「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

スタンドプレイ …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (19)

2010年08月23日 20時52分05秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ 噴水の広場

  直哉がベンチに座って、 心労を癒してい

  る。

  美和子が直哉を見つける。

  美和子、 一瞬 立ち止まって考えるが、決

  決心して 直哉のほうへ歩み寄る。

美和子 「木下さん ……」

直哉 「(顔を上げる) はい ………?」

美和子 「第二内科の佐伯と申します。 実は

 私が奥様を 病院に運ばせていただいたのです

 が ……」

直哉 「…… それは …… お世話になりました…

 …」

美和子 「この度は 大変残念なことに ……」

直哉 「……… (目を伏せる)」

美和子 「医学の限界を感じます ……」

直哉 「(目頭を押さえて) ……… 仕方ありま

 せん ………」

美和子 「でも、 奥様の死を 無駄にしないこと

 ができるのも 医学なんです」

直哉 「…… はぁ ……?」
 

○同・ 人工透析室

  美和子が直哉に 人工透析の様子を見せる。

  透析患者のなかに 平島多佳子 (17才) の

  姿も見える。

美和子 「腎不全の患者さんは、 5~6時間も

 かかる透析を 毎週3回もしなければならな

 いんです。 それでも 老廃物は取りきれず、

 いつも頭痛や 体じゅうの不快感が抜けません」

直哉 「………」

美和子 「でも この方たちに 健康な生活を 

 取り戻していただくことができるんです」

直哉 「…… 幸枝から 内臓を取って移植を ……

 ?」

美和子 「…… え、 ええ ……」

直哉 「…… でも、 幸枝はまだ 心臓も動いてま

 す ………」

美和子 「心臓が止まる前に 手術をすることが

 必要なんです」

直哉 「それじゃあ 人殺しじゃないですか…

 …!?」

美和子 「残念ですが、 奥様はもう 生きている

 とは ………」

直哉 「家内はまだ死んでない …… !! 

 なのに 内臓取り出すなんて ……… !!」

美和子 「木下さん、 奥様が 誰かの体のなかで

 ずっと生きつづけるんだと 考えていただけ

 れば」

直哉 「やめてください …… !!  そんなことは

 もう ……… !! (その場を走り去る)」

美和子 「木下さん ……… !!」

(次の記事に続く)