「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

命の操作 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (52)

2010年12月02日 19時58分37秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○ 東央大病院・ 家族室

  緒方が 杏子に説明している。

  美和子と世良も 同席している。

杏子 「 …… はあ …… ?  のうし、 ねえ …… 

 ?」

緒方 「そうなったらもう 助かることはないん

 です」

杏子 「はあ …… でも、 植物状態から 生き返る

 ことだってあるんでしょう ?」

緒方 「脳死と植物状態は 全く違います」

杏子 「あのう …… さっき犬飼先生に、 うちの

 人が 睡眠薬とか飲んでなかったかって 聞か

 れたんですけど、 それと何か関係が …… 

 ?」

美和子 「薬物によって、 脳死と同じ状態に

 なってしまうことがあって、 そうなると 医者

 でも見分けることができないので、 確認し

 たんです」

杏子 「うちの人は そんなもん飲んでなかった

 ですよ」

緒方 「ですからご主人は 薬の影響ではなく、

 脳死に極めて近い 状態なんです」

杏子 「はあ …… でもうちの人は 悪運が強いで

 すからねえ …… 顔色もあんなにいいし、 大

 丈夫ですよねえ …… 」

緒方・ 美和子 「 ……… (やや辟易として)」
 

○ 同・ 脳神経外科

  美和子と犬飼。

美和子 「犬飼先生、 安達さんはどうなんでし

 ょうか?」

犬飼 「眼球頭反射も消失して、 臨床的には

 どう見ても脳死なんだが、 まだ 脳血流が残っ

 ているんだ。 脳死というのは厄介なものだ

 よ」

美和子 「回復の可能性は ?」

犬飼 「もうないと言っていい。 下手に回復して

 ベジタブル (植物状態) になるより、

 いっそ脳死のほうが 本人にとっても幸せかも

 しれない」

美和子 「どの道 助からないのなら、 必要以上

 に 厳密な判定はしなくても …… 」

犬飼 「うむ …… 」

美和子 「それに、 移植で救われる人たちが

 いるんですから …… 」

犬飼 「そうだな …… 」

美和子 「先生、 お力を 貸していただきたいん

 です。 弟はもう 瀬戸際まで来ているんです

  …… !」

犬飼 「分かる、 分かるよ。 悪いようにはしな

 い …… 」

(次の記事に続く)