一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

依然妙案なし?(構造計算書偽造問題 その4)

2005-11-23 | あきなひ

「7棟建て替えに47億円」 ヒューザー社長が会見
(2005年11月22日 (火) 22:36 朝日新聞)

小嶋社長は「(建て替えのためという理由では)民間の金融機関では相談に乗ってもらえず、国や都、県の貸し付けを検討してもらいたい」と述べ、公的資金が必要との考えをあらためて示した。入居者からの買い戻しの要請については、「150億円の資金が必要になり、応じられない」と語った。
また、7棟の入居約230世帯を対象に、今後の対応策が決まるまでの間、ホテル宿泊費を負担することを明らかにした。

さっきテレビのニュースを見ていたのですが、この社長は、「建物は問題ありますが土地は問題ないのですから(解除には応じられない)・・・」などと意味不明のことを言っていて、混乱しているのはわかるのですが、この会社大丈夫なのかな、と心配になりました。

倒産したら元も子もない、という(ちょっと開き直りも含めてですが)なかで打開策を提案しようという姿勢は妙に周到に倒産を目指している木村建設よりは一応評価すべきだとは思いますが、住民への補償を除いても

① 建て替え中にフューザーが倒産したり、建て替え資金を差し押さえられたらどうする
② 建て替えの際に住宅ローンの金融機関は抵当権をはずしてくれるのか(他の担保提供や返済を求めないか)
③ 建て替え期間中に(急病・相続・離婚等で)売却を余儀なくされた住民はどうなる

など、かなりハードルは高そうですし、フューザー自身「公的融資が前提」と言っているので、結局は時間稼ぎにしかならない(または最初からそのつもり)かもしれません。

公的融資については今さらフューザーに融資して焦げ付くリスクを取るのであれば、ストレートに契約解除でフューザーが倒産した場合に住民が取りっぱぐれた部分(の一部)を公的資金で補償するほうがいいのではないかと思います。

ただここで、本件に公的資金を投入すべきなのか、という問題が別にあります。

耐震強度偽装で国交相、公的支援を検討の方針
(2005年11月22日 (火) 14:33 読売新聞)

北側国交相は「民間の検査機関が行ったとはいえ、建築確認は法律上は公の事務だ」と説明し、マンション居住者らへの補償責任については、「まずは建築主に契約上の責任がある」として、具体的な支援策については明らかにしなかったが、「(公的支援も)今後しっかり検討したい」などと述べた。 

比較的早い段階での国交相のコミットは非常にいい事だと思うのですが、今回、住民の損害のほとんどを国家賠償の形で補償するのは他の行政活動とのバランスからも難しいようにも思います(上の記事によると「民間の指定確認検査機関が行った建築確認は、それを受理した自治体に責任がある」という最高裁判決が今年6月にあったそうですが調べてません)


また、「被害者救済」という意味での公的資金の投入にはアスベスト被害(やU-2さんからコメントいただいた原発)のように、社会的に有用と思っていたものが実は国民に損害を与える事が発覚した、という政策の不備や被害の広範性が必要なんじゃないかと思うのですが、今回は住民は特定企業の不法行為の被害者なので、犯罪被害者は犯人に民事訴訟で損害賠償を求める以外に公的資金で財産的損害をカバーする制度がないこととのバランスとかが問題になるのではないでしょうか。

それとも、行政の責任との「合わせ一本」というのもありでしょうか。

また、今回の事件で業界全体の信用が失墜しつつある検査団体・設計会社・建設業・不動産業者が主体となって補償を考え、それに対して若干の公的補助をするというのが理想的なようにも思いますが、大手の会社は「だから信用のあるところと取引すべきなんだ」「インチキ業者の奉課帳を回されるのはたまらん」と協力に消極的なことが予想されますのでこれも難しいかもしれません。


ということで、今日もすっきりしないで終わってしまうのですが、次回以降の整理のためにいくつかの論点を付記します


1 建築確認の民間委託が本当に原因だったのか

個人的には今回の偽装は役所が検査していたら発見できたのか、役所は民間より厳格な審査を行っているのか、については懐疑的です。

そもそも指定確認検査機関の指定を受けるには所定の数の建築基準適合判定資格者検定に合格した「確認検査員」を置く必要があります。
ところがこの「建築基準適合判定資格者検定」というのはそもそも受験資格自体が

一級建築士試験に合格した者で、建築行政又は確認検査の業務その他これに類する業務で政令で定めるものに関して、二年以上の実務の経験を有するものでなければ受けることができない。 (建築基準法5条3項)

という厳しいもので、しかも

第二条の規定の施行前に旧法第五条第一項の建築主事の資格検定に合格した者は、新法第五条第一項の建築基準適合判定資格者検定に合格した者とみなす。 (建築基準法附則2条2項)

というおまけつき。つまり、「民間委託するけど今まで従事していた役人を天下りさせろよ」と言っているような制度のように見えます(聞いたところによると、実際に天下りが多いらしいです)
なので、民間委託したから検査の精度が下がったとは当然にはいえないと思います(営業サイドからの圧力、と役所における議員さんからの圧力はどっちもどっちではないでしょうか)。

したがって、建築確認の審査体制の強化というのは「官民の対立・比較」と別の軸で議論したほうがいいように思います。
また、このへんが国交相の「行政の責任」発言の背景にあるのかもしれません。


2 「マンション業者の社会的責任」

ちょっと実も蓋もない話になってしまうかもしれませんが、業界の構造上、分譲マンション業者(やそのメインバンク)がCSRを果たす(ために企業を支える)インセンティブが必ずしもないのではないか、という話です。

聞くところによると、極端に言えばマンション業者は、銀行融資と用地情報を紹介してくれる不動産屋と建設会社があればだれでも出来るそうです。
バブルの頃や最近のマンションブームになると、雨後の筍のように聞きなれない名前の新規参入業者が出てくるのはこのためです。

銀行にとっては資金回収が比較的早い融資先が増えるだけでなく、信託銀行の不動産部門や銀行の(銀行法上は関係ないことになっている)親密不動産会社の手数料収入にもなるので一石二鳥です。
さらに、自分の融資先のリストラのための資産処分や、再建支援中のゼネコンの仕事にもなるとなれば、そういう新興デベロッパーへの融資にも積極的になります。

新規参入組の典型例は、土地を仕入れる強力なルートを持っていたり、強力な販売力を持っていたり、強力なコスト競争力を持っている「やり手オーナー社長」の会社で、ブームを契機に業容を拡大し、IPOをして大手デベロッパーの仲間入りを目指したりします。
ただ、中には「強力な」という部分がコンプライアンス上問題(悪質な地上げ、過剰な営業、手抜き工事)があったりしてトラブルになる会社もあったりします。
しかしこういう企業の社長は、一度失敗しても種銭(それもスポンサーが出す事が多い)を失うだけなので、また次のブームに新たなスポンサーを見つけて復活を遂げたりします(それ自体は敗者復活があるので健全かもしれませんが)

また一方では、「用地・建設・販売まで一貫して面倒を見てあげるのでお金だけ出せばいいですよ」と共同事業の事業シェアを売ってフィーを得るというビジネスモデルのH社のようなデベロッパーもあるので、ほとんど投資会社のようなデベロッパー(立派な新聞折込の下に売主としてゾロゾロ名前を連ねている会社ですね)もいます。

つまり、

①一定の規模以上の会社でないと、収益を犠牲にしてまでCSRを果たそうというインセンティブが働かない
②銀行も「メインバンク」という意識よりは効率のいい融資先程度にしか思っておらず、自らの資金回収と融資の安全を優先する
③投資会社のような売主の場合、会社への出資者の資本の論理が優先しがち

という業界の構造になっているのではないでしょうか。

となると、過去記事(下の「その3」)でCSRといっても倒産してしまったら・・・という話をしたのですが、今回のように新興(中小)業者のトラブルではCSRを叫ぶ事自体、残念ながらあまり意味がないのでは、という感じもしてしまいます。

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過去記事はこちら
構造計算書偽造問題について
マンションの購入者と倒壊の責任リスク(構造計算書偽造問題 その2)
CSR、倒産法制、"Empty Pocket"問題など(構造計算書偽造問題 その3)

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