(前の記事からの続き)
○ 東央大病院・ カンファレンスルーム
緒方と美和子が 杏子を説得している。
緒方 「いかがでしょう、 奥さん。 ご主人の死を
無駄にしないためにも、 どうか 臓器の提
供を 考えていただけないでしょうか?
ご遺体を焼いて 灰にしてしまうより、 ご主人
の体の一部が この世のどこかで 生きつづけ
て、 誰かを助けているということのほうが、
ご主人も 報われるのではないでしょうか
?」
杏子 「 …… うちの人が あんなになったのは、
自業自得かもしれないって 思います ……
だけど、 内臓を取るなんてこと、 あたしは
どうも …… 」
美和子 「脳死になると 脳細胞は、 自己融解
(オートリシス) と言って ドロドロに溶け
てしまうんです。 そんな状態にしておくの
は、 かえって 残酷なことではありません
か?」
緒方 「治療費も 1日10万以上 かかっていま
す。 移植にご協力いただければ、 ご主人の
医療費や葬儀費用も 私どもで負担させてい
ただきます」
杏子 「 …… でもねえ、 金に代えられないもの
って、 何かあるんじゃないですかねえ …
…」
○ 同・ カンファレンスルームのドアの外
世良が 美和子たちの話を聞いている。
○ 同・ 消化器外科
美和子が 淳一の交換輸血をしている。
美和子 「また ビリルビンが上がっちゃったね
…… 」
淳一 「 …… 姉キ …… 頼みがあるんだ。 人に
嘘をつくのは やめてくれないか ?」
美和子 「嘘 ?」
淳一 「家族の人に 脳死の説明したんだろ ?
でも 脳細胞がドロドロになるのは 脳死にな
ってから ずっとあとで、 その時には 臓器は
もう 移植に使えなくなってる ……。 それに
医療費がかかるのは、 本当は移植のために
臓器を新鮮に保つ 治療をする時だって …
…」
美和子 「どうしてそんなこと ?」
淳一 「世良さんに聞いた …… 」
美和子 「いずれにしても 脳死の人は助からな
いのよ。 家族の方にも 承知してもらうには
…… 」
淳一 「患者を騙すのは やめてくれよ …… !
オレも その人と同じ 患者の立場なんだよ
!」
美和子 「騙すだなんて」
淳一 「姉キのこと 信頼できなくなるなんて、
オレ、 いやだよ …… 」
美和子 「ジュン …… 」
(次の記事に続く)