「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

慟哭 …… 「生死命の処方箋」 (59)

2010年12月20日 19時26分11秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○ 東央大病院・ 淳一の病室

  淳一が ベッドに寝ている。

  美和子が 消沈して入ってくる。

淳一 「 …… 姉キ …… どうしたの …… ?」

美和子 「 …… ジュン …… 」

  美和子、 淳一の横に座る。

  淳一を片手で抱く。

美和子 「 …… もう、 いいよ …… あたしが悪か

 った …… あたし、 人は それぞれ違うんだっ

 てことが、 そんな簡単なことが、 分からな

 かった …… 自分の気持ちばっかり 押しつけ

 て …… ジュン、 あんたのしたいようにすれ

 ばいいよ …… あたしもう、 何も言わない…

 …」

淳一 「 ……… 」

  美和子、 淳一の頭を抱く。

  ベッドから立ち上がり、 退室しようとす

  る。

淳一 「 …… 姉キ …… 」

美和子 「 …… (立ち止まる)」

淳一 「 …… オレ …… 」

美和子 「 ……… 」

淳一 「 …… 生きたいよ …… 」

美和子 「 ……… 」

淳一 「移植、 受けたい …… 」

美和子 「 ……… 」

淳一 「 …… オレ、 誰かが死ぬのを待ってるよ

 うな …… そんな自分が、 嫌で、 嫌で …… 

 堪らなかったんだ …… !(涙)」

美和子 「 ……… 」

淳一 「いや、 自分のことなら まだいい …… 

 姉キがオレのために、 人の臓器を 追っかけ回

 すようなこと …… まるでハイエナみたいに

  …… 」

美和子 「 ……… (深く頭を垂れて)」

淳一 「姉キのそんな姿、 見せてほしくなかっ

 たんだよ …… !!(泣)」

美和子 「 ……… 」

淳一 「だけど …… だけどオレ、 姉キのために

 も、 タカちゃんのためにも …… 」

美和子 「(押し殺したように) …… ハイエナ

 だって …… ? (「クゥ~~ …… 」 という

 細い呻吟がもれる)」

淳一 「(涙を流しながら) ? …… 」

美和子 「(声が震える) …… 勝手なこと言わ

 ないでよ …… きれいごとばっかり言って…

 …」

淳一 「 ……… (息を呑む)」

美和子 「(徐々に顔を上げる) あたしがその

 ために、 どんな想いをしてきたか …… !

 生きたいなら生きたいって、 何でもっと早

 く言わないのよ !?  今頃になってそんなこ

 と …… !! (唇が震え、 顔が引きつってく

 る)」

淳一 「姉キ …… !?」

美和子 「あたしが今まで どれだけ苦労してき

 たと思ってるの …… !? (いても立ってもい

 られない悔しさ) あたしは みんなあんたの

 ために 生きてきたのよ …… !!  父さんも

 母さんもいなくなって、 あたしがあんた育て

 てやったんだよ …… !  医者になったのだ

 って あんたのため!  毎日 嫌いな勉強ばか

 り …… ! だけど我慢してきた ! あんた

 が普通の子じゃないから …… !!  あたしだけ

 いい思いできないから …… !!」

淳一 「 ……… (顔を伏せ 肩を振るわせてい

 る)」

美和子 「みんなあんたのためよ …… !! その

 挙げ句が …… 何もかも台無し …… !!」

淳一 「 …… (しゃくりあげる)」

美和子 「あんた、 何で病気になんかなったの

 よォ !?  あんたさえいなけりゃ …… !! 

 みんなあんたのせいで …… !!」

  もはや 自分で何を言っているか 分からな

  い。

  痙攣的な、 喘ぐような呼吸。

  淳一は 流れ出る鼻水を 拭こうともせず、 

  ボロボロと涙を流す。

  美和子、 次第に我に返る。

  自分の口から出た言葉に 気づきはじめる。

  「ああ …… 」 という細い音が 喉からしみ

  出る。

  悔恨の情が こみ上げてくる。

  みるみる表情が歪む。

  淳一に、 震える両手を伸ばす。

  太い涙がこぼれ落ちる。

  淳一を深く抱きしめる。

  絞り出すような泣き声。

  淳一も 美和子を抱き返す。

  互いに 骨も折れんばかりに抱き合う。

  二人 …… 。

  慟哭 ……… 。

(次の記事に続く)