「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

ダイレクト・クロスマッチ …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (11)

2010年08月12日 20時59分55秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(http://blog.goo.ne.jp/geg07531/e/8ad0bc4ca8cafe78a4fa0422951afe5c からの続き)

○ファミリーレストラン (明け方)

  美和子と世良、 軽食を取っている。

世良 「(腕時計を見て) 結果が出るまで あと

 2時間 ……」

美和子 「父と母にも見せてあげたい、 ジュン

 の手術 ……」

世良 「よく、 ジュンくんを ここまで育ててき

 たな ……」

美和子 「母が 病気のジュンを 産んだ心労で

 亡くなったときね、 あたしは 絶対強くなって

 ジュンを守るんだって 誓った ……、 まだ

 中学生だったな ……」

世良 「学生のとき お父さんが過労で亡くなっ

 たあとは、 家を売って一人で ……」

美和子 「ジュンを人の手に 任せたくなかった

 のね ……」

世良 「嫉妬するくらいだよ、 美和子のジュン

 くんへの愛情 ……」

  夜が白んでくる。

美和子 「(窓の外の空に 遠く目をやり) いよ

 いよね ………」
 

○東央大病院・ カンファレンスルーム (早朝)

  美和子、 淳一、 世良、 若林が待っている。

  美和子、 淳一は 緊張を隠せない。

若林 「(美和子に) 杞憂の必要はないさ。

 たった一度の輸血で 君と一致する抗体なんて

 できるもんか」

美和子 「ええ ……」

世良 「大丈夫だよ (美和子の肩を叩く)」

  緒方がデータを持って はいってくる。

緒方 「クロスマッチの 結果が出ました」

若林 「ご苦労さまです」

  息を呑む美和子。

緒方 「…… 抗HLAクラスI抗体が 産生され

 ていました ……」

淳一 「え …… !?」

美和子 「そんな …… !? (愕然とする)」

世良・ 若林 「!! ……… (愕然)」

緒方 「残念ですが 陽性である以上、 今の免疫

 抑制法で 超急性拒絶反応を抑えるのは 困難

 です ……」

美和子 「も、 もう一度 やり直してください、

 きっと検査の間違いです …… !!」

若林 「佐伯くん、 失礼だ ……」

美和子 「何とかならないんですか …… !? 

 どんな方法でも ……… !!」

緒方 「…… 外科医として、 これだけ危険な

 手術を するわけにはいきません」

美和子 「先生、 お願いですから 弟を ………

 !!」

若林 「佐伯くん …… (無念さを押し殺して

 美和子を制する)」

美和子 「ああ ……… !! (切歯扼腕)」

淳一 「姉キ …… !!」

  美和子、 淳一を抱きしめる。

美和子 「(体をぶるぶる震わせて) こんな

 馬鹿なことって …… !!  今まで一体 何の

 ために ……… !!」

淳一 「 …… 仕方ないよ …… 姉キ、

 仕方ない ……… !」

世良 「美和子 …… ! (美和子と淳一を抱きし

 める)」

若林 「佐伯くん、 無念だ ………」

美和子 「ああああ ………、 ジュン ……… !!

 (声を出して泣く)」

淳一 「(感情を飲み込む) ………」

(次の記事に続く)