「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

徘徊の父  精神科頼み -- 認知症 長寿国の現実 (1)

2012年07月03日 20時00分36秒 | 介護帳
 
 うつろな目で、 両手をベッドに縛られ、 見舞いのたびにやせ細っていきます。

 入院前はピンピンしていたのに、 足がもつれて立ち上がれません……。

 精神科病院で 自分の父親の姿を 目にしたとき、 男性は足がすくみました。

 この男性の父親は、 69才のとき認知症と診断され、

 やがて徘徊するようになります。

 息子である男性に、 ステッキで殴りかかってくることもありました。

 母親も倒れ、 男性は次第に限界になっていきます。

 かかりつけ医に勧められ、 精神科病院に入院させました。

 その結果が、 冒頭の光景です。

 男性は 必死に介護施設を探し、 半年後に転居させました。

 「当時は知識も支援もなく、 追い詰められた。

 もっと 在宅への支援があれば、

 父から人間らしい生活を 奪わずにすんだのに ……」

 認知症の人の 精神科病院への入院は、

 1999年の3万7千人から、 2008年には5万2千人に増えました。

 うち半数が 6ヶ月以上の長期入院で、

 本人の体力や気力を 落とす危険性があります。

 平均入院期間も 2年7ヶ月に及びます。

 しかし 認知症で入院した人の6割は、

 居住先や支援が整えば  「退院可能」 でした。

 精神科は そもそも治療の場なので、 患者が暮らすのに適してはいません。

 事故を防ぐため 管理的になるし、 プライバシーもありません。

 にも拘らず、 長期入院が増えるのは何故でしょう。

 在宅への 医療や介護サービスが不十分なうえ、

 介護施設も 対応に困ると 入院に頼りがちだからです。

 病院で症状が落ち着いて 介護施設へ移っても、

 暴れたり 他の入居者に迷惑をかけ、 病院に戻される例は 少なくありません。

 認知症の人は 環境が変わると症状が悪化しやすい という特徴を、

 施設側も理解して 対応する必要があります。

 一方 病院側に対しても、 統合失調症の入院が減った分、

 経営のために 認知症高齢者でベッドを埋めている、 という指摘もあります。

 退院できる状態になっても、 疲弊した家族の元へ 支援なしに戻すのは困難です。

 本人と家族の関係が壊れていない 早い段階から、 在宅への支援を始めないと、

 長期入院はなくなりません。

〔読売新聞より〕