弁護士任官どどいつ集

弁護士から裁判官になった竹内浩史のどどいつ集

「判決要旨」は 裁判官が 作っているとは 知らなんだ

2024年06月17日 18時31分37秒 | 裁判

私が二十年余り前に弁護士任官してから認識を改めたのは、当時はよく新聞に掲載されていた「判決要旨」は、新聞記者ではなく、裁判官自身が作成しているということだった。
公害裁判のような長文の判決の場合は、原告弁護団員として裁判所から判決要旨を受け取った経験もあるので、そうであろうと知っていたが、それほど長いわけではないが報道対象になる判決についてもそうだとは思っていなかった。てっきり、記事を執筆する各紙の記者が掲載までのごく短時間で要約しているものと思い込んでいたのだ。冷静に考えてみれば、記者にそんな芸当ができる訳が無いのだが。

(写真)任官して最初に「判決要旨」を作成したのは、東京高裁で判決した、旧日本軍の爆雷が廃棄物処理中に爆発して工場ごと吹っ飛んだという裁判だったと記憶している。この事案で国家賠償を認める場合に、時効と除斥期間の起算点はいつになるのか。私たちは当然に爆発時であるとして請求を認容した。実は同様の事案が中国で起きた場合に熾烈に争われていたこともあって、報道された。
かなりの分量の判決書を完成させた後に短期間で「判決要旨」を作成するのは大変だった。そもそも、判決理由は多かれ少なかれ裁判官3名の妥協の産物なので、どの部分を要旨として抜粋するかで、意外に議論が紛糾するのだ。

最近は、裁判官にとって余計な仕事を増やすだけだと事務方が忖度しているのか、判決要旨の求めをなるべく記者にさせなくなったという。確かに、法律上の位置付けの無い文書を裁判所が「便宜供与」として出す事には、批判もあり得るところだ。
そこで、私は、判決文の中に「判決要旨」に当たる部分を取り込んではどうかと考えている。
その実践例が、遅まきながら、裁判所ホームページに掲載された。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=93020

この判決の21〜29頁当たりも、そのつもりで書いたもので、言渡しの際はその前後を全部読み上げた。
聞いていても分かりやすかったと、傍聴者の評判は上々だったと感じている。

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