「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

急転直下……「生死命の処方箋」(65)

2010年12月30日 17時44分47秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
○東央大病院・オペ室

  愕然とする室内、 世良が転がり込んでくる。

世良 「オペはやっちゃダメだ !!  すぐ中止し

 てください …… !!」

犬飼 「どうしたんですか!?」

世良 「安達さんは、 大量のハルシオンを 飲ま

 されてるんです !!  警察からの連絡で…

 … !?

美和子 「そんな …… !?」

犬飼 「薬物の影響が 今切れてきたのか …… 

 !?」

美和子 「緒方先生 …… !!」

緒方 「 …… 何てことだ !」

  外から 杏子の怒鳴り声が聞こえてくる。

杏子の声 「開けろ! 手術はやめて …… !!」
 

○ 同・ オペ室の外

  杏子がドアを激しく叩き、 スタッフが

  杏子を止めている。

杏子 「あの人は まだ生きてる …… !  うちの人

 返せえ …… !!」

スタッフ「手術中です!  静かにしてくださ

 い!」

杏子 「放せ、 バカ野郎 !!  みんなで寄ってた

 かって あたしを騙して !  あたしなんか

 バカだと思ってるんだろう !?  それが医者の

 やり方だよ !!」
 

○ 同・ オペ室の中

  愕然とする一同。

  美和子、 耳をふさいで 頭を抱え込む。

  ドンドンと激しく ドアを叩く音。

杏子の声 「開けろ !! 開けろよォ …… !! 

 うちの人殺すつもり !?  そんなことさせるも

 んか !!  人殺しィ …… !!  医者の人殺し~

 ~ !!」

美和子 「ああ …… !! (肺腑をえぐられる思

 い)」

世良 「どうします !?」

犬飼 「 …… ! (進退窮まる)」

緒方 「 …… 私が行こう」

  ドアのほうへ 歩んでいく緒方。

美和子 「緒方先生 …… ?」

  緒方、 ドアを開ける。

  杏子が スタッフに取り押さえられている。

杏子 「うちの人は !?  どうしたの …… !?」

緒方 「大丈夫です。  落ち着いてください。

 手術は中止になりました」

杏子 「あ、 あ …… ?」

緒方 「冷却灌流装置という器械が 故障して、 

 手術ができなくなってしまったんです」

  杏子、 泣きながら 事情を飲み込もうとす

  る。

  中から見ている美和子たち。

緒方 「ご主人には 指一本触れていません」

  へなへなと座り込む杏子。

  美和子、 頭が混乱し、 茫然としている。

  世良、 一気に緊張が解ける。

美和子 「 ……… 」

(次の記事に続く)