「みっちゃん、お届け物だよ」
私は頭から布団をかぶり、眠ったふりをしてしまった。何度、声をかけられても電話には出ないと決めたのだ。そのように伝えて欲しいと下宿先のおトキさんには何度も頼んでいるのに、彼に対して情が深いのか、おトキさんは朝から何度も・・・・いや、一週間前から幾度も私の部屋を覗きに来ては、彼からの電話を繋げようとしてくれていた。おトキさんは、私にとっては母親的存在だ。高校を卒業後、都会に出てきた私の他にも3人の大学生を下宿させている。面倒見が良い働き者かあちゃんだった。おトキさんの言うことなら、実の母親よりも素直に聞ける。そんな私でも、今回だけは駄目だった。あの裏切り者! 心の中で何度も叫ぶ。絶対に許してなんかやるものか。何度、電話してきたって駄目なものは駄目なんだから! 独りでコンクリートの街へやってきて、ちょっと心細かっただけなんだ。最初に優しくされて、気を許した私がバカだった・・・。初めてのボーイフレンドに出来るだけの罵倒をあびせ、きれいさっぱり忘れたい。でも、どういうわけか、おトキさんは、私と彼の仲を取り持とうとした。
「抱き合うといっても、いろいろあるさぁ。相手が飛びついてきたのを支えただけだって、そう見えるだろうに。彼に会って、直接聞いてみたのかい? 彼はとてもみっちゃんのことを大切に想っていると思うよ。きっと彼が心から抱きしめたいと思うのは、みっちゃんだけだよぅ! 私はそう思うよ、うん」
昨夜も ふて腐れて寝ている私の枕元で、おトキさんは優しく私の頭を撫でながら、ぽつりぽつりと話しだした。おトキさんが結婚した旦那様の場合は、ほんとの浮気だったけど、浮いた気分になることだって男には たまには! あるらしい。でも、みっちゃんの彼はそうじゃないだろうに…テニス界のプリンスだから、ファンが追っかけし、彼を取り囲んでいてどうしようもなかったんだろうよって。私はそういう問題じゃないと思うけれど、いつも笑っているおトキさんも旦那さんのことで苦労したんだ…私なら離婚届けを差し出しそう。どうしてこんなに寛大でいられるのだろうとヘンに感心しながら いつのまにか聞き入っていた。
「みっちゃんは、今、いくつだっけ?」
「19歳」
「まだまだ若いねぇ・・・」
そう言ったおトキさんの声は、何故だかとっても寂しげだった。いつまでも目を合わせないでいるのが段々申し訳なくなってきて、布団の隅からそっと、おトキさんの様子をうかがい、いつの間にか起き上がっていた。
「おトキさんだって、若いよ! 朝からずっと働いて・・・大学生の私達より元気だもん」
おトキさんは、ふふっと笑みを浮かべ、「おや、やっと顔を出したね!」というと、私のおでこをちょこんと突いた。
「ほら、見て御覧!」
おトキさんの目線を追うと、両手で抱えるのがやっと! くらいのバラの花束が、いつの間にか私の本棚の横に飾られていた。
「どうしたの、これ?」
「みっちゃんの彼が届けてくれたんだよ。早く元気になって、テニスコートへ戻ってきて下さいって」
「・・・・・・」
「みっちゃんの彼のファンって人が、飛びついてきたのを支えたら、みっちゃんがドアを開けて入ってきて、血相変えて駆けて行ったけれど、かえって良かったって言っていたよ、彼。その時、はっきりと分かったんだって。みっちゃんは特別だって。きっかけが出来て良かったって。明日にでも、彼に会っておいでよ、ねっ?」
私は即答できず、しばらく黙りこんでいた。そんなこと・・・おトキさんに告げるなんて・・・恥ずかしいじゃない。でも、何故だか とっても嬉しい。
「みっちゃんと彼には、ぜひとも仲直りしてほしいよ。このバラのお陰で私も喧嘩中だった旦那様と仲直り出来たんだよ。どうしてだか分かるかい? 最初はね、この花束、キッチンテーブルに飾っておいたの。何度、みっちゃんに声を掛けても返答がないからねぇ。昨夜、遅くに帰宅した旦那様が、バラを見てね・・・誰からだって。ちょっと妬いたみたいだったよ。みっちゃんの彼からだって言ったら、なんだ、そうかって。私達こそ、これが何度目の夫婦喧嘩って思うけど、お陰さまで仲直りするきっかけになったよ。ありがとう、みっちゃん。そして今度は、みっちゃん達の番だよ!」
仲直りの「きっかけ」・・・かぁ。私も少し、いや、とっても頑固になりすぎていたのかもしれない。そうだ! このバラに賭けよう。もしも、このまま放置して、枯れずにドライフラワーになったら・・・・。二人の仲は永遠かもしれない。そうしたら、許してあげようかな。そしてもう一度、先輩、後輩から始めよう。
「うん、分かったよ、おトキさん。後で彼に電話してみる!」
「みっちゃん、良い子だね。でも、今すぐ電話しなきゃ!今日が何の日かしってる? おばちゃんも時代に乗り遅れないようにデパートで買ってきたよ、これ!」
おトキさんがポケットから取り出したのは、チョコレートだった。
「若い人は、チョコレートを渡すんだって? バレンタインだとかって日、今日じゃなかった? それに古い洋画でダンディな男が金髪の女性にバラの花束を手渡すシーンを見たことがあるよ。みっちゃんの彼って、イキなことするねぇ!」
そうだ! すっかり忘れていた。今日はバレンタインデー。海外では男性から女性へバラの花束を渡すらしいけれど、私の王子さまはきっと、お見舞いのつもりでバラの花束を届けただけで、バレンタインって意識、無いんじゃ・・・・。私は頬が次第に火照ってくるのを感じた。つい先ほどまでは、起き上がろうとすると、あんなに重かった頭も軽くなり、心はすでに彼へと向かっていた。窓から差し込む光が眩しい。
「おトキさん、私、彼に会ってお礼を言ってくるね! 仮病だったって、心配かけて御免なさいって謝ってくる!」
ベッドから飛び出した私に、おトキさんは慌てて言った。
「仮病じゃないだろうに。恋の病だよ!」
私は一瞬、ぽかんとしたが、今回は素直に認めた。
「そうだね。立派な病気。しかも、かなりの重症だったね?」
私と おトキさんは顔を見合わせて大笑いした。彼は今頃きっと、とっても耳が痒いに決まっている。彼に会ったら、一番に言おう。来年もバレンタインを一緒に過ごせるといいね。勿論、再来年も、ずっと、ずっと・・・・何年先も・・・・。
おわり
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尚、これらのお話は すべてフィクションです。即興で一気に書くので内容的にも文法的にも未熟というか、めちゃくちゃでしょうが、多目に見て下さいませ。
私はバレンタイン当日、仕事ですが(遅番) 皆さまは特別なひとときをお過ごし下さいね♪ 皆さんのバレンタインの思い出、明日の予定、そっと・・・? 教えてね。私にとって一番のバレンタインの思い出は、やっぱりあれだな・・・。
エピソード その1
西村チーフ: 「すずさん、チロルチョコ、ありがとう」
すず: 「どういたしまして。西村チーフ」
エピソード その2
すす: 「南副店長、ハッピーバレンタイン!」
南ちゃん:「えっ? 」 (ここで、一気にテンションが上がる)
すず: 「はい、これ!」
南ちゃん: 「あ・・・・(汗) (ここで、一気にテンション下がり、慌ててチロルをポケットにしまい込む)
すず: がーーーーん!!!
後日談。。。さくらの更衣室にて。
惣菜スタッフ 「南副店長、何をそんなに期待しとったんかねぇ・・・?」
すず 「ほんとですねー」
それでは素敵なバレンタインを♪
Bye for now すず