青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

シルビアシジミの正体 Ⅲ (付録2:クロヒカゲほか)

2023-09-10 20:46:30 | 黒魔術、身近な自然

シルビアシジミの正体 Ⅲ (付録2:クロヒカゲほか)

カテゴリー:黒魔術、身近な自然



壊滅エンゼルスの中で1人孤軍奮闘絶好調(週間MVP)だったレンヒフォーが、試合開始直後、ネキストバッターズサークルで素振りをしていた時、突如異変を訴えて打席に立たずに退場。これで開幕メンバー全員が姿を消してしまった(そして誰もいなくなった)という、まさに笑ってしまうしかない事態であります。大谷君もトラウト兄もそうだけれど、一般の怪我や故障とはちょっと違うような、、、、黒魔術かな? 例えば兜の、、、、とか、非科学的な事は言っちゃいかんのでしょうけれどね。



僕も、ここ数日、“まさか”のアクシデントの連続です。あまりにも理不尽な出来事ばかりで、心底滅入っちゃいます。カメラは3500円の中古をネットで入手。しかし既に備品(バッテリーチャージ機、CFカードなど)が製造されていないとのことで、結局それらの再購入を含めて、なんだかんだで1万円以上がかかってしまいました(それだけじゃなく、そのリカバリーの過程でドミノ倒しのように想定外まさかのアクシデントの繰り返し、、、昔の天中殺ってやつかな)。



それはともかく、丸一か月ぶりに撮影を再開しました。写真が撮影出来るのは素直に喜んでいるのですが、さすがに3500円というだけのことはあります、映り込んだ画面にビッシリとゴミが張り付いている。濃い色の部分は目立たないから良いのだけれど、空とか適度にボケたバックとか(本来ならば雰囲気の良い写真ですね)には、張り付いたゴミが目立ちまくりなので、いちいち手作業で消していかなければなりません。なんとか見れるようにするために1枚の写真に1時間ぐらいかかる。いくら時間があっても足りません。



その前提で、「シルビアシジミの正体」という、訳ありな記事を書くことにしたのですが、これが(さらに究極のアクシデント勃発もあって)大変なことになってしまった(徹夜で書き終えた畢生の大作が消えてしまった)。



そこで、3回に分け、本編の「シルビアシジミの正体」(現在書き直し中)と、付録として予定していた「付録1:コムラサキ」

「付録2:クロヒカゲほか」を、本来の順序とは逆に「2‐1‐本編」の順で掲載していくことにします。ちなみに、シルビアシジミ、コムラサキ、クロヒカゲ、互いに全く脈絡のない内容で、単にカメラ入手後(9月3日‐9日)に新たに撮影した写真の紹介ということです。



・・・・・・・・・・・・



写真1クロヒカゲ Lethe diana 2023.9.7


写真2クロヒカゲ Lethe diana 2023.9.8


写真3クロヒカゲ Lethe diana 2023.9.5



このあいだも同じこと言ったけれど、クロヒカゲ、、、、いい蝶だなぁ~。僕の(一度も使ったことのない)ペンネームが、黒日陰三四郎。三四郎池(東大構内)にかつてクロヒカゲがいた、ということは、実は非常に大きな意味を持っているのですが、今回はそれについての深入りは止めておきます。



北はサハリン、南は九州大隅半島先端(昔調べに行った)まで、日本の津々浦々で普遍的に見ることが出来ます。全体的に見渡せば、典型的な「中間温帯林」の蝶、と言って良いかと思います。



本土(北海道、本州、四国、九州)の他、日本海側の大方の島々(対馬、見島、隠岐、佐渡、飛島、奥尻島など)にも分布していますが、太平洋側の島嶼にはほぼ皆無、いかにも棲息していそうな、屋久島や三島列島黒島にも分布していません。



そこまではなんとなく分かるのです。解せないのは房総半島(千葉県全域)に全く分布を欠くこと。房総半島には、普通に考えれば“いるはずのない”ヤマキマダラヒカゲがいて、“いるはず”のクロヒカゲがいないのです。説明をつけ難い、相当に不思議な現象です。



房総半島だけでなく、東京の都心部を含めた関東平野にもいません。しかし、多摩川を越えると、一気に豊産します(多摩丘陵とか横浜の郊外とかでは普通に見られる)。多摩川を境にして、東側ではピタッと姿を消してしまう。もっとも、小田急線や京王線の車内に紛れ込んで、新宿あたりに移り住んでいる集団もあるかも知れませんが(前述した三四郎池はそれとは異なる分布要因から成っていると思われます)。 



高山とか寒冷地だけに分布する種の場合はともかくとして、一般的な中間温帯性の種で、本種のような歪な分布様式を示す種は、ほかにいないのではないでしょうか?



なお(太平洋側の島嶼には皆無と最初に記したのだけれど)、伊豆諸島の有人島では南から三番目の御蔵島に、顕著な外観的特徴を示す(雄交尾器や幼虫の外観にも安定的特徴がある)固有亜種ミクラクロヒカゲが隔離分布しています。房総半島に分布を欠き、原則太平洋側の各島嶼にも分布しないということと、距離的に離れた(しかし非常に豊かな植生環境の)御蔵島に特化集団が存在すると言うことは、必然的な因果関係があると思われるのですが、その辺りの解明は、将来の大きな課題です。



国外では、日本列島の対岸に位置する、朝鮮半島、ロシア沿海州、中国東北部に分布しています。典型的な「周日本海」要素の分布パターンですね。



幾つかの文献によれば、さらにその南、中国大陸の東部にも分布していることになっている。僕は、中国大陸東部の「クロヒカゲ」と同定された個体については、誤認同定(同じく誤認同定で台湾にもクロヒカゲが分布すると記述した文献が少なからずあります)ではないかと疑問に思っていたのですけれど、インターネット上には、浙江省産(天目山系など)幾つかの写真が示されて、それらは、紛いなきクロヒカゲであると同時に、(日本本土産とは)明らかな安定的差異を有しているように思えます。両者の関係性の探索は将来の課題です。



クロヒカゲの属するヒカゲチョウ属は、東アジアを中心に100種以上を擁し、(De Lessによると)クロヒカゲの姉妹種は、台湾産のオオシロオビクロヒカゲL.matajaと、中国大陸西部産のラオダミアクロヒカゲL.laodamiaが挙げられています。なんせ100年以上も前の報文なので、その判断の妥当性についてが少々心もとない気もしますが、僕自身のチェックでも(現時点では)その判断は支持されるべきものと考えています。



クロヒカゲは、特徴的な雄の性標を有しています。しかしラオダミアクロヒカゲでは、それを欠きます。一方、オオシロオビクロヒカゲの性標は、極めて特徴的です。その存在は、鱗粉や斑紋の形成と大きく関わっています。非常に興味深いテーマなのですが、ここでは割愛します。



中国大陸などからは、上記2種に外観が酷似した幾つかの種が報告されていて、それらの種とクロヒカゲの関係を探ることも、今後の課題です。





写真4ヒメジャノメMycalesis gotama 2023.9.7



これも素敵な蝶ですね(あくまで僕の美的感覚から)。“ジャノメ”と名がついているし、丸い翅型もいかにもジャノメチョウ的なのですが、ヒカゲチョウに近い一群であることは、古くはミラーや川副・若林でも指摘されていて、近年のDNAによる解析も同様の結果を示しています。



ヒカゲチョウのグループは、大雑把に言って、Lethe(Zophoessa, Ninguta, Raphichera, およびNeopeなどを含む)、Pararge(ウラジャノメ、ツマジロウラジャノメ、キマダラモドキなど)、Mycalesisの3群から成ることは確かなようなのですが、3群間互いの組み合わせについては見解が分かれます。



ヒメジャノメは、古くは日本全土(北海道南部~南西諸島)産をヒメジャノメ一種に一括していましたが、後年、奄美大島以南の南西諸島産がリュウキュウヒメジャノメM.madjicosaとして独立種に昇格されました。僕は、その処遇を妥当であると思うとともに、2つの問題点を内包していると考えています。中国大陸産や台湾産との総体的な関係性が分かっていない。中琉球(奄美‐沖縄本島)の集団と、南琉球(八重山諸島)の集団を、一括して地域固有種とする処置には肯んじられない。詳しくは改めて。



ゼフィルスで知られている雄同士の顕著な卍巴飛翔を、本種も行います(一昨日の夕刻にも観察)。



一昨年の東京郊外(霞丘陵)に於ける観察では、コジャノメが非常に多かった(林内ナンバーワン)のと対照的に、ヒメジャノメはほとんど見ることが出来なかった。6月1日に1頭、9月末から10月にかけて数頭を撮影しただけです。ヒメジャノメは、都市近郊の最普通種の一つと思っていたものですから、予想外でした。



今回、福岡郊外(鳥羽池)でも、5月末に一頭出会っただけでしたが、9月に入って(5月と同一ポイントで)数頭を撮影することが出来ました。





写真5 コジャノメMicalesis francisca 2023.5.2



写真は5月に撮影。ここしばらくの間見かけていないのですが、ヒメジャノメとの比較上、別時期撮影の写真を紹介しておきます。Mycalesis属中、ヒメジャノメと同じ種群に所属します。両種の雄交尾器や雄性標には、明らかな安定的な差異がありますが、全体的には共通点が多く、同一種群に含まれることが納得できます。 



東亜半月弧(日本列島‐台湾‐中国大陸南半部‐インドシナ半島北部‐ヒマラヤ地方を結ぶ照葉樹林地帯)分布パターンの典型として知られていますが、意外なことに南西諸島(屋久島を含む)には分布していません。クロヒカゲの場合同様に、

九州南端でパタッと分布が途切れます。



ヒメジャノメやヒメウラナミジャノメともども、大陸部では日本列島産には見られない「冬型(乾季型)」が出現します。さらに、インドシナ半島、ミャンマー、ヒマラヤ東部に分布する、外観的特徴が著しく相違した2(‐3)種も、雄性標などがコジャノメと全く相同で、それらを併せて「コジャノメ上種」を形成しているものと思われます。



ヒメジャノメ共々、どちらかというと暖地性の種で、北日本では分布を欠きます(ヒメジャノメは北海道南部まで、コジャノメは東北北部まで)。ヒメジャノメが主に人間活動地(ことに田畑周辺など)に棲息するのに対し、本種は鬱閉した森林の内部が主要棲息地です(例えば房総半島脊梁の極相照葉樹林内で見られる蝶は、ルーミスシジミ以外は本種だけ)。



東京霞丘陵の雑木林内でも、クロヒカゲとともに最普通種。福岡鳥羽公園でも同様ですが、霞丘陵ほど数は多くないようで、5月頃には比較的普通に見られたものの、夏に入ってからは見ていない(そのうち出現するものと思われます)。





写真6 ヒメウラナミジャノメYpthima argus 2023.4.30



ここで紹介した(クロコノマチョウを除く)各種は、ヒカゲチョウのグループに所属しますが、本種は(大雑把に言えば)ジャノメチョウのグループです。正確に言うと、ジャノメチョウ亜科ジャノメチョウ族のうち、ヒカゲチョウのグループ以外は、便宜上ジャノメチョウ類と一括しているので、ヒカゲチョウ類が単系統であるのに対し、ジャノメチョウ類は単系統ではありません。ことにYpthima属は、他のジャノメチョウ類各属とは、かなり隔たった類縁関係にあります。



Ypthima属は、多数の種が、アフリカと熱帯アジアを中心に繁栄しています。うち最も北まで分布を広げているのが、ヒメウラナミジャノメとウラナミジャノメです。両者は一応同一属に所属しますが、類縁的にはそれほど近くはなく、大きく分けたときは、ヒメウラナミジャノメ群とウラナミジャノメ群に分割することが出来ます。



ウラナミジャノメが日本では西半部のみに分布し、かつ多くの地域で絶滅危惧の状況に面しているのと対照的に、ヒメウラナミジャノメは日本に於ける最普通と言って良いほど、(都市近郊を含む)各地で繁栄しています。



ただし中国大陸においてはその限りでなく、むしろウラナミジャノメの方が、人為地周辺に繁栄しているように思えます。



実は、それ以前の問題として、中国大陸を中心とした国外では、ヒメウラナミジャノメの分布の実態は(近縁種コウラナミジャノメY.buldusとの混同故)よく分かっていないのです。



ざっと見渡して、東アジアの北半分にヒメウラナミジャノメ(中国大陸中‐西‐南部には日本とは異なる季節表現型を産し、一部の集団を別種として扱う見解もある)、南半分(東南アジアなど)にコウラナミジャノメが分布、台湾や中国大陸では地域によって両者が混在しています。近年、両者を同一種と見做し、ヒメウラナミジャノメをコウラナミジャノメに含める文献も見受けられます。しかし両者の雄交尾器は明らかに異なり、別種であることに疑を持ちません。今後、俯瞰的な立場からの再検討が必要と思われます。



同じような翅型のヒメジャノメやコジャノメが、樹液や腐果などを好み、花には原則として来ないのに対し、ヒメウラナミジャノメは逆に花での吸蜜を好み、原則として樹液には来ません(“ジャノメチョウ類”にはそのような種が多い)。



同属各種との比較などには翅裏面の斑紋パターンがメインになることもあって、ウラナミジャノメ属の写真は裏面が示されることが多いのですが、実際は裏面の撮影は思いのほか難しいのです。通常、静止するとすぐに翅を開いてしまい、裏面の撮影は結構苦労を要します。そんなわけで、ここしばらくの間に撮影した写真に適切なのが無かったので、春に撮影した写真を紹介する次第です。





写真7 クロコノマチョウ Melanitis leda 2023.9.4



鳥羽公園周辺51種目の撮影種。



ジャノメチョウ亜科の中でも他の各種(いわゆるジャノメチョウ類やヒカゲチョウ類)とは異なる系統に位置づけられます(コノマチョウ亜科として分けることもある)。



温暖化の影響で北へ分布を広げている昆虫の代表として、ナガサキアゲハやクマゼミと共に挙げられることが多いようですが、実際は、そのような単純な図式ではないように思います。クロコノマチョウも、確かに近年になって(それまで全くいなかった)東京周辺などでも普遍的に見られるようになったわけですが、その要因を、温暖化にだけ帰するのには、疑問を呈します。



熱帯アジアに広く分布する近縁種のウスイロコノマチョウM. phedimaが、秋に季節風などに乗って(いわゆる迷蝶として)意外な北方まで姿を表したりしますが、クロコノマチョウの場合は、同じ北上でも、一気にではなく、「個体群」として、着実に定着地を広げているようです。



そのことだけを見ると温暖化に拠る現象と解釈できそうなのですが、実態は、もっと複雑な要因が複合的に関わっているような気がします。



コジャノメ同様、意外なことに、南西諸島の大部分に分布が欠如しています(ただしコジャノメと異なり屋久島に在来分布)。そして、奄美大島や沖縄本島など、南への拡散も頻繁に行われ、近年はこれらの地域にも定着している様なのです。



そのことを、どのように解釈すれば良いか、なかなか興味深いと思います。





写真8 サトキマダラヒカゲ Neope goschkevitchii 2023.9.6


写真9 サトキマダラヒカゲNeope goschkevitchii (産卵) 2023.9.4


写真10 サトキマダラヒカゲNeope goschkevitchii (産卵) 2023.9.4



本種については書きたいことが多数有り過ぎて、、、大部分を割愛して、ちょっと斜め上から直接関係ない話を。



日本固有種。ヤマキマダラヒカゲN.niphonicaも日本固有種ですが、ただしヤマキマダラヒカゲが中国大陸に対応種と見做される集団が分布しているのに対し、サトキマダラヒカゲは大陸部での対応種が見当たりません。



日本の4大島のほぼ全域、都市部でも、寒冷地や高標高地でも、普遍的に見ることが出来ます。しかし島嶼には(瀬戸内海などを除き)非分布。



この時期、鳥羽池で見られる蝶の中で、ナンバーワンと言って良いでしょう。クヌギの樹の幹の根元から樹上遥か上まで、至るとことで樹液を吸っている姿を見かけます。



日本中で見慣れた光景です。でも、ちょっと僕の記憶と違うところが、、、、。



日本の大抵の地域では、サトキマダラヒカゲとヒカゲチョウ(ナミヒカゲ)Lethe sicelisがセットで現れる(千葉房総ではヤマキマダラヒカゲが加わり、東京西郊ではクロヒカゲが加わる)のですが、ヒカゲチョウの姿がない。



そう、究極の日本固有種(国外に姉妹種もいない)のヒカゲチョウですが、北海道と九州には分布していません。実は九州北部にも昔はいて、現在も地域によっては絶滅寸前状態で棲息しているらしいのですが、他の地方では都市部のド真ん中でも普通に見られるヒカゲチョウが、なぜに九州では絶滅寸前なのか、納得しがたいです。その謎に取り組むのも、面白いと思います。



ちなみに、クロヒカゲも近くにいるのですが、何故か樹液にやって来ません。







コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする