ヘツカリンドウSwertia tashiroiについては、既に何度も繰り返しこのブログで紹介してきた。
古い自分のブログのチェックは大変に困難で、細かくは追認出来ないでいるが、確か最初は「2006.11.6屋久島モッチョム岳‐アズキヒメリンドウ」という表題で20回ほど続けたと思う。
その後2011年に「屋久島および伊平屋島のヘツカリンドウ(アズキヒメリンドウ)について」、今年に入って「中国のリンドウ(竜胆Gentiana)のこと‐Ⅲリンドウ科センブリ属アケボノソウ組ヘツカリンドウ種群の分布」等々、それぞれ数回~10数回に亘って、かなりの数の写真と資料を紹介し、解析を行ってきた。
しかし、どうやらほぼ全く無視された状態であるように思われる。
ごく一般の自然愛好家のブログに紹介されている、沖縄本島や奄美大島や屋久島や大隅半島でのヘツカリンドウ観察記は、相当数にのぼるようである。どれも結構素敵な写真と記事だと思う。コメントとかイイネとかも沢山貰っているようだし(僻み、笑)。プロ仕立てのブログで見た目もかっこいい。
僕のは、あや子さんの手作りなんで、その辺りは見劣りするのも仕方がないと思うけれど、そっけなく出来ている分、中身はあると自負している。
他にネット上でチェック出来たのは、完璧に学術的な様式で発表されている、しかし学術的な意味があるとは全く思えない(末端の変異みたいなところだけを突いて本質的な問題には全く触れていない)「私たち学者が調査研究しましたよ」という、「論文」という入れもので飾っただけの学術論文がチラホラ。
今の日本の文化基準に従えば、見栄えのする「一般のブログ」パターンをとるか、形式を整えた権威ある学術論文にするか、どっちかに特化しなけりゃ、認めて貰えないのだと思う。
ちなみに、2015年には、計466頁737photosの電子書籍版(DVDに収納)『Some document about Swertia tashiroi complex 辺塚竜胆(沖縄千振、琉球曙草)と小豆姫竜胆(Gentianaceae)Ⅰ~Ⅲ』を、自然科学系図書通販を通じて発売したけれど、一冊も売れていない(従って引用されることもない)。「一冊も売れてない」というのも、考えてみれば凄いことではある。 *今年の1月に、このブログで一部を抜粋紹介。
ということで、今回再びヘツカリンドウの(大陸産近縁種に関する考察を交えての)総括を、「リンドウ」シリーズの末尾に纏めて置くつもりでいたのだけれど、どうせ同じ事の繰り返しになるだろうことを想えば、今更力を注ぐのは、億劫でしかない。
「集大成」は、今年の冬に日本の主な未チェック地域の確認を自分で行い、大陸産の観察・撮影をモニカに委ね、それを終えた時点で再構築を行ってからで良いのではないか、と考えている。今回は写真などはパスして、全体の(現時点での)大まかな総括に留めておく。
何度も繰り返し言うが、分類群の位置づけは、研究者や機関ごとに様々である。ここでは「中国植物志Flora of China」の見解を軸に、全体的なバランスを適当に判断して、その一例を示す。
注1:分類単位としては、科、属のほか、族、亜族(以上属の上位)、節、列(以上属の下位)を使用した。それぞれtribe, subtribe, section, seriesに相当するが、あくまで暫定的な処置であり、「中国植物志」そのほかで、それぞれ個別に採られている「亜科subfamily」「連(または族)tribe」「亜連(または亜族)subtribe」「組(または節)section」「系(または列)series」等への配分とは、一致するものもあれば、食い違う場合もある。そこらあたりの整合性を一つ一つ考えていると面倒なので、適当に進める
注2:主に日本に分布する種について述べた。数字は分かり易く説明するために付しただけで、検索表ではない。
Ⅰリンドウ(龙胆)科Gentianaceae →Ⅱ
>旧分類ではリンドウ科に含められることの多かったミツガシワ属などを分離(→ミツガシワ科)、別属とされていた南米産サッキフォリア属Saccifoliumなど4属?をサッキフォリア族(または亜科)Saccifolieaeとしてリンドウ科に加え、それ以外の全ての属をリンドウ族とした。茎に特殊な維管束部がある。苦み成分を持つ。
Ⅱリンドウ族Gentianeae→Ⅲ
原則として対生単葉。花冠は合弁で右巻きに重なる。雌蕊は2心皮。花粉は単粒(一個ずつ集合)。
>日本産としては、シマセンブリ亜族のシマセンブリCentaurium japonicumを除く全ての属と種がリンドウ亜族に所属。
Ⅲリンドウ亜族 →Ⅳ
子房は一室で、柱頭は二分裂。花粉表面に細かな模様がある。
>センブリ(獐牙菜)属Swertiaのほか、リンドウ(龙胆)属Gentiana、ツルリンドウ(双蝴蝶)属Tripterospermum、シロウマリンドウ(扁蕾)属Gentianopsis、ハナイカリ(花锚)属Halenia、チシマリンドウ(假龙胆)属Gentianella、サンプクリンドウ(喉毛花)属Comastoma、ヒメセンブリ(肋柱花)属Lomatogonium、ホソバノツルリンドウ(翼萼蔓)属の各種が含まれる。
Ⅳセンブリ(獐牙菜)属Swertia →Ⅴ
花冠は深裂し、花被裂片上に蜜腺溝がある。雌蕊柱頭は頭状で明瞭に二分裂。
3亜属sub-genus(「中国植物志」では「組」section)に分けられ、それぞれを独立の属と見做す見解もある。
Ⅴa ミヤマアケボノソウ亜属Sub-genus Swertia=獐牙菜组 Sect. Swertia
種子に翼がある。蜜腺溝は花被各裂片基部に2個、周囲に繊毛群を生じる。
>日本に分布する種:ミヤマアケボノソウSwertia perennis东北獐牙菜
Ⅴb チシマセンブリ亜属Sub-genus Frasera=异花组 Sect. Heteranthos
種子に翼を欠く。蜜腺溝は花被裂片基部に1個づつ、周囲に繊毛群を生じる。
>日本に分布する種:チシマセンブリSwertia tetraptera四数獐牙菜
Ⅴc センブリ亜属Sub-genus Ophelia=多枝组 Sect. Ophelia →Ⅵ
>センブリ属の大半が本亜属に含まれる。ただしセンブリ属の模式種はミヤマアケボノソウなので、属を細分した場合には、狭義のセンブリ属の大半の種はSwertiaには含まれない。
Ⅵa センブリ節(*便宜上“節”とした)=多枝系 Ser. Ramosae
蜜腺溝は花被裂片の基部に2個づつあり、周囲を繊毛群が覆う。
>日本に分布する種:イヌセンブリSwertia diluta北方獐牙菜、ムラサキセンブリSwertia pseudochinensis瘤毛獐牙菜、センブリSwertia japonica、ソナレセンブリSwertia noguchiana
Ⅵb アケボノソウ節=腺斑系 Ser. Maculatae →Ⅶ
蜜腺溝(花被裂片の中央付近にあるものが多い)の周囲に繊毛群を欠く。前回にも述べたように、この特徴はセンブリ属全体を通して本節固有の形質であり、その独自性を鑑みるに、組section中の系seriesに置くのではなく、私見では、一つ上位の単位である独立の組section(または亜属sub-genus)を設けても良いのではないかと考える。それとともに、「中国植物志」では同じ(種以上の最下位分類単位である)「腺斑系 Ser. Maculatae」に含まれているアケボノソウとヘツカリンドウも、蜜腺溝の数に於いて、前者は常に2個、後者は基本1個、根生葉(ロゼット)は、前者で欠き、後者では巨大になること、などの明瞭な差異がある。そのことから同一の(最小分類単位の)「系series」に抱合するのではなく、(上記の処置に伴って繰り上げることで)それぞれを別の「系」 (あるいは更に上位単位の「組section」)に置いても良いのではないかと思う。ここでは、「中国植物志」での扱い(両者を共通の「系series」に纏めた)を踏襲したうえで、(「series」の日本語分類表記である「列」を暫定使用し)以下の3列に分割した。
Ⅶa アケボノソウ列(「中国植物志」に於ける「センブリ組アケボノソウ系」の一部)
大型の根生葉を欠く。蜜腺溝は常に二個で、花被裂片内面の中央付近に位置する。花被裂片内面の地色は白、先半部に濃色斑点群を散布する。
分布域:温帯(東アジア)
>日本に分布する種は、アケボノソウSwertia bimaculata獐牙菜とシノノメソウSwertia swertopsis。台湾高地にタイワンアケボノソウSwertia tozanensis搭山獐牙菜が分布するほか、中国南部産のSwertia hongquaniiなど数種が記載されている。
Ⅶb ヒマラヤセンブリ列(「中国植物志」に於ける「センブリ組アケボノソウ系」の一部)
大型の根生葉を欠く。花被裂片内面地色は一面の白色、蜜腺溝は常に一個で各裂片の基部につく。
分布域:温帯(ヒマラヤ地方~中国南西部)=ヒマラヤセンブリSwertia cordata 心叶獐牙菜
Ⅶc ヘツカリンドウ列(「中国植物志」に於ける「センブリ組アケボノソウ系」の一部) →Ⅷ
大型の幅広い肉質根生葉がある。蜜腺溝は原則一個(稀に二分)で、通常裂片の中央部付近に位置する(シマアケボノソウのみ基部)。色彩斑紋パターンは多様。
分布域:亜熱帯(日本南部、台湾、中国大陸南部)
>日本に分布する種は、ヘツカリンドウSwertia tashiroiとシマアケボノソウSwertia makinoana
以下、ヘツカリンドウ列に所属する各地域集団の分類上の振り分けは、(検索スタイルの使用を含め)やろうと思えば出来るだろうけれど、僕の任ではないので、特に試みない。
(仮に分子生物学的解析手法に拠っても)、4次元下の時間的要素を伴う複雑多様な(言葉では表現できない)系統関係の再構築は、3次元的「紙」や「インターネット」上で、為せるわけがない。あえてきちんと括ったり整えたりせずに、「だいたいこんな感じです」と、幼稚に(笑)進めて行くほうが、「誤魔化し学術的科学」(「エセ科学」の対置語です、笑)論文よりは、マシだと思っている。
いずれにしろ、ヘツカリンドウ「総括」は、今冬以降、南西諸島に於ける(色調や斑紋パターンなどの)検証空白地帯と、大陸産の実態をチェックしてからになる。
ということで、現時点で確認し得たヘツカリンドウ列の地域集団(の主に花被裂片の色彩斑紋)について、大雑把に整理しておく。
【】内の名
片仮名:(僕が仮称したものを含む)下位集団としての和名
漢字:中国名
アルファベット:現時点での学名(系統関係は反映されていない)
●は自分で調査撮影(▲は根生葉のみ)
Ⅷa~e
花被裂片内面は全面白地(外面も内面の色調と左程変わらない)、中央に丸い緑の蜜腺溝がある。
>大隅半島(甫与志岳~稲尾岳)【ヘツカリンドウSwertia tashiroi】
>奄美大島南部(加計呂麻島を含む)【ヘツカリンドウSwertia tashiroi(Swertia kuroiwae?)】
>沖縄本島中部(石川岳など)【ヘツカリンドウSwertia tashiroi(Swertia kuroiwae?)】●
>渡名喜島【ヘツカリンドウSwertia tashiroi(Swertia kuroiwae?)】
>久米島【ヘツカリンドウSwertia tashiroi(Swertia kuroiwae?)】
奄美大島南部産は、同島北部産の多様表現形質の集団に移行段階にある個体も含む。各地域産が遺伝的レベルで単系統上に位置づけられるかどうかについては不明。
*分布図:灰色
Ⅷf~g
花被裂片内面の斑紋・色彩は極めて多様(ただし地色が赤~褐色系になることはない)。外面の色彩も内面とほぼ同じ(内面地色が紫色の個体も外面は特に強く紫色は帯びない)。蜜腺溝は中央に位置し、二分する個体もある。
>奄美大島北部【リュウキュウアケボノソウ(アマミセンブリ)Swertia tashiroi(Swertia kuroiwae)】●
>沖縄本島北部【リュウキュウアケボノソウ(オキナワセンブリ)Swertia tashiroi(Swertia kuroiwae)】●
奄美大島産と沖縄本島産の表現パターンはかなり異なる。両地域産の系統上の相関性については不明。
*分布図:青色
Ⅷh
花被裂片内面の斑紋・色彩は沖縄本島北部の一部個体に似る。地色は濃青紫色、裂片表面先半部が濃色縁に覆われる。内面の紫色は外面には現れない。
>台湾南部【ダイカンサンセンブリ/大漢山当薬Swertia changii】
*分布図:緑色
Ⅷi
花被裂片の表面先半部に濃色斑点群がある。花冠内面の地色は濃赤色、外面は内面と異なり緑色。蜜腺溝は中央。
>屋久島【アズキヒメリンドウSwertia tashiroi】●
*分布図:紅色
Ⅷj
花被裂片の表面先半部に濃色斑点群がある。花冠内面の地色は赤~褐色、外面は内面と異なり緑色。蜜腺溝は中央。花被裂片の幅は通常やや広い。
>伊平屋島【エビチャヒメリンドウSwertia tashiroi(Swertia kuroiwae)】●
*分布図:赤色
Ⅷk~l
花被裂片の表面先半部に濃色斑点群がある。花冠内面の地色は紫色で外面も同色(蕾の時点で明瞭に紫色を帯びる)。蜜腺溝は中央。花被裂片の幅は狭い。
>中国大陸(広東省)【ムラサキヒメリンドウ/新店獐牙菜Swertia shintenensis】
>中国大陸(福建省)【ムラサキヒメリンドウ/新店獐牙菜Swertia shintenensis】
*分布図:紫色
Ⅷm
花被裂片の表面先半部の地色は白色、広く斑点群がある。基半部の地色は淡紫色。外面に紫色は現れない。蜜腺溝がやや基部寄りに位置する個体もある。
>台湾北部【シンテンアケボノソウ/新店獐牙菜Swertia shintenensis】
*分布図:薄紫色
Ⅷn~o
花被裂片の内面は、基部付近を除き白に近い淡紫色地で、広く散漫に斑点群。蜜腺溝は基部近くに位置し、その周辺は濃紫色を帯びる。外面は斑点群を欠く白に近い淡紫色。花被裂片の幅は広く、花冠は釣鐘状に開く。
>八重山諸島(西表島)【シマアケボノソウSwertia makinoana】▲
>八重山諸島(石垣島)【シマアケボノソウSwertia makinoana】
*分布図:桃色
Ⅷ character unverified
分布は確認されているが、色調や斑紋パターンについては未チェックの主な地域。
>甑島、種子島、黒島、口永良部島、口之島、中之島、諏訪瀬島、悪石島、宝島、徳之島、沖永良部島
*分布図:小さな黒丸
5「中国植物図像庫」収納写真/安昌氏撮影
6「中国植物図像庫」収納写真/张粤氏撮影
7-8「中国植物図像庫」収納写真/孔繁明氏撮影
9引用ブログ:「ホタルの国から」(ti-da.net)
10引用元未確認
11引用ブログ:「沖縄の自然」(ti-da.net)
12引用ブログ:「南嶋から」irimuti.cocolog-nifty.com
19引用再検証未確認
20引用再検証未確認
(*引用させて頂いた写真の著作権者からの連絡を請う)
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以下、改めて主要地域の写真を紹介しておく。
(僕自身の撮影分+「中国植物図像庫」に紹介されている中国産の写真)
典型ヘツカリンドウ/沖縄本島石川岳
*典型ヘツカリンドウのそのほかの産地(大隅半島、久米島など)に於ける写真は、数多くのブログで見られるので、それらを参照のこと。
“リュウキュウアケボノソウ”/沖縄本島与那覇岳
“リュウキュウアケボノソウ”/奄美大島名瀬
Bot492-08.pdf (sinica.edu.tw)
ダイカンサンセンブリ大漢山当薬Swertia changii/原記載報文
“アズキヒメリンドウ”/屋久島
“エビチャヒメリンドウ”/伊平屋島
“ムラサキヒメリンドウ”/広東省
「中国植物図像庫」(张粤氏撮影)からの引用
“ムラサキヒメリンドウ”/福建省
「中国植物図像庫」(安昌氏および陈炳华氏撮影)からの引用
シンテンアケボノソウ/台湾北部
「中国植物図像庫」(孔繁明氏撮影)からの引用
*八重山諸島産のシマアケボノソウについては、種々のブログで紹介が成されているので、それらの写真を参照のこと。
最新情報の追記:たった今、「中国植物図像庫」のほうに『大汉山当药 Swertia changii』の項目が加わったのを確認した
(ただし、画像自体はまだ入っていず、「中国植物志」のほうには、まだ全く情報がない)。