青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

日本国内絶滅第1号種オガサワラシジミと、ルリシジミ、スギタニルリシジミについて(その7)

2024-03-09 08:01:53 | 日本の蝶、中国の蝶





オニタビラコ(帰化植物)の花を訪れたオガサワラシジミ 小笠原母島乳房山山頂付近Apr.6, 1993



この連載というか一連の報文を書き始めた本来の目的は、昔(1970年代)にドッサリとっておいた、父島におけるオオバシマムラサキとシマムラサキへの産卵行動、および幼虫の周日活動などの写真&データを探し出して発表する事だった。が、それが出てこない。どこかにあるはずなんだが、ダンボールの中をいちいち探すのは至難の業である。ということもあって、まず御本尊ともいえるルリシジミをはじめとする関連種の紹介から初めて、それを行っているうちにオガサワラシジミ関連の資料も出てくるだろうと暢気に構えていたのだが、どだい端から探し出す努力をしていないものだから、出て来るわけがない。とりあえず今回はそれらの紹介は諦める。出てきたときに改め発表していきます。



ルリシジミの話に戻る。スギタニルリシジミやウラジロルリシジミ、あるいはアリサンルリシジミの一群も、オガサワラシジミ成立の何らかのカギを握ってはいるだろうけれど、やはり本命は御宗祖様のルリシジミであろう。見かけの差はともかく、様々な形質でオガサワラシジミに最も関連の深い種であることは確かだ。小笠原に最も近い地域、伊豆諸島南部や、南西諸島北部でも記録がある(分布の北上、ではなくて、南下ですね)。



ルリシジミは14亜種(Eliot&Kawazoeが選択したもの、記載自体はもっと沢山ある)が、ヨーロッパのほぼ全域から、北アフリカ、中東、中央アジア、ヒマラヤ、中国、台湾、日本海周辺、シベリア、北米、中米の、北半球冷温帯(いわゆる周北極圏)地域に広く分布し、唯一熱帯に相当するフィリッピン・ルソン島から亜種suguruiが記録されている。五十嵐邁氏がルソン島で採集し、Eliot&Kawazoeで新亜種記載が為された。



五十嵐氏の採集品には、もう一つの亜種が含まれている。北イラクのクルド地方で採集された、おそらく亜種hypoleucaに属する個体。その採集品は川副氏らには提供されていないのではないだろうか(標本、♂交尾器とも図示なし)。というのは、実は、それ以前に僕が譲り受けているのである。



経緯は忘れた(おそらく五十嵐氏が採集した当地のルリシジミの翅裏に青い鱗粉が顕著に覆うことを何かで知って氏に質問していたのだと思う)。氏の結婚式披露宴に出席した際、わざわざその標本を贈呈してくださったのだ。



早速♂交尾器をチェックしたのだが、ルリシジミとしてはごく平均的な形状、オガサワラシジミとの詳細な比較検討をしないままに今に至っている。川副氏がルリシジミを纏めると聞いた際、それを差し上げればよかったのだが、当然五十嵐氏から直接別個体が渡っているだろうと思っていた。考えてみれば貴重な資料だある、押し入れのダンボールのどこかに入っているはずなので、改めてチェックしたい。むろん、直接的には何の関係もないだろうけれど、オガサワラシジミ成立の何らかのヒントのようなものが暗示されているかも知れない。



小笠原が1968年に日本に返還された直後からの数年間、京都大学の小路義明氏たちによる詳細な調査が行われ、それと入れ替わるように僕が小笠原を訪れたのが1976年から1993年にかけてである(1976/1977/1979/1981/1988/1992/1993年)。写真やデータのかなりの部分を消失してしまったが、それでも今回運び込んだダンボール中に少なからぬ写真が残っているはずなのだが、現時点では見つけ出せないでいる。



1970年代後半には、各所に群がり飛んでいた父島のオガサワラシジミは、1980年代に入って激減、1988年の時点ではほとんど見ることが出来なくなってしまっていた。一方、以前から“大発生”という状況にはなかった母島では、余り顕著な変動はなく、少ないながらも確実に姿を見ることが出来た。



1988年の夏も小笠原に滞在していた。その年の春に最初の中国大陸行。ギフチョウ属やキマダラヒカゲ属の種をたっぷり撮影し、初夏、今後のフィールドを中国大陸に移そうと目論んで、大学に留学すべく東京の中国大使館を訪れたのだが、中卒はダメ!と情け容赦なく却下されてしまった(中卒どころか実質一年生までしか通っていなかったので、卒業証書も提出できなかった)。



それで諦めて、その夏も小笠原に渡っていたのである。8月末、役場に電報(まだ電話が充分に普及していなかった)。友子さんの父上からである。僕の代わりに大使館にウイスキーを2本携えて、再度申請に行った、すると許可が下りた由。新学期(向こうは9月)が始まるので、すぐに戻って来いと。それ以来、主戦場は中国に移ったのである。



中国と日本を行き来する間を縫って、1992年と1993年にも短期間母島を訪れた。92年には、北港道路(石門分岐点)路肩繁みに生えるタチアワユキセンダングサの花に多数吸蜜に訪れているのを撮影した。93年には乳房山山頂付近で、コオニタビラコの花に静止している個体を撮影(冒頭写真)。今思えば、70~80年代には、在来固有種シマザクラが主要吸蜜源(ほかにムラサキシキブ属各種)だったのが、90年代に入ってからは、帰化植物のタチアワユキセンダングサとコオニタビラコに代わってしまっていたのである。



70年代には余り記憶になかったタチアワユキセンダングサだが、80年代末から急激に増えだしたようである。ちなみに、当時並行してフィールドとしていた屋久島でも、80年代前半まではコシロノセンダングサばかりだったのが、90年代に入って久しぶりに訪れたら、まるで魔法のように、ほとんど全てがタチアワユキセンダングサに置き換わっていた。



1993年を最後に小笠原へは行っていない。「父島では絶滅したらしい」「母島でもほとんど見かけない」と言う声が聞こえてくる。



2018年、小笠原日本返還50周年記念ということで、インターネット・マガジン「現代ビジネス」にオガサワラシジミの話題について寄稿した。前後28回渡って掲載した「現代ビジネス」だが、蝶についての話題は後にも先にもこれ一回だけ。



国(東京都)や権威研究機関が“オガサワラシジミ”に対して行おうとしている“保護対策”に対する批判記事である(確かその数年前に朝日新聞社発行の科学雑誌“サイアス”にも同様のことを書いた)。国や都や自然保護機関が行おうとしている保全運動は安易に過ぎる。野生個体絶滅宣言、場所を移して飼育し、現地に再導入する試みなど、もってのほかだ、と。読者の反応は、28回の記事中、最悪(というか無関心)だったようである。



2020年になって、本土(多摩動物園、新宿御苑)での飼育系統個体も全滅、という情報。「それ見たことか」と言いたいところだが、そのような言い方は止めて置こう。看過するわけにはいかない、由々しき事態なのである。



オガサワラシジミの絶滅は、そん所そこらの“絶滅”とは訳が違う。



生物の種の絶滅は、その大半が次の2つのパターンに帰属する。



地域個体群の絶滅。分かりやすいのはトキの例だ。日本に於ける唯一の棲息地佐渡の個体群が絶滅した。しかし中国の秦嶺山地にも同じ種の個体群が健在、従って「種」が絶滅したわけではない(そのため人為的再導入が為された)。



蝶で言えば、オガサワラシジミと並んで、絶滅一番手と目されていた(オガサワラシジミと共に絶滅危惧第一類)日本本土の山地草原に棲む4種、オオルリシジミ、オオウラギンヒョウモン、ヒョウモンモドキ、ウスイロヒョウモンモドキは、それぞれ非常に限られた地域に、絶滅寸前の状況下で生き延び続けている。行政や自然保護団体が必死になって保護政策に取り組んでいる。これらの種は、ひと昔前までは、今よりもずっと広い範囲に分布していた。この数十年の間に急速に衰退して行ったのはオガサワラシジミと共通する。異なるのは、分布範囲が圧倒的に広い事。種としては、日本海を取り巻く極東アジアに広域分布しているのである。そのうちの南辺、すなわち日本列島に於いて急速に衰退しているのだが、北辺のロシア沿海部、朝鮮半島、中国東北地方などでは、必ずしも滅亡の危機に晒されているわけではない。日本国内では絶滅寸前だが、種としては健在なのである。





オオルリシジミ Glaucopsyche(Shijimiaeoides)divinus

長野県上田市 Jun.17,1990

現在では絶滅してしまった可能性のある産地。オオルリシジミはルリシジミと名が付くが、ルリシジミの仲間ではなく、カバイロシジミやゴマシジミのグループ。ちなみにオガサワラシジミの他に後翅裏基半部に顕著な青緑色鱗粉を備えるのは、日本ではこのオオルリシジミと、北海道やシベリアなどに分布するカバイロシジミぐらいである。





オオルリシジミ Glaucopsyche(Shijimiaeoides)divinus

長野県上田市 Jun.17,1990





オオルリシジミ Glaucopsyche(Shijimiaeoides)divinus

熊本県阿蘇山 May 21,1993

この産地は保護政策が取られていることから今も健在と思う。





オオルリシジミ Glaucopsyche(Shijimiaeoides)divinus

熊本県阿蘇山May 21,1993





オオウラギンヒョウモン Argynnis(Fabriciana)nerippe

大分熊本県境九重高原 Aug.9,1992





オオウラギンヒョウモン Argynnis(Fabriciana)nerippe

大分熊本県境九重高原Aug.9,1992





ヒョウモンモドキ Melitaea scotosia

広島県芸北町 Jul.10,1992

この産地における現在の状況は未詳(絶滅?)。





ヒョウモンモドキ Melitaea scotosia

広島県芸北町 Jul.10,1992





ヒョウモンモドキ Melitaea scotosia

広島県芸北町 Jul.9,1992





ウスイロヒョウモンモドキ Melitaea regama

島根県三瓶山 Jul.13,1993





ウスイロヒョウモンモドキ Melitaea regama

島根県三瓶山Jul.13,1993



その他にも、日本の各地で風前の灯状態にある、チャマダラセセリ、ウラナミジャノメ、ヤマキチョウなど絶滅危惧1B類の種も、中国に行けば大都市周辺で、地域によっては市街地の真っただ中で、ごく普通に見られたりする。なんで日本だけ衰退しているのだろうかという思いはあるにせよ、種としての絶滅とは意味が違う。



もう一つの“固有種絶滅”パターンは、確かに、離島や特殊環境に於いて“固有”であることには違いないにしろ、分類群(いわゆる“種”とはなっていても、実質的には品種程度)としては、ごく短い期間に成り立った変異集団に基づくもので、消滅の速度も速い可能性がある(いわゆる“絶滅種”の多くもそれに準じる)。極論を言えば、環境の推移次第で新たに再出現することもあり得るかもしれない集団。



オガサワラシジミの場合は、その両パターンとは明確に異なる。正真正銘“種”の絶滅である。問題の大きさが桁違い、例えて言えば、マンモスの絶滅が、今目の前で為されているようなものである。



ルリシジミやスギタニルリシジミが共通祖先種であることには間違いないが、♂交尾器の比較に基づけば、明らかに独立した固有分類群だ(例えて言えば、絶滅マンモスとアフリカゾウやインドゾウとの関係)。そのことを鑑みれば、公的機関の声明や報道は、余りに淡泊かつ無責任で、違和感を覚える。



通常、新たに種が形成されるのには、数百万年の時間が必要とされる。数百万年間、小笠原という空間は存在したのか。普通に考えれば、こんな小さな陸塊が水没せずに存在し続けることは有り得ないような気もする。ただ、ハワイの生物相の由来(詳細は別途に説明予定)が、単に洋島として捉えれば説明できなくなる(火山移動)のと同様、古小笠原陸塊も今の小笠原と相同のもの(位置や性格)である必要はない(小笠原は“大洋島”ではないという解釈もある)。小笠原固有種が、ずっと小笠原にいたとは限らない。連綿と連なる、幾つもの時代、幾つもの陸塊を、移り住んできた、という可能性も考えられる



そうであるならば、オガサワラシジミの成立も、ルリシジミそのものから派生したのではなく、ルリシジミがスギタニルリシジミ・ウラジロルリシジミと分化する前の、アリサンルリシジミなどとの共通祖先型に基づくと見做すことも可能である。



♂交尾器から見ても近縁各種とは確実な安定差があり、どこか(日本本土や中国大陸)から島に移って、短い期間(数千年とか数万年とか)の間に特化した集団とはとても考え難い。



一般に種の成立には数百万年(人類もそうだ)を擁し、その間の隔離と変化に伴って、独自の形質・性質が齎される(蝶の場合交尾器の形状に如実に表現される)。



もっとも、それだけが種の成立過程とは限らないという見方もできるかも知れない。日浦勇氏や川副昭人氏らの談話会の際、「種のごとく振る舞うことで成立した種」という話題が出てきたことがあった。数100万年かかるであろう必須手順をすっ飛ばして、ショートカットで実質的な種としての機能を獲得(仮免許のようなもの)、後付けで紛いなき種としての独立性を確立するものもあれば、何らかのきっかけで元の集団に収斂していくものもある。遺伝的に異なるのに、形態・形質差が無いという、いわゆる隠蔽種の存在も、その一端なのかも知れない。





まあ、数100万年でも数万年でも、人間の認識からは想像もつかないような修羅場が繰り返されてきたであろうことは想像に難くはない。それをこの10数年間に為された、外敵の出現や、一度や二度の気候変動で説明できるなどとするのは、大いなる思い上がりだと思う。何か、もっと大きな、人知の想像を遥かに上回る、複雑多様な要因が関与している、と考えた方が妥当ではないだろうか。



ただ、21世紀に切り替わった頃に、様々な生物の種や地域個体群が、突然消滅してしまっている、という事実が確かにある。何かがある。むろんその“何か”に人類の行動が大きく関わっているのだろうことは間違いないだろうが、それだけ、と言うわけでも無さそうに思う。自然の摂理のようなもの。



例えば、余りに非科学的な話になるが、進化とか環境とかが関与しない、種としての“賞味期限”のようなもの。人類を含めた地球上の様々な現存生物の多くが、種として数100万年の歴史があるとすれば、(いつか来る大地震みたいに)一斉に滅亡期に突入する、ということがあっても良いのかも知れない。



それに関して気になるのは(もちろん非科学的です)ルリシジミが最近目立って減ってはいまいか?だとすれば、オガサワラシジミを含めたルリシジミ一族(注:分類学上のtribeではない)の生命力が衰えつつある、と言うことである(そんなことはまずないと思うけれど)。



オガサワラシジミの絶滅に至った理由を、研究者や専門家たちが、理路整然と説明している。外敵の増加、環境や気候の急変。それを人為調節できなかったことを悔やんでいる。さらに人為による繁殖の失敗、それは慎重になり過ぎたからで、もっと早くに現地放出し再移入を測るべきだった、等々。



いろんな意味で、違うんではないかい? と思う。



ここで、いつも例に出すジョニー・ティロットソン絡みの話を。



1964年春、ビートルズがアメリカに上陸来襲(ブリティシュインベーション)して、それまで主役を占めていたポップアイドル的歌手たちは見事に一斉駆逐されてしまった。一面ではその通りだと思う。でも、よくよく検討分析すれば、タイムラグがあるのですね。



正確には、ビートルズによって駆逐されたのではなく、ビートルズたち新勢力のブレイクを齎した時期(および要因)と、旧アイドルたちの衰退を齎した時期(および時期)が、重なっている、ということ。旧いのに飽きてきて、新しいのに飛びついた。



(エルヴィス登場後の1957年からビートルズ上陸前の1962年頃にブレイクした)ビートルズ上陸直近のアイドル的歌手たちのヒット曲の推移を仔細にチェックしたところ、彼らが第一線で継続して活動していたのは、5~6年から長くて7年間。57‐58年スタート組は、概ねビートルズ来襲1~2年前の62~63年には勢力が衰え、ビートルズ旋風の時点では既に第一線から退いていた。一方、61-62年スタート組は、ビートルズ来襲の1~2年後の65~66年頃まで第一線で活躍。ということは、もともと全盛期は限られていたわけで、ブリティッシュインベーションに関わらず賞味期限切れで退場したのに過ぎなかった。



もちろん、新世代台頭と、旧世代衰退は、同じ要因に発しているわけで、大いに関係はあるのだけれど、

直接の関わりはない。



帰化種の繁栄と、在来種衰退も、同じ構図。要因は(非常に複雑多様だが)共通し、むろん一部直接の影響(捕食など)もあるだろうけれど、問題はそれだけではない。



ちなみに、アイドル的歌手達も、表舞台からは退いたけれど、その後もそれぞれの自分たちの音楽を地道に発表し続けているわけで、ある意味むしろ健全な状況に戻ったとみることもできる。



オガサワラシジミも、島のどこかに生き残っていると思う。そしてそれ(大発生などせずに細々と暮らしていること)が健全な状態なのかも知れない。



数100万年、あらゆる修羅場を乗り越えて生き続けてきたネイティブ固有種は、少々の気候変化とか人為攪乱とかで滅びてしまうなど、ヤワではない。



巷に言われるグリーンアノール(侵入者代表)とオガサワラシジミ(ネイティブ代表)の関係にしても、両者に早い時期から接してきた僕にすれば、違和感満載である。間違っている、とは言わない。でもそれだけが正解ではない、と。



オガサワラシジミの幼虫は、見事に食草の蕾に溶け込んでいる。確実にそこにいると確信していなければ見つけ出すことは出来ない(それでもアノールの眼からは逃れられないのかも知れぬが)。あるいは、幼虫は信じがたいほどの相当なスピードで移動する。常に草上にいるとは限らず、むしろ地上に潜んでいる時間の方が長いくらいである。



あと、僕の感触では(保護団体などが躍起になって植生回復に取り組んでいる)オオバシマムラサキは、

本来のメイン(ベーシックな)食草ではないと思う。



ルリシジミの食草が様々な科の植物に跨るように、オガサワラシジミの食草も多岐に亘っているのではないだろうか? 蕾、花芽、若葉など肉厚部分を食することのできる、クス科を含む様々な植物。とりあえず、本命とされているムラサキシキブ属に絞っても、半ば雑草的性格を持つ陽樹のオオバシマムラサキではなく、急斜面の、かつより閉ざされた林間ギャップなどに生じるシマムラサキのほうが、本来のオガサワラシジミ生育地と重なっているのではないだろうか?



探しに行きたいですね。(国家権力による実質的妨害を含む)ハードルも予想されるし、先に記したように、理由はともかく、オガサワラシジミと時を同じくして21世紀に切り替わった前後に、各地で多くの生物が絶滅してしまっている、という現実に対する一抹の不安はあるにしても。



幾らかの予算。カメラ。体力。それらさえ整えば、一度時間をかけて島中のチェックを行いたい。もし見つけたら、公式な発表はしない(少なくとも正確な場所は教えない)。国や都や権威機関が、保護とか種保全とかの名目で、飼育個体群の放蝶などに取り組み始めたら、目も当てられないし、、、。



・・・・・・・・・・・・



現時点で、オガサワラシジミの(70年代を中心とした)撮影写真は、ほとんど見つけ出せていません。手許にあるのは、「小笠原緑の島の進化論」に使用した写真(のコピー)と、90年代の写真の一部、それにクオリティの著しく低い、ストロボ使用(失敗例)の数枚の写真、それに加えて1-6回の冒頭で紹介した写真を再掲。



 

オガワワラシジミ(再掲)

母島猪熊谷Sep.23,1993(以下4枚同じ)



 

オガサワラシジミ



 

オガサワラシジミ(再掲)



 

オガサワラシジミ



 

オガサワラシジミ



 オガサワラシジミ 

母島Jul.18,1978





オガサワラシジミ(再掲)
母島Aug.1,1988





オガサワラシジミ(再掲)
母島Aug.1,1988





オガサワラシジミ

撮影データ確認中





オガサワラシジミ

撮影データ確認中





オガサワラシジミ

最初の渡島時(11976年)に撮影した写真の一枚(撮影日データ確認中)





オガサワラシジミ

極めてクオリティの低い♂開翅写真

母島乳房山南面尾根上に左右の谷から吹き上がってくる

Jul.6,1976





オガサワラシジミ(再掲)

母島乳房山Jul.6,1977







オガサワラシジミ

父島中央山Aug.8,1979





オガサワラシジミ(再掲)

父島中央山Aug.8,1979









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日本国内絶滅第1号種オガサワラシジミと、ルリシジミ、スギタニルリシジミについて(その6)

2024-03-06 21:10:46 | 日本の蝶、中国の蝶





オガサワラシジミLycaenopsis(Celastrina)ogasawaraensis ♂

小笠原母島乳房山南面Jul.6,1977



・・・・・・・・・・・・・・



典型Celastrina11種の続き(ルリ-オガサワラ-スギタニ・ウラジロcomplex以外の種)

*概ね大型種



6:オオヒマラヤルリシジミ(仮称) gigas

大型種だが、雄交尾器の形状はsugitanii‐hersiliaとほぼ相同。分布圏西端のcomplexの一員と考えても良いかも知れない。 



7:ニシヒマラヤルリシジミ(仮称) huegelii

2ssp.ヒマラヤ西部‐中部。雄交尾器形状は外観が似通った以下の各種よりもargiolusやhersiliaに近い。



8:アリサンルリシジミ oreas

8spp.アッサム、東南チベット、雲南、四川、台湾、浙江、陝西、山西、朝鮮半島など。

以下4種は♂交尾器形状が類似する。



9:morsheadi

2spp. 東南チベット、雲南北部。



10:オオアリサンルリシジミ(仮称) perplexa

2spp.

>10a: perplexa 四川西部。●

>10b: kuroobi 雲南北部 (Yoshino2002:Eliot & Kawazoe1983の時点では未記載)。●



11:キタアリサンルリシジミ(仮称) filipjevi

2ssp. 極東ロシア、中国東北部、朝鮮半島。



・・・・・・・・・・・・・



オガサワラシジミに最も近縁の現存種は、北半球広域に分布するルリシジミargiolus、あるいは東アジアに固有のスギタニルリシジミsugitanii-ウラジロルリシジミhersilia complexの2種(2上種)に

間違いない。それなりに古い時代に両者の祖先集団から派生したのか、比較的新しい時代になってルリシジミ移動集団の特化に拠るものか、どちらかはともかくとして。



でも、何れの集団とも外観はまるっきり似ていない(あとで述べる北イラク産ルリシジミなどを別として)。



狭義のCelastrinaには、ルリシジミ+(スギタニルリシジミ+ウラジロルリシジミ)のほかに、アリサンルリシジミとその関連数種が含まれる。♂交尾器に関しては、様々な部位が顕著に異なる南方系のホリシャルリシジミとは違って、全体的にはルリシジミ+(スギタニルリシジミ+ウラジロルリシジミ)と共通している。相違点は、valvaの概形が上下に幅広いまま前後に広がり、ampullaの腕状遊離部が後方に伸びずに押しつぶされた状態になること。全体的に大振りで、コンパクトで寸詰まりな傾向のオガサワラシジミとは反対方向に特徴が示されていることになる。



ただし、(サイズの大小を別にすれば)外観の印象(♂翅表の濃紺色、黒い縁取り、裏面の青色鱗など)は意外と両者(オガサワラシジミとアリサンルリシジミ類似種の一部)で共通する。従って、アリサンルリシジミ(とその関連種)の存在も、オガサワラシジミの成立に関わる何らかのヒントを秘めていると思える(祖先形質の共有)。



僕がこれまでの報文(「中国のチョウ」「週刊中国の蝶ルリシジミ」「中国胡蝶野外観察図鑑」など)で「アリサンルリシジミoreas」としてきたのは同定間違いである。それについてのエクスキューズを行っておく。



僕のメインフィールドは、雲南省西北部の梅里雪山や雲南四川省境山地。これまでに撮影した蝶の多くが、この地域の集団である。そこで普遍的に見られる種が、僕にとっての「中国の蝶」の基準になっている、と言う側面がある。もちろん、中国全体から見れば、ごく辺境の地であり、この地域での「普通種」が、中国の蝶を代表しているわけではないことは分かりきっているのだけれど、無意識の上で、ついつい「ポピュラーな種」と見做してしまっている。



例えば、シロチョウ科のAporia lhamoとか、タテハチョウ科のNeptis imitansとか、セセリチョウ科のPedesta bivittaとか、はじめのうちは種名が分からずに戸惑っていた。それぞれ外観に極めて特徴をもつ、少なくともこの地方に於いては最普通種なので、名前が分からないわけがない、と楽観していたのだけれど、同定できるまでに随分と時間を擁してしまった。



この“オオアリサンルリシジミ雲南亜種”もその一つ。何しろ、普通種も普通種。場所によっては、夏の最中にはこの蝶しか見られない、というほど、一面に群がり飛んでいるのである(そういえば70年代の父島のオガサワラシジミもそうだった)。というわけで、てっきり誰もが知っている中国産蝶類の最普通種のひとつ、と思い込んでいた。すなわち「アリサンルリシジミ」だと。



Eliot&Kwazoeには、アリサンルリシジミに類似した3種が図示されている。Huegelii(東北インド産亜種oreoides)、oreas(東南チベット産の新亜種baileyi)、perplexa(四川省康定産の新種)。



しかし、手許に多数の写真がある雲南省北部産の特徴は、どれにも当て嵌まらない。翅表の外縁沿い黒帯が広い点はperplexaに相当するが、この個体群のもう一つの顕著な特徴の一つである前翅裏面外縁沿い下半部の黒斑の発達は見られない。その特徴に関してはhuegelii oreoidesが相当するが、翅表の黒帯は発達せず、産地も離れている。ということで、(きちんと照合することなく)「多数の亜種を擁するoreasの一つだろう」と、アリサンルリシジミと同定しておいたわけである。もっとも、oreasとperplexaの♂交尾器には大きな差はないので、アリサンルリシジミの同定が、完全な間違い、というわけではないのだが。



その後、裏面黒紋の発達状況を除けば、Eliot&Kawazoeが記載したperplexaに違いは無さそうだ、ということに気付いたのだが、産地が異なることもあって、oreasのままで示していた。今回、ネットで様々な検索を行っていたら、新たなperplexaの新亜種記載を見つけた。特徴も産地(標高に1000m前後の差はあるが)もほぼ一致。改めて、四川省産をperplexa原名亜種、雲南省産をperplexa kuroobiとしておく。



僕が撮影した四川省産perplexa原名亜種は、Eliot&Kawazoeに図示されたタイプ標本には見られない後翅裏面基半部の青緑色鱗が出現する(古い標本では消失?)。雲南省亜種kuroobiともども♂翅表は濃紺色で、外縁に沿って黒帯が広がる。オガサワラシジミと興味深い共通点である。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





オオアリサンルリシジミ原名亜種Lycaenopsis(Celastrina)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi ♀

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi ♀

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi ♀

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi ♀

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.11,2010

*右個体、左はタッパンルリシジミ、背後はウラジロルリシジミ(スギタニルリシジミ)





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.25,2010





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.25,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.25,2014

*右はツバメシジミ(ウスズミツバメシジミ)





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.25,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Aug.10,2011





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Aug.11,2011





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Aug.12,2011

*sampling個体(下はルリシジミ)





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Sep.12,2010



・・・・・・・・・・





全然無関係だけれど、、、ついでに。

翅型や翅色がオガサワラシジミによく似たユンナンフチベニシジミLycaena(Kulua)yunnani

雲南省梅里雪山雨崩 Jun.13,2009











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日本国内絶滅第1号種オガサワラシジミと、ルリシジミ、スギタニルリシジミについて(その5)

2024-03-04 21:52:37 | 日本の蝶、中国の蝶




オガサワラシジLycaenopsis(Celastrina)ogasawaraensis

小笠原母島猪熊谷Sep.23, 1992



・・・・・・・・・・・・・・



話は逸れるけれど、プラタモリ終了するのだそうな。この番組(普段テレビを見ない僕だけれど)以前ホテル宿泊時に見て、とても好感を持った。



去年、しばらくの間、自室でテレビを見るチャンスがあった。ちなみに、昔、確か大江健三郎氏だったと思うのだが、「テレビ」の語には違和感、「テレビジョン」略すなら「TV(ティヴィ)」と言うべき、と語っていた。なるほど。僕が、突然出現したメジャー日本語の「アプリ」にいつまで経っても馴染めないのと同じだ(まあテレビは既に日本語なんで仕方がないが)。



それでプラタモリにも期待して何度か見たのだが、思っていたよりもつまらなかった。以前の魅力は感じられず、違和感ありまくり、タモリ氏本人だって、必ずしも楽しんでいそうには見えない。



以前は、行き当たりばったり、問題提起主体で、ことさら答えは求めていなかった。タモリ氏自身の蘊蓄や感性を晒しているうちに、いつの間にか答えらしいところに辿り着く。本人が楽しんで、視聴者も共に楽しむ。そこが魅力的だった。良くも悪くも緩さ加減、僕の言う俯瞰的な捉え方。



最近のは、学校の授業である。教科書に則った頭でっかちの専門家とやらが、ひたすら体系に基づいた予定調和的な解説をしつつ進めて行く、ちっとも面白くない。でも評価は高い。そう、大多数の日本人が内包する、答えを求めることを第一義とする価値概念。体系に沿った思考を重視し、俯瞰的に捉えることを「非科学的」として排除する。



番組終了に当たってネットでも惜しむ声があるようだけれど、でもさっきチェックしたあるコラムには、「誰も言わない終了の本当の理由、それは面白くなくなったから、まるで民放の観光案内番組みたい、

タモリ氏本人も楽しんでいる様には見えない」という指摘が。まさにその通りだと思う。



NHKの番組造りは凄いといつも感服しているけれど、それは完璧さの中に、ちょっと間が抜けたような曖昧さ(あえて答えに拘らない俯瞰性)を伴っているからであって、どうも最近は、体系的に答えを導き出すことに重点を置き過ぎているように思える。それが視聴者の要求なのであろうが。



・・・・・・・・・・



この絶滅オガサワラシジミの話に、別に結びつけるつもりはない。敢えて関連つけるならば、僕のこのブログは、教科書ではない。自分の忘備のために書いているのである。ついでなら、読者にも一緒に考えて貰おうと。繰り返し言うけれど、答えは一切追求しない。ひたすら問題提起に終始するだけだ。



・・・・・・・・・・・・



「日本国内絶滅第1号種オガサワラシジミと、ルリシジミ、スギタニルリシジミについて」の表題でブログを書き始めたのは、たまたまのきっかけが重なったからである。



*3月になった。春スタートである。去年は春から秋まで自宅近所の蝶の撮影・観察を続けたのだが、今年は止めて置こう。それよりも、進めなくてはいけない、デスクワークに没頭するべきである。でも、去年写し損ねた、春のルリシジミ♂の開翅写真だけは押さえて置こう。撮影ポイントは自宅から至近距離(徒歩1分の地点)なので、負担にはならない。



*「近所の森と道端の蝶(福岡編)」の前半部がほぼ完成。第一部「2023年に撮影した近所の蝶50+7種」と、第二部「日本産の蝶全種」の簡単な紹介で構成。後者には数種抜け落ちている種(未撮影種と一応撮影はしてあるが写真を見つけ出せないでいる10数種)があるが、この際開き直って「写真欠落」と記して進めていく、でも、全体の構成上九州産スギタニルリシジミだけは載せねばならない。今月末には、重い腰を上げて県内の山間部を訪ねてみることにしよう。



*インターネットを検索していたら、日本国内絶滅第一号種オガサワラシジミの記事がちらほら。現地でもこの5年間記録がなく、多摩動物園などに移動室内飼育を続けていた個体群も壊滅、どうやら地球上から種が消滅してしまったらしいとのこと。保護運動の在り方に大きな疑問を抱く僕としては、「それみたことか」という気持ちと、「由々しき事態」という気持ちが入り混じり、現地での再発見に向け、最後の撮影行から31年ぶり(最初の撮影行からは48年目)に改めてトライしようではないか、という思いが沸き上がってきた。



*「中国蝴蝶野外観察図鑑」で紹介した、雲南省産と四川省産のアリサンルリシジミは、実はアリサンルリシジミoreasではなく、オオアリサンルリシジミ(仮称)perplexaであった。それについて、何らかのエクスキューズをしておかねばならない。



シジミチョウ科ヒメシジミ亜科ヒメシジミ族ルリシジミ節ルリシジミ属ルリシジミ種群に属する、上記4つの種に関わる問題が、同時に勃発したわけである。



というわけで、それらを纏めたレビューを記しておこうと、ブログに書き連ね始めたわけだ。一般的に最もインパクトが強いのは、「オガサワラシジミ絶滅?」のテーマ。その問題提起に対処していくためには、オガサワラシジミの成り立ちに深いかかわりを持つ他の3種(ルリシジミ/スギタニルリシジミ/オオアリサンルリシジミ)の性格を知ることから始めねばならない、ということで、(見出しや冒頭写真にオガサワラシジミを前面に押し出したうえで)4種についてトータルに探っていくことにした。



もうひとつ、気になり続けていることがあった。「中国蝴蝶野外観察図鑑」でも「近所の森と道端の蝶」でも、スギタニシジミの学名を、一般に使用されているCelastrina sugitaniiではなく、Celastrina hersiliaとしたことに対して、蝶に詳しい知人から「間違っているので訂正するように」という指摘が為されたことである。



間違って記したのではなくて、いわば確信犯的な問題提起。「誰一人認めていないことを勝手に記してはならぬ」という指摘は分からぬでもない。でも実際は「誰も認めていない」わけではなく、このグループを再編した研究者本人(J.N.Eliot氏と川副昭人氏)だけは、そのことを半ば認めていたのである。彼らが(従来の見解に従って)この2種を別種として据え置いたのは、必ずしも絶対的な結論ではなく、現在の知見に基づく状況的側面からの暫定的な判断。まだ答えが確定された訳ではない、と言うことを提示するために、僕は敢えてスギタニルリシジミをC.hersiliaに併合した。



同一種と見做す根拠:

♂交尾器の形状が完全に相同。外観の著しい相違は、西方に向かうにつれて白い部分が強調される、という(例えばミヤマカラスアゲハの場合などと共通する)東アジアの蝶に屡々起こる現象に沿えば、理解が為される。



別種と見做す根拠:

2つの異なる表現集団が同所的に混在している可能性。今流行り?の「隠蔽種」の問題にも繋がってくるわけで、分子生物学的解析に基ずくならば、基本形態(殊に交尾器)が相同だからと言って、「種」が同じだとは限らない。



それはともかく、大多数の常識的な見解は、「見かけが全く違うのだから同一種であるわけがない」という、単純な根拠に基づいていると思う。僕としては、そのような(コレクター的な要素とも繋がる)安易な発想には組みしたくはない。



もっとも現時点での僕の見解は、やはり別種として認めるべきなのかも知れない、という方向に傾きつつある。こっちに傾いたり、あっちに傾いたり、、、、要は「種とは何か?」という命題の呪縛。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ルリシジミ属北方系種群



1:ルリシジミ Lycaenopsis(Celastrina)argiolus ●

北半球温帯域に14亜種/前回既述済み。



2:ハルカゼルリシジミ L.(C.)ebenina

北米東部/前回ごく簡単に触れた。



3:オガサワラシジミ L.(C.)ogasawaraensis ●

小笠原諸島/次回予定



4:スギタニルリシジミ L.(C.)sugitanii

東アジア温帯域/6亜種

>4a:ssp.sugitanii 本州、四国 ●

>4b:ssp.ainonica 北海道

>4c:ssp.leei 朝鮮半島

>4d:ssp.kyushuensis 九州

>4e:ssp.shirozui 台湾

>4f:ssp.lenzeni 中国大陸中~西部(秦嶺山系、四川省など) ●

*Eliot&Kawazoe1983の時点では台湾産は未記載。ロシア沿海地方、中国東北部などについては記述がなく、これらの地域には分布していないのであろう。



5:ウラジロルリシジミ* L.(C.)hersilia (*和名は青山1998に拠る、後にスギタニルリシジミと併合、分割する場合はヒマラヤルリシジミとした、後述するミヤマルリシジミも同じである可能性)

東アジア温帯域/3亜種

>5a:ssp.hersilia 中国大陸中部(陝西省など)~東部(福建省など) ●

>5b:ssp.vipia ヒマラヤ東部(シッキム、アッサムなど)

>5c:ssp.evansi 中国西南部(雲南省北部山岳地帯)周辺地域 ●



スギタニルリシジミ-ウラジロルリシジミの雄交尾器はルリシジミに酷似するが、次の様な相違点が見出される。

>Ring下半部がやや広がる。Juxtaはより大きくvalvaeからはみ出す。側面から見たsociuncusの鋭突部末端は、本体側出っ張り部分より下方まで伸びる。



6:オオヒマラヤルリシジミ(仮称) L.(C.)gigas

ヒマラヤ西部



7:ニセアリサンルリシジミ(仮称) L.(C.)huegelii

ヒマラヤ中~西部/2亜種



8:アリサンルリシジミ L.(C.)oreas

ヒマラヤ東部、中国大陸、台湾、朝鮮半島/8亜種



9:L.(C.)morsheadi

中国西南部(東南チベット~雲南省西北部)/2亜種



10:オオアリサンルリシジミ L.(C.)perplexa

中国西南部(四川省、雲南省)/2亜種

*1亜種は後に追加(Elot&Kawazoeには未記載)

*「中国のチョウ」「中国蝴蝶野外観察図鑑」ではoreasと誤同定。



11:キタアリサンルリシジミ(仮称) L.(C.)filipjevi

日本海北岸地域(極東ロシア、朝鮮半島、中国東北部)/2亜種



7以降については次々回に述べる予定、ここでは4と5(および6)の関係について考える。



4:sugitaniiと5:hersiliaは同一種なのか、別種なのか。現状では当然のごとく別種とされているわけだが、その根拠は何処にあるのか? それを探っていくことが主旨である(答えを出すことが目的なのではない)。



・・・・・・・・・・・・・・



以前書き終えていた原稿が出てきた。一部重複するが、以下、それに沿って記述していく。



スギタニルリシジミは、年一回、春のみに現れる蝶である。スプリング・エフェメラルの代表種としては、ギフチョウ(&ヒメギフチョウ)/ツマキチョウ/コツバメ/ミヤマセセリのカルテットが著名だが、スギタニルリシジミも、“準スプリングエフェメラル」的な位置づけにある。クインテットにならなかった理由としては、次の様な理由が考えられる。ギフチョウ(&ヒメギフチョウ)、ツマキチョウ、コツバメ、ミヤマセセリは、いずれも(身近な日本産としては)独自の「一枚看板」と言える存在である。それに対しスギタニルリシジミは、日本全土に広く普遍的に分布し、かつ年間を通して見られるごく近縁のルリシジミに対する「脇役」的存在で、インパクトに欠ける。また、4種よりもやや遅れて4月の後半(僕の中学校時代、関西の山間部で4月29日の昭和天皇誕生日の際日にスギタニルリシジミの観察を行うのが恒例となっていた)で、春一番の蝶というイメージはやや薄い。



スギタニルリシジミは、別の視点からも、日本産蝶の中で唯一といって良い性格を有している。九州産の外観が、本州産と著しく異なるのである。本州産のスギタニルリシジミは、ルリシジミと全く異なる色彩・斑紋を持っている(翅の裏が灰褐色を帯び、黒斑が大きく、翅表も濃紺色を呈する)。ところが九州産においては、スギタニルリシジミがスギタニルリシジミである所以の、それらの特徴を示さず、外観的にはルリシジミとほとんど変わらない。



日本産の蝶の中で、東日本と西日本で顕著な外観差がある種としてはダイミョウセセリの関東型/関西型が知られるが、本州産と九州産で外観がガラリと変わる種は、スギタニルリシジミを置いて他に無い。



実は後で述べるように、大局的に(種の分布域全体から)見た場合は、九州産が他と異なるのではなく、本州産が他と異なるのである(ダイミョウセセリに於いても特異なのは“関東型”のほう)。



いずれにしても、せっかく九州に居を移したのだから、たまには室内蟄居の禁を破って、山間部に九州産スギタニルリシジミを訪ねておきたい。出現期は本州よりひと月ほど早いので、今月末か来月初め。写真撮影ももちろんだが、その“印象”を自分の眼で確かめたい。中国産との比較である。



スギタニルリシジミ6亜種中、最も色が濃いのは本州・四国産の原名亜種sugitanii。北海道亜種や朝鮮半島亜種ではやや淡色となり、九州亜種・台湾亜種では裏面の地色が純白に近くなる。ということは、(僕がこれまで何度も接してきた)中国大陸(陝西省・四川省など)産lanzeniとも共通するのだと思うが、実際はどうなのであろうか?



Kyushuensisにしろlanzeniにしろ、本州産に比べれば、明らかに大型。翅裏の地色は白く、黒点は小さく、かつ疎らになり、翅表の藍色も明るい。



その延長線上に、更に顕著な特徴を示すのが、hersiliaである。日本(本州)のスギタニルリシジミには似ても似つかず、むしろサツマシジミに似ている。どう考えても「別の種」なのだが、雄交尾器の形状はsugitaniiと寸分たりとも違わない。



別の視点から、幾つかの蝶(例えばミヤマカラスアゲハ)に於いて西に行くほど「白」くなる傾向があることを鑑みれば、両者を同一種と見做すことも、別段奇特な処遇だとは思わない。種を分けるなら、九州産も中国大陸産lenzeniもsugitaniiから分割すれば良い。それらを分けないならhersiliaを含めて統合。



しかし、その他諸々の、いわば状況証拠を踏まえた視点からは、暫定的に別種としておく方が賢明なのかも知れない。例えば、中国中部から西南部にかけての地域には、hersilia的外観のsugitaniiと、真のhersiliaが混在している様である。両者は(標本写真を見た限りでは)翅(殊に♂翅表)の色合いが明らかに異なる(sugitaniiはややどす黒くhersiliaはより明るい)。そのことからも、別種説を受け入れるのは、吝かではない。



実は、僕の「中国のチョウ(1998)」にも、秦嶺山地の“スギタニ”について、一つの問題提起を行っている(検証しないまま未解決の状態)。オナガギフチョウの生育地(標高1200m前後)には、極めて多くの典型的lenzeniと、ごく少数のarugiolusが見られるが、それより500mほど標高が高いところには、どちらともつかない(「ルリシジミに似たスギタニルリシジミ=lenzeni」に似たルリシジミ?)集団(和名「ミヤマルリシジミ」)が棲息している。これこそhersiliaなのかも知れない。



ただし、その集団の♂交尾器をチェックしたところ、真正のルリシジミargiolusと相同だった由、「中国のチョウ」に記述してある。それがhersiliaに当たるならば、argiolusではなく、lenzeniと相同でなくてはならない。



可能性として、2つ考えられる。僕の記述(チェック)ミス。もとよりルリシジミとスギタニルリシジミの♂交尾器は酷似していて、よほど慎重にチェックしないことには判別が難しい。しかしsugitanii(lenzeniを含む)とhersilia間のように完全に一致するというわけではなく、プロポーションなどに僅かとは言えども安定差がある。この個体(「ルリシジミに似たスギタニルリシジミ」に似たルリシジミ)をチェックした際、3つの集団を比較したのではなく単独チェックをしたため、僕の思い込みで「argiolusと相同」と記した可能性がある(実際その正否に関してはずっと引っかかっていた)。



もう一つの可能性は、秦嶺における3集団の相関が、他の地域の組み合わせとは異なる、ということ。

おそらく偶然だとは思われるが、気になることがある。Eliot&Kawazoeに図示されているhersiliaの♂交尾器は原名亜種ではなくて、おそらくヒマラヤ地方産の亜種vipia、sugitaniiは亜種lenzeniではなくて原名亜種kyushuensis、確かに両者の間に差異は見出せない。また、僕がチェックした個体も、sugitanii原名亜種と雲南省産hersilia(たぶん亜種evansi)、ネットの[Butterflies in Indochina]に写真図示されている個体もおそらく亜種evansi、そして中国大陸産のsugitaniiとhersiliaを詳しく標本図示しているH.Huang(2019)には、同論文内で取り上げられている他の各種については全て♂交尾器の写真が示されているのに、sugitanii/hersiliaだけに関しては表示がない。すなわち、hersilia原名亜種の♂交尾器についての図示・記述は(僕の知る範囲では)どこにもないわけで、むろん偶然だとは思うが、気になるところではある。



いずれにしろ、ルリシジミ-スギタニルリシジミは、ごく近縁な間柄にある一つの種群(上種?)を構成していて(おそらくオガワワラシジミもその中に含まれる)、より広域に分布するルリシジミargiolusは、異所的な多数の集団の複合体、sugitanii-hersiliaは、異なる性格を持つ集団が同所的に混在するcomplexを形成している、と考えて良いであろう。



そのような(複雑で混沌とした)関係性は、別段sugitanii-hersiliaの組み合わせに固有な特殊例なのではなくて、いたるところに普遍的に存在していると思う(そして外観上区別が困難な組み合わせに対しては「隠蔽種」として認識されている)。



「種」を、どの段階で区別するか。形態上の差異が見だせない、かつ遺伝的な独自性を持つ集団(例えば「隠蔽種」)ごとにミクロな視点で認識するか、マクロな視点での「超種」(複合種)として解釈するか、の問題であろう。



スギタニルリシジミsugitaniiとウラジロルリシジミhersiliaは、ある視点からは異なる種であり、別の視点からは同一種である、という、相反する要素を併合した見解があっても良い。事実、実態、答えは、一つである必要はない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





L(C.)argiolus ladonides

新潟県浦佐市 Apr.15,2020

*新たに見つけ出した幾つかの写真を追加紹介しておく。





L(C.)argiolus ladonides

新潟県浦佐市 Apr.15,2020





L(C.)argiolus ladonides

新潟県浦佐市 Apr.15,2020





L(C.)argiolus cuphius ?

山東省淄博市 Apr.21,1994



写真6

L(C.)argiolus cuphius

浙江省杭州市西郊 Mar.28,1989





L(C.)argiolus cuphius

四川省天台山 Apr.13,1989





L(C.)sugitanii sugitanii

山形県東根市 Apr.21,1985



L(C.)sugitanii sugitanii

山形県東根市 Apr.21,1985





L(C.)sugitanii sugitanii

山形県東根市 Apr.21,1985





L(C.)sugitanii sugitanii

山形県東根市 Apr.21,1985





L(C.)sugitanii sugitanii

山形県東根市 Apr.21,1985





L(C.)sugitanii sugitanii

山形県最上郡大蔵村 May.10,1982





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.28,2005





L(C.)argiolus caphis

陝西省秦嶺 Apr.25,1994

オナガギフチョウ棲息地一帯で見られるのは、ほとんどがlenzeniで、ルリシジミは稀にしか出会わなかった。





陝西省秦嶺 May 3,1995(sampling個体)

上段は“ミヤマルリシジミ”L(C.)hersilia hersilia?

下段はL(C.)sugitanii lenzeni

*上段2頭の採取地点は標高が500mほど高い。





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.28,2005





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.26,2010





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.26,2010





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.26,2010

翅表は日本のスギタニルリシジミ同様、幾分黒ずむ。





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.26,2010





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.26,2010





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.26,2010





L(C.)sugitanii lenzeni ♀

陝西省秦嶺 Apr.26,2010





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 May 6,1994





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 Apr.27,2010





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺(太白山北面) Apr.27,1994

吸水集団





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺(太白山北面) Apr.27,1994





L(C.)sugitanii lenzeni

陝西省秦嶺 May 14,1995





L(C.)sugitanii lenzeni or hersilia

陝西省秦嶺 Apr.27,2010





L(C.)sugitanii lenzeni or hersilia

陝西省秦嶺 Apr.27,2010





L(C.)sugitanii lenzeni or hersilia ♀

陝西省秦嶺 Apr.27,2010





L(C.)sugitanii lenzeni or hersilia ♀

陝西省秦嶺 Apr.27,2010





L(C.)hersilia ?

四川省ミニャコンガ海螺溝 May 1,1989





L(C.)sugitanii lenzeni or hersilia

雲南省梅里雪山明永 May 10,2013





L(C.)sugitanii lenzeni or hersilia

雲南省梅里雪山明永 May 10,2013





L(C.)hersilia*種を分けた場合

雲南省梅里雪山明永 Sep.28,2013

秋の個体





L(C.))sugitanii lenzeni or hersilia [左奥/左手前はタッパンルリシジミ、右は]

雲南省梅里雪山明永 Jul.11,2012

盛夏の個体





L(C.)hersilia*種を分けた場合 ♀

雲南省梅里雪山明永 Jul.11,2012

盛夏の個体










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日本国内絶滅第1号種オガサワラシジミと、ルリシジミ、スギタニルリシジミについて(その4)

2024-03-02 20:41:51 | 日本の蝶、中国の蝶






シマザクラの花を訪れたオガサワラシジLycaenopsis(Celastrina)ogasawaraensis

小笠原母島乳房山Aug.1, 1988



・・・・・・・・・・・・・・



■Celastrina [J.W.Tutt,1906] ルリシジミ(亜)属



★♂交尾器の特徴:Dorsamは全体として背腹に丈高いが、ring下半部はごく短かく、tegumen側面が極めて幅広い。Sociusは鍵状になり、下方および内側に鋭く屈曲する。PhallusのSaccusは短かくほとんど発達しない。Valvaのampula(白水1960年の表記、Eliot and Kawazoeでは個別の部位表記無し)後縁は腕状に分離して伸長する。



★ルリシジミ節(広義のルリシジミ属)のうち、狭義のルリシジミ属に相当する。Eliot & Kawazoeでは15種。うち、主にアジアの熱帯地域に分布する4種(下記①~④)を除く11種は、ルリシジミ属(広義)としては例外的に北半球温帯域(東アジア大陸部と小笠原諸島を含む)に分布の中心を為し、♂交尾器形状が互いに酷似している。





熱帯アジアを中心に分布するCerastlina(亜)属の種

①lavendularisホリシャルリシジミ(ヒマラヤ地方、南インド、スリランカ、インドシナ半島、中国大陸、台湾、スマトラ、フローレス、セレベス、北モルッカ、ニューギニアなどに12亜種)。

*他種とはかなり異なる独自の♂交尾器形状を示す(私見では別亜属または別属に置くことも可能と思われる程度に相違する)。

②philippina(フィリッピン、インドネシア、チモール、モルッカ、ニューギニアに6亜種)。

③algernoni(フィリッピンとボルネオに2亜種)。

④acesina(ニューギニア)。



以下、Eliot & Kawazoeを基に、(Celastrinaのうち上記4種を除く)ルリシジミにごく近縁な11種について再編列記しておく。●印は写真を紹介した分類群。



1:ルリシジミargiolus 14亜種 ユーラシア(北アフリカ、日本、台湾、ルソン島などを含む)、北‐中米。



スギタニルリシジミ-ウラジロルリシジミsugitani-hersilia complexとの♂交尾器相違点

>Ring下半部が心持ち狭い。Juxtaは余り大きくない(valvae内に収まる)。側面から見たsociuncusの鋭突部末端は、本体側出っ張り部分より上方で終わる。



種arugiolusルリシジミが全北区に広く分布。北米東部でハルカゼルリシジミ、東アジアでスギタニルリシジミ-ウラジロルリシジミcomplexと混棲、便宜上、旧大陸亜種群(10亜種)と新大陸亜種群(4亜種)に分けられる。



オガサワラシジミは、それら(ルリシジミ各亜種、ハルカゼルリシジミ、スギタニルリシジミ-ウラジロルリシジミcomplex)の何れか、あるいはそれらの共通祖先集団との血縁関係を持つ。色調や斑紋については、東アジアのもう一つの集団、アリサンルリシジミ近縁種群との関連も念頭に置くべきである。



ルリシジミarugiolus旧大陸亜種群14 亜種は、3グループに大別できる。

>Argiolus亜種群:ヨーロッパ・北アフリカ・中東など、ユーラシア大陸西半部。

>Ladonides亜種群:日本を含む極東アジア(周日本海地域、長江流域周辺地域など)。

>Kollari亜種群:ヒマラヤ地方とその周辺域。



僕の写真の帰属分類群についての検証は行っていないが、暫定的に次の各亜種に配分しておく。

>日本産=Ladonides亜種群のladonides

>湖北、陝西、四川省および雲南省大理産=Ladonides亜種群のcaphis

>雲南省梅里雪山産=Kollari亜種群のiynteana

後者は、殊に季節的変異が著しく、同所に混在するスギタニルリシジミ-ウラジロルリシジミcpmplexや、別(亜)属のタッパンルリシジミやサツマシジミなどとの間に特徴(白色部の出現など)が並行して出現することから、ときに区別が難しい。僕としては、細部の相違点の比較よりも、まず感覚に頼っている。概ね当たっているのではと思っている。



今回はルリシジミargiolus、次回はスギタニルリシジミーウラジロルリシジミcomplex、そのあとオガサワラシジミ、アリサンルリシジミ種群を予定。内外産の多くの写真を所持しているが、探し出すのに膨大な時間と手間を有するかめに、とりあえず現時点で手許にある写真のみを紹介していく。



・・・・・・・・・・・・・



>1a:ssp.argiolus 

ウラル山脈以西のユーラシア大陸(ヨーロッパのほぼ全域)

>1b:ssp.mauretanica 

サハラ砂漠以北のアフリカ大陸(アトラス山脈周辺)およびマルタ島

>1c:ssp.hypoleuca 

トルコ~キプロス~中東北部~中央アジア~ヒンドゥクシュ~サヤン山脈

>1d:ssp.bieneri 

東シベリア(バイカル地方など)

>1e:ssp.ladondes ●

中国東北部、朝鮮半島、ロシア沿海地方、日本列島





ルリシジミ L(C.)argiolus ladonides

千葉県君津市 Apr.23,1978





ルリシジミL.(C.)argiolus ladonides

千葉県丸山町 Jul.4,1979





ルリシジミL.(C.)argiolus ladonides

北海道上士幌町 Aug.5,1982





ルリシジミL.(C.)argiolus ladonides

長野県白馬村 Jul.10,1985





ルリシジミL.(C.)argiolus ladonides

新潟県浦佐市 Apr.25,2020



>1f:ssp.cuphius ●

中国大陸の大半の地域(横断山脈以東および以南=長江流域とその周辺地域)と台湾

日本海周辺地域産la との区別は良く把握していないのだけれど、(梅里雪山を除く)中国大陸産を統括してこれに当てておく。





ルリシジミL.(C.)argiolus cuphius

湖北省宣昌~恩施 May 6,2009

Vicia属(クサフジ類似種)の新芽に産卵。





ルリシジミL(C.)argiolus cuphius

四川省天全県二朗山 Aug.4,2009





ルリシジミL.(C.)argiolus cuphius

四川省天全県二朗山 Aug.4,2009





ルリシジミL.(C.)argiolus cuphius

四川省宝興県東拉渓谷 Aug.7,2010

右はタッパンルリシジミ





タッパンルリシジミL.(Udara)dilecta

四川省宝興県東拉渓谷 Aug.8,2010

タッパンルリシジミの項に入れ忘れたので追加





ルリシジミL.(C.)argiolus cuphius

雲南省大理蒼山中腹 Jul.12,2007





ルリシジミL.(C.)argiolus cuphius

雲南省大理蒼山中腹 Jul.12,2007

翅表は典型的ルリシジミだけれど、裏は微妙、、、、ルリシジミで良いのだろうか?





ルリシジミL(C.)argiolus cuphius

雲南省大理蒼山中腹 Jul.12,2007





ルリシジミL.(C.)argiolus cuphius

雲南省大理蒼山中腹 Jul.12,2007

12‐14と同じ所にいた♀。紋の形がやや疑問だけれど、消去法でルリシジミだろうなあ。裏面基半部の青色鱗粉は個体により出現程度が異なるが、本集団はかなり顕著に表れる。





ルリシジミL.(C.)argiolus cuphius

雲南省大理蒼山中腹 Jul.12,2007





ルリシジミL.(C.)argiolus cuphius

雲南省大理蒼山中腹 Jul.12,2007

産卵行動を行っているのは、半蔓性植物(確かニシキギ科クロヅル属の一種だったと記憶)の成葉。蕾や新芽に産付することの多いルリシジミとしては、やや例外的かも。



>1g:ssp.sugurui 

フィッリピン・ルソン島固有亜種。北方系のルリシジミ種群(ルリシジミ、スギタニルリシジミ-ウラジロルリシジミcomplex、アリサンルリシジミ類似種群)の中では、唯一アジアの熱帯域に生息する種。同様な例=極東系の種のルソン島への進出は、ベンゲットアゲハ、ルソンカラスカラスアゲハ、ルソンオジロクロヒカゲなどでも知られるように、(遺存種か進出種かの判断はともかくとして)興味深いテーマでもある。早い話オガワワラシジミの場合も、それと軌を一にするパターンと思われる。



>1i:ssp.kollari 

ヒンドゥークシュ~ヒマラヤ西部



>1j:ssp.iynteana ●

ヒマラヤ中‐東部、インドシナ半島北部、中国西南部?

雲南省北部産を暫定的にこれに当てておく。

*学名の綴りは記載時のエラーに基づく(本来はjynteana?)可能性が強いが、確証がないために有効となる。





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永 May 6,2013(左個体、右はウスズミツバメシジミ*♀)。前翅に淡く白紋が現れ、翅頂部が黒い。氷河から流れてきた川岸の水溜りに吸水に訪れ、対岸の草地で訪花する。

*Cupido(Everes)argiades diporidesまたはC.(E.)fuegelii





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永 May 6,2013





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永Sep.12,2010





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永Sep.12,2010





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana(ほかother Blues)

雲南省梅里雪山明永 Jul.2,2012

川岸の水溜りにて。チベットウスルリシジミ、ウンモンクロツバメシジミ、ルリシジミ。この川岸の水溜り&草地で見られるBlueは、チベットウスルリシジミ(ヒメシジミ節)、ウラミドリヒメシジミ(ヒメシジミ節)、ヤマトシジミ(ヤマトシジミ節)、ウスズミツバメシジミ(ツバメシジミ節)、ウンモンクロツバメシジミ(ツバメシジミ節)、ホシボシツバメシジミ(ツバメシジミ節)およびルリシジミ節のルリシジミ、ウラジロルリシジミ(スギタニルリシジミ?)、オオアリサンルリシジミ(他種よりも一回り以上大きい)、タッパンルリシジミ、ヤクシマルリシジミ(?)等。





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永 Jul.9,2012






ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永 Jul.9,2012





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永 Aug.11,2011





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana(右はウンモンクロツバメシジミ)

雲南省梅里雪山明永 Aug.11,2011





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永Sep.11,2010





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永Sep.11,2010

あくまで“一応”という訳注付きでルリシジミと同定。





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永Sep.11,2010





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永Sep.11,2010





ルリシジミL.(C.)argiolus iynteana

雲南省梅里雪山明永Sep.11,2010



>1k:ssp.ladon 

北米

>1l:ssp.echo 

北米

>1m:ssp.cinerea 

北米

>1n:ssp.gozora 

中米



以下、次回以降に。



2:ハルカゼルリシジミebenina 北米東部

3:オガサワラシジミogasawaraensis 小笠原●

4:ウラジロルリシジミhersilia ヒマラヤ東部‐中国西南部‐中国中部(5と同一種?)●

5:スギタニルリシジミsugitanii 北海道-本州-九州-朝鮮半島-台湾-中国中部‐西南部●

6:オオヒマラヤルリシジミgigas ヒマラヤ西部

7:ニセアリサンルリシジミhuegelii ヒマラヤ西部‐中部

8:アリサンルリシジミoreas ヒマラヤ東部‐中国西南部‐中国中部‐台湾‐朝鮮半島

9:オオアリサンルリシジミ perplexa 四川西南部●

10:morsheadi 中国西南部

11:filipjevi 日本海北岸地域



・・・・・・・・・・・



(ほかの蝶でも同様のことが言えるが)中国西南部のルリシジミは、バリエーションが多彩な上に、類似種が数多く混棲していて、夫々が並行的に変異を示すため、判別が難しい。実のところ、半ばお手上げの状態である。我ながら情けなくなってくる(諸兄は識別の自信おありだろうか)。



その組み合わせの多くは別属(細分時)に跨っているわけで、もちろん交尾器を見れば100発100中で判別がつくのだけれど、写真(翅、ことに裏面の模様)での判別はまるで自信がない。



日本本土産については、それほど問題はない。唯一同じ系統に属するルリシジミとスギタニルリシジミは外観が全く異なっているので間違えようがない(九州産ではそう簡単には行かないが)。



その他の類似種、ヤクシマルリシジミとタッパンルリシジミは基本南の蝶だから、日本の多くの地域に於いては原則除外して良いだろう。もちろん地域によってはヤクシマルリシジミの北上に鑑み一応念頭に置いていなければならないし、タッパンルリシジミには余程のことが無いと遭遇しないだろうけれど、南部ではあり得なくはないので、頭の片隅にはおいていなければならない。とはいってもほとんどの場合ルリシジミに見える蝶は(ヤマトシジミ・シルビアシジミ、ツバメシジミなど初歩段階の区別はともかくとして)まず間違いなくルリシジミそのものであり、細かい比較ポイントなどをチェックしだすと、かえってこんがらがる要因にもなるので、無視したほうが良いかも知れない。



中国大陸産、ことに南部産になると、そうは行かない。



ルリシジミ自体が複雑なバリエーションを有するうえ、ルリシジミとスギタニルリシジミの区別(後者は後述するように“ウラジロルリシジミ”と“オオスギタニルリシジミ”が混在)が意外に困難である。それにアリサンルリシジミとその類似種が加わる。



これら北半球広域(ルリシジミ)と東アジア冷温帯域に分布する各種は、互いに血縁が近いだけに、かえって区別点が明瞭に示されているという傾向があり、集中してチェックするならば、案外スムーズに区別がつく。むしろやっかいなのは、系統が離れた、別(亜)属に置かれる幾つかの類似種(いずれも南方系広域分布種)と分布が重なっている場合である。



一応狭義のルリシジミ属Celastrinaに含まれるが、♂交尾器の形状から見て、おそらくかなり離れた系統に位置すると思われるホリシャルリシジミL.(C.)lavendularis、および上述した別属のタッパンルリシジミL.(U.)dilectaとヤクシマルリシジミL.(A.)puspaが、その対象となる。



ちなみにタッパンルリシジミとヤクシマルリシジミの区別は、もしかすると実はごく簡単で、後翅裏第6室黒点がごく明瞭で第7室黒点とほぼ同じ(ときに上回る)大きさなのがタッパン、後翅裏第6室黒点を欠くか第7より明らかに小さいのがヤクシマ、、、、少なくても僕がチェックしたほぼ全ての個体は、それで判別可能なように思われるのだが、それで当たっているのだろうか?それに従えば、前回4枚セットで示した上2枚の左(屋久島)はヤクシマルリシジミ、右(梅里雪山)はタッパンルリシジミということになる。



これら3種は、それぞれ広い分布圏の北縁辺りで、真正ルリシジミの分布圏南縁集団と混在している(概ね中国大陸中~南部)。僕個人の感覚では、ルリシジミもタッパンルリシジミもヤクシマルリシジミも、それぞれの種のイメージのようなものを既に捉えているので、細部はとりあえず無視して、全体的な印象に沿って区別が出来る(それで概ね当たっていると思う)。でも、ホリシャルリシジミには、(僕個人にとっては)イメージが無い。



必ずしもルリシジミの特徴を示さない、すなわち後翅裏面後角付近の2紋が連続し、第4室黒紋が顕著に変形した、かつタッパンでもヤクシマでもないと思われる個体の一部は、ホリシャルリシジミなのかも知れない。本項はホリシャルリシジミという選択肢なしで進めていくので、怪しいのはホリシャルリシジミの可能性もあるということを念頭に置いてもらいたい(もっとも真正のルリシジミ自体個体変異が顕著なので、細部の特徴のみで同定することは危険である)。



と言うことで、ルリシジミ節(広義のルリシジミ属)のうち、タッパンルリシジミ、サツマシジミ、ヤクシマルリシジミ各属(狭義)を除いた真のルリシジミ属(狭義)は、南方に広く分布し♂交尾器の形状が他の各種と顕著にことなるホリシャルリシジミ(および熱帯アジア産数種)と、北半球広域および東アジア温帯に分布し互いに♂交尾器の基本形状が共通する真正ルリシジミ種群(ルリシジミ、スギタニルリシジミ&ウラジロルリシジミ、オガサワラシジミ、アリサンルリシジミ類似各種)から成っている。



今回は、その中の真の「種ルリシジミ」(周極分布する1種14亜種)の写真撮影個体を紹介した。



♂交尾器の細部の形状にはそれぞれの亜種ごとに特徴が示され、捉え方次第では更なる種分割も可能なのかもしれないが、実態は良く分かっていない。



Eliot & Kawazoeは、「種ルリシジミ」を、便宜上旧大陸亜種群(10亜種)と新大陸亜種群(4亜種)に分け、旧大陸産10亜種を、(大雑把に言って)ヨーロッパ周辺地域のargiolus亜種群、ヒマラヤ周辺地域群のkollari亜種群、極東アジアのladonides亜種群に大別した。本ブログでの紹介写真個体は、亜種iynteana(kollari亜種群)、亜種caphis(ladonides亜種群)、亜種ladonides(ladonides亜種群)に振り分けたが、むろん正否の確証はない。



新大陸産に関しては、上記4亜種とは別に、東海岸産のebenina(前回の項では和名をアパラチアルリシジミとしておいたが、ハルカゼルリシジミと変更しておきたい)1種だけ独立種として扱っている。温帯夏緑樹林に棲息する年1化(春に出現)性の種、ということで、東アジア(ことに日本本州産)のスギタニルリシジミに対応する。



北米産の他の生物でも共通する事例として、東海岸アパラチア山系周辺の植生環境や生物相は、東アジアのそれに極めて類似するという傾向がある。東(アパラチア山系)はより古い地史的時代において東アジアとの関連を持ち、西(ロッキー以西、カスケード山脈など)は、より新しい時代に於いて、東アジアとの関連性を示す。



参考として植物のミズバショウの例を挙げると、ミズバショウ属は日本海周縁北部地域固有のミズバショウ(仏炎苞が白色)、北米大陸西北岸に固有のアメリカミズバショウ(仏炎苞が黄色)の2種から成り、それに極めて近縁のゴールデンクラブOrontium aquaticum(仏炎苞を欠く)が北米大陸東部に分布している。西海岸の集団は、比較的新しい時代に東アジアの集団から分離した種、東海岸の集団は、より古い時代に、それらの共通祖先から分化した種の末裔というわけである。



ルリシジミ近縁種群に置けるeveninaハルカゼルリシジミの存在も、そのパターン(ほかにカエデ属ウリカエデ節、ユリノキ属等々、多数)に当て嵌まるわけで、なおかつ東アジアにおけるスギタニルリシジミ-ウラジロルリシジミと対応する(本州のスギタニルリシジミ同様年一化で食草が限定される)わけだが、外観がスギタニルリシジミ(殊に本州産)に似た集団は西海岸の典型ルリシジミの一部(亜種luchia)に見出され、東海岸のeveninaの外観は一般のルリシジミとさほど変わらないという逆転現象を呈していることは、興味深い。










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前回(第3回)の記事の訂正(同定変更)など

2024-02-29 17:55:49 | 日本の蝶、中国の蝶



誤:

■Lestranicius [Toxopeus,1927]

★♂交尾器の特徴:Valva内面に隆起状、harpe側に鋸歯列を備える。

★中国雲南省南部~インドシナ半島北部産(紹介種)と、フィリッピン・ミンダナオ島産の、計2種からなる。



正:

■Calatoxia [Eliot & Kawazoe, 1983] シラホシルリシジミ(亜)属

★♂交尾器の特徴:Socius先端は鋭突屈曲し、基部下方にgnathos状骨片が生じる。valvaはやや幅狭く前後に伸長する。

★ヒマラヤ中部‐インドシナ半島‐スマトラ-ジャワ、および台湾に計3種。



写真のキャプション

誤:Lestranicius traspectaus

正:シラホシルリシジミLycaenopsis(Celatoxia)marginata



白水隆台湾大図鑑1960のCelastrina carnaと同じ(和名は本文でシロモンルリシジミ、図版ではシラホシルリシジミとなっている)。



Lestranicius traspectausとCelatoxia marginataは♂交尾器が明確に相違するが、色彩・斑紋は酷似する。雲南省西部には、おそらく両種とも分布しているものと思われる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



Sociuncus基方にgnathos(またはbrachia)状骨片が発達するのは、前々回記したOreolyceなどの他に、Notarthrinus, Uranobothria, Monodontides(ルリシジミに酷似する種を含む)など各(亜)属がある。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



3回で終える予定だったのが長くなってしまいました。

1(序説)

2タイワンクロボシシジミ、タッパンルリシジミ

3サツマシジミ、ヤクシマルリシジミ、シラホシルリシジミ

4ルリシジミ

5スギタニルリシジミcomplex

(スギタニルリシジミ、オオスギタニルリシジミ&ミヤマルリシジミ、ウラジロルリシジミ)

6アリサンルリシジミ類似種群

(オオアリサンルリシジミ雲南亜種、同・四川亜種)

7オガサワラシジミ

8「小笠原緑の島の進化論」転載

次回は4です。








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日本国内絶滅第1号種オガサワラシジミと、ルリシジミ、スギタニルリシジミについて(その3)

2024-02-29 07:46:08 | 日本の蝶、中国の蝶



 
オガサワラシジミLycaenopsis(Celastrina)ogasawaraensis

小笠原母島乳房山 Aug.1,1988 (花は小笠原固有植物のシマザクラ)

【以前作成した絵葉書より】



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



真正ルリシジミ属(Celastrina)以外のルリシジミ類の過去撮影写真紹介の続きです。



■Penudara [Eliot & Kawazoe 1983] サツマシジミ(亜)属



★♂交尾器の特徴:Ringは幅広く下半部が短く、vinculumは中央付近で陥入する。Tegumenと

Sociuncusの間に明瞭な節間膜が発達。Sociusは鋭頭(屈曲せず、種によっては基部下方にgunathusに相当する一対の鋭突起が発達)。Juxta両翼は短く幅広い。Phallusのcoecumは良く伸長。Valvaは前後に短く基部が幅広い。



★前回に記したように、♂交尾器の特徴と、属全体の分類のバランス上、暫定的に独立(亜)属として扱う。主に大陸部アジア熱帯に分布するサツマシジミに、スマトラおよびフィリッピン産の各1種を加えた3種。日本産の種としては、後翅裏面外縁沿いの黒点列のうち内側の一列を欠くことで他種との区別が容易だが、国外には別グループの種にも同様の特徴を示す種が少なからずあり、注意が必要。





サツマシジミLycaenopsis(Penudara)albocaerulea

屋久島 Aug.2,1984





サツマシジミL.(P.)albocaerulea

屋久島 Aug.2,1984



 

サツマシジミL.(P.)albocaerulea

屋久島 Aug.2,1984





サツマシジミL.(P.)albocaerulea

屋久島 Aug.2,1984



 

サツマシジミL.(P.)albocaerulea

四川省都江堰市 May 27,1990





サツマシジミL.(P.)albocaerulea

ベトナム・ファンシーパン山 Nov.2,2015



2004年以前はポジフィルム撮影のデジタルスキャン、2005年以降は初めからデジタル撮影。しかし共に整理が中途半端で、原版写真をなかなか見つけ出すことが出来ない。トリミングしてあるのだけを見つけ出しても、それをブログに貼り付けると、異様に大きくなったしまう。そこでわざわざパソコンのデスクトップに映し出した写真をカメラで撮影して全体を小さくしてからブログに貼り付ける、という面倒な手順を経ている次第である。



 

サツマシジミL.(P.)albocaerulea 吸水集団

屋久島Aug.2,1984





左:ヤクシマルリシジミL.(A.)puspa/右:サツマシジミL.(P.)albocaerulea

屋久島Aug.2,1984



・・・・・・・・・・・・・



■Acytolepis [Toxopeus,1927] ヤクシマルリシジミ(亜)属



★♂交尾器の特徴:Ringはやや丈高で下部が細まる。Vinculumは中央から背方に向け強く嵌入。

Sociusは鈍頭(種samangaでは鋭突)で横から見るとほぼ三角形。Juxtaはやや短かめ。Phallusのcoecumは丸味を帯びるが余り伸長しない。ValvaはCelastrina同様、後縁2か所が突出、ampulla部は腕状に伸長する。



★5種がアジアの熱帯域に分布。うちヤクシマルリシジミは、日本列島南部(定着地北限は紀伊半島)、中国大陸南部、台湾、フィリッピン、スンダランド、インド亜大陸、セレベス周辺諸島などに20亜種が知られ、季節や地域ごとに斑紋の変異が著しい。



 

ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa ♂

屋久島 Aug.29,1984



 

ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa ♀

屋久島 12月(詳細データ探索中)



 

ヤクシマルリシジミL.(A.)puspa 産卵(ツツジ属)

屋久島 12月(詳細データ探索中)



 

ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa 産卵(テリハノイバラ)

屋久島 12月(詳細データ探索中)





ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa ♀

雲南省高黎貢山 Jul.6,2007





ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa

雲南省高黎貢山 Jul.6,2007



 

ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa

深圳市 May 17,2016 (photo by Monica Lee)



 

ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa

ベトナム・ファンシーパン山 Jun.21,2017





ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa

ベトナム・ファンシーパン山 Jun.21,2017



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

ベトナム・ファンシーパン山 Jun.21,2017



この写真(さっき写真を整理中たまたま見つけた)の2個体と、前2つの写真の個体は、同一日時・同一場所に隣り合ってとまっていた。前2個体(16時34分撮影)はヤクシマルリシジミであることは間違いないので、こちら(16時35分撮影)は(ヤクシマルリシジミ乾季型の可能性も考えたが)別の種と思われる、、、、というより、タッパンルリシジミだね。でもタッパンルリシジミは昨日アップしてしまったし、一応ヤクシマルリシジミの項目で紹介しておく。



 

ヤクシマルリシジミ L.(A.)puspa

恥ずかしい話だけれど、タッパンルリシジミとヤクシマルリシジミが区別できなくなってしまうことがある。写真上左(屋久島Aug.2,1984)と下2枚(「中国のチョウ」香港Des.28,1989)はヤクシマルリシジミ。上右は一応ヤクシマルリシジミとしている(「中国湖蝶野外観察図鑑」雲南省梅里雪山Jul.25,2014)のだけれど、あるいはタッパンルリシジミ?



・・・・・・・・・・・・・・・・・



■Lestranicius [Toxopeus,1927]



★♂交尾器の特徴:Valva内面に隆起状、harpe側の縁に鋸歯列を備える。



★中国雲南省南部~インドシナ半島北部産(紹介種)と、フィリッピン産の、計2種からなる。



 

Lestranicius traspectaus

雲南省高黎貢山 Jul.30,2004

リアルタイムではヤクシマルリシジミ(雨季型)のつもりで撮影した。



 

Lestranicius traspectaus

雲南省高黎貢山Jul.30,2004

産卵植物はカシ類?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



*参考として:

タッパンルリシジミやヤクシマルリシジミ(乾季型)に外観がよく似たルリシジミ類の1属Oreolyca(4種)が熱帯アジア(おそらく中国大陸南部を含む)に分布。この属は、ルリシジミ節Lycaenopsis‐section(本コラムでの広義のルリシジミ属)としては例外的に♂交尾器に明瞭なbrachiumを備える(狭義のLycaenopsis属=1属1種=にも痕跡状のbrachiaあり)。



・・・・・・・・・・・・・・・・・



前回の訂正:

*前回のキャプション、タッパンルリシジミ5枚目(誤:四川省都江堰市青城山 May 27,1990→正:雲南省梅里雪山明永 Jul.9,2012)、同6枚目(誤:四川省梅里雪山明永 Jul.9,2012→正:四川省都江堰市青城山 May 27,1990)、同7~8枚目(誤:四川省→正:雲南省)、9枚目(誤:四川省梅里雪山明永 Jul.12,2012→正:四川省宝興県東拉渓谷Aug.7,2010)。



*ヒメサツマシジミL.(U.)asakaの同定は正しくないと思う。サツマシジミL.(P.)albocaeruleaの変異型(もしくは僕が特定できなかった別の種?)としておくのが妥当だろう。



・・・・・・・・・・・



次回から、ルリシジミ、スギタニルリシジミ、オガサワラを含む、真正のCelastrinaについて述べていく。














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日本国内絶滅第1号種オガサワラシジミと、ルリシジミ、スギタニルリシジミについて(その2)

2024-02-28 12:56:04 | 日本の蝶、中国の蝶





オガサワラシジミLycaenopsis(Celastrina)ogasawaraensis

小笠原母島猪熊谷 Sep.23,1992 (花は帰化植物のタチアワユキセンダングサ)



去年の春、ルリシジミの話題をブログにアップした際、ルリシジミ関係の項目を引き続き取り上げていくと通知したのだけれど、その前にツバメシジミの話などをしだしたら、ルリシジミの件は忘れてしまってそのままになってしまった。この機会に一年遅れで再開する。今回は、Celastorina以外のルリシジミ(タッパンルリシジミ、ハワイアンブルー、サツマシジミ、ヤクシマルリシジミ、タイワンクロボシシジミなど)*、次回は真正Celastorina(ルリシジミ、オガサワラシジミ、スギタニルリシジミ、アリサンルリシジミなど)を予定。*注:更に2回に分けます。



既に何度も述べているように、僕のスタンスは“教科書クソくらえ(笑)”である。何らかの基準に則るのでも、確立済みの体系に従うのでもなく、僕自身が納得できる事象を最重視して書き進めて行く。目指すのは「答え」ではなく、ひたすら「問題提起」である。



“ルリシジミ属”の定義の変遷についてザっと見渡しておこう。日本に関わりが深い、かつ外観も典型的ルリシジミ型の種は、ルリシジミ、スギタニルリシジミ、サツマシジミ、ヤクシマルリシジミ、タッパンルリシジミ。これらは皆、以前はCelastrina属の一員であった(ちなみにオガサワラシジミは古くはハワイアンブルーとともにVaga属とされていて、のちに真正のCelastrina属に移行)。



やがて、タッパンルリシジミとヤクシマルリシジミがCelastrinaから分離され、それぞれUdara、とAcytolepisに移行、川副・若林(1976年)では、ルリシジミ、スギタニルリシジミ、サツマシジミがCelastrinaに残って、オガサワラシジミも加わった(外観が顕著に異なるタイワンクロボシシジミとヒメウラボシシジミは、それぞれ従来通りMegisba、Neopithecopus)。



1983年、Eliot&Kawazoeが、Lycaenopusis section(ヒメシジミ族ルリシジミ節)を再編、サツマシジミをCelastrinaから切り離し、新分類群Penudaraを設置、ただし「余り多くの属に分けたくはない」(川副氏私信)ゆえ、亜属として既存の属に編入することになった。その際、最も関連が深いのは、元の所属であるCelastrinaよりUdaraと判断し、Udaraの1亜属に置いた。



従って、PenudaraをUdaraの一亜属とすることに否定はしないが、その処遇は必ずしも積極的に為されたものではなく、切り離して独立属とする処置も、また否定は出来ないであろう。♂交尾器に関しては、狭義のUdaraとの間に共通の部位もあるが、明らかに異なる部位も少なからずある(後述)。同じく亜属に置かれるVagaの場合、♂交尾器の形状が明らかに狭義のUdaraと相同であることと対照的であり、他の属分類とのバランス上も、Penudaraを独立属と見做すほうが適っているように思われる。



というわけで、本コラムでは原則として属を細分した。日本産については、ルリシジミ、スギタニルリシジミ、オガサワラシジミがCelastrina、タッパンルリシジミがUdara、サツマシジミがPenudara、ヤクシマルリシジミがAcytolepis、尾状突起を備えるなど外観の印象がやや異なるタイワンウラボシシジミがMegisba。そのほか本書で写真を取り上げた関連種では、アリサンルリシジミがCelastrina、ハワイアンブルーとヒメサツマシジミがUdaraに所属する。



もっとも、別の観点から、全てをCelastrinaに統合することも、それはそれで適った処置であろう。「線引き」の問題である。Eliot(1973)はヒメシジミ亜科ヒメシジミ族を、主に雄交尾器の形状に基づいて30の節(Section)に分けている。それぞれの節内の♂交尾器の特徴はよく共通していて、かつ節間には安定的な差異が示される。



ルリシジミ節に於いては、sociusが広く2分、通常braciaを備えず(ごく一部の種を除く)、vinculmは前方体腔内に湾曲嵌入、saccusが未発達、valvaは板状、juxtaは紐(VまたはY字)状、phallusのperivesicul-area内にcornutiが発達、coecumは丸くしばしば長伸する、等々。



他のヒメシジミ節Polyommatus-section、カバイロシジミ節Glauchpsyche section、ツバメシジミ節Cupido-section、ヤマトシジミ節Zizeeria-sectionなども、それぞれの節内で特徴を共有、かつ節間で明瞭な安定差がある。したがって、属を広義にとり、節をそのまま属に当てる処置が妥当なのではないかと考える(数多くの種群が単一属に含まれる例えばPapilioの場合などと同次元の処置)。



いわば、太陽系の概念ようなものである。別恒星との間には明確な線引きが為される。ルリシジミやヤクシマルリシジミやタッパンルリシジミやサツマシジミをCelastrinaに纏め、比較的顕著な特徴を持つタイワンクロボシシジミやヒメウラボシシジミなどを夫々独立属として切り離す、という考えも出来ようが、海王星や冥王星が幾ら異質な存在であろうとも、線引きという点では主観が入る余地はなく、太陽系という明らかに纏まった集合体の一員であることは否定のしようがない。



線引きという観点からは、ルリシジミ節を細かく属分割するか、全体を単一の分類単位(節=属)とするか、2択だと思う。



しかし、後者の場合、属名はCelastrinaではなくなる。よりによって、ルリシジミ節のうちで最も特異な存在で少数派のLycaenopsisが属を代表することになる。いわば、太陽系を代表する星に冥王星が選ばれるようなものである。



これはもう手続き上の問題で、致し方が無い。ルリシジミはヨーロッパで最もポピュラーな蝶の一つだ。

リンネが2名法の学名を提唱した際、いの一番に名付けられた(1758年、Lycaena argiolus)蝶の一つである。その当時、シジミチョウ科の大半の種は、Lycaena(現在ではベニシジミ属に限定)1属に統一されていた。一方、遠く離れたアジアの蝶達も、(インド亜大陸を中心とした少なからぬ地域がイギリスの植民地であったゆえ)新種記載が行われるようになった。それらの蝶達は、外観からしてヨーロッパ産の蝶と顕著に異なっているため、種記載に際して、最初から属名も新設された。



もちろん、ヨーロッパのルリシジミも、やがてLycaenaから分離されて最終的にCelastrinaを名乗るようになった(1906年)のだが、それよりも前(1787年)にLycaenopusisが記載されていた。従って、明確に為し得る線引きでもってこのグループ(広義のルリシジミの仲間)を定義付ける際の属名は、事務的に(実質的に代表するCelastrinaではなく、異端的少数派の)Lycaenopusisと成るわけだ。



ということで、ここでは広義のルリシジミ属をLycaenopsisとし(あくまで問題提起としての一案で、それに拘るつもりはない)、日本産については、以下の亜属または狭義の属に分配する。



以下、Eliot&Kawazoeを参照しつつ(種数などはそれに従い、必要に応じて追加する)、僕が撮影した写真の種を紹介していく。



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■Megisba [Moore 1881] タイワンクロボシシジミ(亜)属



★♂交尾器の特徴:個々の部位はルリシジミ類としてはごく一般的が、プロポーションがかなり異なり、dorsamが前後に長く、vinculmは前方体腔内に大きく嵌入、全体的にコンパクトなCelastrinaとは対極的な印象を持つ。Sociusは鈍頭で、基部付近にgnathos(brachium?)の痕跡のような部位が生じる。Phallusのcoecumは伸長。Valvaは単調な板状。



★小形で後翅に尾状突起を有し、一見ルリシジミ類らしからぬ外観をしている。熱帯アジアに広く分布するmalayaと、ニューギニア地域に分布するstotongyleの2種からなる。日本ではタイワンクロボシシジミが沖縄本島と八重山諸島に分布する。



 

タイワンクロボシシジミ Lycaenopsis(Megisba)malaya

西表島 Jun.4,1992



 

タイワンクロボシシジミL.(M.)malaya

西表島 Jun.4,1992



 

タイワンクロボシシジミL.(M.)malaya

台湾 Dec.26,1985



 

タイワンクロボシシジミL.(M.)malaya

台湾 Dec.26,1985





タイワンクロボシシジミL.(M.)malaya 産卵

石垣島 Jun.6,1992



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■Udara [Toxopeus,1928] タッパンルリシジミ(亜)属



★♂交尾器の特徴:Dorsamは上下に高く、vinculumは背方寄りで体腔内に嵌入、ringは下半部が細く丈高い。Sociusは鈍頭で後方に伸長。Phallusのcoecumは良く発達。valvaは広い板状。Vaga(旧・ハワイアンブルー属)との間に基本構造差はない。



★外観がルリシジミに酷似し熱帯アジアに広く分布するタッパンルリシジミなど、5亜属37種を含む(ただしここではサツマシジミ亜属3種を独立属として分離)。ニューギニアに繁栄する亜属Perivagaやハワイ諸島固有の亜属VagaはUdaraに統一した。タッパンルリシジミついては写真を紹介した一部個体について、今ひとつ同定の自信がない。ヒメサツマシジミの同定も暫定的。





タッパンルリシジミ Lycaenopsis(Udara)dilecta ♂

四川省天全県 Aug.4,2009



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta ♂

四川省天全県 Aug.4,2009



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta ♂

四川省天全県 Aug.4,2009



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta ♂

四川省天全県 Aug.4,2009



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

四川省都江堰市青城山 May 27,1990



 

タッパンルリシジミ L(U.)dilecta

四川省梅里雪山明永 Jul.9,2012



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

四川省梅里雪山明永 Jul.12, 2012

手前の1頭。右はL.(Celastrina perplexa)、奥はL.(C.)hersilia





タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

四川省梅里雪山明永 Jul.12,2012

手前の1頭。右はL.(C.)perplexa、奥はL.(C.)hersilia



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

四川省梅里雪山明永 Jul.12,2012

右の1頭。左はL.(C.)argiolus。





タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

広西壮族自治区龍勝県芙蓉 May 21,2009

後翅裏の黒点配列からdilectaと同定したが、確証はない。



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

四川省都江堰市青城山 Jun.9,1989

こちらはdilectaで間違いないと思われる。





タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

四川省都江堰市青城山Jun.9,1989



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

四川省都江堰市青城山Jun.9,1989



 

タッパンルリシジミ L.(U.)dilecta

四川省都江堰市青城山 Jun.9,1989





ヒメサツマシジミ(仮称) L.(U.)akasa ?

浙江省杭州市西郊清涼峰 Jul.12,2018

斑紋の印象からakasa(インドシナ半島以南に3亜種が分布)と同定したが、分布圏から離れていることなどもあり、確証はない。Akasaの雄交尾器はサツマシジミとは顕著に異なり、Udaraとしての典型を示す。



 

ハワイアンブルー L.(U.)blackburni 

ハワイ・オアフ島 Dec.17,1993

かつてはオガサワラシジミと2種で独立属Vagaがたてられていた。♂交尾器の基本形状に有意差が無い事からUdaraに包括しておく。





ハワイアンブルー L.(U.)blackburni 

ハワイ・ハワイ島 Apr.11,1994





ハワイアンブルー L.(U.)blackburni 

ハワイ・ハワイ島 Apr.11,1994








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The Butterfly of Japan日本の蝶 2

2021-05-16 12:39:08 | 日本の蝶、中国の蝶


★5月15日の記事に、いいね!その他ありがとうございます。

 
The Butterfly of Japan日本の蝶
A story as a memorandum about that identity(fragmental consideration or essay)
そのアイデンティティについての覚え書き(断片的な考察)

 

第2回 ダイミョウセセリDaimio tethys 黑弄蝶 (上)
 
次の自費出版本から、本文を転載します。
 
アジアの片隅で“日本の蝶”を考える《Photo Essay》
ダイミョウセセリとシロシタセセリ族各種Tagiadini(Pyrginae, Hesperiidae)
発行 亜洲生物出版会Nature Asia Press
著者 青山潤三Junzo Aoyama
発行日 2014.10.15
 
それに加え、今回東京都青梅市霞丘陵で撮影したダイミョウセセリ(関東型)、中国大陸産ダイミョウセセリ、その他のダイミョウセセリ族各種と近縁のキコモンセセリ族各種の生態写真の一部、および付随文章を示します。
(上・下に2分割して掲載予定)
 
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日本には、プロ・アマチュアを問わず、多数の蝶研究者・愛好家がいます。彼らの手によって、日本産の種はもとより、世界各地の蝶の、素晴らしい研究成果が成されています。
 
でも、いつも思うのですが、これだけ数多くの成果が上がっているのにも関わらず、「灯台下暗し」とでも言うか、一部の日本産の普通種の調査・研究に於いて、充分に成されていないのではないか、と思える部分が少なくありません。
 
ダイミョウセセリは、大都市の市街地を含め、日本各地に広く普遍的に分布している、代表的な「普通種」のひとつです。
 
都市近郊で見られる、いわゆる「普通種」には、近年になって都市部に侵入してきた、主に暖地性の広域分布種(例えばツマグロヒョウモン)も含まれます。
 
それとは別に、人類が登場する前の極めて古い時代から日本に在来分布し、本来の棲息地を覆うように形成された里山と結びついて繁栄、あるいは安定的な環境が保たれた都市周辺に改めて戻って来たと言える、「繁栄する遺存種」(著者の造語)スジグロチョウ、ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲなどがあります。
 
ダイミョウセセリも、後者の一員だと思います。種としての分布自体は、アジアの広い地域に亘っています。その中で、日本産は極めて特徴的な固有の現象を示している。東日本と西日本で、明確に外観的特長(後翅の白帯の出現程度)が異なるのです。
 
周知の通り、東日本は後翅表(裏も)白帯がごく僅かしか出現せず、ほぼ全面黒褐色。西日本産は明瞭な白帯が発達します。中間地帯で徐々に移行するのではなく、どこかで入れ替わるのだと思います。
 
どこかで入れ替わるのか、その地域はどこなのか(関が原あたり?)、本当に移行性は示さないのか、、、、、。ダイミョウセセリという種の永い歴史の中で、それぞれの集団が時を違えて繁栄したのかも知れません。もっと別の要因があるのかも知れません。いずれにしても、非常に興味深いと思うのです。
 
これほど興味深い題材が身近にあるのに、きちんと調査に取り組んだ、という報告は聞きません。本気で取り組んだなら、必ずや面白い結果が出ると思うのです。
 
僕は関西人ですが、ダイミョウセセリを始めて撮影したのは(というか、蝶の撮影を始めたのも)、東京に来てからです。世田谷に引っ越した直後、アパートの横の電話ボックスに絡みついたヤマノイモに産卵中の♀や幼虫や蛹を見つけて、身近な蝶のひとつになったのです。ただし、後翅は黒いのが基準、と単純に考えていました(西日本の「白帯」が特殊なのだと)。
 
後年、台湾や中国大陸を訪れるようになってから、これらの地域のダイミョウセセリは後翅に白帯を有した個体ばかり、ということを知りました。もちろん、それをもって安易に 西日本産と大陸や台湾(ちなみに朝鮮半島は東日本同様黒、半島の南の済州島は白)の集団が、より近い血縁にあるとは言い切れないでしょうが、種の分布圏全体から見渡せば、白が基準で黒は例外、ということは確かなようです。
 
話は逸れますが、日本にはもう一種、ダイミョウセセリの仲間がいます。日本では南琉球の石垣・西表島だけに分布する(国外ではフィリッピンほか熱帯アジアの東半部に広く分布)コウトウシロシタセセリです。
 
ダイミョウセセリは一属一種で、以前は外観の良く似たアジア南部に分布するGerosis属の一員とされていましたが、交尾器の明瞭な差異などから独立属として分離されました。しかし、TagiadesやGerosisとの間の差異は明らかなのですが、基本的な構造はそれらの近縁各群と非常に共通しています。僕の個人的な見解では、Daimioを広義のTagiadesに含め、その亜属に置いても良いのではないかと考えているくらいです。
 
それはともかく、TagiadesやDaimioやGerosis、さらに著しく外観が得意なユウマダラセセリ属やキレバセセリ属など、基本形態の共通する幾つかの属は、シロシタセセリ族として纏められています(姉妹族に、キコモンセセリ属やマエキセセリ属Loxolexisなどから成るキコモンセセリ族があり、シロシタセセリ族、および新大陸産のPyrrhopyginiと併せて、一族に纏める案も成り立つかも知れない)。
 
余談。ネット検索をしてみたら、Gerosisの和名が「ダイミョウモドキセセリ」となっていました。「モドキ」の名を和名に積極的に利用することは、原則として僕は賛成なのですが、条件があります。本来は「似て非なるもの」に対して付けるのです(例えば「ヒョウモンモドキ」とか「アゲハモドキ」とか「セセリモドキ」とか)。
 
GerosisとDaimioを別属とする、という処遇には、特に異存はありません。しかし、属が分離されたとしても、両属の類縁関係がごく近いということも確かです。「似て非なるもの」とは言えないと思います。昆虫にしても植物にしても「属が違うから全く別物」という考えが普遍的な考えとして流布しているようなのですが、僕は同意出来ません(仮にそれらの属を統合する意見が主流になれば、また和名を変更しなければならないですし)。
 
話を戻します。これらの仲間は、生態的にも顕著な特徴を共有しています。静止時に、全開した翅を葉や地表にくっつけて(しばしば葉の裏側に下向きにピッタリ張り付いて)止まること。
 
そして、(一部の特異な属やキコモンセセリ族を別とすれば)大多数の種が、後翅に明瞭な白色部(全身白色に近いユウマダラセセリはその極?)を有していることです。
 
顕著な白紋は、生態とも密接な関係があります。樹林内での飛翔時、翅の小刻みな羽ばたきがストロボ効果を成すのです。ことに暗い林内に木漏れ日が差しているときなどは、その効果は一層顕著になります。
 
ゼフィルスの金属光沢における効果と軌を一にするのかも知れません。ただしゼフィルスの場合は♂のみ、シロシタセセリの仲間は♂♀ともに同じ効果を表します。種内での相互認識のための指標なのか、外敵に対しての隠蔽(または威嚇)効果なのか、要因はともかくとして、熱帯・亜熱帯さらに暖温帯の照葉樹林内に棲息する種に共通して発達しているという事実があります。
 
だとすれば、(この仲間としては例外的に)東日本産ダイミョウセセリのみに白色部の発達を欠くという現象は、容易に答えを導けそうに思えます。
 
西日本には昼なお暗い照葉樹林が発達するのに対し、東日本は明るい落葉樹林が主流、したがって白紋によるストロボ効果は役に立たない、と。
 
もし、白紋の存在がこのグループの基本とすれば、必要がなくなって退化した、と考えることが出来るかも知れません。あるいは逆に、必要がなくて発達しなかった、遺存性の強い集団と解釈することも可能でしょう。
 
でも、そう簡単に結論付けてほしくないし、また結論付けることも出来ないと思うのです。
例えば、、、。白紋の発達しない東日本にも、東海地方や南関東には、西日本と全く変わらない照葉樹林が発達しています。上記の説を採るならば、植生環境に対応して白班の発達程度も変化していかねばならない。でもそうではありません。
 
また、Tagiades属の多くの種は白紋が発達する、と記しましたが、それは東南アジアの一部地域に分布する種に限ってであって、地域によっては(熱帯ではあっても)後翅の白紋を欠く種が多数あります。
 
以下、無責任に思いついたことを、特に脈絡なく記していきます(この文章は解説文でも報文でもなくエッセイであるということをご承知おき下さい)。
 
タンポポ(日本在来種)は通常黄色ですが、西日本産では白色種(シロバナタンポポ)が主体となります(中国西南部の高山性種も白花が主体)。
 
レンゲソウとヒガンバナは、ともに歴史時代に、何らかの訳有りで、大陸から日本に導入された植物です。そのことに間違いはないのでしょうが、では、大陸のどこに本来の野生地があるのか、といえば、実はよく分かっていません。
 
そのことと直接関係はないとしても、気になることがいくつかあります。ヒガンバナは、種のレベルでヒガンバナと同一とも考えられる、白花のシロバナマンジュシャゲが、南九州などに在来分布しています。正確に確かめたわけではないのですが、レンゲソウの「白花」も、九州などで出現率が高いように思われます。中国中部や西部には、レンゲソウの野生種に何らかの関わりを持つと思われる、オナガシロゲンゲ、ユンナンシロゲンゲが、在来分布します。
 
クマゼミの背腹の白帯は、なぜか沖縄本島産で全く現れず、日本本土産も微小、南琉球の石垣・西表島産は白帯が顕著に発達(ちなみに屋久島産は様々なパターンが出現し、奄美大島には在来分布しない)、そして与那国島では背腹部全体が白色で覆われます(海外には分布せず、近縁種は白帯を欠く)。
 
ナガサキアゲハの♀の白色斑も、クマゼミ同様、本土産には僅かしか現れません。南西諸島を南に進むにしたがって、白色の部分が広がります。しかし、南琉球(石垣・西表島など)は分布の空白地帯。時折発見されることがあるのですが、それらの個体は、全身真っ白に近いと思われるほど、白色部が発達しているそうです。台湾や中国大陸南部、インドシナ半島などでは、♀が多型となりますが、おおむね白色部の発達した個体が中心となります。日本本土の「黒いナガサキアゲハ♀」は、種全体から見れば、むしろ異端なのです。
 
ウラナミジャノメの仲間は、沖縄本島に一種、八重山諸島に2種が分布しています。この3種は、後翅裏面が顕著な白色を帯びます、そのため、南西諸島で種分化した、近縁の一群と考えられがちですが、各種間の類縁は遠く離れていて、それぞれに対応する近縁種は、大陸や台湾や日本本土に、個別に存在します。
 
以上の事例を、関連付けるつもりは更々ないし、むろん関連付けられるような根拠も全くありません。「白」に結びつく地域も、バラバラです。
 
とは言っても、西(西南)に行くほど「白」との結びつきが強くなる、という事実は、漠然と存在するように思われるのです。
 
環境や捕食者との関係などで理論的に説明できる、という人もいるでしょう。もちろん、それらによる要因が何らかの形で関係しているのかも知れません。でも、それだけで説明できはしないはずです。偶然といってしまえばそれまでなのですが、「日本の西や西南方向」と「白」は、なんらかの因果関係があっても不思議ではないでしょう。
 
以下、ますます科学的な話ではなくなってしまいます。例えば、奄美大島固有の生物は、分類群の遠近に関わらず、あらゆる生物をクロスオーバーして、互いに共通した独特の雰囲気を持っているように感じられます。地域を広げて見渡しても、ルソン、パラワン、セレベス、、、、あるいは、日本、オーストラリア、アフリカ、北米と、同様の傾向(地域ごとに漠然と共通する印象)があるように思われるのです。
 
「白」というのは、日本の西南から東アジア南部にかけての(アイデンティティを把握する上での)、ひとつのキーワードではないかと思います。
 
ということで、話が余りに無責任に、漠然と広がってしまいました。“科学的な話”に結び付けるためには、まずは、日本の東西での、ダイミョウセセリの白帯出現度の実態を正確に把握するべく、地道な調査を行っていくことからはじめなければなりません。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
以上が、自費出版作品「アジアの片隅で“日本の蝶”を考える~ダイミョウセセリ」(2014)からの転載記事です。初出時から一字一句変えていないので、ここで改めて、ダイミョウセセリの分類上の位置づけと、その近縁種についての追記考察を行って置きます。
 
上記したようにダイミョウセセリ属Daimioは一属一種、熱帯地域に数多くの種を擁するシロシタセセリ属Tagiadesにごく近縁*で、その分布圏の北邊一帯に分布する種と考えて良いと思います。ここでは通説に従ってダイミョウセセリ属で表記していきますが、本来ならば、ダイミョウセセリ属を独立属として見做すなら、シロシタ セセリ属は複数の属に分割されるべきだと思います(でなければダイミョウセセリもシロシタセセリ属に統合することがバランス的に整合性がとれるのではないでしょうか?)。*ただしシロシタセセリ属の種の多くは、オスの前足脛節にダイミョウセセリやキコモンセセリ類のような毛の束を持たない可能性があります。
 
「上」ではダイミョウセセリ属(すなわち種ダイミョウセセリ)とそれ以外のシロシタセセリ族各種、「下」では主に近縁のキコモンセセリ族各種を中心に、(僕が撮影した)写真の一部を紹介していきます。
 
この機会に、ダイミョウセセリの「関東型」「関西型」について、インターネットで少し調べてみました。非常に多くの写真がネットに挙げられています。それらをチェックして、「関東型=黒いタイプ」「関西型=白帯の出るタイプ」「中間的要素の個体」の、地域ごとの出現程度を解析していこうと考えたのですが、驚いたことに、ブログなどにアップされている多くの記事に「地名」が示されていない。いや「地名」は記されているのです。ただし、行政名ではなくて山とか公園とか。それが何県のどの地方にあるのか分からないことが多い。そのブログの読者にとっては“何々山”が何処にあるのかなど皆知っているでしょうから、県名などはわざわざ書かなくてもわかるので省略しているのです。でも僕のような部外者には(自然公園とかマイナーな低山などの場合)それがどの地方にあるのか、さっぱり分からない。ブログというのは、概ね仲間内だけの「閉じた世界」であるという事を、つくづく知りました。
 
それはともかく、だいたい予想のとおりですね。「関東型」と「関西型」は、概ね分けることが出来るようです。「関東型」と言っても、後翅が完全も黒くなるという個体はほとんどなく、白紋が僅かに出るか、痕跡が薄く残っています。「関西型」は基本的に明瞭な白帯を持ちますが、概ね大陸産ほど太くはなりません。
 
近畿地方東部(京都・滋賀・三重・岐阜・福井などの各府県)を中心とした地域では、やや曖昧な白帯が出現する個体も含まれていて、完全に二つの型に別れる、と言うわけではないようです。
 
でも、徐々に移行していくわけでもない。全体として見れば、「後翅全面がほぼ黒いタイプ(関東型=東日本産)」「明確な白帯を持つタイプ(関西型=西日本産)」「太い白帯を持つタイプ」(中国大陸東部~西南部産)の「三段階」の集団に分かれているのは確かなようです。
 
中国大陸産のうち、後述する朝鮮半島産に繋がる形質をもつ可能性のある(僕はまだチェックしていない)東北部や北部産を除く、東部や西南部産については、後翅にごく太い白帯を有することで共通しているように思われます。雲南省産に於いて殊に白帯が顕著ですが、四川省産の中にも雲南省産を上回る顕著な白帯が発達する個体もあります。僕の「中国のチョウ」に掲載した成都市近郊の青城山の個体(ここにコピー転載)もその一つですが、西嶺雪山(大邑原始森林)で撮影した一個体(1991.8.8)には、更にそれを上回る白帯が出現しています(写真は未使用)。ちなみに、ここに示した「2009.8.5」の個体も、同じ場所での撮影ですが、白帯はそれほど発達してはいず、個体差が大きいものと考えられます。東部の浙江省天目山系でも、写真を含む複数の個体を撮影していて、いずれも太い白帯を有し、西南部産と大差は有りません。
 
台湾産については、「白水図鑑」(1960)で見る限り、後翅に中国大陸産同様の広い白帯を持ちますが、前翅の白紋がやや小さめのように思えます。図示された個体の特徴に過ぎないのか、地域集団の安定的特徴なのかどうかを確認したいのですが、昔写したポジフィルムを見つけ出せないので、未確認のままでした。今回、インターネット上の何枚かの台湾産の写真をチェックしたところ、台湾産固有の特徴であることが判明しました。
 
今回、インターネットのチェックで、2つの大きな発見をしました。ダイミョウセセリの分布域は、しばしば北海道が省かれていますが、実際は南部の渡島半島に分布しています。その北海道南部産の、驚愕するぐらい前翅の白斑が大きい個体の写真がありました(関東型の究極)。後翅には全く白斑を欠きます(すなわち台湾産と正反対)。ダイミョウセセリは、種としても族全体で見ても、どちらかと言えば暖地の生物ですから、北海道に分布していること自体が、かなり特例なのだと思います。といって(九州南部や台湾に分布しているにもかかわらず)屋久島・種子島にはいないのですが。
 
もうひとつ、韓国産のダイミョウセセリ。こちらもまた、インターネットでチェックした個体に於いては、「関東型」「関西型」「中国大陸東部~西南部産」のいずれとも、全く異なります。前翅、後翅共に白斑が明白に現れはするのですが、前後翅とも個々の斑の大きさが極めて小さいのです(それ以前にイメージ的に特異)。チェックした複数の個体が、同じ傾向を持ちます。ちなみに、済州島産は関西型に準じる、とされていますが、詳細は把握していません。
 
韓半島に続く中国東北部、および北京など華北地域産の特徴については未詳。どんな斑紋パターンを成しているのか、興味深いです(いつも思うのだけれど、どの生物についても、西南部やチベットなどの僻地の探索が積極的になされているのに比べ、北京周辺や上海周辺などの大都市近郊の実態解明が、おざなりにされ過ぎていると思います)。いつか機会があったなら、各地域産のオス交尾器の形状を比較してみたいです(僕にはもうそのチャンスが無いかも知れないので、誰かお願いします)。
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
雲南省梅里雪山明永2014.7.25
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
雲南省梅里雪山明永2009.6.5
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
雲南省梅里雪山明永2012.7.2
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
四川省西嶺雪山2009.8.5
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
四川省青城山1995.5.9(「中国のチョウ」からのコピー)
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
浙江省臨安県清涼峰2018.7.8
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
東京都青梅市霞丘陵2021.5.1
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
東京都青梅市霞丘陵2021.5.6
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
東京都青梅市霞丘陵2021.5.14
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
東京都青梅市霞丘陵2021.5.14
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
東京都青梅市霞丘陵2021.4.27
 


ダイミョウセセリDaimio Tethys 黑弄蝶
雲南省梅里雪山明永2011.8.11
 
以下、ダイミョウセセリ以外のシロシタセセリ属各種について簡単に述べておきます。
 


シロシタセセリ属の一種⓵ Tagiades sp.1
ベトナム・ファンシーパン山 2009.3.13
 


シロシタセセリ属の一種⓶ Tagiades sp.2
ベトナム・ファンシーパン山 2010.3.19
 


シロシタセセリ属の一種⓷ Tagiades litigiosa 3 沾边裙弄蝶?
広西壮族自治州龍勝県 2009.4.22
 
Tagiades属の分類は、とりあえずギブアップしました(1と2も雲南省との国境付近なので中国側にも分布しているはずですが?)。3も自信がありません。明確なのは、1と3では、腹部の下半が真っ白な毛で覆われますが、2は中国大陸産ダイミョウセセリのように白と黒の互い違いの横紋になることです。Tagiades属のオス交尾器は種ごとに顕著にことなるので、将来そのチェックによって種名が特定できると思います。
 


ウスズミシロシタセセリTagiades gana白边裙弄蝶
タイ・チェンライ 2014.10.29
 


ヒメキエリセセリ Gerosis phisara 匪夷捷弄蝶
四川省全天県 2009.8.4
 


オオキエリセセリ Gerisis sinica 中华捷弄蝶
四川省全天県 2009.8.4
 


チベットオオシロシタセセリ Satarupa zulla 西藏飒弄蝶
雲南省梅里雪山明永 2012.7.10
 


ハナマドセセリColadenia hoenei 花窗弄蝶
広西壮族自治区花坪原始森林 2009.4.22
 


ユキマドセセリColadenia maeniata 雪窗弄蝶(窗弄蝶)
雲南省梅里雪山明永 2017.6.4
 


ユキマドセセリColadenia maeniata 雪窗弄蝶(窗弄蝶)
雲南省梅里雪山明永 2017.6.4
 


キレバセセリCtenoptilum vasava 梳翅弄蝶
広西壮族自治区猫児山 2005.4.22
 


ユウマダラセセリ Abraximorpha davidii 白弄蝶
広東省詔関市翁源県 2013.6.5
 


ユウマダラセセリAbraximorpha davidii 白弄蝶
広東省詔関市翁源県 2013.6.5
 


ユウマダラセセリAbraximorpha davidii 白弄蝶
四川省二朗山2009.8.3








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The Butterfly of Japan日本の蝶 2【補遺】

2021-05-13 13:00:00 | 日本の蝶、中国の蝶


The Butterfly of Japan日本の蝶 2【補遺】
A story as a memorandum about that identity(fragmental consideration or essay)
そのアイデンティティについての覚え書き(断片的な考察)
 
第2回【補遺】
 
ダイミョウセセリ Tagiades tethys
 
*本編より「補遺」を先にアップしておきます。
 
いずれも、東京都青梅市霞丘陵2021.5.1
 


ダイミョウセセリの基本静止パターン⓵
翅を直角に開き、占有態勢をとる(オスのみ)。
異物が一定空間内に現れると、素早く追飛し、その後もとの場所に戻って、同じ姿勢(またはその前後に⓶の姿勢)
をとり、同じ行動を繰り返す。
 


ダイミョウセセリの基本静止パターン⓶
翅を水平に開き、葉などの表側にへばり付く。
オスの場合、前後に⓵の姿勢に移行することがある(近寄ると角度によっては敏感に反応し飛び去る)。
 


ダイミョウセセリの基本静止パターン⓷
翅を水平に開き、葉などの裏側にへばり付く。
おそらく、♂♀とも同じ姿勢をとるものと思われる(♀は未確認)。長い間同じ位置に同じ姿勢で止まっていることが多い。近づいても余り敏感に反応しない。
 


どこにいるか分かりますか?(とまった直後でなければ見つけることは容易ではない) *写真の真ん中です。
 


少し近づいてみました。⓷の態勢で、葉(アキノノゲシ?)裏にへばりついています。
 


少々近づいても飛び立ちません。
 


横位置から写すことにしました。
 


数10㎝の丈なので、這いつくばります。
 


真正面に来ました。
 


翅表が見えるように更に下側にカメラを移します。
 


カメラを地面につけ、蝶まで10㎝ほど、これが限度です。
 


カメラの存在に気が付いたみたいです。
 


翅の角度がやや狭まりました。
 


葉先に向かって歩き出した。
 


葉の先端に到達。
 


頭を持ち上げます。
 


よいこらっしょ、と。
 


葉の表に出ました。
 


改めて位置を確認して、
 


静止します。
 


翅を水平にして再びへばりつきます。
 


ここまで、(カメラを横に移動してから)約3分30秒。
 


このあとカメラを上に移動したら、飛び去ってしまいました。


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The Butterfly of Japan日本の蝶 1

2021-05-11 20:32:31 | 日本の蝶、中国の蝶


The Butterfly of Japan日本の蝶 1
A story as a memorandum about that identity(fragmental consideration or essay)
そのアイデンティティについての覚え書き(断片的な考察)
 
第1回
 
ウスバシロチョウ Parnassius glacialis citrinarius
ヒメウスバシロチョウ Parnassius stubbendorfii hoenei
ウスバキチョウ Parnassius everemanni daisetsuzanus
 
日本産の3種とも、これまで(1970年代~2000年代初頭)に多数の写真を撮影してきたが、全てポジフィルムによる撮影であるため、ここで紹介することは出来ない。従って、写真の紹介は、今春、東京都下で撮影した(「霞丘陵の自然」で紹介済みの写真と一部重複する)ウスバシロチョウ、及び数枚の中国産だけに留める。
 
僕は、コレクションを含めたマニアックな世界には、全く興味がない(といって、アカディミックな世界にも背を向けているのだけれど)。蝶の世界(ただし人間界に於ける)というのは、マニアックな世界の極である(それはもう凄い人たちから成っていると素直に感服する)。その中でも筆頭を成すのが、パルナッシウス(「パル」という)の世界である。
 
必然的に僕は、パルに関しては、ほとんど全くと言って良い程、知識がない。と言うわけで、「日本の蝶」を始めるに当たって、余計な知識がない分、肩の力を抜いて、無責任に進められるように思うので、ここから始めることにする(一応、基礎的な知識は持っているし、自分でのチェックも最低限行っている)。
 
地球上の標高7000m以上の山々の全て、および6000m以上の山々の大半は、ユーラシア大陸の中央部の、いわゆる「世界の(地球の)屋根」に集中して存在する。チベット高原と、その周縁地域である。南縁がヒマラヤ山脈、西から北に時計まわりに、カラコルム山脈、ヒンドゥクシュ山脈、パミール高原、天山山脈、崑崙山脈、東に戻って中国西南部の、いわゆる横断山脈。
 
そこにパルナッシウス=ウスバシロチョウ属の多数の種が棲んでいる。実は、それらの種は、幾つもの(属単位で)異なる分類群に振り分けられる可能性もあるのだが、著しい特殊環境下での収斂に因る外観的類似*を以て、一つの属に収められている。
 
他の高山性の蝶たち(例えば小型ヒョウモンチョウ類とかタカネヒカゲ類とか)の分類に準じれば、ウスバシロチョウ類も複数の属に分割しても良いような気がするが、実態はおそらく非常に複雑であろうから、具体的なことは僕にはよく分からない、というほかない。
 
むろん、一つの属(Parnassius)に包括しておくことに異を唱えるわけでもない。仮に属を細分するとしても、「世界の屋根」地域に於いては、多様性に富んだ幾つものグループから構成されているため、分類群の明確な分割は困難なのではないかと思われる。
 
ただし、周辺部の地域、すなわちそれぞれ数種ずつが分布する「日本」「ヨーロッパ」「北米」産の各種については、明確に2つの系統(AおよびBとしておく)に分割することが可能である。
 
ヨーロッパ:2系統=Aアポロチョウ+ミヤマアカボシウスバシロチョウ/Bクロホシウスバシロチョウ
北米:2系統=Aミヤマアカボシウスバシロチョウ/Bオオアメリカウスバシロチョウ+ウスバキチョウ
日本:1系統=Bウスバシロチョウ+ヒメウスバシロチョウ+ウスバキチョウ
 
通常、Aを亜属Parnassius、Bを亜属Driopaとするのではないかと思われるが、ここでは(存在が予想されるAB以外の分類群との兼ね合いで)最終的な判断は保留しておく。
 
参考:Aに所属するよく知られた種(いずれも日本には分布しない)
アポロチョウParnassius apollo 阿波罗绢蝶/太陽蝶
ミヤマアカボシウスバシロチョウParnassius phoebus 福布绢蝶/深山赤星絹蝶
オオアカボシウスバシロチョウParnassius nomion 小红珠绢蝶/大赤星絹蝶
アカボシウスバシロチョウParnassius bremeri 红珠绢蝶/赤星絹蝶
 
ここでは、系統Bの主な種について述べる。
 
【ヒメウスバシロチョウParnassius stubbendorfii 白绢蝶/姫雲絹蝶】
 
ウスバシロチョウ同様に、翅のほぼ全面が半透明の白色、赤や青の紋は持たない。Parnassius全体から見れば、この両種は異質の存在である。腹部および頭部の襟の部分の毛の色が、ウスバシロチョウのように黄色ではなく、灰色を呈す。
 
従来は、ユーラシア大陸東北部(日本海の対岸地域から東シベリア)に分布する地域集団と同一種とされてきた。しかし、近年は、北海道産を亜種から格上げし、大陸産Parnassius stubbendorfiiとは別の種Parnassius hoeneiとするのが、主流となっているようである、、、、と思っていたのだが、今、より新しい見解を改めて確かめたら、従来の大陸産Parnassius stubbendorfiiに併合し、その一亜種hoeneiとするという扱いが、現時点での(日本に於ける学術上の)統一見解のようである(*ウイキペディアには亜種名が“honnei”と誤植?されているようなので注意!)。
 
僕としては、どちらの扱いに対しても、特に反対はしない。北海道産と大陸産の間には、♂交尾器の形状に、一定の有意差が認められる。それを種差と見做すかどうか、研究者ごとに見解が違っていても、何らおかしくはない。
 
いずれにせよ、大陸産各地域集団のチェックをまず行い、そのうえで(北海道産を含む)トータルな比較が成されないことには、所属は決められないと思う。
 
と言って、それが成されれば答えを示すことが出来るのか、と言えば、それもまた違うと思う。より俯瞰的な視野からの検討が必要になってくる。ユーラシア大陸の西半部に、ヒメウスバシロチョウに対応する形で分布しているクロホシウスバシロチョウParnassius mnemosyneとの関係である。
 
むろん、両者の(典型集団)間に、種として分割し得るある程度の安定的有意形質差はあるとしても、どこかの地域で整然と線引きが出来るような単純なものではないだろう。
 
従って、ヨーロッパのmnemosyneから北海道のhoeneiまでの全ての地域集団を「クロホシウスバシロチョウ群」と大きく捉え、そのうえで、全体像の俯瞰と、個々の地域集団の体系的な比較・解析・考証を並行して行うことで、実態により近づくことが出来るのではないかと思っている。
 
ただし、その場合、クロホシウスバシロチョウと(北海道産を含めた)ヒメウスバシロチョウの関係だけではなく、この後に示す、ウスバキチョウParnassius eversmanniやウスバシロチョウParnassius glacialisなどとの関係も考察する必要が出てくる。これら各種は、(♂交尾器の形状から判断するに)思いのほか血縁が近いのである。移行地域に分布する、Parnassius ariadneやParnassius nordmanniなどを含め、種群または上種としての“メガ・スペーシーズ”「クロホシウスバシロチョウ」の概念を、頭の隅っこに置くことも、あながち間違ってはいないと思う。
 
 
【クロホシウスバシロチョウ Parnassius mnemosyne 觅梦绢蝶/黒紋雲絹蝶】
 
ヨーロッパに唯一分布する、日本産3種と同じBのグループ(亜属Driopa)所属種。ユーラシア大陸西半部産がこの種に相当するのであろうが、大陸産ヒメウスバシロチョウとの間に、外観上も、♂交尾器の形状からも、どこで線引きが成されるのか、確たる証明は為されていないと思う。中国では新疆ウイグル自治区産が、この種に含まれることになっている。
 
 
【ウスバキチョウParnassius eversmannni 艾雯絹蝶/黄翅雲絹蝶】
 
よく知られているように、日本では北海道大雪山系にのみ分布する、高山蝶中の高山蝶。
 
数度の撮影行で写した多数の写真(おそらくポジフイルム使用時代の写真枚数は日本産3種中最も多く所持)は、全てポジフィルムのため、ここでの紹介は叶わない。
 
出現期の夏至(6月下旬)前後の大雪山では、朝4時前後に夜が明ける。朝日の射す(場所によっては未だ大量の雪に覆われている)山肌を転がるように飛び、♀はコマクサ(ちなみにBの種の食草は全てケシ科エンゴサク亜科)が生えている付近の石礫などに卵を産み付ける。
 
大陸産のヒメウスバシロチョウとは、(大局的に見て)概ね分布圏が重なるが、通常より高標高地に棲息する。しかし 地域によっては、ごく低い標高にも分布していて、それらの地域集団は、大型で色調が淡く、むしろウスバシロチョウやヒメウスバシロチョウに似たイメージを持つ。また生育地も、高山礫地ではなく、ウスバシロチョウの生息環境に似た、疎林や林縁である。
 
北米大陸では、アラスカなどにウスバキチョウが分布し、合衆国の比較的低標高地帯には、大型で外観の印象はだいぶ異なるが、♂交尾器の形状などはほぼ共通するオオアメリカウスバシロチョウが分布している。
 
この両種に限らず、Bに所属する各種間の基本的形質は概ね共通するため、「ウスバキチョウ」の枠内で捉えるよりも、「メガ・スペーシス“クロホシウスバシロチョウ”」として、再検討を行うべきではないか、と考える。
 
 
【オオアメリカウスバシロチョウParnassius clodius 美国雲絹蝶】
 
北米には、2種の“アカボシウスバシロチョウ”がいる。うち一種は、属を細分すれば(アポロチョウなどと共に)Parnassius亜属に包括されるミヤマアカボシウスバシロチョウParnassius phoebis(ヨーロッパではアルプスの高山帯だけに分布、東は東北アジアに至り、北米産を別種とする見解もある)。もう一種が、クロホシウスバシロチョウ群(亜属Driopa)の北米固有種、オオアメリカウスバシロチョウParnassius clodiusである(共に後翅に赤紋が発達するが、後者は前翅に赤紋がない)。
 
同じクロホシウスバシロチョウ群に属し合衆国北部のアラスカに分布するウスバキチョウより一回り大型で、翅の地色は黄色を帯びず白色。しかし、オス交尾器の形状など基本形質は変わらず、同一種と見做すことも可能ではないだろうかと思われる。低標高地に分布する地域集団の中には、後翅の赤紋もごく僅かしか現れず、まるでウスバシロチョウを思わせるような個体も出現する。ウスバキチョウの中にも、東北アジア産の一部地域集団が同様の傾向を示すことを考えれば、興味深い。
 
 
【オオルリボシウスバシロチョウParnassius orleans 珍珠絹蝶/青紋雲絹蝶】
 
中国大陸西南部の高標高地帯には、様々な斑紋を持つウスバシロチョウ属の多くの種が、集中的に分布している。その一つがBの一群に属する本種。外観上、(Aの一群を含む)全く別のグループの複数種と酷似し、進化の過程で並行的な形質移行を伴いつつ、現在に至ったものと考えられる。
 
*おそらく、今後も繰り返し同じ表現を多用することになると思うが、動物植物に関わらず、どの生物の場合でも、中国西南部の山岳地帯に於いては、外観の酷似した別の種と、外観の著しく異なった同じ種が、複雑に絡み合って存在しているものと考えている。
 
 
【ウスバシロチョウ Parnassius glacialis 冰清绢蝶/雲絹蝶】
 
北海道(南西部)~本州(房総半島、島嶼部および平野地帯を除くほぼ全域)~四国に分布しながら、九州には分布を欠くという、極めて変則的な分布様式を示す。朝鮮半島など日本海対岸部での分布は未確認。朝鮮半島や中国大陸東北部に産する地域集団も本種とされるが、これまで僕が確認した限りでは、それらの地域の個体はヒメウスバシロチョウ(広義)だった。しかし、中国大陸には、奥地を除くかなり広い地域に分布している(山東半島、華東地方、秦嶺山脈、四川盆地南西縁*)。それらの地域個体群の♂交尾器の形状(socius基部背方に突起が生じる)を含む基本形質は共通する。
 
現在の分布様式に至った経緯について、どのような解釈をすればよいか、難しいところである。おそらくB群中、最も古くに出現した種集団で、東京近郊などの個体群は、食草ムラサキケマンともども、残存時代を経て、再繁栄に至った集団ではないかと(直観的に)想定する。
 
*「四川省南西部の西昌市の東方に真正のウスバシロチョウが多産しているのは非常に興味深い分布様式だと思う」旨を、北脇和幸氏が度々話していた。いつか、探索に行きたいと思っている。
 
・・・・・・・・・・・
 
ウスバシロチョウ属以外では、唯一西アジアから地中海東南岸にかけて分布するイランアゲハHypermnestra heliosのみがウスバシロチョウ亜科に所属し、ギフチョウ属を含むタイスアゲハ亜科と対置するとされている(中国などでは、ウスバシロチョウ亜科のみをアゲハチョウ科から分けて独立の科に置く見解もある)。
 
しかし、通常タイスアゲハ亜科に一括されている各属中、ギフチョウの一群(東のギフチョウ属と西のモエギチョウ属)は♂交尾器の形状からもDNAの解析からも、タイスアゲハの一群(西のタイスアゲハ属+シロタイスアゲハ属、 東のシボリアゲハ属+ホソオチョウ属)とは明確に異なっていて、タイスアゲハやシボリアゲハの一群は、ギフチョウ属よりも、むしろウスバシロチョウ属に近いという結果が示されている。従って、ウスバシロチョウ亜科、タイスアゲハ亜科、ギフチョウ亜科(ギフチョウ属のほか従来はウスバシロチョウ属に近縁と考えられていたモエギチョウ属が含まれる)の3者を並列に置くか、全てを抱合してウスバシロチョウ亜科とするか、どちらかの処置が採られるべきであろう(アゲハチョウ亜科のうちジャコウアゲハ属には、幾つかの祖先的形質の共有が見られる)。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
以下、1枚を除き、全てウスバシロチョウParnassius glacialis
 


東京都青梅市
 


東京都青梅市
 


東京都青梅市
 


陝西省西安市
 


Parnassius orleans 四川省雪宝頂
 


東京都青梅市
 


東京都青梅市
 


陝西省西安市
 


陝西省西安市
 


陝西省西安市
 


東京都青梅市





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