「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

クリグラー=ナジャール症候群 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (3)

2010年08月01日 20時45分29秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○ホテルの一室

  美和子と世良、 ベッドの中。

  枕元には 世良のカメラや ジュラルミンの

  ケースがある。

  美和子は元気がない。

世良 「どうしたんだ?  美和子、 さっきから

 浮かない顔して」

美和子 「…… 肝炎の患者さんが 神経症状の発

 作を起こしてね、 昏睡に陥って……、 あと

 数日で だめかも………」

世良 「劇症肝炎てやつか」

美和子 「…… ジュンも いつ同じようなことに

 なるか………」

世良 「そうか、 それで…… (そっといたわる

 ように 美和子の肩を抱く) クリグラー=ナ

 ジャール症候群 〔*注〕 …… 難しい病気だな

 ……」

〔*注: クリグラー=ナジャール症候群 ……

   先天的に 肝臓の酵素が欠損しているた

   め、 新生児期より 黄疸が出現する。

   重症のタイプでは 多くが幼児期に、 黄疸

   の色素である血中ビリルビンが 血液-

   脳関門を通過して 脳に侵入、 核黄疸を

   発症し、 顕著な精神神経症状を呈して

   死亡する。 日本での症例は 2例のみ報

   告されている (昭和62年現在)。〕

美和子 「やっと覚えてくれたね、 ジュンの病

 名…… (苦笑)」

世良 「毎日12時間も 光線治療しなきゃならな

 いんだから 生活も大変だろう」

美和子 「今は黄疸以外 何の症状もないけどね

 ……いつ脳障害が 起きてもおかしくない…

 ……」

世良 「そうさせないために 美和子は医者にな

 ったんじゃないか」

美和子 「でももう 内科治療が難しい段階に

 はいってきてるの……」

世良 「光線を強くしたり、 交換輸血をしても

 だめなのか?」

美和子 「時間の問題で………。 そうしたら、

 残された道は………」

世良 「……(深刻な面持ちで) 生体肝移植か

 ………」

美和子 「あたしの肝臓で ジュンが助かるなら

 ………」

世良 「………」

  美和子、 指で自分の腹部に 大きく 「Y」

  を逆さにしたような 線を描く。

美和子 「ねえ……… この体に傷が付いても

 愛してくれる………?」

世良 「………美和子……… (美和子の頭を抱

 く)」

美和子 「……… (世良の胸に顔を埋める)」
 

○佐伯宅・ 美和子の部屋 (夜)

  時計が1時を回る。

  真剣に 移植の勉強をしている美和子。

(次の記事に続く)