先日、車が一台やっと通ることができる道を歩いていた。駅に行くにはいつもこの道を利用する。
長さはたかだか70m程度だろうか、まっすぐだ。
車が途中で停車している。 車のわきを自転車も通れない。
迷惑な車だ、と思った。
やっと、車を通り過ぎるとき、中をちらっと覗くと、二人が乗っていた。
二人とも、所在なさそうに、話をしていた。
そのまま歩いていこうとすると、
やっと、車がなぜ停止しているのか理解できた。
一人の老婆が道路に両手両足をついたまま、動かないでいた。
かなりの年よりだった。90歳くらいに見えた。身体は細く、触ればポキッと折れそうな感じだった。
老婆の30mくらい前に、杖代わりだろうか、車輪付きの買い物があった。
すぐ近寄って、声をかけた。
声をかけても、返事がない。なにかを考えているようだった。
もう一度声をかけると、
「ちょっと座りたい」
と、枯れそうな声で言った。
右手には、しっかりと財布が握られていた。
後ろから抱えて、動かそうにも、なかなか持ち上げられない。体重はたぶん30k台だろうが、駄目だった。今度は前に回り、おんぶしようとしたが、老婆が動けない。
そこへ、近所の女性が駆けつけて、二人でかかえて、道路脇に移動した。
先を急いだぼくは、女性に託してその場を去った。
去る時、後ろを振り返ると、件の車の二人、
笑っていた。