相撲界のニュースを知ると、土俵で豪快に相手を倒す力士でも、一個人になれば豪快でもなんでもなく、精神というか心というか、それは普通なんだなと思う。
他のスポーツでも、何かの先生でも、研究者でも、あるいは道を説くような人でも、それはたぶん同じなんだ、と思う。
昔、その世界の人から、その、というのは極道という意だが、話を聞いたことがある。極道でもヤクザでもいいが、プロレスラーのような身体をもっていても、極道の世界では、上にはなれないし、喧嘩も強くはなれない、と言っていた。
体が小さくても、いかにも力が弱そうでも、「言葉」と「雰囲気」がヤクザにとって一番必要な資質らしい。
この話には、ちょっと驚いた記憶がある。
後年、ヤクザと渡り合う人と知り合いになって、彼の武勇伝を聞いたことがあった。
彼は身体は小さく、とても喧嘩が強そうにはみえない。
彼によると、ヤクザは素人よりはるかに物分りはいいし、解決も簡単で早いと言っていた。
ところが、素人は、二言目には、訴訟を起こすとか、面子だとか、金銭だとか、いつまでたってもダダをこねて、なかなか解決しない、といっていた。
終わったあとでも、いつまででもグダグダしていて、性質の悪さでは素人は手に負えない。
言われてみれば、なるほどなと思う。
浪人時代、川崎駅前のパチンコ店でバイトをしていた。パチンコ店といっても、輪投げ、スマートボール、だるま落しなどがある大きな店だった。
当時は、「また逢う日まで」がヒットし、いつでも店に流れていた。
僕の担当は、スマートボールとだるま落としだった。
だるま落しには一球で全部を落とし場合、二球で落とした場合の賞品が説明してある。
ある日、
プロレスラーのように身体の大きな、姿かたちも、態度もヤクザを思わせるような、堂々として辺りを睥睨するような中年の男がだるま落しをやった。
このとき、ぼくはスマートボール担当だったが、だるま落しがよく見えていた。
何度かボールを投げたあと、バイトの係員が賞品を渡した。ところが、件の男は、違う賞品を指差して、
「あっちの賞品をくれ」
と賞品を返した。バイトの学生係員は、
「あれは、一回の投球で全部を落とした賞品ですので・・・」
と、丁寧に応じた。
ところが、男は、説明書きに難癖をつけて、脅してきた。
けっして、大声を出すわけではないが、低くしかもドスの利いた声だった。
素人には見えなかった。
この時間が5分くらい続いただろうか、
男のイライラが募るのが分かる。
バイトは、オドオドするしかない。すると、
店長がスタスタと現場にやってきた。本当に、軽い普段と変わらぬ態度で。
店長は、髪は薄く、背は小さく、おまけに痩せていた。
「すいません、お客さん、こちらでお話を伺いますので・・・」
と慇懃無礼に告げた。
何があったのか、何をしたのか、さっぱり不明だが、
その瞬間から、件の男は、小さくなってしまった。オドオドしていた。言葉も、ろれつがまわらない。
この光景はいまでも明確に覚えている。
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