「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

偽りの説明 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (54)

2010年12月04日 23時20分44秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○ 東央大病院・ カンファレンスルーム

  緒方と美和子が 杏子を説得している。

緒方 「いかがでしょう、 奥さん。 ご主人の死を

 無駄にしないためにも、 どうか 臓器の提

 供を 考えていただけないでしょうか? 

 ご遺体を焼いて 灰にしてしまうより、 ご主人

 の体の一部が この世のどこかで 生きつづけ

 て、 誰かを助けているということのほうが、

 ご主人も 報われるのではないでしょうか

 ?」

杏子 「 …… うちの人が あんなになったのは、

 自業自得かもしれないって 思います …… 

 だけど、 内臓を取るなんてこと、 あたしは

 どうも …… 」

美和子 「脳死になると 脳細胞は、 自己融解

 (オートリシス) と言って ドロドロに溶け

 てしまうんです。 そんな状態にしておくの

 は、 かえって 残酷なことではありません

 か?」

緒方 「治療費も 1日10万以上 かかっていま

 す。 移植にご協力いただければ、 ご主人の

 医療費や葬儀費用も 私どもで負担させてい

 ただきます」

杏子 「 …… でもねえ、 金に代えられないもの

 って、 何かあるんじゃないですかねえ …

 …」

 
○ 同・ カンファレンスルームのドアの外

  世良が 美和子たちの話を聞いている。

 
○ 同・ 消化器外科

  美和子が 淳一の交換輸血をしている。

美和子 「また ビリルビンが上がっちゃったね

  …… 」

淳一 「 …… 姉キ …… 頼みがあるんだ。 人に

 嘘をつくのは やめてくれないか ?」

美和子 「嘘 ?」

淳一 「家族の人に 脳死の説明したんだろ ?

 でも 脳細胞がドロドロになるのは 脳死にな

 ってから ずっとあとで、 その時には 臓器は

 もう 移植に使えなくなってる ……。 それに

 医療費がかかるのは、 本当は移植のために

 臓器を新鮮に保つ 治療をする時だって …

 …」

美和子 「どうしてそんなこと ?」

淳一 「世良さんに聞いた …… 」

美和子 「いずれにしても 脳死の人は助からな

 いのよ。 家族の方にも 承知してもらうには

  …… 」

淳一 「患者を騙すのは やめてくれよ …… !

 オレも その人と同じ 患者の立場なんだよ

 !」

美和子 「騙すだなんて」

淳一 「姉キのこと 信頼できなくなるなんて、

 オレ、 いやだよ …… 」

美和子 「ジュン …… 」

(次の記事に続く)
 
コメント
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