入院しているとき、
点滴をしながらのトイレのかえり、一人の老婦人に声をかけられた。
「あんたは、いつ入院したのかね?」
「昨日なんですよ。めまいが激しくて、動きがとれず、それで」
「そうなんですか。私は、毎月一回入院。ガンだから」
と、明るく笑いながら言った。
外は雨だった。
窓が5Cmほどあいている。風が入る。
話し込んではいけないと思い、そのまま、部屋に戻り、横になった。
点滴の影響か、しばらくすると、またトイレに行きたくなって、鈍い動作でトイレに向かった。
すると、さっきの老婦人が、5Cm開いた窓の外を見ている。じっと見ている。
何を見ているのか、分からないが、微動だにせずに、外に顔を向けている。
声をかけずに、そのままゆっくり通り過ぎた。その時、
「ああ、風が気持ちいい」
と、老婦人がつぶやいた。
風は湿っていて、ねっとりしていた。