥市に建設中のゴルフ場に球団の収益金を流用しているのではないか、という暴露記事が載ったことがある。実はこうした噂話は球団職員の間で以前から公然と話されていた内容と一致する。

周囲にキナ臭い噂話が飛び交い始めた中村オーナーは太平洋クラブからクラウンライターへスポンサー変更を決めた。巷間耳にする良からぬ話に太平洋クラブ側が資金援助に難色を示しストップさせたのだ。重役会からの突き上げもあり新たなスポンサーを探す必要を迫られた中村オーナーは「クラウンさんからの " 強い要望 " があり業務提携案を受け入れた」と発表したが、実際は岸元首相の秘書だった中村オーナー自身の人脈・経歴を駆使して政財界を駆け回りクラウンライターに何とか引き受けてもらったのが実情だ。

今年の1月末、福岡市内で開いたクラウンライター球団披露パーティーで中村オーナーは「プロ野球は企業名、製品名をイメージアップする為のものだ。これは私がロッテ球団を任された時以来の信念だ」と断言した。つまり業務提携こそプロ野球の本筋という私見だ。だがこのパーティーに出席していたクラウンガスライターの桜井善晃社長は「スポンサーにはなるが業務提携は難しい。今のライオンズは地元ファンの支持がない。お金を出してライターが売れんでは困る」と本音を吐露し、中村オーナーの高姿勢とは裏腹に乗り気でない地元の名士たちの拍手を集めた。こうした逆風の中で中村オーナーは如何に逆境を乗り切るのか直接聞いてみた。

Q:新生クラウンライターのユニフォームの袖に太平洋クラブの「T」マークが入っているのは何故か?
A:太平洋クラブとは5年契約だった。それを4年でやめたので業務提携の相手先としては降りてもらうが
  契約自体は生きているのでいきなり関係を断ったりはしない。プロ野球は独立した企業であるべきで
  親会社の業績次第で球団経営が圧迫されるようじゃダメ。その意味では我がライオンズは理想的な
  形態であると確信している。

Q:某経済誌によるとオープン戦の収入がそのままゴルフ場の建設費に流用されていると書かれているが?
A:野球とゴルフは全く関係ない。そんなニュースが流れて大変迷惑している。噴飯ものだ。弁護士と相談して
  正式に抗議するつもりだ。



主砲・土井も盗塁する機動力の野球を…
何はともあれライオンズがかつての熱いファンの支持を得るには桜井クラウンガスライター社長の言う「九州のチームらしいやり方で強くなる」ことであることは言うまでもない。それには地元密着路線がどうしても要求される。ドラフト指名で2300万円もかけて柳川商の立花を入団させた事や他にも生え抜き選手の流出に待ったをかけるなど遅まきながら球団もその方向に動き始めている。幸いにも選手たちのやる気は例年以上にみなぎっている。チーム内には「球団がどうとか、オーナーがどうとか、そんなことはどうでもいい。今年もビリじゃ自分が惨め過ぎる」や「地元のファンに愛されるライオンズを守りたい。その為には勝たなければ」といった声に満ちている。

そうした選手らを率いる鬼頭監督は今年が2年目。ただし昨年はドローチャー監督が来日できず事実上の代理監督であったので、今年が名実ともに監督のスタートと言えよう。「昨年はヘッドコーチのつもりでいたので急に監督を務めるとなって気持ちの整理がつかず中途半端な気分だった。監督がそんな風では選手らも試合に集中できなくて当たり前。だが今年は違う。チーム一丸となってライオンズらしい野球をやる覚悟だ。松木謙治郎さんに臨時コーチをお願いした。松木さんには専門の打撃だけでなく走塁面での強化も指導してもらった。オープン戦にもその効果は表れている(鬼頭監督)」と。

つまり今年のライオンズは打つだけではなく、機動力野球も推進していく方針だ。これまではチーム打率は良くても得点に結びつかず勝ち星は増えなかった。山賊打線と持てはやされても本塁打以外での得点能力は他球団より劣っていた。オープン戦では土井選手までもが盗塁を試み成功したように、ライオンズは確実に変わりつつある。チームの変革に対して中村オーナーも「今年は単に個人の成績だけで年俸の評価を下したりはしない方針だ。チームへの貢献を見せてくれれば、それなりの評価をするつもりだ」と球団としてのバックアップを公言している。ただただ頑張れライオンズと言いたい。
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